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第02章 旅立ちと出会い

16 一度あることは二度も三度も……

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 夜中、工場に侵入しようとした奴らがいたようだ。
 そいつらは、俺が張っておいた結界に阻まれて気を失っている。
 そこで、俺たちはとりあえずそいつらを縛り、警備隊を呼んだわけだが、駆けつけた警備隊はワイエノたちの知り合いだった。

 そうした中、侵入者が意識を取り戻したわけだが、囲まれていると知った連中がふいに歯を食いしばったかと持ったらいきなり驚愕した。
 おそらく、結界に冗談半分でつけたある機能が働いたことが原因だと思う。

「んっ?」
「もしかして、スニル、なんかした」

 シュンナとダンクスも侵入者たちの様子の変化に気が付いて、俺が何かをしたんじゃないかと疑ってきた。

「ああ、まさかとは思っていたんだけどな」
「なにしたんだ?」
「以前いたところでは創作ものが発展しててな。その中でこういう奴らが情報漏洩を防ぐために自害するなんてことはよくある話だったんだ。だから、半分冗談で結界は触れた瞬間に”呪い”が発動するようにしていたんだよ」
「呪い?」

 ”呪い”というと悪いイメージが強くあるが、実際には精神と魂に作用する魔法だ。
 要は、呪いをかけた奴の問題だな。
 そいつが、悪しき思いから呪いをかければ、誰もがイメージするものとなるが、いいこととして使う場合も当然ながらある。

「そう、自害できないようにな」
「ああ、もしかしてあれって、自害しようとしてできなかったってこと?」
「そういうこと」
「へぇ、呪いって、そういう風にできんだな。それじゃ、うまくすれば自殺しようとしているやつとかを防げるってことか」

 ダンクスは元騎士だけあり、この魔法の有効利用を考えたようだ。
 実際、ダンクスは暗黒魔法に適性がある。

「まぁな。でも、呪いって本来持続性が短い魔法なんだよ」
「持続性?」

 先ほども呪いとは精神と魂に作用する魔法だと説明したが、実はこれが持続性が短い理由だ。
 精神や魂というのは思っている以上にガードが固く、そこに作用するためには相当な力が必要となる。
 俺のようにほとんど無限近く魔力を持っており、メティスルにより魔法効果が十全に発揮できるならともかく。
 一般的な人間の魔力や魔法効果では、せいぜいが数分程度だろう。

「俺の魔力でも10時間ぐらいがせいぜいだからな」
「スニルでもか、となると俺たちじゃ、大した持たねぇな」
「そういうこと」
「あれ? でも、あの首輪も呪いよね」

 シュンナが言うように奴隷の首輪も”呪い”の効果を持った魔道具だ。

「あれは、継続的に”呪い”を発動させているから、長時間持つんだよ」

 つまり、効果が切れるころにまた同じ魔法をかけてくるということだ。

「へぇ、それじゃ、魔道具にしちまえばいいんじゃないか」
「でも、自分で外したら意味なくないか」
「ああ、そっか、だったら外せないようにしたら」
「それじゃ、あれと一緒じゃない」
「それもそっか」

 結局は奴隷の首輪と同じようなものとなってしまうと、それはなんか違う、そう考えた俺たちであった。
 まぁ、これに関しては俺たちが考えることでもないので、この辺にしておく。

「それでスニル、あれの効果はどのくらいなんだ」

 ダンクスが実際に侵入者たちに付けた効果について聞いてきた。

「そうだな。大体10時間程度と考えて、ただこいつらがいつ結界に触れたのかわからないからなぁ。まぁ、それでも早めに対処したほうがいいだろうな」
「わかったぜ。俺はちょっとワイエノに言ってくる」
「おう」

 それから、ダンクスはワイエノに先ほどの話をしに行き、そのワイエノから警備隊に伝えられることとなった。
 これにより、警備隊はすぐに動き侵入者の口内を調べたところ、奥歯に毒が仕込まれていることが分かったそうだ。
 もちろん、それらは警備隊が用意した治療師によって除去されたのは言うまでもないだろう。


