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〜兄弟の絆〜

ロビナスの死闘

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 マルクスの言う通り、夜叉神将軍やしゃじんしょうぐんの率いるルーン大国の兵士たちは、ロビナス村の近くの大きな滝、通称グレートフォールまで退却した。

 このグレートフォールという滝は小高い丘の上にあり、その中央に本陣を敷き、周りを囲むように味方の陣を張ると、ちょうど丘の上からモンスターたちの行動が見渡せるようになったが、丘の周りをぐるりと囲むモンスターの大群を見て兵士たちの多くは戦慄せんりつを覚えた。

 夜叉神将軍はマルクスを見た。

「おい、マルクス。お前の言う通り兵士をグレートフォールまで退却したぞ。これから俺たちはどうすれば良い?」

「何もする必要は無い。そこでじっとしてれば良い」

 そう言うとマルクスは呪文を唱え始めた。夜叉神将軍も何が起こるか分からないが、今はこのエルフを信じるしかない。何故かは分からないが、このエルフには人を信じさせる力があった。不可能を可能にさせる何かを持っているように思えた。

 グレートフォールは小高い丘の上にあるため、攻めてくるモンスターがよく見えた。ルーン大国の兵士たちはその圧倒的な数の前にパニックになっていた。

「おい! こんなところに追い詰められて本当に勝てるのか?」

「こんな丘の上じゃ、敵から丸見えで反撃できないぞ!」

「あのエルフは最初からこれが目的じゃないのか? 俺たちをモンスターから逃げられないようにするために、わざわざこんなところにみんなを集めたんじゃないか?」

 近づいてくるモンスターの大群に恐怖を感じ始めた兵士たちのマルクスに対する不信感は徐々に広がり始め、いつの間にか呪文の詠唱えいしょうを行っているマルクスの周りをルーン大国の兵士たちが取り囲んだ。ルディーは無防備なマルクスを守ろうと徐々に詰め寄る兵士たちを威嚇いかくした。

 その間にもモンスターは徐々にグレートフォールに近づいて来て、とうとうルーン大国の兵士たちは周りをモンスターに囲まれてしまった。

「終わりだ! 周りをモンスターに囲まれて逃げ道を塞がれてしまった!」

「このエルフを信じたばっかりに我々はモンスターに全滅させられるぞ!」

「もう我慢できない! 将軍の命令でも俺はこいつを許さないぞ!」

 ルーン大国の兵士たちの混乱に収拾がつかなくなった時、マルクスは両手を広げて叫んだ。

煉獄れんごくの門を解き放ち、吾を守り敵を殲滅せんめつせよ! いでよ! オルトロス! その強さを開放せよ!!」

 マルクスが叫ぶと同時に、グレートフォールの滝壺から巨大な水柱が激しく立ち上った。水飛沫みずしぶきが立ち上り兵士たちの頭にこれでもかと降り注いだため、多くの兵士たちは目を閉じた。次に目を開けた時、巨大な水柱は水竜に姿を変えていた。

「こ、これは? 最強の召喚獣しょうかんじゅう。オルトロス?」

「オルトロスだと? そ、それじゃこのエルフはイスリの悪魔?」

 マルクスに召喚されたオルトロスは空に飛び上がるとモンスターの大群の上空で停止した。巨大な水竜は口から空気を大きく吸い込むと次の瞬間、強力な水の柱を吐き出した。その激しい水圧により、モンスターごと地形を削り取り、あっという間にモンスターの大群は丘の上から下に押し流されていく。モンスターたちは初めて見るであろう召喚獣になすすべなく次々に倒されていった。

 オルトロスは容赦なくモンスターを蹴散らした。バラバラになった残骸ざんがいは滝壺に飲み込まれていき、ロビナスの滝はモンスターの血で真っ赤に染まり、モンスターたちは総崩れになった。ほとんどのモンスターを倒したところで、マルクスの魔力が尽きてオルトロスは消えてしまった。

 マルクスは魔力を使い果たして倒れそうになったところをルディーがとっさに支えた。

「大丈夫か? マルクス?」

「あ、ああ。これぐらいなんとも無い。そんなことよりも夜叉神!」

 マルクスは夜叉神を呼んだ。

「ある程度、片付けた。後はお前たちでもなんとかなるだろ?」

「ああ。礼を言うぞ。イスリの悪魔」

「ふん! まだその呼び名は残っているのか?」

「ああ、もちろんだ。だが、今日からイスリの悪魔という名称は消えて、ロビナスの英雄に変わるだろう」

 夜叉神はマルクスを見て笑うと、すぐに険しい顔になりルーンの兵士に向き直った。

「モンスターは総崩れになった! この好機を逃すな! 今こそルーン大国の兵士の怖さをモンスターたちの体に刻んでやるぞ!」

 夜叉神は高らかに叫ぶと手を振り上げた。

「突撃~~!!!!」

「うおぉおおお~~~~!!!」

ルーン大国の兵士たちはすぐに隊列を整えると、丘の上から一気にモンスターに向かって駆け下りた。勢いに乗ったルーン大国の兵士の攻撃に生き残ったモンスターたちは逃げ出した。

「奴ら、逃げていくぞ!」

「よし! このまま一気に突っ込むぞーー!」

 勢いを取り戻した兵士たちはこのまま一気にモンスターを一網打尽いちもうだじんにできると確信した瞬間、兵士たちの目の前に黒い影が現れた。ルーン大国の兵士たちは今まで見たことがない黒い物体の前に立ち止まった。

「何だ? あれは?」

「さあ? わからない、初めて見た」

「敵か? 見たところ味方ではなさそうだが?」

 ルーン大国の兵士たちが困惑こんわくしていると、黒い影から黒い何かが飛んできた。黒い塊はものすごいスピードで目の前の兵士に当たると、たちまち兵士は干からびてミイラの様になり絶命した。

「何だあれは? 敵だ!!」

「まずい! 逃げろ!」

 ルーン大国の兵士たちは何かわからない黒い影から退却を始めた。その光景を遠くで見ていたルディーはマルクスに聞いた。

「何だ? 何があった?」

 マルクスは混乱しているルディーと逃げる兵士を見て呟いた。

「来たか?」

「ん? マルクス、あれを知っているのか?」

「ああ。知っていると言っても何者かは知らないが、以前もロビナスでモンスターと一緒に彼奴が現れた」

「何者だ? 魔法を使用しているところを見ると、ギルディアのエルフの誰かと思うが?」

「何者かは分から無い、強力な幻影魔法げんえいまほうの使い手で正体がわからないんだ」

「ん? 幻影魔法……」

「とりあえず彼奴を倒さないと」

「ああ。でも、大丈夫か? マルクス、まだ魔力が回復してないぞ?」

「これぐらい大丈夫だ。彼奴は俺達じゃないと倒せない」

「そ、そうだな。じゃ、行くぞ?」

「ああ」

 黒い影の魔法によってルーン大国の兵士たちは次々とミイラに変えられていった。退却していく兵士をかき分けるようにして、マルクスとルディーは黒い影に向かっていった。

 マルクスとルディーはすぐに黒い影の前に到着した。

 黒い影の正体はギルディアのデミタスだった。デミタスの目的はマルクスをこの場所におびき寄せて、魔力切れを起こさせることだった。そのためにありったけの魔力でモンスターを召喚してこの日が来るのを待ち望んでいた。デミタスには魔法が効かない、暗黒神あんこくしんアルソンバサラに魅了されていた。そのためあらゆる魔法に耐性を持っていたが、ただ一つデミタスを倒すことのできる者が存在する、それが勇者の神格スキルを持つマルクスだった。その肝心のマルクスは魔力切れを起こして今にも倒れそうになっていた。

 デミタスは魔力切れを起こしてフラフラになっているマルクスを見て歓喜した。

(今日こそマルクスを倒すことができる)

 デミタスは思い切り笑ったが、幻影魔法により顔はわからない。

「確かに強力な幻影魔法だな」

「ああ、いつも正体を隠してやがる」

 マルクスはルディーに小声で呟くと黒い影と対峙した。

「また会ったな」

 マルクスは黒い影に声をかけたが、この前と同じで反応は無かった。

「イリュージョンリリース(幻影解除)」

 ルディーが呪文を唱えると黒い影がゆっくりと消えていく

「ルディー? お前幻影魔法が使えるのか?」

「ああ。親父おやじが人間だからギルディアで暮らしていくと、何かとトラブルが多いからな、幻影魔法は親父のために覚えてたんだ」

「相変わらず家族思いだな」

「う、うるせーよ」

 ルディーは顔を真赤にして照れた。

 黒い影が徐々に消えて、そこには年配のエルフの姿があった。

「お前は? やっぱりエルフだったのか?」

 ルディーはマルクスを見た。マルクスは驚いた表情でそのエルフを見つめていた。

「あんただったのか? あんたがモンスターを操っていたのか?」

「マルクス。あのエルフを知っているのか?」

「ああ。彼奴はギルディアの中央司令部長官のデミタスという男で、昔から俺たち兄弟の面倒を見てくれていたエルフだ」

「中央司令部のエルフが悪魔憑あくまつきだったのか?」

 マルクスとルディーの二人はデミタスと対峙した。
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