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第11章 戦争
11 どうすればいいんだ
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結界を張りなおしてさらに数日が経過したところで、使者に出ていたダンクスたちが帰ってきた。
「よく戻った」
謁見の間で厳かに言う俺、ダンクスだけならいつもの調子でいいんだが、3国の人間がいる以上これでなければならない。
「ご報告します」
長い前口上の後ようやくの報告だが、これは仕方ないダンクス以外は他国の使者であり、俺は魔王という一国の王だから。いくら長話が嫌でもそんな顔1つせず聞き続けなければならない。
さて、問題の報告だが、それは思っていた通りのものとなった。
「大変申し訳ありません。交渉に失敗いたしました」
いろいろと話してきたが結果としてこういうものであった。
「それは仕方がない、最初の交渉の際の対応からも、たとえ交渉の一人者であう貴公たちであっても同じ結果となる。そう予想はしていた。今回貴公等を送り出したはほんのわずかな可能性に懸けてみただけのこと、失敗に関して気にする必要はない」
「ありがとう存じます」
「うむ、さてそれで、1つ疑問だが」
「はい、何なりと」
「ん、なぜ西側諸国はそれほどまでに我らを憎み滅ぼそうとしているのか、その理由はわかるか」
実は俺が彼らを送り出した理由として、この事態を招いた理由を知りたかったのだ。ダンクスではそこまで引き出すことはできなかっただろうが、おそらく彼らなら聞き出しているかもしれない。
「はい、それに関してですが、我々も疑問に思い尋ねました。それによりますと……」
期待通り彼らは聞き出してくれたようだ。そして、その内容はというと、これはかつて、先代の魔王が原因であった。俺もちらっとした知らないが、実は先代を始めかつての魔王国があったのは大陸の西側南部においての南西部内陸であった。そこから支配欲持った先代魔王が周辺諸国に喧嘩を売り出したというわけだ。その結果として西側諸国では俺たちの出身である東側の国より魔王国という言葉に敏感になっている。なにせ東側はあくまで人づてに魔王の話を聞いただけであり、西側は実際にその被害にあったもの達だからだ。そりゃぁ魔王国にという言葉に関しての印象は違うよな。東側にとってはただの昔話、でも西側にとっては自らの先祖が受けたものだからな。
「なるほどな。それにしてもずいぶんと長い間の話だが」
そうなんだよ。先代魔王の暴走は今から約1万年前、地球で考えると石器時代でようやく氷河期が終わったころで、あのノアの箱舟といった神話よりも前の話、そんな大昔の憎しみなどをいまだに残しているって、ちょっと無理ないか。
「はい、ですが彼らはそれを旗として掲げております。また、彼らの中心となっている人物はどうやら当時、連合軍を率いた勇者様の補佐をしていたものの末裔とのことです」
「それ、本当の話か?」
1万前から脈々と、ってちょっと無理ないか。いやま、地球でも天皇家みたいに日本創生からずっと続いている家もあることにはあるが、それだってまだ神武天皇から数えて2600年ほどだったはずだ。確かに地球の歴史とこの世界の歴史は全く違い、この世界の方が人間が文明を築いてからの期間が長いから、もしかしたら同じくらい年月が経てば天皇家もそれまで続いていくことになるだろうからある意味ではおかしくないのかもしれないが。
とにかく俺にはにわかには信じがたい話ではあるが、問題の西側諸国はそれを信じているそうだ。
「はい、なんでも今から約6000年ほど前に誕生した王朝がそう宣言したとのことです」
この話を聞いたとき俺が思ったのはやはり違うというものだ。その6000年前の初代がそう自称したのだろう。そうした方が世間的にも認められやすいからな。まぁ、もしかしたら多くの末裔に子孫の1人であったという可能性は否定できないが。
「そういうことか、それが本当であろうと嘘であろうと西側諸国はそれを信じ、いや旗印として担ぎ上げたわけか」
「おそらくは」
「そうか、ご苦労であった本日は我が城へ逗留し、明日送り届けるとしよう。ゆっくりと英気を養ってくれ」
「はっ、ご厚意ありがたく頂戴いたします」
というわけで、3国の使者たちは謁見の前を退出していった。
「はぁ、まじでどうすっかなぁ」
使者たちが見えなくなったところで頭を抱える。
「どうしたのスニル」
