上 下
27 / 321

風の魔法

しおりを挟む
「どうして風が起こらないの……?」
震えたような声で沙羅が呟く。
沙羅の様子を見ると、明らかに落ち込んでいる様子だった。
聖女として呼ばれたのに、魔法が使えない自分が悔しいんだろうな……。
沙羅は何度も、お願いだから!と祈りを込めているようだった。
しかし、一向に魔法が使える気配はなかった。
けれど、これは仕方がないのだ。
聖女と言うだけでいきなり魔法が使えるようになるわけではない。
そもそも、私の様に生まれた時から力があって魔法が使える方が珍しい
のだ。
私は、沙羅の隣に行き手を添える。
そして、沙羅の瞳を真っ直ぐ見据える。
「沙羅落ち着いて……深呼吸して力を抜いて」
「うん………ふぅ……」
沙羅は私の言葉を聞いて、深呼吸をする。
私は、もう一度沙羅の手に自分の手を重ねる。
そうする事で、沙羅の手を通して魔力を送る事が出来るから。
「そう上手……そのまま私の力を自分の力にするようにして……」
「はい……"ウィンド"」
沙羅がそう唱えた瞬間、足元に小さな風が巻き起こった。
「うん……成功ね」
「すごいすごい!沙羅凄いよ!!」
そう言ってエミリアが沙羅に抱き着く、沙羅も嬉しそうにはしゃいで、やったーっと私に抱き着いてぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「でも、まだまだ練習がしなくちゃね?」
「う、うん!」
「いい返事ね、じゃあ少し休憩しましょうか。疲れたでしょう?」
「でも……」
「この間も言ったでしょう?無理して倒れたら意味が無いのよ?」
「はーい」
そう言うと沙羅は、渋々納得してくれたみたいで、分かった。と言ってくれた。
エミリアは、まだ元気があるのか、遊びたいっと言っていたけれど、休憩が先だよ。と言うとしょんぼりしながら分かった。と言っていた。
「ちょっと待ってて、今お茶を用意してくるから」
「私も手伝うよ~」
「ありがとう、でも私一人で大丈夫よ」
「そう?じゃあ沙羅と二人で待ってるね~」
「うん、いい子にしてるのよ?」
「は~い」
私はそう言うと、部屋を出てキッチンに向かう。
二人っきりにして大丈夫かな?と少し心配だけれど
、エミリアはしっかりしているから大丈夫よね。
私は、慣れた足取りで厨房に向かい、ティーセットを用意する。
そして、お湯を沸かし紅茶を入れる。
その香りが辺りに漂ってくる。
私は、それを楽しみながらカップに注ぎトレーに乗せると、部屋の方に向かった。
ドアを開けると、二人は仲良くお話をしていた。
私は、そんな二人の邪魔をしないように、静かに机に紅茶を置く。
すると、それに気づいた二人がこちらを見る。
「あっ!ルカおかえり~」
「ただいま、随分楽しそうにお話してたみたいね?何を話していたの?」
「う~ん色々かな、ね?沙羅」
「うん!」
「ふ~ん、私には内緒なの?」
私がそう言うと、沙羅とエミリアは焦ったようにち、違うの!と必死になって弁解する。そんな二人を見て、思わず笑みがこぼれてしまう。
「ふふ、冗談よ。さぁ、お茶にしましょうか」
「う、うん!」
「わぁ~美味しそうなお茶にお菓子……これ何処で買ったの?」
「あ、これは……」
「コレはねルカの手作りなんだよ!ね?ルカ」
「えぇ、お口に合えばいいのですが……」
「いただきます~……ん~美味しい!」
「ほんとですか?良かった」
私はホッと胸を撫で下ろす。
そして、自分も一口飲む。うん、良い出来だと思う。
沙羅とエミリアがニコニコと笑顔でこちらを見ている。
どうしたんだろう。そんなに見られてると食べづらいんだけど……。
「二人ともどうかしたのですか?」
「ん~ルカはやっぱりかわいいな~って思って、ねぇ?沙羅」
「そうそう!いつも可愛いけど今日は特に可愛いなって思って」
私は、そんな事を言われて顔が熱くなる。
そんな風に言われると思っていなかったから。
そして、照れ隠しをするように、そう言えば……っと話題を変える。
それから暫く、三人でのおしゃべりを楽しんだ。
楽しい時間はあっという間に過ぎていくもので、そろそろ帰る時間になったようだ。沙羅とエミリアは名残惜しそうに、また来るね!と言って帰って行った。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」 学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。 そこに聖女であるアメリアがやってくる。 フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。 彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。 短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。

四季
恋愛
お前は要らない、ですか。 そうですか、分かりました。 では私は去りますね。

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?

サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

処理中です...