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8章 全てを捨てて救出せよ
番外編 全てを捨てて救出せよ【ラファエル編】
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◆◆◆◆◆
弟は馬鹿だ。
居場所を奪った自分のことを憎めばいいのに。
たぶん弟はこの背中にある焼き印を、以前から知っていたのだろう。
『奴隷の分際で』とでも言って憎めばよかったものを、弟は逆に同情してしまうほど、本当は優しい心の持ち主なのだ。
原因を作ったのは自分なので、ラファエルは弟が堕落した生活を送ろうとも、強く出られなかった。
それが結果的に今回の事件に繋がった。
事実が広まってしまえば、弟は次こそ勘当を言い渡されるだろう。
決闘の相手のバルナバーシュはリーパの団長を辞職してこの勝負に挑んだという。
まだそのことは広まっていないが、なぜ辞職したのかという話になり、レオポルトとの決闘が話題に上がってっくるのも時間の問題だ。
まずはバルナバーシュを団長の座に復帰させなければならない。
あの目を見ればわかる。
バルナバーシュは生半可な行動では心を動かすことはない。
すべてを捨てて、養子を救いに行ったのだ。
肩書を捨て、実子を殺す覚悟をしてでも……。
(私も、覚悟を見せないといけない……)
そしてその行動を、レオポルトにも見せなければ、弟が正しい道に戻ることはできないと思った。
レオポルトの心を救うのは、自分しかいない。
そしてラファエルは、ハヴェルの館でそれを実行した。
家に帰り拘束を解くと、レオポルトは泣きながらラファエルの足元に縋りつく。
「兄上っ! なぜ兄上があのようなことをなさったのですっ!!」
「私は、あのようなお願いの仕方しか教えられて来てないからな」
ラファエルは椅子に座り足を組んで悠然と答える。
その背中に、奴隷の焼き印を抱えているなど、誰が想像できようか……。
実際にはポーストの王族は、ラファエルに酷なことを強要するような人物ではなかった。
だが、奴隷船で調教された身体には、それが今でも染みついている。
それだけ強烈なできごとだった。
「兄上……兄上……あんな男たちの前に兄上の肌を晒させたこの私を、どうか手討ちにして下さい。私はもう、生きていく価値のない人間です」
レオポルトは、まるで奴隷のようにラファエルの足元に傅く。
「そんなことは私が許さない。お前は、どれだけあの青年を苦しめていたのかわかるか? 自分で命を絶とうとするほど、お前を救った恩人であるはずの青年を苦しめていたんだぞ。お前は生きて、その罪を償っていくんだ」
ボロボロに傷付けられ、枷を嵌め轡を噛まされたあの美青年の姿は、ラファエルの閉じたはずの心の傷口を疼かせた。
まるで昔の自分を見ているようだった。
(あんなこと、あってはならない……)
両手でレオポルトの顔を包見込み、ラファエルは諭すように言い聞かせる。
「——レオポルト……今までお前に負い目があって強くは言えなかったが、それがいけなかったんだ。今回のことでよくわかった。今度からは、私の右腕になるよう責任を持って教育し直す」
もう遠慮する必要はないのだ。
「兄上……私が、側にいていいんですか?」
思いもよらぬ言葉に、レオポルトはきょとんと子供のような顔をする。
「当たり前だ。私になにかあった時はお前が伯爵家を継がなければいけない。そんな自堕落な生活を続けていたら、バルチーク伯爵家は没落してしまうぞ」
これが本来のあるべき姿なのだ。
「兄上……」
「明日からバルチーク領に戻るから、お前も準備しておくように。お前は今まで跡継ぎとして努力してきたと思っているかもしれないが、まだまだ甘い。これから先、すべてはお前次第だ」
弟の家庭教師から今まで学んできた内容を聞いたが、自分が思っていたほどのものではなかった。
本人はきっと死に物狂いで頑張ったのだろうが、弟は詰めが甘い。
父が、自分を迷わず跡継ぎに戻したのも頷ける。
自分の右腕として学ばせるべきことはまだたくさんある。
