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9章 ネコと和解せよ
4 幻のドロステア山猫
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宿に帰ったのはいいのだが。
「お客さん、風呂は早めに入ってね」
「あ、はい」
受付の女将に言われるがまま、二人は共同の風呂場へと足を運ぶ。
ここの共同風呂は大きな浴槽ではなく、大きめの樽状の浴槽が幾つも据え置いてある。
客が来るとお湯を浴槽に満たし、お湯を無駄にしない宿屋でよく見かける方式だ。
だがしかし、なぜ二人一組で入らなければいけないのだ?
(……むかし売春宿だったのか?)
どう見ても、これは男女で入るために作られたものだ。
楕円形の樽の真ん中に板が渡してあり、そこに物を置いて酒を飲んだりできるようになっている。
脱衣所で服を脱ぎながらバルトロメイは盛大に溜息をついた。
先ほどからチラチラと他の客の視線を感じる。
レネは隣でさっさと服を脱いでいるようだ。見かけによらずなにごとも潔い。
さすが男の集団で育っただけに、恥じらいなど一切感じていない。
そんな姿を見て、バルトロメイは思わず固まる。
レオポルトにレネが囚えられている時は、バルトロメイも仕事だと思っていたし、レネも怪我をして満身創痍の状態なので、まったく意識がそっちにいかなかったのだが——
(ダメだろ……これ……)
まず目に入ってくる色彩に頭をガツンと殴られ、次に一つ一つのパーツの絶妙なバランスに目が離せなくなる。
そんな視線にも気付くことなく、レネはさっさと脱衣所を出ていく。
「おいっ……こら待てっ……せめて前を隠せっ……」
(——俺は、男湯で野郎になにを言っているんだ?)
そう自問自答しながらも、先に洗い場へ向かうレネを連れ戻す。
「は? 男しかいないのに?」
レネはキョトンとした顔でこっちを見つめ、視線がバルトロメイの股間に行く。
ジッと猫の目に自分の一物を見つめられているような妙な気分だ。
「お前も隠してないじゃん」
自分だけ注意されるのが不満なのか、眉間に小さなしわが寄っている。
(仰ることはごもっともだが、目の前でそれをぷらぷらさせないでくれ……)
どうしても目が吸い寄せられてしまう。
自分だけならまだしも、他の男たちもレネの裸を見るのが耐えられない。
バルトロメイは自分の持ち物に自信がある。そのせいか、ふだんは隠さずに誇示しながら風呂場を歩くのを好んだ。
だがこのままでは、レネは納得しない。
(仕方がない……)
「ほら、これでいいだろ? 行くぞ」
バルトロメイはレネをタオルで覆い、自分の腰にもタオルを巻くと、一緒に洗い場へと向かった。
もちろん、例の手紙も防水加工の施された入れ物に入れ、忘れずに持っていく。
しかしレネは、なぜ自分だけが大振りのタオルで胸の上まで巻かれて身体を隠されているのか、納得いかない様子だ。
綺麗な顔に負けないくらい、身体も主張してくるなんて完全にバルトロメイの想定外だった。
周囲の探ってくる視線が痛い。
そのすべての視線が性的なものではない。
男の性として、あの顔の下はどうなっているのか興味本位で見てみたいのだ。
そして自分の記憶のノートに、この顔、肌、身体つきだとこういうものをぶら下げていると記録していくのだ。
あるていどサンプルが集まると、顔を見ただけでだいたいのイチモツの大きさを予測できるようになる。
つまらないことかもしれないが、こうして男たちは、けして口に出すことはない優越感や劣等感を感じているのだ。
レネに注目が行くのも、たいていはこうした男たちの好奇心だ。
しかし中にはそうでない者もいる。
バルトロメイは少年のころから騎士見習いといして、悪癖はびこる騎士団にいたからわかる。
あの身体がどれだけ稀有な存在なのか。
バルトロメイは男女両方行けるが、雄臭いのは無理だ。
どんなに美少年だったとしても、大抵の男は14~7才で雄臭くなってくる。
髭が生えて体毛が濃くなるころには小姓《ペイジ》も卒業だ。
騎士団にはそこからが本番だという猛者もいるのだが、バルトロメイは流石にそこまで極めてはいない。
だから成人男性で食指が動くのは稀である。
レネは少年の域を過ぎても、男臭さを感じさせない稀な存在だ。
だからといって決してナヨナヨしておらず、自分の容姿を笠に着て人に媚びることをしない。
そこがまた、幻のドロステア山猫のように希少な存在なのだ。
きっと周りの人間が、ただの野郎として扱っていたからだ。
バルトロメイが他の団員たちと違う点は、レネを見て欲情しても『誤作動』ではなく至って通常運転であるという点だ。
ふつうは同性同士にある大きな壁が、バルトロメイには存在しない。
騎士団と違って年少者が少ない傭兵団で、まさかこんなことになろうとは……バルトロメイにとっては想定外のできごとだった。
誤作動(バルトロメイにとっては正常)した場合、他の団員たちはいつもどうしているのだろうか?
