80 / 117
〜兄弟の絆〜
悲しい決意
しおりを挟む
ミラはロビナスの家でボルダーのエルフ達に渡す食料を袋に詰めていた。
(今夜は何を作れば喜んでもらえるかしら?)
ミラの頬の傷もマルクスの回復呪文により、かなり目立たなくなってきた。おそらく今日あたりには完治できるだろう。だが完治してもミラはボルダーに通うことを決意していた。最近のミラとマルクス二人の関係はマルクスがミラの頬の傷を治す代わりに、ミラはマルクスにルーンの家庭料理を教えるという関係が続いていた。
そのため傷が治ったからといって、マルクスに会えなくなるという考えは微塵も感じていなかった。
(早く会いたい)
あと少しで、またマルクスに会えると思うと嬉しくてたまらなかった。上機嫌でボルダーに向かう準備をしているときに、家に誰かが訪ねて来た。
「ごめんください」
「はい」
ミラは家の玄関に行くとロビナス村の村長が立っていた。村長は白髪交じりの初老の男だった。とても優しい人で両親のいないミラとダンテを何かと気にかけてくれていた。二人もそんな村長を心から慕っていた。
ミラは村長の顔を確認した途端、何をしに尋ねてきたのか分った。
「ミラさん。この前の返事を聞かせてほしんだが?」
「村長さん、私はまだ結婚する気はありません」
数日前から村長は何度もミラの家に来ては、知り合いの男性との結婚を勧めてきた。隣村の男でダンテと同じルーンの兵士に従事している勇ましい男だった。
「悪い話じゃ無いと思うんだが、ダメかい?」
「ええ。私はまだ結婚するつもりはありません」
「彼と結婚すればダンテの出世も早くなるかもしれないよ」
「え? どうしてですか?」
「彼の父親はルーン大国の重役を努めていて、彼自身も若いのにルーン大国の兵士長を務めている将来を約束された男だよ。彼と親族関係となればきっとダンテもすぐに軍に認めてもらえるようになるぞ」
ミラはダンテの将来を思うと少し気持ちが揺らいでしまった。ミラから見てもダンテは早く出世したいと常々呟いていることを知っていた。その思いの根幹は早くミラを楽にさせてやりたい、自分の給金だけでミラを養いたいと思うダンテの心優しさからきているのだが、そこはミラにはあまり伝わっていなかった。
「で、でも……」
「何を迷うことがあるんだい? まさか? 誰か他に好きな男がいるのかい?」
「そ、それは……」
「なんだよ水臭い。それならそうと言ってくれればいいのに、じゃ、この見合い話は白紙にしよう」
「は……はい」
「わっはっはは、そうか、ミラさんにもやっとそう思える人ができたんだね。それでその幸せな男性はどこの誰だい?」
「そ、それが……」
ミラは村長に真実を言うか迷った。昔から私たちを自分の本当の子供のように接してくれた親代わりの人に嘘を言うのも忍びないと思い、本当のことを告げた。
「実は、マルクスというギルディアのエルフなんです」
「なに! ギルディアだと!!」
村長は急に険しい顔をするとミラを睨みつけた。
「し、正気なのか? ギルディアは敵国だぞ!」
「は、はい」
「だ、ダメだ! ダメだ! よりによってギルディアの奴を好きになるなんて! そんなこと軍に知れてみろ、それこそダンテの兵士としての立場も危うくなるぞ!」
「そ、そんな……」
村長は喜んでくれるに違いないと思っていたミラは悲しい顔で村長を見た。
「そんな顔で俺を見ないでくれよ。いいかいミラ。これ以上ギルディアの奴らに近づくのはやめるんだ」
「ど、どうしてですか?」
「これ以上奴らに会って、もし軍にロビナス村の者がギルディアにつながっていると、知られたらどうなると思う?」
「そ、それは……」
「これ以上関わると君だけじゃない。このロビナス村の者全員が敵国につながっていると疑われてしまう。いいか今日で会うのは最後だと奴らに説得するんだよ」
「今日で、最後ですか……」
「そうだ。奴らに逆恨みされて、この村を襲撃させないようにもう行かないと、話して納得してもらうんだよ」
