上 下
153 / 321

噂で作られた劇

しおりを挟む
広場には沢山の人達が集まっており、私達はその人たちの邪魔にならなそうな
少し離れた場所から劇を見る事にした。
「さぁ、皆様お待たせしました!」
司会らしき男性がマイクを使って大きな声で宣言すると、観客席からは歓声が上がる。
そして、その声と同時に音楽が流れ出した。
どうやらこれから劇が始まるようだ……一体どんな内容なのだろうと、わくわく
しながら、私は舞台を見る。
「舞台は……とある王国の王宮」
司会の男性がそう言うと、舞台の真ん中にスポットライトが当てられる。
その光に照らされていたのは美しい女性だった。
美しい銀色の髪に青い瞳をした女性は豪華なドレスを身に纏い、優雅にお辞儀をする。
「今日こそ……あの人に伝えるの……」
そんなセリフと同時に、舞台の端から、一人の男性が舞台中央に向かって歩いてくる。
男性は女性の前に来ると、跪いて女性に愛を囁く。
すると女性は嬉しそうに微笑み……次の瞬間男性を突き飛ばした。
「私、貴方との婚約を破棄します!」
そして女性はそう宣言した。
男性は、そう言った女性の事を必死で止めるが、
女性は聞く耳を持たず……その場から去って行った。
そして、場面が変わり、今度は別の男性の方が女性の家に訪ねてくるシーンになっていた。
その男性は、金髪碧眼の美青年で、その美しい容姿に観客の女性は黄色い声を上げる。
「俺と婚約してくれないか?」
「はい。喜んで」
…………あれ?この展開何だか見覚えがあるような……
そんな事を考えている間も舞台はどんどんと進んでいき、いつの間にか彼女の前には、大きな敵が現れ、その敵に立ち向かう為、彼女は仲間を集め
そして、見事に勝利を収めて……最後はハッピーエンド…………
「ねぇ、エミリア……」
「うん、私も同じことを考えてた」
「この舞台、私達の事にそっくり……よね」
そう、この舞台はこの間まで私達の間に起こった事を忠実に再現していたのだ。
この事を誰かに話した訳でもないし、私達がこの脚本で舞台を上演してくれだなんて頼んだことも無い。
「ねぇ?どうしてこの舞台を作ったのか聞いてみない?」
「え?でも……」
「だって気になるじゃん!」
エミリアは興奮してそう言うと、立ち上がり舞台の方に歩いて行った。
そして、舞台の前で立ち止まると……舞台裏に向かって声を掛けた。
すると、一人の男性が姿を現した。
「はい?どうかしましたか?」
「あの!この舞台ってオリジナルの脚本なんですか?」
「え?どうしてそんな事を?」
「すっごく面白かったので、もし原作があったら読んでみたいな~って思って!」
「それはそれは……ありがとうございます。この舞台は私が脚本を書いたのです」
「そうだったんですね!このお話を書くために何か参考にしたんですか?」
「そうですねぇ……町の人の噂とかでしょうか」
男性はエミリアの質問に答えながら、チラリと街の方を見た。
噂……噂かぁ……それにしては、私達が経験した事と似すぎてるような……
そんな事を考えていると、エミリアは満足したのか、男性にお礼を言って戻ってきた。
「噂からって言ってたけどさ……こんなにそっくりになるのかな?」
「そうですよね……でも、噂と言うのは意外と侮れないですから……」
「う~~ん………まぁ、あの人からは悪意とかそういうのは感じなかったし
気にしすぎだったのかな」
エミリアは首を傾げて考え始めた。
確かに噂と言うのは馬鹿に出来ない……現沙羅が噂によって苦しんでいた事実があるから、けれど……エミリアが言うように、あの劇とあの男性からは嫌な気配は無く、むしろ私達観客に楽しんで欲しいと言う気持ちが伝わってきた。
だから、エミリアの言う通り気にしすぎただけなのかもしれない……私はそう思う事にして、広場から離れることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

