悪役令嬢だけど愛されたい

nionea

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第二章:スタートきったら必要なもの? 解ります。体力ですね。

5.道は険しくとも

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 初めての身内主催以外の会へ参加してから、はや三十日、シーズンもだいぶ盛り上がりをみせ始めた頃。
 ミネルヴァは朝だというのに寝台に俯せになって唸っていた。
「私はもう駄目よリーネ…」
「お嬢様」
「甘く見ていたわ、普段たっぷりお休みを挟んでしか会に出席してこなかったから………こんなに疲れるなんて。調子に乗って詰め込み過ぎたわ…」
「申し訳ありませんお嬢様、私がきちんと調整するべきでした」
「そんな、あなたはちゃんとそんなに詰めて大丈夫ですか、って訊いてくれたじゃない。私が自分の限界も弁えずに詰め込んでしまったんだもの…今日が夜会だけで良かったわ」
「何か、お疲れの取れそうなものを料理長に頼んで参りますね」
「ええ、お願い」
 明日はお茶会に夜会、明後日は昼会に夜会の予定が入っている。今日は半日休める貴重な休息時間だ。
(成人してから参加する夜会って、深夜になる事もあるっていうのを失念してたのも痛かったわね…睡眠時間が足りないわ)
 昼会やお茶会だけならば連日続いてもこれほど辛くはならなかっただろう。酒類もでる夜会は大半が夜通しであり、成人後に参加する場合は最低でも日付の変わる頃まで居ることがほとんどだ。あまり早々に退散すると付き合いが悪いと思われてしまう。
 寝台から降りて窓の外を見ているイーグルを見つめてから、ミネルヴァは流石にそろそろ部屋着に着替えようと動き出す。鏡の前でタイを整えてからイーグルを腕に乗せて居間へ移動する。
(………そういえば私新しい恋とか考えてなかったっけ)
 果たして、社交シーズンが終わるまでに手紙のやり取りをするような仲の相手を作る事が出来るのか。お友達作りに四苦八苦している現状に苦々しいものが込み上げた。
 イーグルを窓辺の止まり木に移動させ、昨夜机に置きっぱなしにした手帳を捲る。
(交流については上手くいっていると言えるけど…お相手という観点では全くよね。というか、私…もしかして全然モテないんじゃないかしら)
 顔はよく褒められる。ミネルヴァの好みからすればもう少し母に似たかったが、覚醒する事で客観的視点を得たせいか自分でも世間一般から見て美人だと思う。さすがに露骨に体を褒めてくる人間はいないが、酒の出ている夜会では、性的な視線を向けられていると感じる事もある。つまり、女性としての魅力は有るはずだ。
 その上、身分は高いが、王太子の婚約者という立場がなくなった今、少なくとも男爵以上で次男以降の子息にとっては大きな財産を持つ優良な婿入り先の条件を満たすのである。責任は公爵を継ぐミネルヴァが担うため、身分も財力もあるのに仕事はあんまりないという、条件だけでみれば超優良物件である。まぁ、その条件に甘んじようと擦り寄ってくる人物をグリッツ家が容認するかはまた別の話なのだが。
 今までのミネルヴァは消えたりしていないのだから、行儀作法や教養面から見ても立派な淑女だ。彼女の品行方正さを知りたければ公文書館に行けば国家文書が証明してくれる。
(思いたくはない………思いたくはないが…私、もしかして男性に退かれる女なの?)
 そもそも王太子との仲が拗れた件についても、一人で頑張って立っていようとしたミネルヴァが敬遠されたところからではなかっただろうか。
(いや、そんなはずは、お母様だってかなりのデキる女だけどお父様と…幼馴染で小さい頃からの許嫁だったってそういえば言ってたぁ。あれ、嘘、待って、ここでも守られ系女子最強説なの? いや、ていうか私だってだいぶ守られ系じゃない? だってほら、フランセスカもセフィルニムも…身内だもんねぇ。そうだよねぇ。いや、違う。もっと、こう身内を除いて…そうよ! リーネがいるじゃな………女性を思い浮かべてどうする私、根本。根本を揺るがしては駄目よ)
「ピー」
「イーグル…」
(広義で男だし、格好良いし、確かに紛れもなく愛しい存在だけど…うぅ…イーグルみたいな男性どっかに落ちてないかしら………駄目だ。いくらなんで落ちてる人間と結婚するとか言ったらお母様もお父様も許してくれないわ…落ち着くのよミネルヴァ。もっと、こう…現実的に、何か………攻略対象へのアプローチとか、どうかしら)
 ミネルヴァは、ふと、覚醒した意味はここにあったのでは、と光明を見た思いがした。しかし、直ぐにただの暗闇だったと知る。
(そもそも、学院在学中だから攻略できるのよあれ…)
 まず王太子はありえない。他にも、カイルともう一人同級生の攻略対象がいるが、彼等は婚約者がいる。マリウスに対しても、正直フランセスカの友人、という思いが強い。更に教師が一人居たが、学院から出た今となっては、会う事すらない。
(………お母様に、お見合いの相談とかしてみようかしら。社交シーズンならさりげなくお会いすることもできるし)
 少なくともアイリーンに推薦してもらえれば条件面はクリアしているという前提を得られる。その相手に意図して接触して近付くのだ。交流を持てるようになって聞いた、他のご令嬢達もよくやっている事である。
(そうよ、見合いの席なんて畏まった場だと緊張して見栄張っちゃったり演技しちゃったりするし、これよ!)
 もう少し早くその発想になっても良かったのではないか、というところに落ち着いて、ミネルヴァはそっと手帳を閉じる。
「まぁ、でも、もうちょっと社交慣れしてからかな」
 知ったばかりの技を使うには、ちょっと疲労が蓄積しすぎているミネルヴァだ、ひとまずアイリーン宛に手紙で良い人の当てがないかだけを聞くことにする。
 しばらくして、リーネアッラが朝食の準備が出来たと呼びに来てくれた。夜会までの時間はのんびりと、だが再度招待状の精査と計画立てをしつつ過ごした。
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