「そんな、彼らが村を襲撃するようなことは、絶対にしません。その逆で彼らが……」
そこまで話してミラは思いとどまった、リュウ一味を倒したのはマルクスやルディーのギルディアのエルフだと知っているのは、ミラとダンテの二人だけだった。そのためロビナス村の人達はダンテがリュウ一味を倒したと信じていた。その後ギルディアの基地でマルクスとルディーにあったとき、二人からは絶対にあの日のことを口外しないように、ミラはお願いされていたのを思い出した。ミラの話が途切れて怪訝な顔をしながら村長は再び言い聞かすように話しだした。
「いいかい絶対に村のみんなには迷惑を掛けないように頼んだよ」
村長に言われて、ミラは村人全員に迷惑をかけるわけにはいかないと思い渋々はい、と返事をした。
「君たちのおかげでリュウ一味をこの村から追い出すことができて、二人には深く感謝しているんだ。いいかいそのエルフのことは忘れて隣村の男と結婚するんだよ」
「え? そ、それは……」
「大丈夫だよ。これからも私が責任を持って君たち二人を幸せにしてあげるから、私を信じてくれ」
村長は悲しそうな顔をしているミラの顔をこれ以上見ることはできないと思ったのだろう、それだけを言うと家から出ていった。村長が出ていってしばらくしたところで、入れ替わるように弟のダンテが帰ってきた。
「ただいま……?」
「おかえりなさい」
ダンテは姉のミラの顔が曇っていることを不思議に思った。
「家の前で村長さんとすれ違ったけど、何かあった?」
「え? ああ、大丈夫よ。あなたが気にすることじゃないわ」
「そう? なら良いけど……」
ダンテは疲れていたのでそれ以上は深く考えなかった。それにもうすぐ今夜もボルダーに行けば姉の機嫌は良くなるだろうと思った。それほどミラはマルクスに会えるのを楽しみにしていることが弟のダンテにはわかっていた。
二人は夜になってボルダーに向かった。ミラは今日で会うのが最後だと思うと、初めてボルダーへの足取りを重く感じた。
◇
ルディーは朝起きると食堂に向かった。ミラとダンテが毎晩食料を運んで来てくれるおかげで食料庫は潤沢になった。食堂につくとマルクスが思いつめた顔で席に座ってじっと朝食を睨んでいた。かなりの時間そうしていたのだろうせっかくの温かいスープはすっかり冷めきっていた。
食事も喉を通らない、そんな様子だった。
「マルクスどうした?」
「ああ、ルディーか?」
うつろな目をしたマルクスがルディーを見た。
「どうしたんだ? 顔が死んでるぞ」
「じ、実は。ミラのことが頭から離れないんだよ。寝ても覚めても彼女のことをずっと考えて夜も寝られない。俺は病気になったのか?」
「はあーーー?」
「やっぱり変だよな?」
「マルクス……お前……」
「これはどうすれば良くなるんだ?」
「彼女のことは忘れるんだ。それがいい」
「な、なぜそんなこと?」
「お前は彼女のことを愛してしまったんだよ」
「愛だと? これが人を好きになるという感情なのか?」
「ああそうだ。彼女のことが好きで、好きでたまらなくなっちまったんだよ」
「お、俺はどうすれば良いんだ?」
「俺達はギルディアでミラはルーン大国の人間だ。一緒になっても絶対に幸せにはなれない」
「そ、そんなことはやってみないとわからないじゃないか?」
「分かるんだよ。俺の両親がそうなのを知っているだろ」
ルディーの父親はルーン大国の人間で、母親がギルディアのエルフだった。そのためルディーはハーフエルフで小さい頃から随分と辛い目にあってきた。
「俺は両親を見てきたからそれが嫌というほど分かるんだ。俺の両親が結ばれたときは、まだ二国間の戦争もこれほど激化していなかった。それでもひどい迫害を俺たち家族は受けてきた。今はそれよりもずっと悲惨なことになるだろう」
「そ、そんな……、彼女を諦められない」
「諦めるんだ! ミラのことを思うならそれが良い。彼女の幸せを願うならこれ以上彼女と関わらないようにするんだ」
