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徐々にやっていきましょう
65.加速していく…
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「お話を、お伺いします。まずは、貴方のお名前など聞かせてくださる?」
女性は、慌てて居住まいを正すと、
「私はメイラ・カリエナと申します。この子は、娘のシエラです。私と、イカス様の子です」
薄々、そうだろうとは思っていたので、ファランに衝撃は無い。
頭巾を取った今のシエラは、ハニーブロンドの髪にアイスブルーの瞳をもち、ぱっちりとした二重のキラキラした美幼女だった。どう見てもトレッツォ家の血を引いている。メイラが茶髪の緑眼なので、父親似なのも疑う余地がない。まぁ、本当に二人が母娘か、という部分は疑いの余地がある訳だが。
「私の記憶でも、貴方の名乗りでも、叔父が独身で有った事が解ります。内縁の関係だったのだろうと推察いたしますが、彼女が叔父の子供である事を証明できますか?」
「イカス様から、シエラが生まれた時に贈っていただいた蹄鉄があります!」
持っていますと彼女が出したものは、確かに貴族が依頼して作らせたのだと推察できる、金製の蹄鉄だった。宝石も使われている。イカスからシエラへ贈るという銘も入っていた。籍も入れていない相手に贈るには豪華なそれは、おそらく財産としての意味合いもあるだろう。
(入籍も認知もしていないけど、責任を取る気はあったという事?)
だからなんだ、という白けた思いではあるのだが。ファランは、おそらく叔父と母の間にも軋轢はあったのだろうな、と感じる。
「なるほど。つまり、シエラに叔父の嘆願を書かせるから、それを私に司法局へ提出して欲しい、という事かしら?」
「…は、はい! 然様でございます!」
僅かに体を捻って、クライフに声をかける。
「クライフさん。私には、この子が叔父に似ていると思えます。この蹄鉄も他人に贈る品には見えません。この二点で彼女と叔父が親子だと認定される事はありえますか?」
「司法局に申請を出し、双方から聞き取りを行い、面談をする根拠にはなると思います。どういった判断が出るかについては断定しかねますが」
「その判断は、叔父の判決に間に合いますか?」
「申請を出した時点で、嘆願が発生する事を考慮されますから、停止状態になるので、間に合います」
「ではすぐに申請を出しましょう」
クライフは、少し確認するようにファランを見つめ返したが、少し間を置いて頷いた。
「…お手伝いします。メイラ・カリエナさんでしたね?」
「はい!」
「シエラさんは貴方の籍に入っていますか?」
「はい、もちろんです!」
「では未成人後見としての書類をまず作りましょう。親子関係の認知を求める申請書も減刑嘆願書も、本人に書いてもらうのは難しいでしょうから」
大人達の小難しい話し合いなど一切関知せず、シエラはお菓子で口をいっぱいにして喜色満面だった。
「今から、司法局へ向かえますか?」
「はい! 行きます! どこでも!」
「やぁっ!」
メイラが勢いこんでクライフに答え、シエラの手を取ったのだが。
お菓子にすっかり魅了されていたシエラは、引かれた手と反対の手で菓子器を掴んでぶんぶんと音がしそうなほど首を横に振った。
「わがまま言わないで、ほら、行くわよ!」
「やぁ…」
お菓子ならいくらでも持って行って良いですよ、と言いかけて、ファランはクライフの方を向く。
「書類の申請にはシエラさんも居た方が良いのですか?」
「いえ、メイラさんとの親子関係は戸籍で証明できますから、本人が不在でも問題ありませんが」
「では、しばらくこちらでお預かりしましょう」
「え?!」
「司法局のようなところは幼い子には退屈でしょうし。こちらは構いませんので」
「ですが、そのようなご迷惑は!」
「迷惑などと、私とシエラさんは従姉妹になるのですから」
きょとんと自分を見上げるシエラに笑顔を返す。
(リアル天使可愛過ぎ!)
申し出の中には、幾ばくかのこんな可愛い幼女ならもう少し見ていたい、という欲望も混じっていたが。概ねは、本気の気遣いだ。ほぼ叔父との関係は真実だろうと信じられるし、それを抜きにしても幼女一人預かるくらいの親切さは持っていると振舞いたかった。
ファラン、ひいてはマーヴェラス家の印象を上向ける行動は、何を置いたとしても、積極的に取っていきたい。
「グローリア侯の仰る通り、司法居では少し時間がかかるでしょうから。お言葉に甘えられてはいかがですか?」
クライフからも重ねられた説得に、メイラは、頷くとシエラに良い子にするよう言い聞かせ、ファランへは何度も頭を下げ娘の身柄を頼んだ。
突然の事態で混乱したが、天使のように愛らしい幼女への着せ替えに夢中になるファラン。
ファランの幼い頃の服を着せられて、お菓子をもらっては満面の笑顔を浮かべるシエラに夢中になるカトレアを筆頭とした侍女達。
すっかり盛り上がった彼女達は、クライフとメイラが戻り、シエラが帰っていくのを名残惜しそうに見送った。
手続きについてクライフから報告を受けたファランは、去り際に言われた言葉で、ようやく思い出す。
「今日は練習になりませんでしたね」
「………然様ですね」
ろくに復習も出来なかった、どころか、結局シエラに夢中になっていた訳だが諸々やり直すと言ってた準備がどうなったのか、という事も解らない。
「では、また明日参ります」
「お願いします」
とはいえ、徹夜で特訓したいのですが、などという訳にもいかない。睡眠不足は美容の大敵だ。
(もっと、余裕を持って生きていきたいのに…)
ファランは、明日一日で、私は踊れると自信を持って言えるようにならねばいけなくなった。
女性は、慌てて居住まいを正すと、
「私はメイラ・カリエナと申します。この子は、娘のシエラです。私と、イカス様の子です」
薄々、そうだろうとは思っていたので、ファランに衝撃は無い。
頭巾を取った今のシエラは、ハニーブロンドの髪にアイスブルーの瞳をもち、ぱっちりとした二重のキラキラした美幼女だった。どう見てもトレッツォ家の血を引いている。メイラが茶髪の緑眼なので、父親似なのも疑う余地がない。まぁ、本当に二人が母娘か、という部分は疑いの余地がある訳だが。
「私の記憶でも、貴方の名乗りでも、叔父が独身で有った事が解ります。内縁の関係だったのだろうと推察いたしますが、彼女が叔父の子供である事を証明できますか?」
「イカス様から、シエラが生まれた時に贈っていただいた蹄鉄があります!」
持っていますと彼女が出したものは、確かに貴族が依頼して作らせたのだと推察できる、金製の蹄鉄だった。宝石も使われている。イカスからシエラへ贈るという銘も入っていた。籍も入れていない相手に贈るには豪華なそれは、おそらく財産としての意味合いもあるだろう。
(入籍も認知もしていないけど、責任を取る気はあったという事?)
