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5章 団長の親友と愛人契約せよ
14 お茶への招待
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◆◆◆◆◆
「招待状が届いています」
使用人の青年が、招待状を差し出す。
「は? もうその手には乗らねーぞ」
昨日散々な目に遭ったのだ、流石にハヴェルも警戒している。
「良いんですか? 昨日助けて頂いた方からですよ?」
ハヴェルは封筒を開けて確かめているが、差出人の名前は書いてないようだ。
「どこにも名前なんて書いてないし、お前まで招待されてるぞ」
午後のお茶への招待以外、他にはなにも書いてはいない。
しかし使用人までお茶に誘うとはどういうことだろうか?
差出人は、変わり者のようだ。
レネはテプレ・ヤロにやって来て、まともな人物に一人も出会っていない気がする。
「先ほどお二人が朝食をお召し上がりの最中に、昨夜の銀髪の男性が手紙を届けにいらっしゃったんです」
それを聞いてレネは驚いた顔をして使用人の青年を見るが、彼はいつものように無表情だった。
昨夜、自分を運ぶ男の顔をぼんやりと眺めた時に、思わず口に出した名前を思い出す。
(デニスさん……)
あれは本人だったのだろうか?
でも、もしそうだったら……。
レネはもう一度、使用人の方を見るが、青年はなにも反応を見せない。
やっぱり、自分の見間違いだったのだろうか?
「——なあ……あんた、相手が誰か知ってるんだろ?」
もうじれったくなってきた。
まだ状況を掴めていないレネの顔を見ると、使用人の青年はふっと笑う。
「自分で確かめろよ」
ぞんざいに告げると、青年はアッシュブロンドの三つ編みを揺らしながら寝室から出て行った。
案内されたのは天井の高い広いサンルームで、普段からティールームとして利用されているようだ。
レネたちが中へ入ると、あの銀髪の男が出迎えに来た。
「もう体調の方は大丈夫かな?」
(あっ……違う)
銀髪に褐色の肌、だがデニスとは違い瞳の色は銀色だった。
それに、デニスよりも年齢が少し上に見える。
(——でも、凄く似てる……)
「昨日はありがとうございました。なんとお礼を言ったらいいのか……」
あの場から連れ出してくれなかったら、大勢の面前で痴態を晒していただろう。
「いやいや、君はどうも弟の知り合いのようだし」
「——えっ……」
「昨日、私を弟と間違えていただろう?」
「じゃ、じゃあ……あなたは、デニスさんのお兄さん!?」
頭の回転の速い者は、この時点でお茶に招待した人物が誰か気付いただろう。
しかしレネの頭はそこまでできがよくないので、デニスとこの男が兄弟だったことにただ驚くばかりだ。
「詳しい自己紹介は席に着いてからでいいかな? 私も君には訊いてみたいことがあるけど、私だけ抜け駆けするわけにもいかないからね。——さあ皆さん、主の所へ案内します」
『お前、どういうことだ? 知り合いなのか?』
男の後をついて行きながら、事情のわからないハヴェルが肘で突いて訊いてくる。
『いや、知り合いの知り合いだったみたい』
しかし、デニスの兄の主が誰であるのかはレネも知らない。
「アルベルト様、お客様がお見えになりましたよ」
サンルームの奥の席に、四十代前半の身なりの良い男が座っていた。
ハヴェルは姿を見るなり、恐縮する。
「伯爵閣下っ!? まさか昨日お声がけして助けてくださったのは……貴方様だったのですか」
「そんなに畏まらないでくれ、今日は友人として君たちをお茶に誘っただけだから」
膝をついて挨拶しようとしていたハヴェルを手で制する。
そんな中、レネは事態について行けずに反応できないでいた。
(この人だれ?)
「リンブルク伯爵お久しぶりです」
そんなレネを差し置いて、一緒に招待されていた使用人の青年が優雅に挨拶をする。
(えっ!? リンブルク伯爵……——この人が……アンドレイのお父さん!?)