「それが本当に彼女の幸せになるのか?」
「ああそうだ。悪いことは言わないから、そうしたほうがお互いのためだ」
「そうか……」
マルクスはそう言うとかなりの時間思いつめた表情でじっと下を向いて考えた後、顔を上げると悲しそうな表情で少し笑った。
「わ、わかった。今夜で彼女と会うのは終わりにするよ」
マルクスはそう言うと食堂をあとにした。食堂を出ていくマルクスの寂しそうな背中を見てこれで本当に良かったのか。ルディーは焚き付けてしまった自分の言動を少し後悔した。
◇
マルクスはボルダーの基地の屋上で外を見ていた。ボルダーの基地は小高い丘の上にあり、周りが遠くまで見渡せる。敵の侵入を遠くから察知するための作りだが、ミラの到着を今か今かと待ちわびている自分にとってこの立地は都合がいいと思った。
しばらくすると遠くから台車を押しながら近づいてくる影が見えた。今すぐにでも駆けつけたい衝動を抑えながら二人を見ていた。二人の影の一人はダンテでその後ろで台車を押しているのはミラだった。ここからでも美しい黒髪が風で揺れているのが見える。
(早く会いたい)
逸る気持ちをグッと押し殺そうとするも、ミラが近づくにつれて愛しい気持ちが抑えられない。これが人を愛するという気持ちなのか。マルクスは自分がこんなにも情熱的に人を愛することができることに驚きを感じていた。
(本当に今日で最後にできるのだろうか? この気持を抑えて彼女に別れを告げることができるのだろうか?)
マルクスはルディーの言った『彼女の幸せを願うならこれ以上彼女と関わらないようにするんだ』という言葉が頭に浮かんできた。本当にルディーの言う通りだろう、彼女の幸せを望むならこれ以上、彼女と関わるのは良くないだろう。これ以上ミラを愛すればますます別れるのが辛くなる。
(今日で終わりにするんだ!)
マルクスは愛する気持ちを押し殺して、再び今日で最後にすることを心に誓うとミラに会うため基地の門に向かった。
(今夜は何を作れば喜んでもらえるかしら?)
ミラの頬の傷もマルクスの回復呪文により、かなり目立たなくなってきた。おそらく今日あたりには完治できるだろう。だが完治してもミラはボルダーに通うことを決意していた。最近のミラとマルクス二人の関係はマルクスがミラの頬の傷を治す代わりに、ミラはマルクスにルーンの家庭料理を教えるという関係が続いていた。
そのため傷が治ったからといって、マルクスに会えなくなるという考えは微塵も感じていなかった。
(早く会いたい)
あと少しで、またマルクスに会えると思うと嬉しくてたまらなかった。上機嫌でボルダーに向かう準備をしているときに、家に誰かが訪ねて来た。
「ごめんください」
「はい」
ミラは家の玄関に行くとロビナス村の村長が立っていた。村長は白髪交じりの初老の男だった。とても優しい人で両親のいないミラとダンテを何かと気にかけてくれていた。二人もそんな村長を心から慕っていた。
ミラは村長の顔を確認した途端、何をしに尋ねてきたのか分った。
「ミラさん。この前の返事を聞かせてほしんだが?」
「村長さん、私はまだ結婚する気はありません」
数日前から村長は何度もミラの家に来ては、知り合いの男性との結婚を勧めてきた。隣村の男でダンテと同じルーンの兵士に従事している勇ましい男だった。
「悪い話じゃ無いと思うんだが、ダメかい?」
「ええ。私はまだ結婚するつもりはありません」
「彼と結婚すればダンテの出世も早くなるかもしれないよ」
「え? どうしてですか?」
「彼の父親はルーン大国の重役を努めていて、彼自身も若いのにルーン大国の兵士長を務めている将来を約束された男だよ。彼と親族関係となればきっとダンテもすぐに軍に認めてもらえるようになるぞ」
ミラはダンテの将来を思うと少し気持ちが揺らいでしまった。ミラから見てもダンテは早く出世したいと常々呟いていることを知っていた。その思いの根幹は早くミラを楽にさせてやりたい、自分の給金だけでミラを養いたいと思うダンテの心優しさからきているのだが、そこはミラにはあまり伝わっていなかった。