そんな俺を見たシュンナが不思議そうに俺を見ている。どうやらシュンナにはこの状況が見えていないようだ。まぁ、これは仕方ないというわけで説明を始めることにした。
「どうもこうも、厄介なことにこれはきた敵を叩き潰せばいいってことじゃなくなっちまったってことだ」
「ん?」
「奴らは俺という魔王を討伐するために決起しているわけだろ、しかも厄介なことにこれは世間的にはどう考えても向こうに正義があるんだよ」
「どうして? ああ、もしかして先代?」
「そ、その先代がやらかしてくれたおかげで、魔王や魔族というのは人類の敵、これが世界の大半である人族共通の認識だ。まぁ、俺たちが接触したコルマベイント、ブリザリア、ウルベキナの上層部はそれは違うという認識になってはいるが、それでも民までとなるどうだ」
「認識はされてないだろうな。民からしたら当然今までの通り魔族と魔王は人類の敵」
「そうだ」
同盟国ですらこの認識の違いがあり、まさにこれから彼らの認識を変えていこうとしていたところだ。そんなタイミングで襲ってくる敵、敵、敵。
「もし、そんな中俺が撃退目的で大魔法の1つでもぶっ放してみろ、というか敵の数から考えて俺としてはそれで行こうと思っていたんだよ。でも、そんなことしたら、まさに魔王の所業だろ」
「ああ、確かにそんなこと魔王にしかできないよね」
「民衆は恐怖するだろうな」
「ああ、そして今度は日和見してる連中から下手したら東側の残り国からも敵認識されちまう、というかそもそも俺たちはまだ3か国としか接してないんだぜ」
「ちょっと待って、そうなるとどうなるの?」
シュンナが若干青ざめて聞いてきた。
「最悪テレスフィリア、コルマベイント、ブリザリア、ウルベキナVS世界ってことになりかねないってことだ。そして、そうなった場合3国の行動としては向こう側に着くことが予想される」
「えっ! どうして……あ、そうか民衆はまだあたしたちを敵と考えてるから国としてはスニルに対する義理よりもそっちを優先する。そして何より世界相手に彼らが戦うすべがない」
「そういうこと、いくら俺がいるからといってもさすがに世界相手は無理だしな」
メティスルを持ち無尽蔵の魔力とそこから放つ魔法、ダンクスやシュンナといった世界でも指折りの実力者、ドワーフ製の武器やエルフの精霊魔法、獣人族の高い身体能力からの攻撃力、そして魔族の魔法。たとえこれを合わせたとしてもさすがに世界すべてと戦う力はない。もちろんなすすべもなくということはなく、ある程度は耐える自信はあるが、それもほんの少しの間だけだろう。
「ねぇ、そうなると使者たちが帰ったら3国から裏切らることになるんじゃない」
シュンナが尤もな意見を言う、確かに使者たちが買えり報告すれば賢王たる彼らがこの答えにたどり着かないわけがない。
「そこは大丈夫じゃないか」
ここでダンクスが謎の太鼓判を押した。
「どういうことだ?」
「いやだってほら、コルマベイントは俺たちの出身地だろ、そんでそれはすでに教皇は知っているわけで、公表されてる。ということはコルマベイントは魔王を生んだ国ってことで結局世界から敵視されちまう」
「ああ、確かにそうだよな。失敗だったか」
このままいくと下手したらコルマベイントまで巻き込んでしまいかねない。
「そうなるとウルベキナも大丈夫じゃないかな」
「どういうことだ?」
「だって、ウルベキナ王があたしたちを裏切ったらバネッサと一緒になれないじゃない」
シュンナがそんなことを言い出したが、確かに今現在バネッサはウルベキナ王に嫁ぐために、テレスフィリアで勉強の真っ最中。その状況で俺たちを裏切ればウルベキナ王はバネッサをあきらめるほかなくなるだろう。
「いや、でも、さすがにそれだけで裏切らないってのはないんじゃないか」
ダンクスが反論するが、当然ださすがに1人の女相手に国を危険にさらす王はいないだろ、それこそ愚王そのものだしな。
「それはそれでやだな。バネッサには幸せになってほしいし、あっ、でもさウルベキナってフリーズドライ工場を作ったじゃない。あたしたちを裏切るってことはそれも失うかもしれないんじゃないの」
「まぁ、そうだなあれは友好のしるしとして提供しているからな。さすがに裏切った奴に使わせたいとは思えないな」
「でしょ、ウルベキナはあれがないとシムサイトと勝負すらできないんだから」
「それは間違いないな」
2人が言うように現在ウルベキナはシムサイトと経済戦争をするための準備を進めている。その一歩としてフリーズドライ工場、あれでシムサイトにしている借金などを返し組合から脱するつもりなのだ。その頼みの綱でもある工場が閉鎖となったらその目論見はついえてしまうわけだ。