「ロランド君、やっぱり君もいたんだね。昨日ラデクが部屋で見かけたというから、君の名前も書いておいて正解だったよ」
今回、レネ一人では心許ないだろうと、バルナバーシュはロランドも使用人に仕立て上げ同行させていたのだ。
本人はすっかり使用人の青年役に嵌ってしまい、レネと二人っきりの時も口調を変えずに接している。
要するに……使用人になり切って楽しんでいるのだ。
「まさか、こんな所でお二人とお会いするとは思ってもいませんでした。今日は私までお茶に招待して頂きありがとうございます」
ロランドは物怖じすることなく、リンブルク伯爵と会話をしている。
(なるほど……ロランドはボフミルを引き渡しにリンブルク伯の所に行っていたから面識があるのか……)
やっと導き出した答えにレネは納得する。
「ハヴェルさん、君の美しい連れの方を紹介して頂いてもいいかな?」
「申し訳ありません。紹介が遅れました。昨日は気転を利かせて頂きありがとうございました」
続けて、ハヴェルはレネの背を押してアルベルトの前へと押し出す。
「初めまして。レネと申します。昨日は危ない所を助けて頂きありがとうございます」
失礼のないよう頭を下げ挨拶をする。
(——ああ、オレは護衛なのにこの人たちに助けてもらったんだ……)
「そうか……レネ君か……——ずっと私の中で渦巻いていた疑問が、いま解決したよ」
アルベルトが満面の笑みを浮かべてレネを見つめた。
「……?」
「反抗期の息子から珍しく手紙が送られてきてね、以前護衛を担当した青年のことがつらつらと書き綴ってあったんだよ。いったいあの子はどうしたんだろう? と思っていたら……君を見て納得した」
(——もしかして!?)
「……それってアンドレイのことですか?」
口に出して、伯爵令息を呼び捨てするのはどうだろうと思ったが、もう遅い。
「やっぱりそうか。君があのレネ君だったんだね。デニスのことを知っていて、ロランド君も一緒にいるからもう間違いないと思っていたが」
「まさかこんな所でお会いするなんて思ってもいませんでした……」
レネは苦笑いしながらアルベルトを見た。
「ふふっ。私もびっくりしたよ。アンドレイの恩人が、レオポルトの手に堕ちなくてよかった」
(は~強烈に恥ずかしい……)
レネは昨夜のことを思い出し顔を真っ赤にして俯いた。
「招待状が届いています」
使用人の青年が、招待状を差し出す。
「は? もうその手には乗らねーぞ」
昨日散々な目に遭ったのだ、流石にハヴェルも警戒している。
「良いんですか? 昨日助けて頂いた方からですよ?」
ハヴェルは封筒を開けて確かめているが、差出人の名前は書いてないようだ。
「どこにも名前なんて書いてないし、お前まで招待されてるぞ」
午後のお茶への招待以外、他にはなにも書いてはいない。
しかし使用人までお茶に誘うとはどういうことだろうか?
差出人は、変わり者のようだ。
レネはテプレ・ヤロにやって来て、まともな人物に一人も出会っていない気がする。
「先ほどお二人が朝食をお召し上がりの最中に、昨夜の銀髪の男性が手紙を届けにいらっしゃったんです」
それを聞いてレネは驚いた顔をして使用人の青年を見るが、彼はいつものように無表情だった。
昨夜、自分を運ぶ男の顔をぼんやりと眺めた時に、思わず口に出した名前を思い出す。
(デニスさん……)
あれは本人だったのだろうか?
でも、もしそうだったら……。
レネはもう一度、使用人の方を見るが、青年はなにも反応を見せない。
やっぱり、自分の見間違いだったのだろうか?
