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悪役令嬢、婚約者辞めるってよ
4.断罪の部屋
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壇上の二人は、震える体を支えるように互いに身を寄せ合っている。
(………いや、怯えてないで、具体的に言ってよ。頷くからさ、私。てか、どんだけ恐怖の対象なんだよファラン。何やったんだよファラン。思い出せる範囲じゃ、ヒロインはともかく王子には怯えられる内容ではないと思うんだけどな)
しばらくどうしたものかと二人を見つめていたファランだったが、意を決したアイラックが指差しながら、己を鼓舞するようにやや大きな声で話し始める。
「君が………君がやった事は!」
(いや、言い直しても君なのかよ!)
「ここに居るテスティア嬢への嫌がらせだ!」
(いや、だから、その内容を具体的に例示しろって言ってんだが、ああもう面倒臭いな!)
「然様でございますか。解りました」
ファランはもう何だかツッコミ疲れてしまった。そもそも朝から精神的疲労が尋常ではないのだ。もう付き合いきれない。
「だから! …え?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかったのだろう、更に言い募ろうとしていたアイラックの言葉が止まる。
(もういいよ、疲れたよ。このまま卒業式始まらない事の方が申し訳なくなってきたよ私は)
壇の左右に展開している席に見える豪華な服を着た成人男女方々の存在にも、ちょっと疲れてしまった。なまじ小説での展開を知っているだけに、さっさと卒業式済ませてしまえよもう、という自棄っぱちな気持ちが勝っていく。
「解ったと申し上げました」
アイラックに向かっての言葉を切って、近くにいた衛兵へ声をかける。
「えっと、衛兵さん? そちらの、証拠とやら共々、私をどこか別室に案内してちょうだい。来賓の方々の時間を取らせるような事ではないでしょう」
「はっ、はい。あ、いえ」
思わず返事をした衛兵は、慌てて否定してアイラックの方を伺った。
見られたアイラックの方も慌てた様子で首を縦に振った。
「では、私はこれにて失礼いたします」
証拠を持った衛兵の先導で、ファランは卒業式の会場を去る。応接室のような場所に案内され、証拠共々そこに放置された。いや、正確には審判のための人員が来るから待っているよう言われたのだが。
(はぁ、何か…小説の内容を完全に無視する展開にしてしまった………いや、でも、向こうの出方がそもそもおかしかったのが悪いんだよ、あれは。もう。まぁ、いいや。とにかく私の悪事とやらを確認しますかね)
ファランは自身がテスティアへ行った嫌がらせとやらの内容を確認し始める。
何度も言うように、大人しく断罪される気はあるが、身に覚えの無い罪まで被る気は無いのだ。
(まぁ、一応王子に向かって暴言を吐かなかったら、牢屋ルートは回避できただろう。私個人の考えならファランは断然ギルティだけど、この国の法に照らし合わせてこの嫌がらせ行為は刑にどうこうって話にはならないんだよね。単純にファランの社会的何かが落ちるだけ。金持ち貴族だもん。金銭面で不自由しないなら、ぼっちで日陰な生活くらい私は余裕だしぃ…って)
「あん?」
思わずヤンキーの威嚇用第一声みたいなものが出てしまった。
(何これ、全く身に覚えないんだけど…あーやっぱこの際だからって悪事が盛られてんな)
ファランは備え付けの筆記用具を使って、身に覚えの無い悪事と、完全に自分がやらかしてる悪事を分類していく。その対比は半々くらいだ。
(おいおいおい…確かにファランは八つ当たりばかりで自尊心が高くて執着と嫉妬でヒロインいじめたダメッ娘だが、生憎私になった以上身に覚えの無い罪までは背負う気無いぞ。てか、ファランの罪背負わされるのだってギリギリ飲み込んだのに、それ以上とか無理だっつの。ったく、ここぞとばかりに落とそうとしてんなぁ…)
イライラしながらも分類作業を進めていると、扉を開け放したまま両脇に衛兵が立っている出入り口から、正装姿の青年が入室してきた。
「この度、証拠の審査と貴殿の面談を行う事になりました。司法局第一分室の査察官ウォルター・スケイルと申します」
「はぁ…然様で…どうぞよしなに」
(ものすごい表情筋死んだ人来たな。美形ではないけど、キリっとしたハンサム系なのに、もったいないレベルの鉄仮面っぷりだわ。喋り方も何か、感情ってものが全く見えないし…初期の自動音声システムかよ)
ファランもそこそこ表情筋が死んだような無表情状態なのだが、それには気付かず相手の表情筋にツッコミを入れる。そうして、一瞬止まった自分の手を再び動かし始めた。
「その書付は何ですか?」
手元を注視する気配に、手は止めず、視線も落としたまま答える。
「身に覚えの有るものと無いものが混在しているので、分類しています」
「なるほど。こちらは、既に確認済みですか」
「ええ」
「拝見しても?」
「お好きに」
それが仕事なのだろうから勝手にすれば良いのに、と思いつつせっせと手を動かし続ける。自分の罪を軽くするための作業と思えば、手を抜くわけには行かなかった。
(うぇい、終わった終わったぁ)
誰もいなければ諸手を上げ大声で叫んだところだが、生憎人目があるので、ファランはそっとペンを置く。ただ、ずっと屈んでいたため首と肩が痛いので、そちらはしっかりと揉んだ。
(ヒキボッチ生活は苦じゃないけど…この体はヤバイ。やっぱ痩せないと、色々不自由過ぎ)
自ら課した苦行から脱却し、ファランは控えめに腰を伸ばしながら、対面で似たような事を続けているウォルターを見た。
(………いや、怯えてないで、具体的に言ってよ。頷くからさ、私。てか、どんだけ恐怖の対象なんだよファラン。何やったんだよファラン。思い出せる範囲じゃ、ヒロインはともかく王子には怯えられる内容ではないと思うんだけどな)
しばらくどうしたものかと二人を見つめていたファランだったが、意を決したアイラックが指差しながら、己を鼓舞するようにやや大きな声で話し始める。
「君が………君がやった事は!」
(いや、言い直しても君なのかよ!)