リーパ団員としてのレネの取り扱い説明書が欲しい。
バルトロメイが一人で物思いに耽っている間にレネは身体を洗い終え、さっさと浴槽の方へと歩いて行った。もちろんタオルなど巻かずに。
「君一人かい? よかったら一緒に浸からないか?」
目を離した隙に、見知らぬ男がレネに声をかけている。
(おいおい……)
レネはちょうど浴槽を跨いでいる無防備な体勢で男に話しかけられ、バルトロメイがいるのにどうしようかと固まってしまっている。
木の浴槽の縁には、まるで本人そのものを表したような薄桃色の分身が座礁したままだ。
男はソレを凝視している。
(いかんっいかんっ!!)
なぜかバルチーク領の浜辺で打ち上げられて動けなくなっていたピンクイルカを思い出した。
(早く水に入れてあげないとっ……)
バルトロメイは急いで泡を落とすと、レネのいる浴槽へと走った。
「お客さん、風呂は早めに入ってね」
「あ、はい」
受付の女将に言われるがまま、二人は共同の風呂場へと足を運ぶ。
ここの共同風呂は大きな浴槽ではなく、大きめの樽状の浴槽が幾つも据え置いてある。
客が来るとお湯を浴槽に満たし、お湯を無駄にしない宿屋でよく見かける方式だ。
だがしかし、なぜ二人一組で入らなければいけないのだ?
(……むかし売春宿だったのか?)
どう見ても、これは男女で入るために作られたものだ。
楕円形の樽の真ん中に板が渡してあり、そこに物を置いて酒を飲んだりできるようになっている。
脱衣所で服を脱ぎながらバルトロメイは盛大に溜息をついた。
先ほどからチラチラと他の客の視線を感じる。
レネは隣でさっさと服を脱いでいるようだ。見かけによらずなにごとも潔い。
さすが男の集団で育っただけに、恥じらいなど一切感じていない。
そんな姿を見て、バルトロメイは思わず固まる。
レオポルトにレネが囚えられている時は、バルトロメイも仕事だと思っていたし、レネも怪我をして満身創痍の状態なので、まったく意識がそっちにいかなかったのだが——
(ダメだろ……これ……)
まず目に入ってくる色彩に頭をガツンと殴られ、次に一つ一つのパーツの絶妙なバランスに目が離せなくなる。
そんな視線にも気付くことなく、レネはさっさと脱衣所を出ていく。
「おいっ……こら待てっ……せめて前を隠せっ……」
(——俺は、男湯で野郎になにを言っているんだ?)
