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第10章 表舞台へ

07 新たな国交

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 バネッサの料理大会応援が終わり、あの後残念会という名の宴会が執り行われた翌日である。

「へぇ、ここがスニル君の国なんだ」
「でかいな」
「ほんとに王様なのね」

 現在テレスフィリアにはオクト、リーラ、バネッサの親子3人がやってきている。というのも、大会中に話の流れとして俺が王であるということを話したことが理由だ。その時は試合が始まったことで適当にしか話していなかったが、そのあとに思い出したリーラにより聞かれて話したというわけだ。もちろん最初はただどこにも属してない連中から王になってほしいと頼まれたということしか言わなかったのだが、そこでさらに話の流れで実は魔王であることなどを話したのであった。そうなると当然、3人は驚愕していた。しかし、そもそも3人は俺という人間とかかわっており、俺が魔王として人間の敵になるかどうかということはすぐにないと理解できた。というか俺ってあまり話さないから、3人にとっても良くわからない子供と思われていると思ったのだが、違ったみたいだ。まぁ、親しく話をしているシュンナたちから俺という存在を聞いていたからというのもあるだろう。まぁ、とにかく、そんなことになり、ぜひテレスフィリアを見てみたいと言い出したバネッサに対して、料理大会で善戦したわけだし、そう祝いということで今回招待したというわけだ。

「おかえりなさいませ。陛下、皆さま」
「おう、ただいま」

 魔王城に戻るとメイドがやってきて挨拶をしてきたわけだが、ここでふとオクト達3人の様子を確認してみた。

「……」

 見事に固まっていた。

「こういう時、人って固まるんだな」
「声も上げられなくなるのね」
「まぁ、気持ちはわからなくないよね」
「俺たちも初めて魔族たちを見た時はあんな感じだったよな」

 俺と麗香たち3人以外の面々が、オクト達の姿にうんうんと頷いている。俺たち地球組にとって魔族といわれても別に恐怖を感じない。というかそうした教育を受けてないからな。でも、それ以外はみんなしっかりと魔族は恐ろしいものだという教えを受けているための反応だろう。

「この世界の人にとって魔族ってそんなに怖いんですね」
「話には聞いていたけれど、あんなに怖がるんだ」
「だよな。俺たちはそこまで怖くなかったけど」
「どちらかというと、お前たちは魔族から怖がられる方だからな」
「あっ、そっか」
「最近、それわすれてました」

 麗香たちに対して魔族たちの反応も最近は普通になってきた。それというのもやはり3人がそれだけ動き回っているということだ。

「まっ、それはともかく麗香、那奈、孝輔オクト達を頼むぞ」
「はい」
「任せてください」
「えっと、いろいろ案内すればいいんですよね」
「そうそう」

 オクト達の案内役として麗香たちを任命。その理由は単純に3人は現在それほど重要な仕事をしているわけではないからだ。まぁ、何度も言うがまだ学生である3人にあまり仕事をさせていないだけなんだけどな。今はまだ遊んだり学んだりしておけってことだ。


「さて、やるか」

 麗香たちにオクト達を頼んだのち、執務室に戻り仕事の再開である。

「陛下、先ごろコルマベイント王より親書が届きました」

 さぁ執務を始めようかと思ったところで、執事がやってきてそんなことを言い出した。

「おっ、来たか、見せてくれ」
「はい、こちらにございます」

 実はコルマベイント王からの手紙を待っていたために、少しだけテンションが上がってしまった。

「……よしっ、クワリットを呼んでくれ」
「かしこまりました」

 そう言ってお辞儀をした後執務室を出ていく執事。ちなみにクワリットというのはエルフの議員で、外務大臣に任命した人物でもある。外務、つまり国外との外交を行うのに、人族が恐れる魔族を起用するわけにはいかないし、獣人族は人族を憎んでいる。ドワーフは技術にしか興味がないから外交なんてものはできない。残ったのがエルフである。まぁ、エルフも獣人族同様に人族を憎んでいるんだが、それでも獣人たちほどではないし、見た目もいいからとりあえず頼むというわけだ。実は本来なら俺の両親をその外務を任せたかったんだけど、人族だし俺と違い人当りもいいしな。でも、見た目が子供だから、さすがに相手が怒るだろう。
 というわけで消去法でエルフ議員の中から選ぶ必要があった。そこで、エルフ議員の中でも西側の里出身であり、最強の獣人族である獅子人族の後ろに居たこともあり、これまでハンターにつかまったことがない。そのためクワリットはそれほど人族を憎んではいないという、まぁそれでも同胞が攫われてひどい目にあっているという事実は知っているので、全くないというわけではないが、比較的実感がないから薄いというだけだ。

「失礼いたします陛下、お呼びとのことですが」

 クワリットのことを考えていたら本人がやってきた。結構早かったな、近くにでもいたのか?

