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悪役令嬢、婚約者辞めるってよ
3.断罪の場
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断罪を受ける側のファランは特に準備することもない。
卒業式の時間に合わせて登校し、会場に足を踏み入れ、人垣で作られた道を通った。
(針の筵ってやつね…おかしくなってもファランって事かしら? なんか全然他人の視線が気にならない。ミキだったらこんな場所には立てないだろうから、やっぱり私はファランではあるのか)
現実感が持てていない説も捨てきれない、と冷静な自分が突っ込んでくるが、一先ず足を震わせたり表情を固くしたりする事もなく歩けている。
「ファラン・マーヴェラス」
足を止めて見上げるようにした正面の壇上には、既に断罪をする側の二人が揃っていた。
王子、アイラック・ユグルシア。
ヒロイン、テスティア・ニールベス。
艶のあるシルバーの髪にサファイアの瞳、八頭身で股下が体の半分以上はあろうかというスタイル。十六歳という大人になりきれていない体は少し細いが、制服とも相まって王子感に一役買っていた。
そんな王子との身長差は、ヒール五センチを含めて十センチと少しで、ふんわりとした癖のあるブロンドヘアーに琥珀の瞳。白い制服をバッチリと着こなす肢体は、愛らしいベビーフェイスに似合わぬたわわな実りとギュッとしまったウエストで、ふんわりした上半身に比して、下半身はすらっとしている。
(うっひゃあ~…小説の描写では美術館の絵画のような二人ってなってたけど。これは美しい!)
「何か?」
傲岸不遜が服を着て歩いているファランの体は、思考とはあまり関係無く、条件反射のように顎を上げ、半眼で睨むように相手を見つめ、低い声で返事をした。
(リアル王子と姫に動揺していたはずなのに、すごいな、ファラン。全然尊敬する気はないけど)
この状況でも動揺が見られないファランに、苦虫を噛み潰したような表情をしたのはアイラックで、怯えたように震えたのはテスティアだ。
(まぁ、ファランは加害者であっちは被害者だもんね、怯えるよね。だがその恐怖を乗り越えて断罪をするからこその胸熱! 折れないファランに攻撃されるヒロインを支える王子との深い絆はプライスレスかつ心ときめくファンタジー)
そんなつもりではなかったのだが、この後の二人の輝かしい未来を思い出して、ファランは思わず微笑んでしまった。この状況で、鎧を脱いだかのようなリラックスした微笑みを浮かべる事が、どれほど周りに凶悪さを印象付けるかなど、気付かずに。
「君…お前の悪事は全て明々白々だ!」
「はぁ、然様でございますか?」
(あれ? 出だしってそんな台詞だったっけ? っていうか、君って言いかけて言い直したな王子。こんな舞台用意するならもうちっと気合入れてイメトレしとけよ)
反射的に出た言葉と、ファランの内心が、絶妙にリンクする。
尻上のトーンで言葉を告げてから片眉を上げて僅かに首を傾げる様は、先の台詞の裏に、
「だから何? それが何? この私に向かってお前って、どういう了見なの?」
と、見えない文字を浮かび上がらせるようだ。
無論。今のファランにそんな気はない。朝に決意した通り、大人しく断罪されて、婚約破棄されて、すごすごと退場するつもりだ。だが、分厚い脂肪の壁に阻まれて、本人の内心は全く表に出てくれていなかった。
「証拠もここに揃っている!」
「は?」
(いや、証拠早ぇよ)
明らかに眉間に皺を寄せたファランに、壇上で身を寄せ合っている二人がビクつく。
(まずは言質を取るための問いかけをして、否定したら証拠で追い詰めるべきだろう)
細かな台詞に自信はないが、展開くらいははっきり覚えていた。小説の中では、ヒロインが受けた嫌がらせを言葉で確認するのだ、それで言い訳するファランがいかに身勝手かが浮き彫りになっていく。そして、ファランの言い訳がいよいよ尽きそうなところで、物証を提示して、追い詰めていたはずだ。
(あくまで小説上の説明用構成ってこと? いや、でも普通に考えて、追い詰めるなら小出しにネチネチした方が精神を削れるはずでしょう。いや、まぁ、ファランの精神の超合金度合いは普通ではないと思うけどさ)
ファランの疑惑を素直に乗せた顔面は、ぐっと顔の中央にパーツを寄せるような分かり易い顰めっ面になっていく。
(てか、あれ? 気のせい? なんか、王子及び腰じゃない? いや、お前が引いたらヒロイン怖くて困っちゃうだろうが、しゃんとしろや!)