「で、でも……」
「何を迷うことがあるんだい? まさか? 誰か他に好きな男がいるのかい?」
「そ、それは……」
「なんだよ水臭い。それならそうと言ってくれればいいのに、じゃ、この見合い話は白紙にしよう」
「は……はい」
「わっはっはは、そうか、ミラさんにもやっとそう思える人ができたんだね。それでその幸せな男性はどこの誰だい?」
「そ、それが……」
ミラは村長に真実を言うか迷った。昔から私たちを自分の本当の子供のように接してくれた親代わりの人に嘘を言うのも忍びないと思い、本当のことを告げた。
「実は、マルクスというギルディアのエルフなんです」
「なに! ギルディアだと!!」
村長は急に険しい顔をするとミラを睨みつけた。
「し、正気なのか? ギルディアは敵国だぞ!」
「は、はい」
「だ、ダメだ! ダメだ! よりによってギルディアの奴を好きになるなんて! そんなこと軍に知れてみろ、それこそダンテの兵士としての立場も危うくなるぞ!」
「そ、そんな……」
村長は喜んでくれるに違いないと思っていたミラは悲しい顔で村長を見た。
「そんな顔で俺を見ないでくれよ。いいかいミラ。これ以上ギルディアの奴らに近づくのはやめるんだ」
「ど、どうしてですか?」
「これ以上奴らに会って、もし軍にロビナス村の者がギルディアにつながっていると、知られたらどうなると思う?」
「そ、それは……」
「これ以上関わると君だけじゃない。このロビナス村の者全員が敵国につながっていると疑われてしまう。いいか今日で会うのは最後だと奴らに説得するんだよ」
「今日で、最後ですか……」
「そうだ。奴らに逆恨みされて、この村を襲撃させないようにもう行かないと、話して納得してもらうんだよ」
「そんな、彼らが村を襲撃するようなことは、絶対にしません。その逆で彼らが……」
そこまで話してミラは思いとどまった、リュウ一味を倒したのはマルクスやルディーのギルディアのエルフだと知っているのは、ミラとダンテの二人だけだった。そのためロビナス村の人達はダンテがリュウ一味を倒したと信じていた。その後ギルディアの基地でマルクスとルディーにあったとき、二人からは絶対にあの日のことを口外しないように、ミラはお願いされていたのを思い出した。ミラの話が途切れて怪訝な顔をしながら村長は再び言い聞かすように話しだした。
「いいかい絶対に村のみんなには迷惑を掛けないように頼んだよ」
村長に言われて、ミラは村人全員に迷惑をかけるわけにはいかないと思い渋々はい、と返事をした。
「君たちのおかげでリュウ一味をこの村から追い出すことができて、二人には深く感謝しているんだ。いいかいそのエルフのことは忘れて隣村の男と結婚するんだよ」
「え? そ、それは……」
「大丈夫だよ。これからも私が責任を持って君たち二人を幸せにしてあげるから、私を信じてくれ」
村長は悲しそうな顔をしているミラの顔をこれ以上見ることはできないと思ったのだろう、それだけを言うと家から出ていった。村長が出ていってしばらくしたところで、入れ替わるように弟のダンテが帰ってきた。
「ただいま……?」
「おかえりなさい」
ダンテは姉のミラの顔が曇っていることを不思議に思った。
「家の前で村長さんとすれ違ったけど、何かあった?」
「え? ああ、大丈夫よ。あなたが気にすることじゃないわ」
「そう? なら良いけど……」
ダンテは疲れていたのでそれ以上は深く考えなかった。それにもうすぐ今夜もボルダーに行けば姉の機嫌は良くなるだろうと思った。それほどミラはマルクスに会えるのを楽しみにしていることが弟のダンテにはわかっていた。
二人は夜になってボルダーに向かった。ミラは今日で会うのが最後だと思うと、初めてボルダーへの足取りを重く感じた。
◇