そう自問自答しながらも、先に洗い場へ向かうレネを連れ戻す。
「は? 男しかいないのに?」
レネはキョトンとした顔でこっちを見つめ、視線がバルトロメイの股間に行く。
ジッと猫の目に自分の一物を見つめられているような妙な気分だ。
「お前も隠してないじゃん」
自分だけ注意されるのが不満なのか、眉間に小さなしわが寄っている。
(仰ることはごもっともだが、目の前でそれをぷらぷらさせないでくれ……)
どうしても目が吸い寄せられてしまう。
自分だけならまだしも、他の男たちもレネの裸を見るのが耐えられない。
バルトロメイは自分の持ち物に自信がある。そのせいか、ふだんは隠さずに誇示しながら風呂場を歩くのを好んだ。
だがこのままでは、レネは納得しない。
(仕方がない……)
「ほら、これでいいだろ? 行くぞ」
バルトロメイはレネをタオルで覆い、自分の腰にもタオルを巻くと、一緒に洗い場へと向かった。
もちろん、例の手紙も防水加工の施された入れ物に入れ、忘れずに持っていく。
しかしレネは、なぜ自分だけが大振りのタオルで胸の上まで巻かれて身体を隠されているのか、納得いかない様子だ。
綺麗な顔に負けないくらい、身体も主張してくるなんて完全にバルトロメイの想定外だった。
周囲の探ってくる視線が痛い。
そのすべての視線が性的なものではない。
男の性として、あの顔の下はどうなっているのか興味本位で見てみたいのだ。
そして自分の記憶のノートに、この顔、肌、身体つきだとこういうものをぶら下げていると記録していくのだ。
あるていどサンプルが集まると、顔を見ただけでだいたいのイチモツの大きさを予測できるようになる。
つまらないことかもしれないが、こうして男たちは、けして口に出すことはない優越感や劣等感を感じているのだ。
レネに注目が行くのも、たいていはこうした男たちの好奇心だ。
しかし中にはそうでない者もいる。
バルトロメイは少年のころから騎士見習いといして、悪癖はびこる騎士団にいたからわかる。
あの身体がどれだけ稀有な存在なのか。
バルトロメイは男女両方行けるが、雄臭いのは無理だ。
どんなに美少年だったとしても、大抵の男は14~7才で雄臭くなってくる。
髭が生えて体毛が濃くなるころには小姓《ペイジ》も卒業だ。
騎士団にはそこからが本番だという猛者もいるのだが、バルトロメイは流石にそこまで極めてはいない。
だから成人男性で食指が動くのは稀である。
レネは少年の域を過ぎても、男臭さを感じさせない稀な存在だ。
だからといって決してナヨナヨしておらず、自分の容姿を笠に着て人に媚びることをしない。
そこがまた、幻のドロステア山猫のように希少な存在なのだ。
きっと周りの人間が、ただの野郎として扱っていたからだ。
バルトロメイが他の団員たちと違う点は、レネを見て欲情しても『誤作動』ではなく至って通常運転であるという点だ。
ふつうは同性同士にある大きな壁が、バルトロメイには存在しない。
騎士団と違って年少者が少ない傭兵団で、まさかこんなことになろうとは……バルトロメイにとっては想定外のできごとだった。
誤作動(バルトロメイにとっては正常)した場合、他の団員たちはいつもどうしているのだろうか?
リーパ団員としてのレネの取り扱い説明書が欲しい。
バルトロメイが一人で物思いに耽っている間にレネは身体を洗い終え、さっさと浴槽の方へと歩いて行った。もちろんタオルなど巻かずに。
「君一人かい? よかったら一緒に浸からないか?」
目を離した隙に、見知らぬ男がレネに声をかけている。
(おいおい……)
レネはちょうど浴槽を跨いでいる無防備な体勢で男に話しかけられ、バルトロメイがいるのにどうしようかと固まってしまっている。
木の浴槽の縁には、まるで本人そのものを表したような薄桃色の分身が座礁したままだ。
男はソレを凝視している。
(いかんっいかんっ!!)
なぜかバルチーク領の浜辺で打ち上げられて動けなくなっていたピンクイルカを思い出した。
(早く水に入れてあげないとっ……)
バルトロメイは急いで泡を落とすと、レネのいる浴槽へと走った。
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