「それに、ウルベキナがシムサイトと争うことになったとしてもその背後の国とやりあうためにはどうしてもスニルの力が必要になるしな」
「俺の”転移”ってわけか」
「ああ、ウルベキナは3国のどの国よりこの力を知っているからな」
ウルベキナにとっては実に新しい記憶であろうな。
「となると、コルマベイントとウルベキナは大丈夫ってことで良いとして、問題はブリザリアだが」
ほかの二国は上記の理由により俺たちをそう簡単には裏切れない。しかし、ブリザリアに関してはつながりが、今現在の両親の出身地であるというだけ、しかもそれを知っているのは俺たちだけであり、あちらには仲間の出身地であるという認識だ。これはあまりにも弱く、普通に裏切る可能性が高い。そして、もしブリザリアが裏切るとこれまた面倒となる。なにせ、ブリザリアはテレスフィリアの東側に面しており、このまま西側と戦争状態となるとブリザリアが背後、つまりは挟撃である。
「そうだな。確かにブリザリアとの縁は弱いからあぶねぇかもな。でもよ、さすがにいきなり裏切るってことはねぇんじゃねぇか」
「そうね。それにブリザリアはコルマベイントとウルベキナとも長く同盟を結んでる。それを反故にするってのもね」
ダンクスとシュンナの言うように、俺もそう簡単には裏切らないとは思うが、世の中絶対なんてものはない。
「そうだな。でも一応ブリザリアに警戒、いや、とりあえずいいかここであまり警戒をすると逆効果になる」
こちらが警戒すれば向こうも相応の態度を取りかねない。ならばここはあえて警戒をせず、これまで通りの対応をした方が得策、のような気がする。
「かもね。でもそこらへんは後で議会でみんなに相談するしかないんじゃない」
「だな」
「んで、どうすんだ?」
「それも、議会を開くさ。はぁ、ほんと面倒になった」
どうしたものか、本当によくわからない状況となったものだ。というか俺の手に余る状況というのは困るんだよなぁ。まったく
そんな話をした翌日俺は使者たちにそれぞれ土産を持たせて祖国へと送り返した。
そして、その足でやってきたのは当然議事堂である。
「……以上のことから、かなり厄介なこととなっている。皆の知恵を借りたい」
昨日の話をダンクスが報告する。ちなみにダンクスは一応俺の兄のような存在となっているため、テレスフィリアでは俺と近い対応をされているため、この場でこんな口調をしても一切問題ない。
「た、確かに厄介な問題ですな」
ジマリートがしみじみというがその表情はさえない。
「それもこれもかつての魔王陛下のなされたこと、そして我らが同胞の祖先が起こした事態によるものです」
そう言ってうなだれる1人の魔族議員、彼らもまたかつての魔王の所業についての罪の意識にとらわれているということだ。尤も、彼のように重く受け止めている魔族はごくわずかで、大半がそこまで気にはしていない。もちろん全くというわけではなく、一応顔をしかめたりという反応は示す。
と考えているうちにあちこちで意見が飛び交っている。魔族の罪なら魔族が償えばいいのか、いや、そうではなく今は仲間となっているのだから、などといったものだ。ちなみに魔族が償えばいいという発言をしたのは魔族であり、仲間と称したのは獣人族といったほか種族、おっと、黙って聞いていたら白熱してきたな。
「罪は罪、これが消えることはない。しかしそれはあくまで本人の者であり、その子に継がれるものではない。以前そういったな」
以前法律を作る際に、親が罪人となった場合の子供の扱いについての話し合いをしたことがある。その時俺が宣言した言葉だ。親が罪を犯したというだけで、その子供にまでその罪を問うのは明らかにおかしい。だからこそその保護をするための法律を作ったというわけだ。
さて、それはいいとして今の問題は魔族がかつての魔王たちの罪を受け止める必要はないという事実だ。
「確かに、被害を受けていた人族からしたら魔族というだけで恨み、憎む相手となるのだろう。まぁ、幸いというべきか俺は人族であってもそういった教育を受けていたわけではないから、魔族に対して思うところは全くないんだが、俺以外となるとそうはいかない。そうだろ、ダンクス、シュンナ」
ここで人族の代表として2人の名を上げる。俺と違い2人はしっかりと魔族とはという教育を受けているからな。
「ああ、そうだな。確かにガキの頃さんざん聞いたな。魔族がいかに恐ろしい存在かってな」
「あたしも同じ、だからスニルから聞いていたとはいえ、最初はちょっと怖かったわね」