ルディーは朝起きると食堂に向かった。ミラとダンテが毎晩食料を運んで来てくれるおかげで食料庫は潤沢になった。食堂につくとマルクスが思いつめた顔で席に座ってじっと朝食を睨んでいた。かなりの時間そうしていたのだろうせっかくの温かいスープはすっかり冷めきっていた。
食事も喉を通らない、そんな様子だった。
「マルクスどうした?」
「ああ、ルディーか?」
うつろな目をしたマルクスがルディーを見た。
「どうしたんだ? 顔が死んでるぞ」
「じ、実は。ミラのことが頭から離れないんだよ。寝ても覚めても彼女のことをずっと考えて夜も寝られない。俺は病気になったのか?」
「はあーーー?」
「やっぱり変だよな?」
「マルクス……お前……」
「これはどうすれば良くなるんだ?」
「彼女のことは忘れるんだ。それがいい」
「な、なぜそんなこと?」
「お前は彼女のことを愛してしまったんだよ」
「愛だと? これが人を好きになるという感情なのか?」
「ああそうだ。彼女のことが好きで、好きでたまらなくなっちまったんだよ」
「お、俺はどうすれば良いんだ?」
「俺達はギルディアでミラはルーン大国の人間だ。一緒になっても絶対に幸せにはなれない」
「そ、そんなことはやってみないとわからないじゃないか?」
「分かるんだよ。俺の両親がそうなのを知っているだろ」
ルディーの父親はルーン大国の人間で、母親がギルディアのエルフだった。そのためルディーはハーフエルフで小さい頃から随分と辛い目にあってきた。
「俺は両親を見てきたからそれが嫌というほど分かるんだ。俺の両親が結ばれたときは、まだ二国間の戦争もこれほど激化していなかった。それでもひどい迫害を俺たち家族は受けてきた。今はそれよりもずっと悲惨なことになるだろう」
「そ、そんな……、彼女を諦められない」
「諦めるんだ! ミラのことを思うならそれが良い。彼女の幸せを願うならこれ以上彼女と関わらないようにするんだ」
「それが本当に彼女の幸せになるのか?」
「ああそうだ。悪いことは言わないから、そうしたほうがお互いのためだ」
「そうか……」
マルクスはそう言うとかなりの時間思いつめた表情でじっと下を向いて考えた後、顔を上げると悲しそうな表情で少し笑った。
「わ、わかった。今夜で彼女と会うのは終わりにするよ」
マルクスはそう言うと食堂をあとにした。食堂を出ていくマルクスの寂しそうな背中を見てこれで本当に良かったのか。ルディーは焚き付けてしまった自分の言動を少し後悔した。
◇
マルクスはボルダーの基地の屋上で外を見ていた。ボルダーの基地は小高い丘の上にあり、周りが遠くまで見渡せる。敵の侵入を遠くから察知するための作りだが、ミラの到着を今か今かと待ちわびている自分にとってこの立地は都合がいいと思った。
しばらくすると遠くから台車を押しながら近づいてくる影が見えた。今すぐにでも駆けつけたい衝動を抑えながら二人を見ていた。二人の影の一人はダンテでその後ろで台車を押しているのはミラだった。ここからでも美しい黒髪が風で揺れているのが見える。
(早く会いたい)
逸る気持ちをグッと押し殺そうとするも、ミラが近づくにつれて愛しい気持ちが抑えられない。これが人を愛するという気持ちなのか。マルクスは自分がこんなにも情熱的に人を愛することができることに驚きを感じていた。
(本当に今日で最後にできるのだろうか? この気持を抑えて彼女に別れを告げることができるのだろうか?)
マルクスはルディーの言った『彼女の幸せを願うならこれ以上彼女と関わらないようにするんだ』という言葉が頭に浮かんできた。本当にルディーの言う通りだろう、彼女の幸せを望むならこれ以上、彼女と関わるのは良くないだろう。これ以上ミラを愛すればますます別れるのが辛くなる。
(今日で終わりにするんだ!)
マルクスは愛する気持ちを押し殺して、再び今日で最後にすることを心に誓うとミラに会うため基地の門に向かった。
0
お気に入りに追加
105
あなたにおすすめの小説
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる