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第10章 表舞台へ

10 経済圏

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 コルマベイント王とブリザリア女王との会談は続いているが、今現在はその会談も一時中断している。
 その間に俺はコルマベイント王をコルマベイントの王城へと送り届けている。

「待たせたテレスフィリア王」
「もういいので?」
「うむ、宰相に後を任せてきたこれで問題あるまい」
「そうですか、ではさっそく戻りますか?」
「そうであるな。今一度頼めるか」
「任せてください」

 というわけで、コルマベイント王を連れてブリザリア王城へと戻ったのだった。




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「ようこそお戻りくださいました。控室へご案内いたします」

 帰りを待っていたメイドによって俺とコルマベイント王はそれぞれの控室へと向かったのだった。

 そうして、三度謁見の間へやってきた。

「それでは会談を始めましょう」
「うむ、そうですな。そこで我から報告ですが、先ほどテレスフィリア王により国へ戻り宰相とも相談し、我がコルマベイントはシムサイトと縁を切ることを決断しました」

 コルマベイント王が突然の報告である。まぁ、確かにコルマベイントとしては自国民が拉致され、奴隷にされているわけだからな。これは完全にコケにされているといってもいいだろう。

「急ですね。ですが、よい決断といえるでしょう」
「はい、私もそう思います。しかし、よろしいのですか、シムサイトから離れるには国民からの混乱が起きませんか」

 俺ももとはコルマベイント王国民、その立場だったものとしての意見だ。

「うむ、テレスフィリア王の言う通り、シムサイトから離れるということは商業ギルドをなくすことになるだろう。これまでギルドの恩恵を受けていた商人たちはさぞ混乱するであろうな。しかし、たとえそうだとしても此度は我らもシムサイトを許すわけにはいかんのだ」

 コルマベイント王の怒りはまあに頂点に達している。

「そうですか、それでは我がブリザリアもご協力しましょう」
「もちろんテレスフィリアも協力します。というより、個人的に関係のあるものがコルマベイントで商人をしておりますから、彼らのためにもご協力は惜しみません」
「ありがたい」

 ここで何もしないとカリブリンにいるワイエノおじさんたちが被害を受けかねないからな。

「では、具体的な話をいたしましょう。まず、最大の問題として借用でしょうか?」
「そうですな。わが国はシムサイトからいくらかの借用があり、すでに雁字搦めにされている。それを返却せねば離れることはできかねる」

 これが一番の問題、コルマベイントなどの国がシムサイトからはなられない理由がこの借金だ。シムサイトは商人の国だけあってか、最初は問題ないんだが、気が付いたらどうしようもなくなるという、なんか悪徳金融のような国なんだよな。その結果現在コルマベイントの経済の一端がシムサイトに握られているという状況だ。

「そうなると、まずはそれの返却、といっても我が国もそこまで予算があるわけでもないので、こればかりはご協力できないですが」
「我が国はそれなりに大国故ある程度は借用の用意はできますが、おそらく」
「ええ、先ほど国で改めて額の確認をしましたが、かなりのものとなっておりました」
「やはり、我が国も以前はそれによりかなり困窮しましたから、わかります」
「おお、やはりブリザリアもですか」

 今話したように、実はブリザリア王国はすでにシムサイトから脱している。まぁ、この場合はどちらかというとシムサイトが撤退したんだけどな。なにせ、女性差別が激しいあの国が、女王が治める国を容認できるわけないからな。さっさと撤退したそうだ。尤も、多額の借金を『早く返せや。ボケェ』とかなりせっつかれたみたいだが。それもまぁ、キリエルタ教が協力してくれたらしく何とか返却できたという。

「あの時ほど、キリエルタ教をあがめたことはないと、先代が申しておりましたわ」

 シムサイトへの借金の返済は、どうやら先代の時代に終わったみたいだ。まぁ、他国のことなので俺には関係ないことではあるが、それよりも今重要なのはコルマベイントをいかにして支援するかということだろう。というのもブリザリアはキリエルタ教にとっての宗主国のようなものだからこそ、金を貸してくれただろうが、コルマベイントは教会との縁はそこまでないためにきっと出してはくれないだろう。

「そうでしたか、しかしわが国ではキリエルタ教も借用を認めないでしょう。そうなるとどうしたものか、フリーズドライの製法さえわかれば、国で製造し販売ができるのですが」

 んっ?

「そうですね。あれは我が国でも製法を探らせたのですが、製造者も委託されたものでわからないという回答でした」

 うん?

「やはり、義姉上もお調べになりましたか、我の方でも同じく調べましたが、同様の回答でしたな。まぁ、それにより商業ギルドを通してシムサイトに流れるという事態は避けられているようですが」
「それは予期せず良いものとなりましたね。おや? 魔王陛下どうされました?」

 コルマベイント王と女王が話しているところで、俺だけが黙っていることで不思議に思ったのか女王がどうしたのかと尋ねてきた。ここでちょっと迷う、言うべきか言わざるべきか。

「いや、そのフリーズドライですが、実は私が開発したものなのです」

 迷った挙句結局いうことにした。

「えっ? 魔王陛下が?」
「そ、それは誠か?」

 俺が落とした爆弾に驚く2人、というか周囲にいる貴族たちも驚いている。

「はい、元々は孤児院を救うために作ったものですが」
「孤児院ですか?」
「ええ、父がカリブリンの孤児院出身でして、ですがその孤児院が……」

 おれはそこでカリブリンの孤児院の状況を話して聞かせたのだった。もちろんこれはコルマベイントのことなので逐一コルマベイント王に確認を取りながらではあるが。

「なんと、そのようなことがあったのですね」
「うむ、恥ずかしながら、我が国では各街に孤児院を設置するということは法で定めてあるが、その孤児院をどうするかについては各領主に任せておる。その結果がそうした悪列な環境を生み出してしまったのだろう」

 俺の話を聞いたコルマベイント王は孤児院についての反省点を述べていく。

「それは仕方のないことではないでしょうか、それよりも各街に孤児院の設置ということは素晴らしいですわ」
「そうですね。おかげで父がまっとうに育つことができましたから、そうした恩もあり、困窮している孤児院を見過ごすことができず、手助けをしたというわけです。その際に開発したのがフリーズドライ、孤児院の子供たちが野菜を作り、それを材料として買い取ることで孤児院の収益としているのです。そのために開発したものがまさかここまで反響を得るとは思いもしませんでしたが」

 これは俺の本音だ。

「いかがでしょうコルマベイント王、このフリーズドライ、貴国主導の元作ってはみませんか?」

 俺は思い切ったことを提案してみた。それというのもこれには当然理由がある。

「それは、実にありがたい提案ではあるがよいのか?」
「ええ、実はこのフリーズドライはご存じの通り個人で製造販売を独占している状態です。しかしこの反響により生産が追い付かない状況になっていまして、先ごろ生産者の方から相談を受けていたのです」

 これは本当で、ワイエノおじさんたちだけではすでにキャパが足りていない状況で毎日てんてこまいとなっていると言う。そのため、今はある程度制限することでとりあえず抑えてもらっている状況だ。実はこれを聞いた俺はテレスフィリアで代わりに作るかと思っていたが、ここで考えてみたら、そもそもフリーズドライはカリブリンで開発し製造している。いくら俺が開発者であるといっても、ここでテレスフィリアで製造するのは違うような気もしていた。だから迷っていたのだが、ここにきてコルマベイント王からの願い、フリーズドライの製法を知り、それで金策を取ることでシムサイトに抵抗しようというわけだ。それを聞いて俺は決意を固めたわけだ。

「うむ、確かに我もそのような報告は受けておる。しかし、それならば開発者であるそなたが自国で行うのが筋では?」

 コルマベイント王も遠慮がちにそういった。

「いえ、確かにそれも考えましたが、我が国ではすでに別の保存食の開発をしておりまして、フリーズドライまでは手が回らないのです」

 これも事実、実際俺は現在レトルト食品や缶詰食品の開発を進めていたりする。尤も、そこにフリーズドライを加えたところで問題はないんだが、少しだけ影響が出ると思うんだよな。だったらコルマベイントに丸投げした方が楽だ。

「ほぉ、ほかにも保存食か、それも気になるところではあるが、本当に良いのか、テレスフィリア王?」
「もちろんです。貴国は私の故国でもありますから、御恩としてお任せします。尤も、製造の魔道具を貸し出すという形になってしまいますが」
「それはどういうことだ?」

 俺の言葉に首をかしげるコルマベイント王。

「フリーズドライはある特殊な魔法によって製造可能な製品です。そしてその魔法は私しか行使できませんから」
「ふむ、なるほどそういうことか」
「魔王陛下となると、そのような魔法もご存じなのですね」
「ええ、魔王とは魔法に長けた者のことですから、私はあらゆる魔法が行使できるのです」
「それは素晴らしいですわ」
「うむ、そうですな」

 フリーズドライも魔王だから行使できるという話とした。まさか俺が魔法を作ったとは言いにくいからな。正直そんなことできる人間なんていないからな。俺以外。

「では、具体的な話をしましょう。先も言いました通りカリブリンの生産者の主な目的は孤児院の永続的な収益を得るためです。なので、フリーズドライの製造をすべて国へお渡しすることはできません。そこで、ある程度の製造は認めていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「うむ、もちろんだ。では、その者たちにはできる範囲での製造を認可しよう。細かいところは後ほどでよいであろう」
「はい、お願いします。では、それ以外のすべて、例えば軍の方から依頼を受けたことがあると聞いておりますから、そちらの製造は国でというのはいかがでしょう。それだけでもかなり彼らも助かるかと」
「それは尤もだな。確かに軍用であれば国行うがいいであろう」