「尤も、今こうして一緒に国を作っている仲間でもあるから、すでにそんな恐怖心は全くねぇが」
「部下も魔族だしね。こうして付き合えば魔族が恐ろしいというのは間違いだってことはよくわかるわ」
「そうだな。そう考えると最初の俺たちの反応に関しては謝罪しなきゃならねぇな。すまねぇ」
「そうね。ごめんなさい」
俺からしたら2人の最初の反応は少し引く程度だったような気がするが、今となっては2人にはそれでも謝罪に値する反応だったということだ。
「い、いえ、人族としてはそれが当たり前のこと、お気になさらないでください。何よりお2人の反応はごくわずかであり、初めてお会いしたときはすでにお気にはなさっておられませんでした」
ジマリートが言うようにダンクスとシュンナ、そして父さんと母さんの反応としてはそうだったが、街に入ったときの反応も知っているということは、やはりあの時からある程度の監視を置いていたということだ。まぁ、一応気がついてはいたけどな。どこからともなく感じる視線、ま、これを感じていたのは俺以外だけど、それを聞いて探知でその居場所ぐらいは見つけていた。
その後いろいろと話し合ったが、西側に対してどうすればいいのか一向に答えが見つからない。いや、結果だけは見つかっている。
「この戦争、結果は和平しかないな」
ということである。さて、この結果に向かうために一体どうすればいいのか、全くわからんのだが誰か答えを教えてくれ。
「よく戻った」
謁見の間で厳かに言う俺、ダンクスだけならいつもの調子でいいんだが、3国の人間がいる以上これでなければならない。
「ご報告します」
長い前口上の後ようやくの報告だが、これは仕方ないダンクス以外は他国の使者であり、俺は魔王という一国の王だから。いくら長話が嫌でもそんな顔1つせず聞き続けなければならない。
さて、問題の報告だが、それは思っていた通りのものとなった。
「大変申し訳ありません。交渉に失敗いたしました」
いろいろと話してきたが結果としてこういうものであった。
「それは仕方がない、最初の交渉の際の対応からも、たとえ交渉の一人者であう貴公たちであっても同じ結果となる。そう予想はしていた。今回貴公等を送り出したはほんのわずかな可能性に懸けてみただけのこと、失敗に関して気にする必要はない」
「ありがとう存じます」
「うむ、さてそれで、1つ疑問だが」
「はい、何なりと」
「ん、なぜ西側諸国はそれほどまでに我らを憎み滅ぼそうとしているのか、その理由はわかるか」
実は俺が彼らを送り出した理由として、この事態を招いた理由を知りたかったのだ。ダンクスではそこまで引き出すことはできなかっただろうが、おそらく彼らなら聞き出しているかもしれない。
「はい、それに関してですが、我々も疑問に思い尋ねました。それによりますと……」
期待通り彼らは聞き出してくれたようだ。そして、その内容はというと、これはかつて、先代の魔王が原因であった。俺もちらっとした知らないが、実は先代を始めかつての魔王国があったのは大陸の西側南部においての南西部内陸であった。そこから支配欲持った先代魔王が周辺諸国に喧嘩を売り出したというわけだ。その結果として西側諸国では俺たちの出身である東側の国より魔王国という言葉に敏感になっている。なにせ東側はあくまで人づてに魔王の話を聞いただけであり、西側は実際にその被害にあったもの達だからだ。そりゃぁ魔王国にという言葉に関しての印象は違うよな。東側にとってはただの昔話、でも西側にとっては自らの先祖が受けたものだからな。
「なるほどな。それにしてもずいぶんと長い間の話だが」
そうなんだよ。先代魔王の暴走は今から約1万年前、地球で考えると石器時代でようやく氷河期が終わったころで、あのノアの箱舟といった神話よりも前の話、そんな大昔の憎しみなどをいまだに残しているって、ちょっと無理ないか。
「はい、ですが彼らはそれを旗として掲げております。また、彼らの中心となっている人物はどうやら当時、連合軍を率いた勇者様の補佐をしていたものの末裔とのことです」
「それ、本当の話か?」
1万前から脈々と、ってちょっと無理ないか。いやま、地球でも天皇家みたいに日本創生からずっと続いている家もあることにはあるが、それだってまだ神武天皇から数えて2600年ほどだったはずだ。確かに地球の歴史とこの世界の歴史は全く違い、この世界の方が人間が文明を築いてからの期間が長いから、もしかしたら同じくらい年月が経てば天皇家もそれまで続いていくことになるだろうからある意味ではおかしくないのかもしれないが。
