上 下
215 / 321

アマミヤの過去

しおりを挟む
「あの、一つ気になる事があるのですが、聞いてもいいでしょうか?」
「えぇ、私に答えられる事なら何でも」
アマミヤさんは私の言葉を聞くと、そう答えた。
ふぅ、と呼吸を落ち着かせてから私は口を開く。
「アマミヤさんもこっちの世界にやって来たと言ってましたが、どうしてここに残っているのでしょうか?その…………」
「魔力を感じない。でしょう?」
「はい……魔力の無いものはすぐに帰されたと聞いたので、
どうしてこちらに残る事を許可されたのか、不思議で」
私がそう言うと、アマミヤさんは少し悲しそうに笑った。
私はもしかしたら聞いてはいけない事を聞いてしまったのだろうか?と思い、慌てて謝った。
すると彼女は笑いながら首を横に振った。
「私にも、魔力はあったのです」
「あった……?」
「えぇ、この世界に呼ばれた時、微量ながら私には魔力がありました。それで、この国の人達は、魔力は少ないが無いよりはマシだと
私をこの世界に残したんです」
「でも、今のアマミヤさんの魔力は」
「ありません、成長する度に微量に残っていた魔力は無くなっていき……ここの学生と同じくらいの年齢の頃でしょうか……完全に魔力を無くしてしまいました」
そう言って彼女は悲しそうに笑う
そんな彼女に、私は何も言ってあげることが出来なかった。
「聖女様がそんな顔をしないでください、今の私はこんなにも元気なんですから」
「でも……魔力が無くなった、なんてあの人達が聞いたら」
「凄く怒ってましたよー使い物にならないとか、無能が!って」
アマミヤさんは笑いながらそう言っているが、私はその言葉に苛立ちを覚えた。
使い物にならない……と聞くと私はどうしてもあの人の事を思い出してしまうから。
「辛かったでしょう……?」
「その時は凄くショックでした、でもこの国に来たお陰で出会えた人達も沢山いるから……だから、今は
私をここに呼んでくれてありがとう。そう思っているんです」
そう言って笑う彼女の顔は、本当に幸せそうだった。
あの人達の行いは、許すことは出来ないが彼女にとってはよかった事だったのかもしれない。
それでも、彼女を蔑ろにした事実は変わらない……
「色々喋りすぎてしまいましたね、聖女様はここに本を読みに来たのでしょう?私はカウンターの方に
いますから、ゆっくりしていってください」
「えぇ、ありがとう。アマミヤさん」
私がお礼を言うと、アマミヤさんは嬉しそうに笑った後、カウンターの方へと戻って行った。
私はそれを見送ってから、本が並んだ本棚に目を向ける。
本棚には沢山の本があって目移りしてしまうが、私の目的の本は決まっていた。
「これね……」
私が手に取った本は、魔力をコントロールする方法が載っている初心者向けの本だった。
この本は私が使うのでは無く、沙羅に使おうと思っている。
沙羅の力は前よりも格段に上がっているし、こんな初心者向けの本なんて言われてしまうかもしれないけれど
だからこそ、基礎に戻って学んで欲しかった。
******
本を読み始めて、数時間経った頃だろうか
アマミヤさんが私に声を掛けてきた。
「聖女様、お客様がお待ちですよ」
「お客様……あ!ウィル先生、私がここに居るって良く分かりましたね?」
「まぁね、それより約束の放課後だよ」
そう言ってウィル先生は時計を指さした。確かに時計の針は約束していた放課後を指し示していて……私は慌てて本を片付けた。
「アマミヤさん、今日はありがとうございました」
「いいえ、またいらしてください」
「はい、では失礼します」
私はアマミヤさんにお礼を言ってからウィル先生と一緒に図書室を出た。
廊下に出たところで、先生が私の持っている本に目を向けた。
それは私が持ってきた初心者向けの魔力コントロールについて書かれた本だった。
「それは?」
「あぁ、沙羅の勉強に役に立つかと思いまして」
「そっか、それより急いで学園長室に行かないと……!皆待ってるから」
「は、はい!」
私はウィル先生の言葉に慌てて学園長室に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

妹が寝取った婚約者が実は影武者だった件について 〜本当の婚約者は私を溺愛してやみません〜

葉柚
恋愛
妹のアルフォネアは姉であるステファニーの物を奪うことが生きがいを感じている。 小さい頃はお気に入りの洋服やぬいぐるみを取られた。 18歳になり婚約者が出来たら、今度は私の婚約者に色目を使ってきた。 でも、ちょっと待って。 アルフォネアが色目を使っているのは、婚約者であるルーンファクト王子の影武者なんだけど……。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

どうやらこのパーティーは、婚約を破棄された私を嘲笑うために開かれたようです。でも私は破棄されて幸せなので、気にせず楽しませてもらいますね

柚木ゆず
恋愛
 ※今後は不定期という形ではありますが、番外編を投稿させていただきます。  あらゆる手を使われて参加を余儀なくされた、侯爵令嬢ヴァイオレット様主催のパーティー。この会には、先日婚約を破棄された私を嗤う目的があるみたいです。  けれど実は元婚約者様への好意はまったくなく、私は婚約破棄を心から喜んでいました。  そのため何を言われてもダメージはなくて、しかもこのパーティーは侯爵邸で行われる豪華なもの。高級ビュッフェなど男爵令嬢の私が普段体験できないことが沢山あるので、今夜はパーティーを楽しみたいと思います。

処理中です...