だからなんだ、という白けた思いではあるのだが。ファランは、おそらく叔父と母の間にも軋轢はあったのだろうな、と感じる。
「なるほど。つまり、シエラに叔父の嘆願を書かせるから、それを私に司法局へ提出して欲しい、という事かしら?」
「…は、はい! 然様でございます!」
僅かに体を捻って、クライフに声をかける。
「クライフさん。私には、この子が叔父に似ていると思えます。この蹄鉄も他人に贈る品には見えません。この二点で彼女と叔父が親子だと認定される事はありえますか?」
「司法局に申請を出し、双方から聞き取りを行い、面談をする根拠にはなると思います。どういった判断が出るかについては断定しかねますが」
「その判断は、叔父の判決に間に合いますか?」
「申請を出した時点で、嘆願が発生する事を考慮されますから、停止状態になるので、間に合います」
「ではすぐに申請を出しましょう」
クライフは、少し確認するようにファランを見つめ返したが、少し間を置いて頷いた。
「…お手伝いします。メイラ・カリエナさんでしたね?」
「はい!」
「シエラさんは貴方の籍に入っていますか?」
「はい、もちろんです!」
「では未成人後見としての書類をまず作りましょう。親子関係の認知を求める申請書も減刑嘆願書も、本人に書いてもらうのは難しいでしょうから」
大人達の小難しい話し合いなど一切関知せず、シエラはお菓子で口をいっぱいにして喜色満面だった。
「今から、司法局へ向かえますか?」
「はい! 行きます! どこでも!」
「やぁっ!」
メイラが勢いこんでクライフに答え、シエラの手を取ったのだが。
お菓子にすっかり魅了されていたシエラは、引かれた手と反対の手で菓子器を掴んでぶんぶんと音がしそうなほど首を横に振った。
「わがまま言わないで、ほら、行くわよ!」
「やぁ…」
お菓子ならいくらでも持って行って良いですよ、と言いかけて、ファランはクライフの方を向く。
「書類の申請にはシエラさんも居た方が良いのですか?」
「いえ、メイラさんとの親子関係は戸籍で証明できますから、本人が不在でも問題ありませんが」
「では、しばらくこちらでお預かりしましょう」
「え?!」
「司法局のようなところは幼い子には退屈でしょうし。こちらは構いませんので」
「ですが、そのようなご迷惑は!」
「迷惑などと、私とシエラさんは従姉妹になるのですから」
きょとんと自分を見上げるシエラに笑顔を返す。
(リアル天使可愛過ぎ!)
申し出の中には、幾ばくかのこんな可愛い幼女ならもう少し見ていたい、という欲望も混じっていたが。概ねは、本気の気遣いだ。ほぼ叔父との関係は真実だろうと信じられるし、それを抜きにしても幼女一人預かるくらいの親切さは持っていると振舞いたかった。
ファラン、ひいてはマーヴェラス家の印象を上向ける行動は、何を置いたとしても、積極的に取っていきたい。
「グローリア侯の仰る通り、司法居では少し時間がかかるでしょうから。お言葉に甘えられてはいかがですか?」
クライフからも重ねられた説得に、メイラは、頷くとシエラに良い子にするよう言い聞かせ、ファランへは何度も頭を下げ娘の身柄を頼んだ。
突然の事態で混乱したが、天使のように愛らしい幼女への着せ替えに夢中になるファラン。
ファランの幼い頃の服を着せられて、お菓子をもらっては満面の笑顔を浮かべるシエラに夢中になるカトレアを筆頭とした侍女達。
すっかり盛り上がった彼女達は、クライフとメイラが戻り、シエラが帰っていくのを名残惜しそうに見送った。
手続きについてクライフから報告を受けたファランは、去り際に言われた言葉で、ようやく思い出す。
「今日は練習になりませんでしたね」
「………然様ですね」
ろくに復習も出来なかった、どころか、結局シエラに夢中になっていた訳だが諸々やり直すと言ってた準備がどうなったのか、という事も解らない。
「では、また明日参ります」
「お願いします」
とはいえ、徹夜で特訓したいのですが、などという訳にもいかない。睡眠不足は美容の大敵だ。
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