 とまぁ、そんな騒動もあったが、その後はいつも通り過ごすこととなった。

 そうして、翌日のことだった。
 今日もいつもの通り、早朝の戦闘訓練を終えて朝飯を食っている最中だった。

「おかみさん、旦那さん」

 またもや、従業員が駆け込んできた。

「おいおい、またか?」
「昨日の今日で!」

 ワイエノの言葉にはいとうなずく従業員。
 シュンナが言うように、まさに昨日の今日、まさか2日連続で侵入者とは……。

「まぁ、とにかく行ってみるか」
「それしかないわね」

 そんなわけで今日もまた急いで工場へと向かっていったのであった。


 そうして、やってきました工場、近いだけあってすぐにたどり着くし、俺も息切れをしないで済む。
 まぁ、最近走り込みをしていることもあり、多少は体力もついてきたと思うけどな。
 それはさておき、果たしてどんな奴らが侵入したのやら。
 とにかく侵入者を確認した。

「昨日の連中とは、ちょっと違くないか」
「うーん、確かに来ている者のデザインがちょっと違うような」
「結局黒ずくめだからわかんねょ」
「まったくだ。でも、多分違うぜ」

 ダンクスとシュンナと話しているように、昨日の連中とは同じ黒ずくめでも微妙に違うことから、おそらく別の組織だろうと思われる。

「そういえば、昨日の連中は何かわかったのか?」
「ああ、そういえばそうだな。あとで、ワイエノに聞いてみるか」
「そうね」

 ワイエノはさっそくウィルクに警備隊を連れてくるようにと指示をしている。


 それから、少しして警備隊がやってきた。

「ワイエノさん、またですか?」
「ああ、そうみたいだ、悪いな」
「いえ、これも役目ですから、しかし、昨日に続いて今日もですか、いったい何を考えているのか」
「いや、どうも昨日の連中とは別口のようなんだよな」
「えっ、そうなんですか……ああ、確かに、ちょっと違いますね」

 ワイエノも俺たちと同様気が付いていたようで、警備隊にそう告げる。

「まぁ、とにかくこいつらもこっちで引き取ります」
「おう、頼む。それで、昨日の連中は何かはいたのか?」
「いえ、まだですね」

 そんな会話が聞こえてきた。

「まだ、みたいだな」
「そうみたいね」
「どうやって、情報聞き出しているんだ」

 この世界ではどんな尋問をしているのか気になり聞いてみた。

「そうだなぁ。まぁ、領地によって多少の違いはあるが、おおむね拷問だな」
「拷問?」
「ああ……」

 それから、ダンクスの説明によると、あまり詳しくはせつめいしてくれなかったが、結構厳しい拷問だそうだ。
 まぁ、別におかしなことじゃない日本だって、今でこそ犯人にも人権があり、下手な取り調べをしたりすると問題にされるが、およそ、150年前の江戸時代までは、日本も当たり前のように拷問をしていた。
 時代劇には竹で打ったり、石抱きなんかが映像としてあるが、ネットとかで調べるとわかるが、結構厳しいものもあったという。
 この世界というかこの国の文明レベルは、かなり低いことや奴隷制度があることから考えても、江戸時代と同等かそれ以上のことをやっていても不思議じゃない。
 それに、この世界には魔法もある。魔法を使った拷問なんてものもありそうだ。

 さぁてと、拷問の話はこのぐらいにして、今は新しく捕まった奴らのことだろう。
 こいつらも、昨日の奴ら同様結界に阻まれて気を失っている。
 まだ、意識は取り戻していないようだが、おそらく昨日の連中と同じく自害する可能性がある。
 ということで、ワイエノを通してまた警備隊に告げることにした。