完全なるアウェーの存在であるくせに、相手をホームな気持ちで応援しているファランは、思わず叱咤激励の気持ちを込めてアイラックを睨んだ。
「ひっ!」
無論アイラックにそんな応援の気持ちは届かない。
「衛兵! 彼女を捕えろ!」
怯え切ったアイラックは思わずそう口走った。
(はぁ?!)
ファランとしては、何故そこで衛兵投入なのだ、という疑問でいっぱいだ。
「触らないでくださる? 別に暴れも逃げもいたしませんから」
きびきびとした動作で、だが表情には戸惑いを浮かべた衛兵が二人、ファランに近付くのを手で制して、暴れはしないと明言した。
(何これ、別件逮捕みたいなあれ? 公務執行妨害だ的な方向性に持っていきたいの? 別にちゃんと罪状を上げ連ねてくれればハイハイって頷くつもりだよ?)
何の罪を断されているのか解らないので、処刑になりそうな変な冤罪を背負い込まないために、頷かずにいるファランだが。彼らが証拠を揃えたという罪状を述べてくれれば、頷くつもりなのだ。なのに、展開が早過ぎるため、公式の場で暴れたというような罪をおっ被されて処刑台に送られようとしているのではないか、と内心で震えた。
「先程から、悪事だの証拠だのと仰るだけで、一切具体的な内容が聞こえてきませんが、私にいったいどんな罪を被せたいのです?」
こうなったら、こっちから引き出すしかない。そう切り替えて、ファランは問いかけた。
卒業式の時間に合わせて登校し、会場に足を踏み入れ、人垣で作られた道を通った。
(針の筵ってやつね…おかしくなってもファランって事かしら? なんか全然他人の視線が気にならない。ミキだったらこんな場所には立てないだろうから、やっぱり私はファランではあるのか)
現実感が持てていない説も捨てきれない、と冷静な自分が突っ込んでくるが、一先ず足を震わせたり表情を固くしたりする事もなく歩けている。
「ファラン・マーヴェラス」
足を止めて見上げるようにした正面の壇上には、既に断罪をする側の二人が揃っていた。
王子、アイラック・ユグルシア。
ヒロイン、テスティア・ニールベス。
艶のあるシルバーの髪にサファイアの瞳、八頭身で股下が体の半分以上はあろうかというスタイル。十六歳という大人になりきれていない体は少し細いが、制服とも相まって王子感に一役買っていた。
そんな王子との身長差は、ヒール五センチを含めて十センチと少しで、ふんわりとした癖のあるブロンドヘアーに琥珀の瞳。白い制服をバッチリと着こなす肢体は、愛らしいベビーフェイスに似合わぬたわわな実りとギュッとしまったウエストで、ふんわりした上半身に比して、下半身はすらっとしている。
(うっひゃあ~…小説の描写では美術館の絵画のような二人ってなってたけど。これは美しい!)