国境に捨てられたら隣国の若き公爵に拾われました

宵闇 月
恋愛
ゲームの悪役令嬢に転生し、国境に捨てられたら隣国の公爵にお持ち帰りされました。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

西成の銭湯

dragon49
大衆娯楽
短歌。

紅薔薇と森の待ち人

石河 翠
児童書・童話
くにざかいの深い森で、貧しい若者と美しい少女が出会いました。仲睦まじく暮らす二人でしたが、森の周辺にはいつしか不穏な気配がただよいはじめます。若者と彼が愛する森を守るために、少女が下した決断とは……。 こちらは小説家になろうにも投稿しております。 表紙は、夕立様に描いて頂きました。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

テルミー通りの人形工房

Slugcat
ファンタジー
 排煙と汚水に塗れ、薄霧の立ち込める陰鬱な大都市の一角、うらびれた路地の片隅にひっそりと、一軒の“魔導人形工房”があった。“魔導人形”とは、機械技術と魔術の融合によって生み出される自動人形のことだ。外見こそ生身の人間と区別がつかないほど精巧だが、『人格』と呼べるような高度な知性はない。見た目は人間そのものだが意思も人権も持たない『人形』。それにどんな需要があるかは、あえて言うまでもないことだ。工房で働く人形師の主な仕事は、下衆な金持ち連中の欲望を余さず聞き取り、彼らの好みに忠実な見目麗しい人形を造り上げることだった。そんな人形師のもとに、ある日、奇妙な客が訪れた。その客は、一枚の写真を差し出して「この写真の人物を人形で再現することはできるか?」と尋ねた。そこに写っていたのは、絶世の美女でもなければ筋肉質の美男子でもなく、ごく普通の愛らしい童女だった。人形師が、これは誰の写真なのかと尋ねると、「孫娘だ」と客は答えた。一年前に、病で亡くなった孫娘だと。

婚約も結婚も計画的に。

cyaru
恋愛
長年の婚約者だったルカシュとの関係が学園に入学してからおかしくなった。 忙しい、時間がないと学園に入って5年間はゆっくりと時間を取ることも出来なくなっていた。 原因はスピカという一人の女学生。 少し早めに貰った誕生日のプレゼントの髪留めのお礼を言おうと思ったのだが…。 「あ、もういい。無理だわ」 ベルルカ伯爵家のエステル17歳は空から落ちてきた鳩の糞に気持ちが切り替わった。 ついでに運命も切り替わった‥‥はずなのだが…。 ルカシュは婚約破棄になると知るや「アレは言葉のあやだ」「心を入れ替える」「愛しているのはエステルだけだ」と言い出し、「会ってくれるまで通い続ける」と屋敷にやって来る。 「こんなに足繁く来られるのにこの5年はなんだったの?!」エステルはルカシュの行動に更にキレる。 もうルカシュには気持ちもなく、どちらかと居言えば気持ち悪いとすら思うようになったエステルは父親に新しい婚約者を選んでくれと急かすがなかなか話が進まない。 そんな中「うちの息子、どうでしょう?」と声がかかった。 ルカシュと早く離れたいエステルはその話に飛びついた。 しかし…学園を退学してまで婚約した男性は隣国でも問題視されている自己肯定感が地を這う引き籠り侯爵子息だった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★8月22日投稿開始、完結は8月25日です。初日2話、2日目以降2時間おき公開(10:10~) ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

たぬき寝入り〜気になる子が放課後になると毎日寝ているので気が気じゃない〜

歩くの遅いひと(のきぎ)
恋愛
山那(やまな)ちなつは高校生。 席が近くになったのをきっかけに同じクラスの同級生 平沢(ひらさわ)たまおの目覚まし役をお願いされる。 なかなか起きないたまおに対し、ちなつはいつしか魔が差したようでーー? 起きない女の子と負ける女の子のお話 ☆ 少し前まで公開していたHPに載せていたものを加筆修正しています。 こちらの作品はpixiv、小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...