とにかく俺にはにわかには信じがたい話ではあるが、問題の西側諸国はそれを信じているそうだ。
「はい、なんでも今から約6000年ほど前に誕生した王朝がそう宣言したとのことです」
この話を聞いたとき俺が思ったのはやはり違うというものだ。その6000年前の初代がそう自称したのだろう。そうした方が世間的にも認められやすいからな。まぁ、もしかしたら多くの末裔に子孫の1人であったという可能性は否定できないが。
「そういうことか、それが本当であろうと嘘であろうと西側諸国はそれを信じ、いや旗印として担ぎ上げたわけか」
「おそらくは」
「そうか、ご苦労であった本日は我が城へ逗留し、明日送り届けるとしよう。ゆっくりと英気を養ってくれ」
「はっ、ご厚意ありがたく頂戴いたします」
というわけで、3国の使者たちは謁見の前を退出していった。
「はぁ、まじでどうすっかなぁ」
使者たちが見えなくなったところで頭を抱える。
「どうしたのスニル」
そんな俺を見たシュンナが不思議そうに俺を見ている。どうやらシュンナにはこの状況が見えていないようだ。まぁ、これは仕方ないというわけで説明を始めることにした。
「どうもこうも、厄介なことにこれはきた敵を叩き潰せばいいってことじゃなくなっちまったってことだ」
「ん?」
「奴らは俺という魔王を討伐するために決起しているわけだろ、しかも厄介なことにこれは世間的にはどう考えても向こうに正義があるんだよ」
「どうして? ああ、もしかして先代?」
「そ、その先代がやらかしてくれたおかげで、魔王や魔族というのは人類の敵、これが世界の大半である人族共通の認識だ。まぁ、俺たちが接触したコルマベイント、ブリザリア、ウルベキナの上層部はそれは違うという認識になってはいるが、それでも民までとなるどうだ」
「認識はされてないだろうな。民からしたら当然今までの通り魔族と魔王は人類の敵」
「そうだ」
同盟国ですらこの認識の違いがあり、まさにこれから彼らの認識を変えていこうとしていたところだ。そんなタイミングで襲ってくる敵、敵、敵。
「もし、そんな中俺が撃退目的で大魔法の1つでもぶっ放してみろ、というか敵の数から考えて俺としてはそれで行こうと思っていたんだよ。でも、そんなことしたら、まさに魔王の所業だろ」
「ああ、確かにそんなこと魔王にしかできないよね」
「民衆は恐怖するだろうな」
「ああ、そして今度は日和見してる連中から下手したら東側の残り国からも敵認識されちまう、というかそもそも俺たちはまだ3か国としか接してないんだぜ」
「ちょっと待って、そうなるとどうなるの?」
シュンナが若干青ざめて聞いてきた。
「最悪テレスフィリア、コルマベイント、ブリザリア、ウルベキナVS世界ってことになりかねないってことだ。そして、そうなった場合3国の行動としては向こう側に着くことが予想される」
「えっ! どうして……あ、そうか民衆はまだあたしたちを敵と考えてるから国としてはスニルに対する義理よりもそっちを優先する。そして何より世界相手に彼らが戦うすべがない」
「そういうこと、いくら俺がいるからといってもさすがに世界相手は無理だしな」
メティスルを持ち無尽蔵の魔力とそこから放つ魔法、ダンクスやシュンナといった世界でも指折りの実力者、ドワーフ製の武器やエルフの精霊魔法、獣人族の高い身体能力からの攻撃力、そして魔族の魔法。たとえこれを合わせたとしてもさすがに世界すべてと戦う力はない。もちろんなすすべもなくということはなく、ある程度は耐える自信はあるが、それもほんの少しの間だけだろう。
「ねぇ、そうなると使者たちが帰ったら3国から裏切らることになるんじゃない」
シュンナが尤もな意見を言う、確かに使者たちが買えり報告すれば賢王たる彼らがこの答えにたどり着かないわけがない。
「そこは大丈夫じゃないか」
ここでダンクスが謎の太鼓判を押した。
「どういうことだ?」
「いやだってほら、コルマベイントは俺たちの出身地だろ、そんでそれはすでに教皇は知っているわけで、公表されてる。ということはコルマベイントは魔王を生んだ国ってことで結局世界から敵視されちまう」
「ああ、確かにそうだよな。失敗だったか」
このままいくと下手したらコルマベイントまで巻き込んでしまいかねない。
「そうなるとウルベキナも大丈夫じゃないかな」
「どういうことだ?」
「だって、ウルベキナ王があたしたちを裏切ったらバネッサと一緒になれないじゃない」