「何か?」
傲岸不遜が服を着て歩いているファランの体は、思考とはあまり関係無く、条件反射のように顎を上げ、半眼で睨むように相手を見つめ、低い声で返事をした。
(リアル王子と姫に動揺していたはずなのに、すごいな、ファラン。全然尊敬する気はないけど)
この状況でも動揺が見られないファランに、苦虫を噛み潰したような表情をしたのはアイラックで、怯えたように震えたのはテスティアだ。
(まぁ、ファランは加害者であっちは被害者だもんね、怯えるよね。だがその恐怖を乗り越えて断罪をするからこその胸熱! 折れないファランに攻撃されるヒロインを支える王子との深い絆はプライスレスかつ心ときめくファンタジー)
そんなつもりではなかったのだが、この後の二人の輝かしい未来を思い出して、ファランは思わず微笑んでしまった。この状況で、鎧を脱いだかのようなリラックスした微笑みを浮かべる事が、どれほど周りに凶悪さを印象付けるかなど、気付かずに。
「君…お前の悪事は全て明々白々だ!」
「はぁ、然様でございますか?」
(あれ? 出だしってそんな台詞だったっけ? っていうか、君って言いかけて言い直したな王子。こんな舞台用意するならもうちっと気合入れてイメトレしとけよ)
反射的に出た言葉と、ファランの内心が、絶妙にリンクする。
尻上のトーンで言葉を告げてから片眉を上げて僅かに首を傾げる様は、先の台詞の裏に、
「だから何? それが何? この私に向かってお前って、どういう了見なの?」
と、見えない文字を浮かび上がらせるようだ。
無論。今のファランにそんな気はない。朝に決意した通り、大人しく断罪されて、婚約破棄されて、すごすごと退場するつもりだ。だが、分厚い脂肪の壁に阻まれて、本人の内心は全く表に出てくれていなかった。
「証拠もここに揃っている!」
「は?」
(いや、証拠早ぇよ)
明らかに眉間に皺を寄せたファランに、壇上で身を寄せ合っている二人がビクつく。
(まずは言質を取るための問いかけをして、否定したら証拠で追い詰めるべきだろう)
細かな台詞に自信はないが、展開くらいははっきり覚えていた。小説の中では、ヒロインが受けた嫌がらせを言葉で確認するのだ、それで言い訳するファランがいかに身勝手かが浮き彫りになっていく。そして、ファランの言い訳がいよいよ尽きそうなところで、物証を提示して、追い詰めていたはずだ。
(あくまで小説上の説明用構成ってこと? いや、でも普通に考えて、追い詰めるなら小出しにネチネチした方が精神を削れるはずでしょう。いや、まぁ、ファランの精神の超合金度合いは普通ではないと思うけどさ)
ファランの疑惑を素直に乗せた顔面は、ぐっと顔の中央にパーツを寄せるような分かり易い顰めっ面になっていく。
(てか、あれ? 気のせい? なんか、王子及び腰じゃない? いや、お前が引いたらヒロイン怖くて困っちゃうだろうが、しゃんとしろや!)
完全なるアウェーの存在であるくせに、相手をホームな気持ちで応援しているファランは、思わず叱咤激励の気持ちを込めてアイラックを睨んだ。
「ひっ!」
無論アイラックにそんな応援の気持ちは届かない。
「衛兵! 彼女を捕えろ!」
怯え切ったアイラックは思わずそう口走った。
(はぁ?!)
ファランとしては、何故そこで衛兵投入なのだ、という疑問でいっぱいだ。
「触らないでくださる? 別に暴れも逃げもいたしませんから」
きびきびとした動作で、だが表情には戸惑いを浮かべた衛兵が二人、ファランに近付くのを手で制して、暴れはしないと明言した。
(何これ、別件逮捕みたいなあれ? 公務執行妨害だ的な方向性に持っていきたいの? 別にちゃんと罪状を上げ連ねてくれればハイハイって頷くつもりだよ?)
何の罪を断されているのか解らないので、処刑になりそうな変な冤罪を背負い込まないために、頷かずにいるファランだが。彼らが証拠を揃えたという罪状を述べてくれれば、頷くつもりなのだ。なのに、展開が早過ぎるため、公式の場で暴れたというような罪をおっ被されて処刑台に送られようとしているのではないか、と内心で震えた。
「先程から、悪事だの証拠だのと仰るだけで、一切具体的な内容が聞こえてきませんが、私にいったいどんな罪を被せたいのです?」
こうなったら、こっちから引き出すしかない。そう切り替えて、ファランは問いかけた。
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