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第04章 奴隷狩り
03 思っていたよりも……
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キエリーヴの街へ向かう途中で知り合った、コウリの娘モニカを探すためにキエリーヴへと入った俺たちは適当な宿に泊まった翌日、街中を探してみることにした。
「まずは、昨日に続いて聞き込みをしてみるか」
「ああ、そうだな」
「ええ、了解よ」
昨日も簡単にではあるが聞き込みをしている、しかし今日は少し本腰を入れて聞きこむをしてみようということになった。
といっても、俺たちも固まっていても仕方ないので、それぞればらけることになったわけだが問題がある。
それは俺が子供だということ、この際人見知りはおいておくとしてもさすがに子供相手に、人さらいの情報をくれるとは思えない。
「どうすっかな」
ダンクスたちを見送った後に気が付いたために、俺は1人どうするか考えていた。
「おう、坊主どうした。1人か」
俺が1人でいたものだから近くの屋台のおっさんが声をかけてきた。
「ああえっとまぁそんなとこ」
「なんだ、ほれ、こいつでも食え」
俺が答えるとおっさんは商品であるブリトーを1つ手渡してくれた。
「ありがと」
「おう」
このままここにいても仕方ないし、とりあえずブリトーを手に持ちながら適当に歩いてみることにした。
「まぁ、聞き込みはあいつらに任せて俺は俺で、もともとの目的でもある文化でも楽しむとするか」
というわけで、俺はもらったブリトーを手に持ち街の中をぶらついていた。
「……奴隷……ボロ……拉致って……」
何やらそんな声が聞こえてきた。
なんだと思い、振り返ってみるが、人込みで全くわからない。
「気のせいか? それにしてもずいぶんと不穏当な言葉だったが、まぁいいか、気にはなるが、もうわからないし、気にしても仕方ないだろ」
そういうことにしてその場を後にしたのだった。
そうして、しばらくのんびりと1人で街をぶらつていると待ち合わせの時刻になったことから、その場へと向かったのだった。
「おうスニル、先についていたか」
「まぁな。シュンナは……来たな」
これで3人とも集まったようだ。
「シュンナはどうだった?」
「全然、そっちは?」
「こっちもだ。スニルはどうだ?」
「俺が情報を集めらえれると思うか」
「あ、ああ、そっか忘れてた」
「そういや、お前子供だったな」
「そういうこと、でも待っている間に思いついたんだが、奴隷商をあたってみたらどうだ」
「奴隷商か、確かにあれから3日すでに奴隷商に売っているかもな」
「ああ、もしかしたら商品になってるかもしれない」
「ありうるわね」
俺の案にダンクスとシュンナが同意したところで、さっそくまず奴隷商を探してみることにした。
「一応俺のほうでざっと、大通りだけだが奴隷商を見たが5軒ぐらいあったぞ」
「まじかっ」
「ずいぶんと多いわね」
2人が驚くのも無理はない、これまで通ってきた街においては大体2から3軒あればいいほうだったからだ。
それが、ざっと見ただけで5軒これはかなり多い気がする。
「といっても、裏とかは見てないからな」
「まぁ、スニルが裏に入るわけにはいかないよね」
「だな。中身と実力はともかく見た目が子供だからな」
「ああ、そういうこと」
それから、俺はその場に留守番となりシュンナとダンクスがそれぞれ裏通りへと向かっていった。
そうして、しばし待ったところで2人が帰ってきた。
「帰ったか、っで、どうだった?」
「こっちは2軒見つけたぜ」
「シュンナは?」
「あたしのほうは、1軒」
「つまり合計8軒ってわけか」
多いな、なんでこんなに多いんだ。
この街は奴隷商たちにとって何か重要な場所なのか、そんな埒もないことを考えてしまうほどに多い。
まぁ、ただ単に集まってきただけだとは思うけどな。
「っで、どうする。回ってみるか?」
「それしかないだろ。尤も、まだこの街にいればの話だけど」
「いることを祈りましょ」
そんなわけで俺たちは奴隷商をめぐることにした。
まずは大通りから攻めてみることにした俺たちは、まず一軒目。
「おほほっ、若い娘ですか?」
「ああ、いるか」
「ええ、もちろんでございます。どうぞこちらへ」