「おう、先ほどコルマベイントから親書が届いた。それによるともうそろそろカリブリンにつくそうだ。おそらく明日明後日にはつくだろうから。俺たちもそれに合わせて今日にでもカリブリンに入っていた方がいいだろう。準備はできているか」
「いつでも可能です」
「そうか、なら午後になったらカリブリンに飛ぶ」
「かしこまりました」

 クワリットはそう返事をしたのちすぐさま部屋を出ていった。

「さて、ここからが正念場、いよいよだな。面倒だがこればかりはやらないとか、誰かに頼むわけにはいかないんだよなぁ」

 さて、俺がこれからやることについて説明しておこうと思う。結論から言うとこれからやるのは新たな国との国交を結ぶこと、そしてその国というのが今の両親の出身国であるブリザリア王国となる。なぜブリザリアなのかというと、理由はいくつかあり、まずテレスフィリアとコルマベイントが国交を結んだわけだけど、この両国の間にあるのがブリザリアになり、ここを無視して交易品のやり取りをすれば、妙な軋轢を生みだしかねない。そして何より、このブリザリアが大国であるということもある。というか大陸の東側において最も大きな国のために国力も軍事力も他国からしたら桁違い。まぁ、軍事力に関しては男女平等を掲げているからより一層分厚いものになっているわけだ。なにせ、コルマベイントなどでもいまだ軍人となると男しかなれないのに対して、ブリザリアでは女でも問題なく軍人になれるからな。単純に倍いるということだ。もし、そんな国が俺たちに敵対してきた場合、いくら俺たちが強いといってもさすがに限界があるし、無理がある。だったら早いうちに仲良くしておこうというわけで、すでにブリザリアと国交を結んでおり、何より第一王妃としてブリザリア女王の妹を迎えているコルマベイント王に紹介を頼んだというわけだ。まぁ、コルマベイント王からもぜひどうかといわれたしな。


 そんなわけで午後、カリブリンへとやってきた。

「これはこれは、テレスフィリア魔王陛下、ようこそおいで下さいました。歓迎いたしますぞ」

 カリブリンへとやってきた俺たちを歓迎してくれたのは、カリブリンの領主、カリバリス辺境伯である。子の領主のことは孤児院のことでいろいろ言いたいことはあるが、俺の立場でそれを言ってはただの内政干渉になりそうなので、ここは黙って歓迎を受けることにした。

「世話になる」

 相手は年上なので敬語を使いたいところではあるが、他国の王が他国の貴族に敬語を使うわけにはいかないと、以前注意を受けたので気を付けながら話しておく。


 そうして、歓迎を受けたのち領主の館で一晩を過ごし、翌日午後にはコルマベイント王がやってきた。もちろんカリブリンでは歓迎ムードが盛大となり、まさにお祭り騒ぎとなっている。
 ちなみに、俺の歓迎はコルマベイント王と同時に行われている。


 その翌日、俺たちはコルマベイント王の隊列に加わりカリブリンを発った。その並びとしては、騎士一個中隊が先導し、その後ろに誰も乗っていない馬車が走り、コルマベイント王の馬車、俺の馬車となりクワリットたちの馬車が続いている。まぁ、そのあとはコルマベイント王や俺が用意した様々な物品が乗った馬車が数台並んでいるというわけだ。しかもその周りには騎士が複数警護している状態となり、ものすごい仰々しいものとなっている。

 それから約一か月半、ようやくブリザリア王国王都に到着した。前回は2か月かかったことから考えると早く着いたと思うべきだが、あの時は歩いての旅路で今回は馬車であるということを考えると時間がかかったというべきだろう。
 ここまでかかった理由は、単純に大所帯であることと、立ち寄る街々でいちいち歓迎を受けたことが挙げられるだろう。

 なんにせよようやくやってきた王都、現在はその王都、王城謁見の間にて女王が現れるのを今か今かと待っているところだ。

「女王陛下のおなりである!」

 そんな声が響き、玉座の奥から1人の女性が姿を現した。そして、その瞬間その場にいた俺と、コルマベイント王以外が跪いた。

「貴様、女王陛下の御前である。控えよ! 無礼であろう」

 女王と一緒にやってきた騎士の1人がそういって俺に向かい剣を抜き放ってきた。それに対して俺は特に何もしていない。ただ黙ってその様子をうかがっている。

「無礼はあなたですよチャリット、このお方は我が夫が畳陛下へご紹介するためにお連れしております。あなたのその行為は、陛下に恥じを書かせているのですよ。控えなさい!」

 俺が黙っていた理由は、単に女王が口を開きかけたのが見えたからだったが、その前にコルマベイント王の後方に控えていたコルマベイント王妃がすくっと立ち上がって一歩前に出たかと思ったらそう言いだした。おかげで、女王が所在なさげに口を閉じたんだけど。あっ、ちょっと笑ってる。