「——なあ……あんた、相手が誰か知ってるんだろ?」
もうじれったくなってきた。
まだ状況を掴めていないレネの顔を見ると、使用人の青年はふっと笑う。
「自分で確かめろよ」
ぞんざいに告げると、青年はアッシュブロンドの三つ編みを揺らしながら寝室から出て行った。
案内されたのは天井の高い広いサンルームで、普段からティールームとして利用されているようだ。
レネたちが中へ入ると、あの銀髪の男が出迎えに来た。
「もう体調の方は大丈夫かな?」
(あっ……違う)
銀髪に褐色の肌、だがデニスとは違い瞳の色は銀色だった。
それに、デニスよりも年齢が少し上に見える。
(——でも、凄く似てる……)
「昨日はありがとうございました。なんとお礼を言ったらいいのか……」
あの場から連れ出してくれなかったら、大勢の面前で痴態を晒していただろう。
「いやいや、君はどうも弟の知り合いのようだし」
「——えっ……」
「昨日、私を弟と間違えていただろう?」
「じゃ、じゃあ……あなたは、デニスさんのお兄さん!?」
頭の回転の速い者は、この時点でお茶に招待した人物が誰か気付いただろう。
しかしレネの頭はそこまでできがよくないので、デニスとこの男が兄弟だったことにただ驚くばかりだ。
「詳しい自己紹介は席に着いてからでいいかな? 私も君には訊いてみたいことがあるけど、私だけ抜け駆けするわけにもいかないからね。——さあ皆さん、主の所へ案内します」
『お前、どういうことだ? 知り合いなのか?』
男の後をついて行きながら、事情のわからないハヴェルが肘で突いて訊いてくる。
『いや、知り合いの知り合いだったみたい』
しかし、デニスの兄の主が誰であるのかはレネも知らない。
「アルベルト様、お客様がお見えになりましたよ」
サンルームの奥の席に、四十代前半の身なりの良い男が座っていた。
ハヴェルは姿を見るなり、恐縮する。
「伯爵閣下っ!? まさか昨日お声がけして助けてくださったのは……貴方様だったのですか」
「そんなに畏まらないでくれ、今日は友人として君たちをお茶に誘っただけだから」
膝をついて挨拶しようとしていたハヴェルを手で制する。
そんな中、レネは事態について行けずに反応できないでいた。
(この人だれ?)
「リンブルク伯爵お久しぶりです」
そんなレネを差し置いて、一緒に招待されていた使用人の青年が優雅に挨拶をする。
(えっ!? リンブルク伯爵……——この人が……アンドレイのお父さん!?)
「ロランド君、やっぱり君もいたんだね。昨日ラデクが部屋で見かけたというから、君の名前も書いておいて正解だったよ」
今回、レネ一人では心許ないだろうと、バルナバーシュはロランドも使用人に仕立て上げ同行させていたのだ。
本人はすっかり使用人の青年役に嵌ってしまい、レネと二人っきりの時も口調を変えずに接している。
要するに……使用人になり切って楽しんでいるのだ。
「まさか、こんな所でお二人とお会いするとは思ってもいませんでした。今日は私までお茶に招待して頂きありがとうございます」
ロランドは物怖じすることなく、リンブルク伯爵と会話をしている。
(なるほど……ロランドはボフミルを引き渡しにリンブルク伯の所に行っていたから面識があるのか……)
やっと導き出した答えにレネは納得する。
「ハヴェルさん、君の美しい連れの方を紹介して頂いてもいいかな?」
「申し訳ありません。紹介が遅れました。昨日は気転を利かせて頂きありがとうございました」
続けて、ハヴェルはレネの背を押してアルベルトの前へと押し出す。
「初めまして。レネと申します。昨日は危ない所を助けて頂きありがとうございます」
失礼のないよう頭を下げ挨拶をする。
(——ああ、オレは護衛なのにこの人たちに助けてもらったんだ……)
「そうか……レネ君か……——ずっと私の中で渦巻いていた疑問が、いま解決したよ」
アルベルトが満面の笑みを浮かべてレネを見つめた。
「……?」
「反抗期の息子から珍しく手紙が送られてきてね、以前護衛を担当した青年のことがつらつらと書き綴ってあったんだよ。いったいあの子はどうしたんだろう? と思っていたら……君を見て納得した」
(——もしかして!?)
「……それってアンドレイのことですか?」
口に出して、伯爵令息を呼び捨てするのはどうだろうと思ったが、もう遅い。
「やっぱりそうか。君があのレネ君だったんだね。デニスのことを知っていて、ロランド君も一緒にいるからもう間違いないと思っていたが」
「まさかこんな所でお会いするなんて思ってもいませんでした……」
レネは苦笑いしながらアルベルトを見た。
「ふふっ。私もびっくりしたよ。アンドレイの恩人が、レオポルトの手に堕ちなくてよかった」
(は~強烈に恥ずかしい……)
レネは昨夜のことを思い出し顔を真っ赤にして俯いた。
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