 尤も警備隊も昨日のことからわかっているのか、すぐに対応して治療師によって確認が行われて、また奥歯に毒が仕込まれていることが分かり、取り除かれたそうだ。


 そんなことがあって3日、あれから工場への侵入者はいなかった。
 その代わり、昨日ようやく初日に侵入した連中と2日目の連中全員が、それぞれの組織に関する情報を吐いたことで、警備隊と冒険者たちにより緊急捜査が行われた。

「それで、結果は?」

 話を聞いたダンクスが、警備隊から話を聞いてきたワイエノに訪ねた。

「最初の奴らのほうはもぬけの殻誰一人いなかったらしい」

 最初、つまり初日の侵入者が属する組織のアジトに襲撃を仕掛けたところ、見事に逃げられてもぬけの殻だったらしい。

「それはまた、まぁ、日数もあったししかたないよね」

 シュンナは残念そうに言ったが、まさにその通りでできれば依頼人とかの情報が欲しかったところだな。

「それで、2日目の奴らのことだが、こっちは逃げる途中だったらしくてな。何とか数人と書類をいくらか回収できたようだ。まぁ、どうやら新興組織だったらしいからな」
「へぇ、それでほしい情報はあったのか?」
「いや、残念ながら今回の仕事に関する情報はすでに持ち出されていたようだ」

 ワイエノによると、残っていたのもほんとに最近入ったばかりのなんの情報も持っていないような連中ばかりだった。

「それじゃ、大したこともわからないままってことか」
「残念ながらな」


 せっかくの襲撃も結局は何も情報は得られなかったということだ。
 ほんと、一体だれが依頼したんだよ。
 フリーズドライの製法などの情報を知りたいと考えるものは多い、最初に来たあのおっさんもそうだが、あの後も数人が押しかけてきている。
 中には、高圧的に言ってくる奴もいたからな。
 例えば、貴族とか。

 その中の一体だれが、あいつらをよこしたのか、ほんとわからん。


 そうこうしているうちに、さらに4日が経った頃、三度目の正直のごとく、またまた侵入者があった。
 しかも、今回の侵入者は俺たちが駆け付けた際すでにこと切れていた。
 自害ができないようにしていたのに、死んでいるということは誰かがやったということで間違いない。
 しかし、見たところ目立った傷がないんだよな。

「おそらく、暗殺だな」

 ダンクスが言うには、侵入者が失敗したところで、様子を見ていた仲間により暗殺されたんだろうとのことだった。
 仲間相手にひでぇことしやがる。

「回収すればいいのに、なんでしなかったんだろ」

 それは俺も同意だ。回収すればわざわざ暗殺なんかしなくてもいいからな。

「さぁな、裏の連中が何を考えているかなんて知るかよ」
「それもそうだな」


 こうして、俺たちが知る限り3度の侵入が起きたのだった。




 そんな日々からさらに10日ほどが経ったわけだが、表立って侵入者は現れなかった。
 しかし、侵入者自体は結構あった。
 なぜ、それが分かるかというと、実はあれから工場に張った結界にログのようなものが記録されるよう魔道具を設置してみたところ、この10日間で計6回、結界が発動していることが分かった。
 おそらく、結界にかかった後回収されたんだと思う。

 こうしてみると侵入が多すぎる。
 しかも、いまだに誰がやらせているのか、全くわからない。
 そこで、俺は考えた末、結界に追加機能を持たせることにした。

「追跡?」
「ああ、結界に触れた奴がどこにいるのかわかるように魔力のアンカーをつけるんだ」

 ダンクスが疑問符を頭に浮かべながら聞いてきた追跡機能というものは、日本でいう発信機のようなもので、探知魔法で検知し、”森羅万象”の”マップ”に表示するというものだ。
 これにより、結界に触れて気を失った奴がどこに回収されるのか、またうまくいけば奴らのアジトの場所もわかるというものだ。
 といってもこれはおいそれと話せることではないため、結局俺たちしか知れない情報ではあるがな。

「まぁ、それでも、敵の正体がわかれば、場合によっては俺たちだけで襲撃もできるからな」
「そうね。そのほうが早いかもね」
「そうだな。ああ、その時はワイエノとシエリルにも話したほうがいいか?」
「あたしたちだけでもできるけど、一応話はしておいたほうがいいかもしれないわね」