「し、しかし」
「控えなさい!」

 なおも言い募ろうとするチャリットなる人物を抑える眼力、なるほどこれが王族か。

「そうですね。控えなさいチャリット、お客様に失礼ですよ」
「はっ!」

 ようやく口を開いた女王にまでたしなめられたことでおとなしく控えるチャリットであった。

「配下の者が大変失礼いたしました。ご無礼をお許しください」

 そう言って、謝罪を口にする女王に驚愕する周囲の貴族たち。

「いえ、これは彼の忠義によるもの、気にしてなどおりません」
「ありがとう存じますわ。ところでコルマベイント王、ご紹介をいただけますか?」
「ええもちろん。こちらは新たなるわが友、スニルバルド・ゾーリン・テレスフィリア魔王陛下です」

 紹介される前に口をきいてしまったことで妙な感じになってしまったが、ここでコルマベイント王が俺を友として紹介した。しかし、それより俺が魔王ということに驚愕を隠せない貴族たちである。

「コルマベイント王より、ご紹介を受けましたスニルバルド・ゾーリン・テレスフィリアでと申します。貴国より大川を渡った対岸、かつては獣人族やエルフ族が住まう場所として知られていた地を国土とし、先ごろ建国を果たしました。本来であればもっと早くに隣人としてご挨拶に伺うところでしたが、何分私には陛下へ謁見するための方がなく、失礼しておりましたが、今回コルマベイント王のおかげをもちまして、こうしてご挨拶に伺った次第です」
「これはご丁寧にありがとう存じますわ。わたくしブリザリア王国女王、サナヘリア・トワックラ・ド・ラ・ブリザリアと申します。以後お見知りおきを願います」

 ブリザリア女王はそういって立ち上がりカーテシーをした。それに対して俺もまたその場でお辞儀をすることで返答としたわけだが、実はこのお辞儀というのはこの世界では俺しかしない動きでもある。

「こちらこそよろしくお願いします。つきましては、ぜひ我が国より贈り物をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 初めての訪問ということでもちろん手土産を用意したが、それを送ってもいいかの確認は必要だ。

「ええ、もちろんですわ」

 こうしたことは当たり前なので、女王も機械的に返事をしている。というわけで、俺は背後に控えているクワリットの配下としているエルフたちに合図をする。

「そこで止まれ! 下賤な奴隷をこのような場へ連れてくるだけでも汚らわしいというのに、それを陛下に近づけることは何たる無礼、コルマベイント王、このような礼儀知らずを紹介するとはいかなることですか?」

 エルフたちが贈り物をもって女王の元へ行こうとしたところで、周囲にいた貴族の1人がまるで汚いものを見るような目をしながらそう言った。うん、エルフだし、こうなるだろうとは思っていたが、ひどい言われようだな。

「言葉を慎みなさい。ザザーランダ侯爵、本来であればわたくしはすでにコルマベイントに嫁いだ身、故にこのようにあなたを叱責する立場にはありませんが、今の発言は看過することができません! 彼らはれっきとした魔王陛下の配下の方々であり、奴隷などではありません」
「失礼ながら殿下、エルフとは前世において大罪を犯したのものが神罰としてなるものです。その償いの機会としてわれらが奴隷として使っているのですよ」

 侯爵がまるで幼子に教えるようにそういっている。まぁ、この公爵は見たところ結構な年齢だし、おそらくコルマベイント王妃にとっては本当指導されていたのかもしれない。

「あいにくだが、我が国に奴隷などはいない。というか、そもそもエルフやドワーフ、そして獣人族が前世で大罪を犯したもの達、なんてものはキリエルタ教が勝手に言っていることでしかなく、真実ではない」
「なっ、貴様神を愚弄するというのか?」

 今度は別の貴族がそういって憤慨する。おそらく敬虔な信者なんだろう、自分たちが信じる神を否定されたような気持になったのだろうな。

「そうではない。いずれ教会から発表があるとは思うが、キリエルタ自身はそんなこと一言も言っていない。彼が言ったのはただ獣人族は敵である。それだけだ。というかむしろエルフドワーフの技術などを認め、交流するべきと謳っている。こいつは聖教国に点在している石碑にしっかりと書かれている」
「?! お待ちくださいテレスフィリア魔王陛下。あなたはあの文字が読めるのですか?」

 今度は俺の言葉が看過できなかったのか、女王がそういって聞いてきた。

「ええ読めますよ」

 俺がそういうとあちこちから馬鹿なとか張ったりだとか様々な言葉が飛んできている。

「この事実は我が国の枢機卿様もお認めになったことです」

 コルマベイント王のこの発言にさらにざわつく謁見の間、そうなると当然この国の枢機卿のもとにも視線が集中する。

「陛下、皆さま、確かにそれは事実にございます。わたくしは先ごろ聖都にて魔王陛下と教皇聖下対話を拝見しておりました……」

 それから枢機卿は聖都で起きた出来事などを話して聞かせたのだった。というかそういえば確かにあの時ちらっと見たことがある気がする。あんまり覚えてないけど。
 それより、話が一向に進まないこの状況、何とかならないものか、枢機卿の説明を聞きながら俺はそう思わずにはいられなかった。
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