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第08章 テレスフィリア魔王国

04 新たな仕事

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 あれから1週間ほどが経過したわけだが、やはりいまだにあの寝室にはなれない。でもまぁ、毎日議会で疲れているので、一回寝てしまえば問題ないんだけどな。
 さて、それはともかくとしてこの1週間にあったことを少し説明しておこう。最初に俺が行っていた議会での話をすると、選挙制に関しては何とか説得がかなって可決された。それから、議会で話し合ったのは憲法の制定、といっても特に大きく変更するつもりはなく元からあったものをベースに考えた草案を作っただけだ。あとは議会に任せてけばいい感じにしてくれるだろう。というわけで今はようやく議会に出る必要がなくなった。続いて復興についてだが、こちらはがれき撤去も終わり現在はドワーフたちがものすごい速度で建築を始めている。たった1週間でがれきの撤去ができた理由は、ひとえにダンクスの力が大きいと思う。というのもダンクスはもともとの身体能力自体が人間離れしていて、おそらくそれだけで地球でのギネス級の人よりも上だと思う。そのうえでの身体強化で何倍にも力が上がるわけだからな。もう完全に人間重機だよ。下手したらモ〇ルスーツかっ! って突っ込みたくなるかもしれない。でもま、そのおかげで本当にあっという間にがれき撤去が終わった。というわけで、数日前にはやることがなくなった2人は、今アベイルの警備兵たちとともに人族の土地にある森へ赴き、食料調達という名の訓練をしている。ちなみに彼らは1週間は訓練をするらしいので、俺はその時に迎えに行くことになっている。

 そうして俺はというと、現在両親とともにカリブリンへとやってきていた。

「久しぶりだが、ここも変わらないな」
「そうね。あっ、でもあのお店は知らないわ」

 久しぶりにカリブリンということでテンションを上げつつ周囲を見渡している。

「スニル、孤児院は貧民街だったな」
「ほんと、ここの領主は何を考えているのかしらね。子供たちを貧民街に追いやるなんて」

 母さんが憤慨しているがまさにその通りだ。

「まぁ、それも前の話だよ。今では孤児院のあたりまで治安はいいようになってるよ」
「そうか、それはよかった」
「そうね。それじゃ、行きましょうか」
「だな」

 というわけで俺たちがまず向かう場所は孤児院となるわけだ。


 そうしてやってきた孤児院。

「ずいぶんと立派ね」
「ああ、間違いなく俺がいた時よりもだぜ」
「最初はほんとボロボロだったけどね」
「これもスニルがやったんだよな」
「偉いわスニル、さすが私たちの子ね」
「自慢だな」

 2人がめっちゃほめてくるのが少し照れる。

「あれっ、スニルじゃねぇか」
「あっ、ほんとだ」

 いざ門をあけようとしたところで門の向こう側からそんな声が聞こえてきた。

「ウィルク? それにルモアもこっちにいたのか」

 この2人はあれ以来たまにこっちに顔を出しているという話をポリーから聞いていたので特に不思議ではないが、たまたまやってきた俺とかち合うとは思わなかった。

「ルモアが来たがったんだよ」

 ウィルクが少しぶっきらぼうにそう答えつつも少し顔が赤いのは何だろうか。

「また私のせいにして、ウィルクが孤児院に行こうって言ったじゃない」
「あっ、ばかお前」

 あっさりとルモアに裏切られるウィルクであった。

「ははっ、2人は相変わらずみたいだな」

 時がたっても変わらない2人になんだかほっとする。

「それで、院長はいるか」

 これ以上2人のじゃれあいを見てても仕方ないので院長がいるかどうか尋ねた。

「いるぞ。今母ちゃんと話しているぜ」
「そっか、それじゃ会いに行ってくるか」
「ところでスニル君、後ろの2人は?」

 ここにきて俺の後ろにいる両親に気が付いたルモアがだれかと聞いてきたが、ここで答えるわけにはいかないんだよな。

「まぁ、2人のことは後でな。とりあえずまずは会いに行こう」
「? そうなの」

 ルモアはまだ不思議そうにしているが、俺が後でということに納得してこれ以上2人のことを聞いてこなくなった。
 というわけで、子供たちと遊ぶという2人と別れて俺たちは孤児院に入った。

「それにしても、ほんとすげぇな。明らかに俺がいた頃より良くなってるぞ」
「土地も広いし、子供たちも元気みたいだしね」
「子供が元気なのは自分たちで稼いでいるからだろ。今や食うのに困ることはないからな」

 俺たちがカリブリンでやったことはすでに2人に話している。

 そうして、建物の中に入った俺たちが向かったのは当然ながら院長室だ。そこにシエリルおばさんもいるみたいだしちょうどいい。

「ここだよ」
「緊張するぜ」
「ほんとね。あの時以来かも」
「あの時以上な気がするな」

 2人が言うあの時というのはおそらく結婚報告だろうと思う。そういうのはかなり緊張するっていうからな。っと、それはともかくさっさと部屋に入ろうというわけでノックした。