シュンナがそんなことを言い出したが、確かに今現在バネッサはウルベキナ王に嫁ぐために、テレスフィリアで勉強の真っ最中。その状況で俺たちを裏切ればウルベキナ王はバネッサをあきらめるほかなくなるだろう。
「いや、でも、さすがにそれだけで裏切らないってのはないんじゃないか」
ダンクスが反論するが、当然ださすがに1人の女相手に国を危険にさらす王はいないだろ、それこそ愚王そのものだしな。
「それはそれでやだな。バネッサには幸せになってほしいし、あっ、でもさウルベキナってフリーズドライ工場を作ったじゃない。あたしたちを裏切るってことはそれも失うかもしれないんじゃないの」
「まぁ、そうだなあれは友好のしるしとして提供しているからな。さすがに裏切った奴に使わせたいとは思えないな」
「でしょ、ウルベキナはあれがないとシムサイトと勝負すらできないんだから」
「それは間違いないな」
2人が言うように現在ウルベキナはシムサイトと経済戦争をするための準備を進めている。その一歩としてフリーズドライ工場、あれでシムサイトにしている借金などを返し組合から脱するつもりなのだ。その頼みの綱でもある工場が閉鎖となったらその目論見はついえてしまうわけだ。
「それに、ウルベキナがシムサイトと争うことになったとしてもその背後の国とやりあうためにはどうしてもスニルの力が必要になるしな」
「俺の”転移”ってわけか」
「ああ、ウルベキナは3国のどの国よりこの力を知っているからな」
ウルベキナにとっては実に新しい記憶であろうな。
「となると、コルマベイントとウルベキナは大丈夫ってことで良いとして、問題はブリザリアだが」
ほかの二国は上記の理由により俺たちをそう簡単には裏切れない。しかし、ブリザリアに関してはつながりが、今現在の両親の出身地であるというだけ、しかもそれを知っているのは俺たちだけであり、あちらには仲間の出身地であるという認識だ。これはあまりにも弱く、普通に裏切る可能性が高い。そして、もしブリザリアが裏切るとこれまた面倒となる。なにせ、ブリザリアはテレスフィリアの東側に面しており、このまま西側と戦争状態となるとブリザリアが背後、つまりは挟撃である。
「そうだな。確かにブリザリアとの縁は弱いからあぶねぇかもな。でもよ、さすがにいきなり裏切るってことはねぇんじゃねぇか」
「そうね。それにブリザリアはコルマベイントとウルベキナとも長く同盟を結んでる。それを反故にするってのもね」
ダンクスとシュンナの言うように、俺もそう簡単には裏切らないとは思うが、世の中絶対なんてものはない。
「そうだな。でも一応ブリザリアに警戒、いや、とりあえずいいかここであまり警戒をすると逆効果になる」
こちらが警戒すれば向こうも相応の態度を取りかねない。ならばここはあえて警戒をせず、これまで通りの対応をした方が得策、のような気がする。
「かもね。でもそこらへんは後で議会でみんなに相談するしかないんじゃない」
「だな」
「んで、どうすんだ?」
「それも、議会を開くさ。はぁ、ほんと面倒になった」
どうしたものか、本当によくわからない状況となったものだ。というか俺の手に余る状況というのは困るんだよなぁ。まったく
そんな話をした翌日俺は使者たちにそれぞれ土産を持たせて祖国へと送り返した。
そして、その足でやってきたのは当然議事堂である。
「……以上のことから、かなり厄介なこととなっている。皆の知恵を借りたい」
昨日の話をダンクスが報告する。ちなみにダンクスは一応俺の兄のような存在となっているため、テレスフィリアでは俺と近い対応をされているため、この場でこんな口調をしても一切問題ない。
「た、確かに厄介な問題ですな」
ジマリートがしみじみというがその表情はさえない。
「それもこれもかつての魔王陛下のなされたこと、そして我らが同胞の祖先が起こした事態によるものです」
そう言ってうなだれる1人の魔族議員、彼らもまたかつての魔王の所業についての罪の意識にとらわれているということだ。尤も、彼のように重く受け止めている魔族はごくわずかで、大半がそこまで気にはしていない。もちろん全くというわけではなく、一応顔をしかめたりという反応は示す。
と考えているうちにあちこちで意見が飛び交っている。魔族の罪なら魔族が償えばいいのか、いや、そうではなく今は仲間となっているのだから、などといったものだ。ちなみに魔族が償えばいいという発言をしたのは魔族であり、仲間と称したのは獣人族といったほか種族、おっと、黙って聞いていたら白熱してきたな。
「罪は罪、これが消えることはない。しかしそれはあくまで本人の者であり、その子に継がれるものではない。以前そういったな」