 それからも俺とコルマベイント王との間でいくらかの話し合いがおこわなれた。あとでワイエノおじさんたちに伝えておかないとな。

「ふむ、こんなものか」
「ええ、問題ありません」
「これで、我が国もいくらか助かるというものだ」
「うふふ、うらやましいですわね」

 ここはブリザリア王国の謁見の間であるのに、主を無視して俺とコルマベイント王だけで話をしてしまった。これはまずいな。

「これは申し訳ありません。そうだ女王陛下、貴国でもフリーズドライを作ってはみませんか?」

 ここで俺はまたとんでもないことを言ってしまった。

「? それはどういうことですか?」
「お2人もご存じの通り、フリーズドライは湯をかけることで元の料理として戻すことができるものですが、湯を変えるという過程から元の料理はスープである必要があります」
「うむ、確かにそうだな」
「ええ、そうですね」
「今現在は製造場所がカリブリンとなりますから、カリブリンのスープしかありません。今後コルマベイントで作られる場合は、その製造地のスープとなるでしょう」
「! う、うむ、なるほど、つまりフリーズドライは製造地で変わるわけか」
「はい、そしてこれは長期保存が可能なもの。例えばブリザリア南部でこれを作り、それをコルマベイントに運べば」
「つまりは、遠く離れた地の料理を口にすることができるということですか?」
「その通りです」

 これこそフリーズドライの醍醐味だと思う、料理というものは通常作ってから間もなく賞味期限が来てしまう。しかしフリーズドライならその賞味期限がぐんと伸びる上に軽いからどんなに遠くても運ぶことができるようになる。そう、例えば先ほども言ったようにブリザリア南部の港町で食べられるような、海産物を使ったスープを海のない内陸のコルマベイントで食することができるように。

「なので、フリーズドライは各地で製造できるようになるか、そうしたものを作ることができる料理人を集めるなどをして種類を設けることでさらに売り上げが出るものと考えています」
「ふむ、なるほど、それは魅力的な話となるな」
「ええ」
「あ、あの、陛下方発言をお許し願えますか?」

 ここにきてコルマベイント王妃が発言を求めてきた。これまでもこの場にはいたが、一応王同士の会談ということでコルマベイント王の背後に控えていた。

「どうしました?」
「はい、えっと先ほどのお話ですが、そのフリーズドライを使えばわたくしでもまた故郷の料理を食することができるのでしょうか?」

 フリーズドライの醍醐味として遠くの料理を食べられると聞いた事で、王妃はコルマベイントという離れた地でここブリザリアの料理を食べることができるのではないかと考えたようだ。

「その通りです王妃殿下、もしブリザリアでフリーズドライの製造を行えば殿下の元へお届けすることは可能でしょう」
「まぁ、それは素晴らしいですわ」

 故郷の味というは懐かしくてふとした時に食べたくなるものだ。俺だってこの世界んきて何度も米や醤油味噌を恋しいと思ったことか、食に興味もなかった俺でもそうなんだからみんな思うよな。

「うむ、確かにそれは故郷から離れた者にとっては魅力的なものなのだろう」
「ええ、そうなのでしょうね」

 考えてみれば王妃の発言に同意できるのは俺だけ、コルマベイント王も女王も生まれた地にずっといるわけだから故郷がどうとかはわからない。

「そうですね。私も現在故郷から離れていますから、その気持ちはわかります」
「そうであろう、テレスフィリア王の故郷は確かドロッパス領の村であったな」
「ええ、私の名にも加えているゾーリン村です」

 それからいくらかの話し合いの末、コルマベイントおよびブリザリア各地にフリーズドライ製造工場をテレスフィリアで建造することが決まった。

「こうしてフリーズドライについて話がまとまったところで、もう1つ提案なのですが、今後シムサイトなどに対抗するため、テレスフィリア、コルマベイント、ブリザリアを始め、ウルベキナ王国も巻き込んだ経済圏を新たに作りませんか?」

 ここでそんな提案をしてみた。

「新たな経済圏ですか、それになぜウルベキナを?」

 ウルベキナはここには誰もいないのになぜ出したのかと疑問に思うのも仕方ない。

「シムサイトが行っていた奴隷狩り、その尤も被害を受けていたのがウルベキナです。しかし、お2人もご存じの通り、ウルベキナではシムサイトに抗議文を送付する以外の手立てがありません」
「であろうな」
「ええ、相手がシムサイトとなると戦争というわけにもいきませんしね」

 この世界はまだ国際的なつながりはないために、戦争が簡単に起きる。それでもウルベキナはシムサイトに戦争を仕掛けることはできない理由がある。
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