「……ありがとうございます。心を入れ替えて兄上の役に立てるよう頑張ります」
弟はそう言うと、また涙を流し始めた。
弟は馬鹿だ。
居場所を奪った自分のことを憎めばいいのに。
たぶん弟はこの背中にある焼き印を、以前から知っていたのだろう。
『奴隷の分際で』とでも言って憎めばよかったものを、弟は逆に同情してしまうほど、本当は優しい心の持ち主なのだ。
原因を作ったのは自分なので、ラファエルは弟が堕落した生活を送ろうとも、強く出られなかった。
それが結果的に今回の事件に繋がった。
事実が広まってしまえば、弟は次こそ勘当を言い渡されるだろう。
決闘の相手のバルナバーシュはリーパの団長を辞職してこの勝負に挑んだという。
まだそのことは広まっていないが、なぜ辞職したのかという話になり、レオポルトとの決闘が話題に上がってっくるのも時間の問題だ。
まずはバルナバーシュを団長の座に復帰させなければならない。
あの目を見ればわかる。
バルナバーシュは生半可な行動では心を動かすことはない。
すべてを捨てて、養子を救いに行ったのだ。
肩書を捨て、実子を殺す覚悟をしてでも……。
(私も、覚悟を見せないといけない……)
そしてその行動を、レオポルトにも見せなければ、弟が正しい道に戻ることはできないと思った。
レオポルトの心を救うのは、自分しかいない。
そしてラファエルは、ハヴェルの館でそれを実行した。
家に帰り拘束を解くと、レオポルトは泣きながらラファエルの足元に縋りつく。
「兄上っ! なぜ兄上があのようなことをなさったのですっ!!」
「私は、あのようなお願いの仕方しか教えられて来てないからな」
ラファエルは椅子に座り足を組んで悠然と答える。
その背中に、奴隷の焼き印を抱えているなど、誰が想像できようか……。
実際にはポーストの王族は、ラファエルに酷なことを強要するような人物ではなかった。
だが、奴隷船で調教された身体には、それが今でも染みついている。
それだけ強烈なできごとだった。
「兄上……兄上……あんな男たちの前に兄上の肌を晒させたこの私を、どうか手討ちにして下さい。私はもう、生きていく価値のない人間です」
レオポルトは、まるで奴隷のようにラファエルの足元に傅く。
「そんなことは私が許さない。お前は、どれだけあの青年を苦しめていたのかわかるか? 自分で命を絶とうとするほど、お前を救った恩人であるはずの青年を苦しめていたんだぞ。お前は生きて、その罪を償っていくんだ」
ボロボロに傷付けられ、枷を嵌め轡を噛まされたあの美青年の姿は、ラファエルの閉じたはずの心の傷口を疼かせた。
まるで昔の自分を見ているようだった。
(あんなこと、あってはならない……)
両手でレオポルトの顔を包見込み、ラファエルは諭すように言い聞かせる。
「——レオポルト……今までお前に負い目があって強くは言えなかったが、それがいけなかったんだ。今回のことでよくわかった。今度からは、私の右腕になるよう責任を持って教育し直す」
もう遠慮する必要はないのだ。
「兄上……私が、側にいていいんですか?」
思いもよらぬ言葉に、レオポルトはきょとんと子供のような顔をする。
「当たり前だ。私になにかあった時はお前が伯爵家を継がなければいけない。そんな自堕落な生活を続けていたら、バルチーク伯爵家は没落してしまうぞ」
これが本来のあるべき姿なのだ。
「兄上……」
「明日からバルチーク領に戻るから、お前も準備しておくように。お前は今まで跡継ぎとして努力してきたと思っているかもしれないが、まだまだ甘い。これから先、すべてはお前次第だ」
弟の家庭教師から今まで学んできた内容を聞いたが、自分が思っていたほどのものではなかった。
本人はきっと死に物狂いで頑張ったのだろうが、弟は詰めが甘い。
父が、自分を迷わず跡継ぎに戻したのも頷ける。
自分の右腕として学ばせるべきことはまだたくさんある。
「……ありがとうございます。心を入れ替えて兄上の役に立てるよう頑張ります」
弟はそう言うと、また涙を流し始めた。
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