以前法律を作る際に、親が罪人となった場合の子供の扱いについての話し合いをしたことがある。その時俺が宣言した言葉だ。親が罪を犯したというだけで、その子供にまでその罪を問うのは明らかにおかしい。だからこそその保護をするための法律を作ったというわけだ。
さて、それはいいとして今の問題は魔族がかつての魔王たちの罪を受け止める必要はないという事実だ。
「確かに、被害を受けていた人族からしたら魔族というだけで恨み、憎む相手となるのだろう。まぁ、幸いというべきか俺は人族であってもそういった教育を受けていたわけではないから、魔族に対して思うところは全くないんだが、俺以外となるとそうはいかない。そうだろ、ダンクス、シュンナ」
ここで人族の代表として2人の名を上げる。俺と違い2人はしっかりと魔族とはという教育を受けているからな。
「ああ、そうだな。確かにガキの頃さんざん聞いたな。魔族がいかに恐ろしい存在かってな」
「あたしも同じ、だからスニルから聞いていたとはいえ、最初はちょっと怖かったわね」
「尤も、今こうして一緒に国を作っている仲間でもあるから、すでにそんな恐怖心は全くねぇが」
「部下も魔族だしね。こうして付き合えば魔族が恐ろしいというのは間違いだってことはよくわかるわ」
「そうだな。そう考えると最初の俺たちの反応に関しては謝罪しなきゃならねぇな。すまねぇ」
「そうね。ごめんなさい」
俺からしたら2人の最初の反応は少し引く程度だったような気がするが、今となっては2人にはそれでも謝罪に値する反応だったということだ。
「い、いえ、人族としてはそれが当たり前のこと、お気になさらないでください。何よりお2人の反応はごくわずかであり、初めてお会いしたときはすでにお気にはなさっておられませんでした」
ジマリートが言うようにダンクスとシュンナ、そして父さんと母さんの反応としてはそうだったが、街に入ったときの反応も知っているということは、やはりあの時からある程度の監視を置いていたということだ。まぁ、一応気がついてはいたけどな。どこからともなく感じる視線、ま、これを感じていたのは俺以外だけど、それを聞いて探知でその居場所ぐらいは見つけていた。
その後いろいろと話し合ったが、西側に対してどうすればいいのか一向に答えが見つからない。いや、結果だけは見つかっている。
「この戦争、結果は和平しかないな」
ということである。さて、この結果に向かうために一体どうすればいいのか、全くわからんのだが誰か答えを教えてくれ。
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貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?
名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」
「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」
「それは貴様が無能だからだ!」
「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」
「黙れ、とっととここから消えるがいい!」
それは突然の出来事だった。
SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。
そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。
「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」
「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」
「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」
ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。
その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。
「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」
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