そうだ、壁になりたい ～ ゲーム世界に転生した俺 ～

1.まずは軽く自己紹介から

　あまりに長くて正式ゲームタイトルを思い出せないので、恋ロマという略称で話を進めよう。
　恋ロマは、同人ソフトの18禁乙女ゲームだ。
　メカクレ系ヒロインは髪型と髪色が数パターンから任意に設定できるスタイルだった。俺は自己投影系ゲームはデフォルト推奨派だったので、ピンクのストレートロングにしていた。まぁ、そんな事はどうでも良いが。
　問題は攻略対象の方だろう。
　攻略対象は2週目必須のボーナスキャラと他攻略対象のエンドコンプが開放条件の隠しキャラも含めて11人。
　アマチュア声優さんとはいえ、全員にキャラクターボイスが付いている。同人作品としてはかなり力の入ったものだったと思う。ただ、攻略フラグとか、好感度上げのミニゲームの難易度とか、そういうものの設定がおかしくて、評判は悪かった。攻略掲示板でミニゲームのスコア報告会が開催されていたほどだ。
　絵も綺麗だったし、ストーリーもキャラクターも評判がよくて、ゲーム性を排してノベル系にして欲しい、という感想をよく見かけた。俺の友人も二人ほど同じ事を言っていた。求めているものがストーリーあるいは声とスチルなのだから、気持ちは解る。まぁ俺はミニゲームのスコア更新に血道を上げていた口なのだが。
　また話が逸れてしまった。
　そうじゃない。
　攻略対象だ。
　そう。
　俺、乙女ゲームとか全然プレイする雑食系オタクの元会社員享年24は、18禁乙女ゲームの世界で攻略対象の候爵家の三男坊、ルイ・アランカという少年に転生したのだ。
　俺のこの気持ち、お解りいただけるだろうか。
　どうせならモブになって、によによしながらヒロインと攻略対象のあれそれを見ていたかった。
　という気持ち。
「はぁ」
　思わず4歳児らしくもない重苦しい溜息を吐いてしまうが、別に誰も聞いていないので問題ない。
　そう、攻略対象ルイ・アランカは、三男という、後継でもスペアでもない立ち位置から、誰にも目をかけてもらえない孤独な少年期を過ごし、貴族子弟が通う学園という舞台でヒロインと出逢うのだ。
　だが、考えてみて欲しい。中身に俺が入った時点で、孤独を抱えた少年に成長する訳がない。ここから10年経ったらもう俺の中では34歳のオタクのおっさんができ上がるだけだ。
「はぁ」
　あ、また溜息を吐いてしまった。
　でも、解って欲しい。せっかくのゲーム世界で攻略者を一人潰してしまった俺の気持ち。
　まぁ、どうしようもないから、他の攻略者とヒロインの楽しそうな姿をによによしながら見る事に今後の人生を賭ける事にするけどさ。