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「おい、起きろ、ルイ」
「うぁい」
 アクスに肩を揺すられて、俺は頭をガクガクしながら返事をした。
 場所はアクスの部屋だ。
 もう入学から八ヶ月。
 あらかたのカプがまとまり、ひたすらいちゃつきだした近頃、俺は中々ハードな日々を送っていた。早朝は図書館に向かい、日中は当然ながら授業を受け、その合間で様々な場所に駆け回る。深夜は同じ寮のセナとミレイ達を見守ったり、聞き耳立てたり、相変わらず時々やってきてあれこれしてるアデルとカイルにも注意を払ったりしていた。
 日中はニアさんと手分けしているとはいえ寮では一人なもんだから、結構忙しくて、というか、精神的な興奮が激しいのでオフになると眠気が酷いのだ。ニアさん曰くアクスとクルスのストーリーが動きだすのはもうそろそろらしいけど。まだなので、ついアクスの側ではオフになりがちなんだよ。
「いや、起きろって言ってんだが」
「うぇい」
「………」
 ああ、このベッド、シャンプーと同じシトラスの匂いがする。まぁ、そりゃそうか、シャンプーで頭洗ってここで寝るんだもんな。うん。いい匂いだ。おやすみなさい。
 めっちゃ起こされたんだけど、起きれなくて、アクスのベッド占領した俺の意識が、次に覚醒した時。
 抑えた声でアクスと誰かが会話しているのが聞こえた。
「そうか。それで? お前はどうするつもりなんだ?」
「どうも何も…どうしようもないよ」
 いつかのような、告白とかそういう甘い感じではないらしい。
 俺はのそりとベッドから這い出して、暗い寝室の扉に近付いてぺたりと耳を扉にくっ付けた。
「私の事は今更だ、それより、お前はどうなんだ?」
「俺の方こそ今更だな。まぁ、あと一年、やれるだけはやってみるさ」
「そうか」
 何だろう。
 この声聞き覚えが…ってああ!
 クルスじゃん。
 この声クルスだよ。
 え、嘘。やばい、もしかして俺起こされた時に帰らなかったから二人のお邪魔虫になってるんじゃ。
 そろそろだって聞いてたけど、まだだと思って油断してた。でも、考えてみればイベント以前からアデルとカイルだってできてた訳で、此処だってもう繋がりはあるんだからいつナニがあってもおかしくない訳で、ってもうやっちまったぁ。
 俺の焦燥感が漏れ出してしまったのかどうかは解らないが。
 急に耳を付けていた扉が開いた。
 かなり絞ったランプの灯りを後光に、アクスが立って見下ろしている。
「えへ」
「お前なぁ」
 だって盗み聞きが趣味なんだもん。とか言う空気ではなさそうだな。本気で呆れられとる。
 額を押さえるアクスの背後から、クルスの小さな笑い声が聞こえた。
「お邪魔みたいだから、私は帰るよ」
「ああ、解った」
 え、待って、むしろお邪魔なのは俺だろうから俺が帰ります、って思ってすぐ口に出す。
「すみません。俺が帰りますから」
「アクスに泊めてもらった方がいいと思うよ。もう寮の門限が過ぎてるから。じゃあね」
「え」
「じゃあな」
 慌てて時計を確認する俺を残して、クルスは出て行ってしまう。
「なんかすみません」
「ベッドを占領した件か? 親切に起こしてやったのに起きなかった件か?」
「…両方ともです」
「端に寄ってくれればそれで良いし、疲れてたんだろ。怒ってねぇよ」
 アクスは溜息混じりに笑って、俺の頭を撫でながらそう言った。
 兄貴、俺一生付いて行きます。とか、感動する場面かもしれないけど、一生付いてっちゃうと、アクスとクルスがあれこれできないだろうから、俺は無言で頭を撫でられるにとどめた。
 ていうか、アクスの手が温かくて、ぶっちゃけ眠気がまたそこまで来ていたんだわ。本当、申し訳ない。
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