「はい」

 中からしわがれた声が聞こえてきた瞬間、父さんがやはり一番に反応している。

「……先生」

 そんな小さな声を上げている父さんをしり目に返事をした。

「スニル」
「スニル君、あらあら」
「ちょっと待ってね」

 俺が名乗ると院長がまるで孫が訪ねてきた祖母のごとく子を出すと、続いてシエリルおばさんの声が聞こえてきた。

 そうして、ガチャリと扉があくとそこには予想通りシエリルおばさんが満面の笑みで出迎えてくれた。

「スニル君、久しぶりね」
「うん」
「本当ね。元気だったかしら、それに背も伸びたのね」
「それなりにね。でもまだまだだよ」

 まだまだ成長期これからもっと伸びる予定だ。

「ふふっ、そうね。それで、どうしたの? それにその2人は?」
「ああ、ええと、うん、そうだな。この2人の前にまず俺のことを話そうと思う」
「スニル君の?」

 首をかしげる院長とシエリルおばさんに対して俺自身のこと、つまり俺が異世界転生者であるという事実を話すことにした。これを話しておかないと両親のことを説明しずらいからだ。

「……というわけなんだ」
「……」
「……」

 俺の話を聞いて2人は絶句している。それはそうだろうまさか目の前の子供の正体が前世の記憶持ちのもとおっさんなんだからな。

「なるほどね。驚いたけれど、納得だわ」

 シエリルおばさんがまず起動し何かを納得したようだが、いったい何を納得したのだろうか。

「そうですね。スニル君の言動を考えれば確かに納得できることですね」

 院長も起動しシエリルおばさんと納得しあっている。まぁ、なんにせよ信じてもらえたならよかった。その後いろいろと質問攻めにあったりしたが、この場合特にわざわざ明記することでもないために省略する。

「まぁ、とにかくそういうわけで、それでこの2人なんだけど」
「え、ええ」

 俺が両親のことを紹介しようとするととたん院長たちは緊張しだした。

「えっと、こっちは……」

 まず父さんを指してから、

「ヘイゲル=ヒュリック、それでこっちがロリッタ=ミリアという名で……」
「えっ!」

 俺が2人の名を告げるとやはり院長たちは驚愕してハッとなっている。俺の話と合わせて気が付いたのかもしれない。

「ま、まさか?」

 シエリルおばさんが恐る恐る聞いてきた。

「そうだよ。この2人は父さんと母さんが転生した姿なんだ」
「えっと、先生久しぶり、それにシエリルも」
「シエリルいろいろとごめんなさい」

 俺の紹介とともに父さんと母さんが続いて院長たちに挨拶をした。

「……あ、ああ、ああ、本当に、本当にヒュリック、あなたなの?」
「そうだよ。先生、ただいま」

 院長が消え入りそうな声での確認に父さんはまさに息子の顔で答えた。その瞬間院長の目から涙がほろほろと流れていく、一方で母さんとシエリルおばさんである。

「ミリア、なの?」
「ええ、久しぶりシエリル、少し太ったんじゃない」

 母さんが言うほどシエリルおばさんは別に太ってはいないんだが、まぁ確かに冒険者時代から考えれば少しはそうなのかもしれないけど。

「ミリアー」

 母さんの言葉に突っ込むのも忘れたかのようにシエリルおばさんは母さんを抱きしめた。一方で父さんもまた院長に抱きしめられているようだ。これはもうしばらく放っておいた方がよさそうだな。

 というわけで、しばらく俺はのんびりと4人が落ち着くのを待つことにした。


 そうして、しばらく4人は抱き合ったりしていたがようやく落ち着いたのか、俺の存在気が付いて少し顔を赤らめている。

「あらあら、ごめんなさいね。スニル君」
「いや、いいよ」
「ふふっ、ありがとうね。スニル」

 母さんは俺が気を使っていたことが分かったようで頭をなでてきた。

「それより、そろそろ本題に入りたい」
「あ、ああ、そうね」
「そうだったな。悪いなスニル」
「本題?」

 俺がここ孤児院にやってきたのは何も父さんと母さんを院長に伝えるだけではない。もちろんこれも目的ではあるが、もう1つ、魔王としての仕事で来たといってもいいだろう。

「はい、ここからは私が説明します」

 院長の言葉に俺ではなく母さんが話を初めてくれる。俺だとうまく説明できないからな。魔王になったからにはこれも直していかないといけないんだけどね。

「私たちがスニルと合流してからですが、そのあとサーナちゃん、ええと、サーナちゃんのことは?」
「ええ、知っていますよ」
「獣人族の赤ちゃんよね」
「ええ、そのサーナちゃんを獣人族に返すために獣人族の土地が南にあるということで私たちは向かったのです」

 それから母さんが獣人族との出会いやそのあとの話をしたのだった。それを聞いた院長とシエリルおばさんはあきれたような感心したような表情をしていた。

「そうして、レッサードラゴンを討伐した後に議会に呼ばれて、行ってみたら……」
「魔王になったんだ」

 大事なところは俺自身が説明した。

「ま、魔王?!」
「魔王ですって!!」

 案の定院長たちは驚愕している。というか、俺たちが魔族の土地に行ったという話の時点で顔色を真っ青にしていたんだけどな。

「うん、それで魔族が住む街を中心にエルフ、ドワーフ、獣人族がすむ土地すべてを治める王となって、国名はテレスフィリア魔王国というんだ」

 俺が最後にそう説明すると院長とシエリルおばさんは固まってしまった。

「驚くのも無理はありません。私も最初は本当に驚きましたから」
「だな、俺もだ。というか俺も院長から魔王の話とか聞いていたからな」
「ほんとにね」

 父さんと母さんもまた当時の驚きようを話している。

「ええと、ミリア、事実なのよね」

 シエリルおばさんが恐る恐る母さんに確認をする。

「ええ、本当よシエリル、まさか私も魔王様の母親になると思はなかったわ」
「いや、そういうことじゃ、でも、そう、こんなこと嘘をいうわけもないし、本当のことなのね。でも、魔王って」
「さっきも言ったけれど、魔族というのは魔法に長けた人間の一種、私たちと何ら変わらないわよ」
「スニルから俺もそう聞かされていたとはいえ、やはり昔からそうだって教えられてたから、最初は警戒していたんだけどな。でも、実際何度もかかわっているうちに俺たち人族と何ら変わらないってことが分かってからは、警戒していたのが馬鹿みたいだったな」
「そうね。シュンナやダンクスも同じだったし、平気そうにしていたのはスニルだけだったわね」
「俺は、教えられなかったからね。尤も教わったとしても記憶を取り戻した時点で真実を知ることになっただろうから、同じだと思うけど」
「そ、そうね」

 俺の答えを聞いて母さんが少し悲しそうな顔をしたのち、俺の頭をなでた。しまったな今ので俺が虐待されていたという事実を思い出してしまったようだ。

「それはともかく、王として国を治めることになったんだけど、ここでさっきも話した通り多くの獣人族や獣人族に比べたら少数ではあるけどエルフ、自ら土地を出たとはいえドワーフたち、彼らは現在人族の地で奴隷とされているのは知っているよね」
「え、ええ」

 俺の言葉にシエリルおばさんが答えてくれた。

「今回俺がここに来たのはその彼ら、拉致被害者の解放と返還を交渉するためなんだ」

 彼らが拉致された際俺はまだ魔王ではなかった。しかし、その家族は俺の国民なら国民の家族を保護するのは当然の行動と思える。

「奴隷の解放ってことよね。それは、でもどうしてここに?」

 シエリルおばさんにとっては不可思議なことだろう、奴隷解放の交渉になぜ孤児院にやってきたのかとな。

「それは、過程を考えるとここがまず最初の一手だったからだよ」
「どういうこと?」
「知っての通り、そもそも人族がその他の種族に対しての非道な扱いをしている元凶がキリエルタ教となってる」
「そうね。確かにキリエルタ教の教義には私たちいえ、人族だったわね」

 今シエリルおばさんが人族のことを人間と称したが、実はこれがキリエルタ教の人族以外は人間にあらずということなんだ。ちなみに他種族のことは亜人と称している。シュンナとダンクス、父さんと母さんも俺が真実を話すまではそれに倣い人族を人間、それ以外を亜人と呼んでいた。

「人族以外は人間ではなく亜人であるとしているわ。人間ではないのだから奴隷という扱いもやむなしというのは昔からの考えね」
「悲しい話だけれど、本当に長い年月そう教えられているわね」

 院長が心底悲しそうにそういった。

「そう、だから俺たちがここに来た理由はまずその考えを改めさせるためなんだよ」

 父さんがそう説明した。

「教会とお話をするというは、そうかあの子ね」

 院長は俺たちがここに来た理由に気が付いたようだ。

「ああ、姉貴はここの司教なんだろ。だから俺たちは姉貴に会いに来たんだ。でも、俺たちだけじゃそう会えないだろ」

 父さんが言うように実はここカリブリンの教会にいる司教という立場の人物が、この孤児院出身でなんと父さんの姉、といっても血のつながりはないそうだが。
 つまりはここに来た最終的な目的はその司教に会うこと、そして他種族に関する認識を改めてもらうためにもっと上の立場の人間を紹介してもらうことにある。
 でもその人に会うためにも俺と父さんだけじゃそうそう会えないということが考えられた。いくら父さんが弟だとして、俺がその息子だとしても、そして一度会ったことがあったとしても、ただの子供でしかない俺たちでは会う前に門前払いされる可能性が高い。しかし、院長がいればどうだ。司教にとって院長は母親のようなもの、だれだって母親が訪ねてきて拒否する奴はいないだろう。

「なるほど、そういうことね。わかったわ」

 院長は快く引き受けてくれたのだった。これにて、俺の目的の一手が動き出したのだった。
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