「ここに居るテスティア嬢への嫌がらせだ!」
(いや、だから、その内容を具体的に例示しろって言ってんだが、ああもう面倒臭いな!)
「然様でございますか。解りました」
ファランはもう何だかツッコミ疲れてしまった。そもそも朝から精神的疲労が尋常ではないのだ。もう付き合いきれない。
「だから! …え?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかったのだろう、更に言い募ろうとしていたアイラックの言葉が止まる。
(もういいよ、疲れたよ。このまま卒業式始まらない事の方が申し訳なくなってきたよ私は)
壇の左右に展開している席に見える豪華な服を着た成人男女方々の存在にも、ちょっと疲れてしまった。なまじ小説での展開を知っているだけに、さっさと卒業式済ませてしまえよもう、という自棄っぱちな気持ちが勝っていく。
「解ったと申し上げました」
アイラックに向かっての言葉を切って、近くにいた衛兵へ声をかける。
「えっと、衛兵さん? そちらの、証拠とやら共々、私をどこか別室に案内してちょうだい。来賓の方々の時間を取らせるような事ではないでしょう」
「はっ、はい。あ、いえ」
思わず返事をした衛兵は、慌てて否定してアイラックの方を伺った。
見られたアイラックの方も慌てた様子で首を縦に振った。
「では、私はこれにて失礼いたします」
証拠を持った衛兵の先導で、ファランは卒業式の会場を去る。応接室のような場所に案内され、証拠共々そこに放置された。いや、正確には審判のための人員が来るから待っているよう言われたのだが。
(はぁ、何か…小説の内容を完全に無視する展開にしてしまった………いや、でも、向こうの出方がそもそもおかしかったのが悪いんだよ、あれは。もう。まぁ、いいや。とにかく私の悪事とやらを確認しますかね)
ファランは自身がテスティアへ行った嫌がらせとやらの内容を確認し始める。
何度も言うように、大人しく断罪される気はあるが、身に覚えの無い罪まで被る気は無いのだ。
(まぁ、一応王子に向かって暴言を吐かなかったら、牢屋ルートは回避できただろう。私個人の考えならファランは断然ギルティだけど、この国の法に照らし合わせてこの嫌がらせ行為は刑にどうこうって話にはならないんだよね。単純にファランの社会的何かが落ちるだけ。金持ち貴族だもん。金銭面で不自由しないなら、ぼっちで日陰な生活くらい私は余裕だしぃ…って)
「あん?」
思わずヤンキーの威嚇用第一声みたいなものが出てしまった。
(何これ、全く身に覚えないんだけど…あーやっぱこの際だからって悪事が盛られてんな)
ファランは備え付けの筆記用具を使って、身に覚えの無い悪事と、完全に自分がやらかしてる悪事を分類していく。その対比は半々くらいだ。
(おいおいおい…確かにファランは八つ当たりばかりで自尊心が高くて執着と嫉妬でヒロインいじめたダメッ娘だが、生憎私になった以上身に覚えの無い罪までは背負う気無いぞ。てか、ファランの罪背負わされるのだってギリギリ飲み込んだのに、それ以上とか無理だっつの。ったく、ここぞとばかりに落とそうとしてんなぁ…)
イライラしながらも分類作業を進めていると、扉を開け放したまま両脇に衛兵が立っている出入り口から、正装姿の青年が入室してきた。
「この度、証拠の審査と貴殿の面談を行う事になりました。司法局第一分室の査察官ウォルター・スケイルと申します」
「はぁ…然様で…どうぞよしなに」
(ものすごい表情筋死んだ人来たな。美形ではないけど、キリっとしたハンサム系なのに、もったいないレベルの鉄仮面っぷりだわ。喋り方も何か、感情ってものが全く見えないし…初期の自動音声システムかよ)
ファランもそこそこ表情筋が死んだような無表情状態なのだが、それには気付かず相手の表情筋にツッコミを入れる。そうして、一瞬止まった自分の手を再び動かし始めた。
「その書付は何ですか?」
手元を注視する気配に、手は止めず、視線も落としたまま答える。
「身に覚えの有るものと無いものが混在しているので、分類しています」
「なるほど。こちらは、既に確認済みですか」
「ええ」
「拝見しても?」
「お好きに」
それが仕事なのだろうから勝手にすれば良いのに、と思いつつせっせと手を動かし続ける。自分の罪を軽くするための作業と思えば、手を抜くわけには行かなかった。
(うぇい、終わった終わったぁ)
誰もいなければ諸手を上げ大声で叫んだところだが、生憎人目があるので、ファランはそっとペンを置く。ただ、ずっと屈んでいたため首と肩が痛いので、そちらはしっかりと揉んだ。
(ヒキボッチ生活は苦じゃないけど…この体はヤバイ。やっぱ痩せないと、色々不自由過ぎ)
自ら課した苦行から脱却し、ファランは控えめに腰を伸ばしながら、対面で似たような事を続けているウォルターを見た。
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