奴隷商はそう言って俺たちを案内してくれた。
そうして、やってきたのはなんとも見覚えのある牢屋が並んだ場所。
「……」
「スニル、大丈夫?」
俺がかつて奴隷だったころを思い出していると、シュンナがすぐに気が付き声をかけてきた。
「あ、ああ、大丈夫だ」
少し危なかったシュンナに声を掛けられなかったら、思い出して気を静めていたはずだ。
それにしても、俺たちは全員フード付きローブを身にまとっているし俺は下を向いている。
まぁ、同じフードをかぶっているシュンナには普通のローブをかぶっているように見えるだろうけど、下を向いている時点で見えないと思うんだけどな。
それでも、俺の気が落ち込んでいることにシュンナはすぐに気が付いて声をかけてくれた。
ありがたいことだ。
とまぁ、そんなことを考えている間に、奴隷商の案内で若い娘たちを次々に見ていくダンクスだが、見たところモニカはいないようだ。
尤も、俺もそう簡単に見つかるとは思っていないし、何より俺の予想ではすでにこの街にはいない気がするしな。
さて、そんなわけでモニカのいない奴隷商には用もないので次に向かうことにした。
そうして、3軒廻ったわけだがもちろんそこにモニカは居なかった。
「……なぁ、この役変わってくれねぇか」
次の奴隷商へ向かっている最中ダンクスが疲れた風にそう言ってきた。
まぁ、気持ちはわかる。
なにせ、ダンクスには俺とシュンナという奴隷をすでに持っているにもかかわらず、新たに若い娘の奴隷を探しているクズ野郎を演じている。
俺だってそんな役はやりたくない。
しかし、しかしだ。
「ダンクスしか無理でしょ。スニルは見ての通り子供だし、あたしはもっとおかしいでしょ」
そう、子供である俺が自分より年上の若い娘を奴隷にしてどうするのかという話だし、シュンナだって自分と同じ若い娘の奴隷を探すのは普通におかしい。
まぁ、世の中には同性愛者とかもいるわけだし、そう考えるとそこまでおかしいことではないかもしれないが、残念ながらこの世界ではそう言った存在の知名度は低い、特に俺たち平民ではほぼ知られていない。
「そりゃぁ、そうだけどよ」
ダンクスもそれは分かっているが嫌なものは嫌なのだろう。
そんな嫌がるダンクスを説得しつつ俺たちは奴隷商の扉を開くのであった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
奴隷商を尋ねること5件目、大通りに面した奴隷商としてはこれが最後の店だ。
「これはこれは、どのような奴隷をお探しで」
「若い娘はいるか?」
「ええ、ええ、おりますよ。お客さんもお好きですねぇ。どうぞ、こちらへ」
店主はシュンナをちらっと見るとそう言って牢屋へ案内した。
「どうぞ、こちらの娘はひと月前に入荷しましてねぇ。ヘヘヘッ、なかなかいい娘でしょう」
確かに、奴隷商の言う通り見た目はかなりだと思うが、俺たちの目的はあくまでモニカでありこの娘はその特徴からモニカではないことは明らかだった。
「……いや、次を見せてくれ」
「もちろんでございます」
それから、数人の奴隷たちを紹介されたわけだが、その中にモニカは居なかった。
やはりここにもいないな、そう思っていた時だった。
「次を見せてくれ」
「ええ、もちろん、さぁ、お次はこの娘です。この娘は、先ごろ入荷しましてね。まだ、教育がままならず……」
何やら店主が説明を始めたが、俺の耳には入ってこない。
なにせその娘、年のころなら15、赤い髪を短くしややたれ目ながら大きくはっきりとした目元、何よりその左目の下に小さなほくろがある。いわゆる泣きほくろという奴だ。
この特徴はモニカのものと一致していた。
「……まじか……」
俺がそうつぶやいてしまったのは言うまでもない。
それはダンクスとシュンナも同じだったらしく軽く絶句していた。
俺は我に返り、念のため”鑑定”と”探知”を発動。
”鑑定”には、名前や出身の村名、両親の名前などは伏せられていたが、その間にある文章から推測するに、間違いなくあの村、シェルド村のおっさんコウリの娘モニカであろうと思う。
また”探知”でモニカの魔力波長を確認したが、その波長は現場にあった痕跡とも一致し、何よりコウリの魔力波長と似た部分がある。
これは、間違いなくモニカで間違いない。
そう確信した俺は、ダンクスの裾を軽く引っ張った。
「んっ、ああ、この娘をもらうぜ」
俺の合図に気が付いたダンクスはすぐにモニカを購入することを決めた。
「おお、これはこれはお買い上げありがとうございます」
それから、俺たちはすぐに応接室に連れていかれて、そこで購入手続きをすることになった。
「それじゃ、こいつをな」
「はい、ご確認します。……確かに、大銀貨3枚と銀貨4枚受け取りました」
しめて、340,000ドリアスとなり、これをトラム日本とほぼ同じ通貨と思われるトラムに治すと283,333トラムとなる。まぁ、割り切れないから大体28万ってとこか。人間1人の値段がこの値段っていうは易い気がするが、仕方ないこれがこの世界の現実だ。
「では、こちらの書類にサインをお願いします」
「おう、ここでいいのか?」
「はい」
ダンクスが受け取ったのは契約書となっているわけだが、これは特にただの売買契約書でしかなく本名ではなくとも偽名でも問題ないということもあり、ダンクスはそこにダイオスという偽名を書いた。
このダイオスの意味は特になくこれでいいかの思い付きだ。
こうして、契約も終わり俺たちは奴隷商からモニカを受け取り宿に戻ったのだった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
宿に戻った俺たちであったが、そこで何か会話をしたわけではない、ここはまだ街中ということで、その警戒として今は何もしゃべらないようにしているわけだ。
そうして、翌日俺たちはキエリーヴの街を出ることにした。
俺たちが入ってきた西門ではなく、北門へと向かう。
それから、街の外に出てしばし歩いていくわけだが、空気が重い。
俺たちは黙っているし、モニカは不安そうな顔でそのあとをついてくる。
それはそうだろう、奴隷として買われたんだ今後の人生に不安でいっぱいだろう。
しかし、もう少し待ってほしい。そう思いモニカを見つつ俺たちは街道を歩いていく。
「スニル、この辺りでいいんじゃない」
「そうだな」
俺とシュンナが初めて会話をしたのを聞きモニカがびくっとなった。
しかし、俺はそれを気にしつつも森の中に入っていき、そこに”収納”から取り出したテントを設置した。
「えっ!?」
何もないところから突如テントが姿を現したことでモニカは驚愕したようだ。
「さぁ、入って」
そんなモニカにシュンナがテントの中に入るようにと促す。
「は、はい」
奴隷という身分であるモニカには入らないという選択肢はなく素直に入っていく。
それを見た俺たちもまたテント内に入る。
「えっ! あれ?」
そこでは当然困惑するモニカだった。
「はぁ、疲れたぁ」
「ほんとね。まさか、こんなに黙っているだけが疲れるとは思わなかったわ」
「そうか、俺は普段取りだったけどな」
「そりゃぁ、お前はそうだろうよ」
俺たちがそんな気の抜けた会話をしているさなかでもモニカは困惑していた。
「まっ、とにかくまずは確認だけど、あなた、モニカさんよね。コウリさんの娘さんの」
「えっ、な、なんで?」
モニカはいきなり自分の正体を感化されたことを驚いている。
「あたしたち、コウリさんに頼まれてね。あなたを探していたのよ」
「思っていたより早かったけどな」
「確かに、それでね。いや、まぁそれより、スニル」
「ああ」
俺はシュンナに促されて”解呪”を行使、するとモニカの首に巻かれていた奴隷の首輪がはずれたのだった。
「あっ」
「これで、あなたは自由よ。誰の奴隷でもないわ」
「あっ、あっ」
「といっても、このままじゃ名無しになるから。自分の名前を意識しつつ名乗ってみてくれ」
「名前? 私の名前はモニカです。シェルド村のモニカです」
モニカがそう名乗った瞬間モニカが光った。いわゆる名づけの光だ。
「どうやら、成功したみたいだな」
「だな、”鑑定”でもちゃんと名前と村、親の名も刻まれた」
「そうか、それはよかった」
「あ、あの、その、これは?」
「まぁ、細かいことは気にしなくていいって」
「そうそう、今はそれより、お風呂入らない」
といって、シュンナがモニカを連れて風呂に向かっていった。
こうして、俺たちは思っていたよりも早く捜索依頼を受けた娘の発見と救出を終えたのだった。
あとは、彼女をシェルド村に連れ帰るだけだ。
といっても、それは俺の”転移”を使えばすぐだけどな。
「まずは、昨日に続いて聞き込みをしてみるか」
「ああ、そうだな」
「ええ、了解よ」
昨日も簡単にではあるが聞き込みをしている、しかし今日は少し本腰を入れて聞きこむをしてみようということになった。
といっても、俺たちも固まっていても仕方ないので、それぞればらけることになったわけだが問題がある。
それは俺が子供だということ、この際人見知りはおいておくとしてもさすがに子供相手に、人さらいの情報をくれるとは思えない。
「どうすっかな」
ダンクスたちを見送った後に気が付いたために、俺は1人どうするか考えていた。
「おう、坊主どうした。1人か」
俺が1人でいたものだから近くの屋台のおっさんが声をかけてきた。
「ああえっとまぁそんなとこ」
「なんだ、ほれ、こいつでも食え」
俺が答えるとおっさんは商品であるブリトーを1つ手渡してくれた。
「ありがと」
「おう」
このままここにいても仕方ないし、とりあえずブリトーを手に持ちながら適当に歩いてみることにした。
「まぁ、聞き込みはあいつらに任せて俺は俺で、もともとの目的でもある文化でも楽しむとするか」
というわけで、俺はもらったブリトーを手に持ち街の中をぶらついていた。
「……奴隷……ボロ……拉致って……」
何やらそんな声が聞こえてきた。
なんだと思い、振り返ってみるが、人込みで全くわからない。
「気のせいか? それにしてもずいぶんと不穏当な言葉だったが、まぁいいか、気にはなるが、もうわからないし、気にしても仕方ないだろ」
そういうことにしてその場を後にしたのだった。
そうして、しばらくのんびりと1人で街をぶらつていると待ち合わせの時刻になったことから、その場へと向かったのだった。
「おうスニル、先についていたか」
「まぁな。シュンナは……来たな」
これで3人とも集まったようだ。
「シュンナはどうだった?」
「全然、そっちは?」
「こっちもだ。スニルはどうだ?」
「俺が情報を集めらえれると思うか」
「あ、ああ、そっか忘れてた」
「そういや、お前子供だったな」
「そういうこと、でも待っている間に思いついたんだが、奴隷商をあたってみたらどうだ」
「奴隷商か、確かにあれから3日すでに奴隷商に売っているかもな」
「ああ、もしかしたら商品になってるかもしれない」
「ありうるわね」
俺の案にダンクスとシュンナが同意したところで、さっそくまず奴隷商を探してみることにした。
「一応俺のほうでざっと、大通りだけだが奴隷商を見たが5軒ぐらいあったぞ」
「まじかっ」
「ずいぶんと多いわね」
2人が驚くのも無理はない、これまで通ってきた街においては大体2から3軒あればいいほうだったからだ。
それが、ざっと見ただけで5軒これはかなり多い気がする。
「といっても、裏とかは見てないからな」
「まぁ、スニルが裏に入るわけにはいかないよね」
「だな。中身と実力はともかく見た目が子供だからな」
「ああ、そういうこと」
それから、俺はその場に留守番となりシュンナとダンクスがそれぞれ裏通りへと向かっていった。
そうして、しばし待ったところで2人が帰ってきた。
「帰ったか、っで、どうだった?」
「こっちは2軒見つけたぜ」
「シュンナは?」
「あたしのほうは、1軒」
「つまり合計8軒ってわけか」
多いな、なんでこんなに多いんだ。
この街は奴隷商たちにとって何か重要な場所なのか、そんな埒もないことを考えてしまうほどに多い。
まぁ、ただ単に集まってきただけだとは思うけどな。
「っで、どうする。回ってみるか?」
「それしかないだろ。尤も、まだこの街にいればの話だけど」
「いることを祈りましょ」
そんなわけで俺たちは奴隷商をめぐることにした。
まずは大通りから攻めてみることにした俺たちは、まず一軒目。
「おほほっ、若い娘ですか?」
「ああ、いるか」
「ええ、もちろんでございます。どうぞこちらへ」
奴隷商はそう言って俺たちを案内してくれた。
そうして、やってきたのはなんとも見覚えのある牢屋が並んだ場所。
「……」
「スニル、大丈夫?」
俺がかつて奴隷だったころを思い出していると、シュンナがすぐに気が付き声をかけてきた。
「あ、ああ、大丈夫だ」
少し危なかったシュンナに声を掛けられなかったら、思い出して気を静めていたはずだ。
それにしても、俺たちは全員フード付きローブを身にまとっているし俺は下を向いている。
まぁ、同じフードをかぶっているシュンナには普通のローブをかぶっているように見えるだろうけど、下を向いている時点で見えないと思うんだけどな。
それでも、俺の気が落ち込んでいることにシュンナはすぐに気が付いて声をかけてくれた。
ありがたいことだ。
とまぁ、そんなことを考えている間に、奴隷商の案内で若い娘たちを次々に見ていくダンクスだが、見たところモニカはいないようだ。
尤も、俺もそう簡単に見つかるとは思っていないし、何より俺の予想ではすでにこの街にはいない気がするしな。
さて、そんなわけでモニカのいない奴隷商には用もないので次に向かうことにした。
そうして、3軒廻ったわけだがもちろんそこにモニカは居なかった。
「……なぁ、この役変わってくれねぇか」
次の奴隷商へ向かっている最中ダンクスが疲れた風にそう言ってきた。
まぁ、気持ちはわかる。
なにせ、ダンクスには俺とシュンナという奴隷をすでに持っているにもかかわらず、新たに若い娘の奴隷を探しているクズ野郎を演じている。
俺だってそんな役はやりたくない。
しかし、しかしだ。
「ダンクスしか無理でしょ。スニルは見ての通り子供だし、あたしはもっとおかしいでしょ」
そう、子供である俺が自分より年上の若い娘を奴隷にしてどうするのかという話だし、シュンナだって自分と同じ若い娘の奴隷を探すのは普通におかしい。
まぁ、世の中には同性愛者とかもいるわけだし、そう考えるとそこまでおかしいことではないかもしれないが、残念ながらこの世界ではそう言った存在の知名度は低い、特に俺たち平民ではほぼ知られていない。
「そりゃぁ、そうだけどよ」
ダンクスもそれは分かっているが嫌なものは嫌なのだろう。
そんな嫌がるダンクスを説得しつつ俺たちは奴隷商の扉を開くのであった。
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奴隷商を尋ねること5件目、大通りに面した奴隷商としてはこれが最後の店だ。
「これはこれは、どのような奴隷をお探しで」
「若い娘はいるか?」
「ええ、ええ、おりますよ。お客さんもお好きですねぇ。どうぞ、こちらへ」
店主はシュンナをちらっと見るとそう言って牢屋へ案内した。
「どうぞ、こちらの娘はひと月前に入荷しましてねぇ。ヘヘヘッ、なかなかいい娘でしょう」
確かに、奴隷商の言う通り見た目はかなりだと思うが、俺たちの目的はあくまでモニカでありこの娘はその特徴からモニカではないことは明らかだった。
「……いや、次を見せてくれ」
「もちろんでございます」
それから、数人の奴隷たちを紹介されたわけだが、その中にモニカは居なかった。
やはりここにもいないな、そう思っていた時だった。
「次を見せてくれ」
「ええ、もちろん、さぁ、お次はこの娘です。この娘は、先ごろ入荷しましてね。まだ、教育がままならず……」
何やら店主が説明を始めたが、俺の耳には入ってこない。
なにせその娘、年のころなら15、赤い髪を短くしややたれ目ながら大きくはっきりとした目元、何よりその左目の下に小さなほくろがある。いわゆる泣きほくろという奴だ。
この特徴はモニカのものと一致していた。
「……まじか……」
俺がそうつぶやいてしまったのは言うまでもない。
それはダンクスとシュンナも同じだったらしく軽く絶句していた。
俺は我に返り、念のため”鑑定”と”探知”を発動。
”鑑定”には、名前や出身の村名、両親の名前などは伏せられていたが、その間にある文章から推測するに、間違いなくあの村、シェルド村のおっさんコウリの娘モニカであろうと思う。
また”探知”でモニカの魔力波長を確認したが、その波長は現場にあった痕跡とも一致し、何よりコウリの魔力波長と似た部分がある。
これは、間違いなくモニカで間違いない。
そう確信した俺は、ダンクスの裾を軽く引っ張った。
「んっ、ああ、この娘をもらうぜ」
俺の合図に気が付いたダンクスはすぐにモニカを購入することを決めた。
「おお、これはこれはお買い上げありがとうございます」
それから、俺たちはすぐに応接室に連れていかれて、そこで購入手続きをすることになった。
「それじゃ、こいつをな」
「はい、ご確認します。……確かに、大銀貨3枚と銀貨4枚受け取りました」
しめて、340,000ドリアスとなり、これをトラム日本とほぼ同じ通貨と思われるトラムに治すと283,333トラムとなる。まぁ、割り切れないから大体28万ってとこか。人間1人の値段がこの値段っていうは易い気がするが、仕方ないこれがこの世界の現実だ。
「では、こちらの書類にサインをお願いします」
「おう、ここでいいのか?」
「はい」
ダンクスが受け取ったのは契約書となっているわけだが、これは特にただの売買契約書でしかなく本名ではなくとも偽名でも問題ないということもあり、ダンクスはそこにダイオスという偽名を書いた。
このダイオスの意味は特になくこれでいいかの思い付きだ。
こうして、契約も終わり俺たちは奴隷商からモニカを受け取り宿に戻ったのだった。
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宿に戻った俺たちであったが、そこで何か会話をしたわけではない、ここはまだ街中ということで、その警戒として今は何もしゃべらないようにしているわけだ。
そうして、翌日俺たちはキエリーヴの街を出ることにした。
俺たちが入ってきた西門ではなく、北門へと向かう。
それから、街の外に出てしばし歩いていくわけだが、空気が重い。
俺たちは黙っているし、モニカは不安そうな顔でそのあとをついてくる。
それはそうだろう、奴隷として買われたんだ今後の人生に不安でいっぱいだろう。
しかし、もう少し待ってほしい。そう思いモニカを見つつ俺たちは街道を歩いていく。
「スニル、この辺りでいいんじゃない」
「そうだな」
俺とシュンナが初めて会話をしたのを聞きモニカがびくっとなった。
しかし、俺はそれを気にしつつも森の中に入っていき、そこに”収納”から取り出したテントを設置した。
「えっ!?」
何もないところから突如テントが姿を現したことでモニカは驚愕したようだ。
「さぁ、入って」
そんなモニカにシュンナがテントの中に入るようにと促す。
「は、はい」
奴隷という身分であるモニカには入らないという選択肢はなく素直に入っていく。
それを見た俺たちもまたテント内に入る。
「えっ! あれ?」
そこでは当然困惑するモニカだった。
「はぁ、疲れたぁ」
「ほんとね。まさか、こんなに黙っているだけが疲れるとは思わなかったわ」
「そうか、俺は普段取りだったけどな」
「そりゃぁ、お前はそうだろうよ」
俺たちがそんな気の抜けた会話をしているさなかでもモニカは困惑していた。
「まっ、とにかくまずは確認だけど、あなた、モニカさんよね。コウリさんの娘さんの」
「えっ、な、なんで?」
モニカはいきなり自分の正体を感化されたことを驚いている。
「あたしたち、コウリさんに頼まれてね。あなたを探していたのよ」
「思っていたより早かったけどな」
「確かに、それでね。いや、まぁそれより、スニル」
「ああ」
俺はシュンナに促されて”解呪”を行使、するとモニカの首に巻かれていた奴隷の首輪がはずれたのだった。
「あっ」
「これで、あなたは自由よ。誰の奴隷でもないわ」
「あっ、あっ」
「といっても、このままじゃ名無しになるから。自分の名前を意識しつつ名乗ってみてくれ」
「名前? 私の名前はモニカです。シェルド村のモニカです」
モニカがそう名乗った瞬間モニカが光った。いわゆる名づけの光だ。
「どうやら、成功したみたいだな」
「だな、”鑑定”でもちゃんと名前と村、親の名も刻まれた」
「そうか、それはよかった」
「あ、あの、その、これは?」
「まぁ、細かいことは気にしなくていいって」
「そうそう、今はそれより、お風呂入らない」
といって、シュンナがモニカを連れて風呂に向かっていった。
こうして、俺たちは思っていたよりも早く捜索依頼を受けた娘の発見と救出を終えたのだった。
あとは、彼女をシェルド村に連れ帰るだけだ。
といっても、それは俺の”転移”を使えばすぐだけどな。
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ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
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