悪役令嬢だけど愛されたい

nionea

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第二章:スタートきったら必要なもの? 解ります。体力ですね。

13.邪魔はしないで…

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 真っ白になった頭はもう一つの事しか考えられない。
「好きです!」
 叫んでしまったと思ったが、それほど大声にはなっていなかった。ミネルヴァが恐る恐る顔を向ければ、驚いた顔をしたギリットが、照れたように頬を掻いている。
「ありがとうございます」
(え、本当に?)
 ぽつりと返された言葉と笑みに、ミネルヴァの心臓は止まりそうになった。
「そんなに気に入っていただけるとは。嬉しい限りです。腕に縒りをかけて、懸命に作ります」
 さっきとは違う意味で心臓が止まった。
(あぁーもうっ! 全然伝わってない…どうしようどうしたらどうしてどうすれば………)
 考えてみればミネルヴァは前置きを省き過ぎだ。振り返ってもギリットの反応は鈍いとかではなく順当である。
(とにかく誤解を、解いて、ちゃんと気持ちを伝えないと)
「違うんです!」
 否定の言葉にギリットの顔が曇る。ミネルヴァはその顔を見ると心臓を掴まれたような気持ちになってしまう。
「いえ、このデザインはとても素敵で大好きです。それは間違いありません。ただ、私が今好きだと言ったのは、貴方の事なのです!」
 この時、何故かミネルヴァの脳裏に前世の記憶がよみがえっていた。一目惚れしてできた初めての彼氏、その相手に告白したあの時の情景が、あらゆる嫌な記憶と共に脳裏を駆け巡った。
(あ、私、もしかしてまた何か間違えたんじゃ…)
 緊張しながら舞い上がった場所から、急転直下で落ちていったミネルヴァは、ぽろりと涙を流してぐらりと体が傾いでしまう。視界はゆっくりと傾きながら黒く狭まっていき、完全に塞がった。
 ガタンッ、とした音が耳に届くまでの短い間だったが、ミネルヴァは自分が気絶していた事に気付く。
(椅子から、落ちたのに、あまり痛くないわ…)
 前世で、風邪をひいているのに風呂に入って、熱が上がり、のぼせ上って気絶した事がある。風呂そのものは出ていて、椅子に座っていたのだが気が付くと椅子は倒れ、頬が床の冷たさとじんじんとした痛みを訴えていた。あの時は。
「大丈夫ですか?」
 声を掛けられて、ミネルヴァは顔を上げた。ギリットの顔を見上げて、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「………」
 ミネルヴァが座っていた椅子は倒れていなかった。ギリットが座っていた椅子が倒れていた。
(ああ、そうか、助けてくださったのね…)
 椅子を倒して駆け、床に衝突するのを防いでくれたのだ、と気付く。
「っごめんなさい!」
 自分がすっかりギリットに抱き留められている事に、三拍くらいおいて気付いたミネルヴァは、反射的に身を離そうとした。だが、ギリットの手が後頭部に回されて動きを止められる。
 一連の動作に慌てていたが、苦笑するギリットと目が合って、少し落ち着いた。
「椅子に、ぶつかります」
「………ごめんなさい」
 ミネルヴァの後頭部と、椅子の間にギリットの手が有る。
(私、落ち着きってものを何処にやってしまったのかしら)
 ミネルヴァは、腕をとられ立ち上がるのをギリットに助けてもらいながら自身の失態の数々に冷静さを取り戻し始めた。
「あの、すみませんでした、そのご迷惑ばかり…」
「いえ、迷惑などという事は…」
 途切れた言葉が気になってギリットを見ると、視線が扉に向かっている。ミネルヴァもそちらを向くと、確かに閉めたはずの扉がうっすら開いていた。ミネルヴァは足早に扉に近付いてしっかりと閉める。
(もう、絶対お母様だわ!)
 リーネアッラが勝手に扉を開ける訳がない。もし音に気付いて心配したのだとしても声をかけて確認するだろう。
 扉を背にギリットを見ると、数歩の距離で困惑した顔をして立っていた。ミネルヴァは言葉を探して口を開くが、声にはならない。だが、しばらく見つめていると、ギリットが笑った。
「お気持ちは、とても嬉しいです。私も貴方のことが好きですから」
 ミネルヴァの頬が真っ赤に染まっていく。だが、ギリットの笑みは悲し気に変わっていった。
「ただ、貴方に釣り合う身分がありません」
「そんな事――」
 気にしないでと続けるつもりだったミネルヴァの声は、後から扉に突き飛ばされてギリットの腕の中に消えた。
「お困りのようね」
 しれっとアイリーンが入ってくる。
 ミネルヴァは抗議を込めて睨んだし、ギリットはミネルヴァを抱き留めながら何とも言えない顔をした。
「貴方がミネルヴァの良き伴侶となる覚悟があるのなら、次子爵の位を差し上げてよ?」
 この国で、次というのは領土を伴わない名誉爵位に付く接頭である。領土が無いとはいえ貴族は貴族なので、ミネルヴァとの結婚も可能となる。
「ありがたいお申し出ですが、何故そこまで?」
「貴方の為人はよく知りませんけど、うちの娘が好きだというのだから仕方ありませんわ」
「お母様…」
「まぁ、細かい話はおいおい詰めるとして。とにかく、身分は問題になりませんから、ミネルヴァを好きだというのならその心のままになさって」
 アイリーンはそこまで言うと、あとはお若いお二人で、などと告げて出て行った。
「あ、あの…ごめんなさい」
 突然の母の事も今抱き留められている事も含めて謝罪して、ミネルヴァは身を離そうとする。だが、ギリットがそっとそのまま抱き締めた。
「好きです。ミネルヴァ様」
「私も、大好きです」
 ミネルヴァは、このまま見つめ合っていたかった。だが。
「お母様っ!!」
 そっと開いた扉からじーっとあまりに主張の激しい視線が刺さってそんな雰囲気ではなくなってしまったのだった。
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