 シュンナとダンクスならともかく俺だと心配するだろうからな。
 なにせ、2人には俺が前世の記憶も地だということは話していない。
 つまり、2人にとって俺はあくまで不遇の人生を歩んできた親友の息子であり、若干12歳の子供だからな。

「わかった、そうするか」

 そうして3日後のことだった。
 ついに、アンカーをつけた侵入者が現れた。

「っで、そいつらどこにいるの」
「典型というか、定番というか、貧民街だな。孤児院からそんなに離れてないぞ」
「まじかっ! そりゃぁ、つぶしておいたほうがいいんじゃないか」
「そうね。孤児院のためにも、近くに裏の組織があるっていうのもね」
「まぁな、でも、それを言ったら、結構組織はあるんじゃないか」

 これまでのことを考えても、それなりに組織の数があってもおかしくはない。
 もちろん、それらはすべて1つの組織が動いただけだであるということも否定はできないがな。
 まぁ、それでも複数あるほうが自然だしな。
 その1つをつぶしたところであまり意味はない気がする。

「それはそうだろうけどね。でも、わかっているならそのほうがいいんじゃない。それにこうもしぶとく来られても迷惑だし、1つをつぶしておけば見せしめにもなるんじゃない」
「それはあるかもな。下手に手を出すとどうなるかってことだろ」
「まぁ、それも1つか」

 ダンクスとシュンナはやる気にあふれているようだ。

「まぁ、そこは一応工場主であるワイエノとシエリルに相談しておくか」
「だな」

 そういうことで、俺たちはワイエノとシエリルの素へと向かった。

「ワイエノさん、シエリルさん、ちょっといいですか?」

 こういう時はシュンナが代表して話し始めるのが俺たちの決まりになっていた。
 なにせ、俺は人見知りだからしゃべれないし、ダンクスは顔が怖いからな。
 それに対してシュンナは絶世の美少女、誰だって俺みたいなガキやダンクスのような強面より、シュンナと話したいと思うからな。
 俺だってそうだよ。

 まぁ、それはいいとしてワイエノとシエリルの2人俺が魔力のアンカーを使ったことから説明して、その結果として裏組織の場所と思わしき場所を発見した経緯を説明したのだった。

「おいおい、まじかよ」
「すごい、スニル君、そんなことができるの」
「……」

 俺は2人に黙ってうなずいて返事をした。

「すげぇな。ああ、でも、それは」
「警備隊に説明が難しくなるわね」

 俺のメティスルについてはそうそう説明するわけにもいかない、そうなるとどうやって侵入者にアンカーをつけたのかが説明ができない。

「ええ、だからあたしたちでちょっと行ってこようと思っているんですけど」
「お前らでか、まぁ、お前たちなら問題ないと思うけどなぁ」
「もしかして、スニル君も行こうとしているの?」

 シエリルが察したので、一応うなずいておく。

「うーん、危険じゃないかしら」
「確かに、スニルはこういった経験はないからな。その心配もわかるがな」
「今後のためにも、経験しておいたほうがいいと思うですけどね」

 渋るシエリルにダンクスとシュンナが擁護してくれた。
 2人が言うように裏組織のアジトに乗り込むなんてことは、今後の旅においての経験の1つとしてはいいと思う。

「まぁ、今回はほとんど俺とシュンナで片づけて、スニルは見てるだけか魔法の援護程度にさせるけどな」

 これについては、俺から言い出したことだ。何事にも慎重にものを考える俺としては、いきなり襲撃に加わる気はない。
 段階的にまずは見学とサポートからにしようと思う。

「まぁ、それならいいか」
「そうね。スニル君は魔法はすごいしね。わかったわ。いい、スニル君ちゃんとダンクス君とシュンナちゃんのいうことを聞くようにね」
「……」

 俺はまただまってうなずいた。
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