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第三章:問題発生
3.悩み
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暖かな室内から、ぼんやりと庭を見つめてミスティは悩んでいた。
(どうしたら良いのかしら)
ほんの数分前に聞いてしまったエットの叫びについてだ。
結婚する気がなかった、と言っていた。それならば、エットにとって良い事は、ミスティが出て行く事だろうか。
別居という形なら、比較的簡単に実現できる可能性がある。
(ただ別居するだけで良いのかしら…離婚を望んでいらっしゃるのじゃないかしら)
だが、もし離婚となれば、難易度は跳ね上がってしまう。
まず、ミスティにはイジェス家を離れて、行く宛が無い。実家には戻れないのだ。おそらく、友人を頼れば、一人でなんとか生きていく目処は立つかも知れない。だが、エリィネを雇い続ける事は難しいだろう。それでも、突然路頭に迷うほどではないならやる価値はあるだろうか。
(そもそも、理由の無い離婚では旦那様の瑕疵になるかもしれない。私の方に何か理由がないと…)
離婚される正当な理由とは、何か。
ミスティが思い付くのは、不貞、浪費、不妊、病気くらいだ。
(不貞…)
この国の貴族における離婚理由で最も多いのが不貞である。だが、ミスティにはあまりにハードルが高い。そもそも不貞相手をどう探せば良いのかが解らないのだ。それに、最も多いからといって、迷惑にならない訳ではない。そもそも、エットにとって不名誉極まりないではないか。
(駄目だわ。浪費も、旦那様に迷惑をかける事になるもの。不妊だと…)
不妊が離婚理由になるには、最低でも三年は時間が必要だ。
(時間がかかるわ)
思わず深々と溜息が漏れる。
(病気なら)
最も適切に思える。病気というものは、誰かのせいではなく自分だけの理由にできる。
(問題は病気の選定)
本当に罹る必要はないのだ。仮病で構わない。だが、命に関わる病では駄目だ。余命幾許も無い妻を放り出した。そんな噂が立ってしまってはエットの不名誉である。といって、あまりに軽い病では離婚の理由にならない。
(離婚理由になるけれど、命には関わらず、私だけの不名誉で済むような病………)
医者にかかって仮病を見抜かれるようなものであるのもまずい。
(私自身の問題で、仮病と悟られず、離婚理由になるような病)
ミスティの視線が、持参した本の一冊に注がれる。
(有るわ!)
それは、数年前に手に入れた、ありふれた恋物語の本だ。
(気鬱の病よ!)
その本では、主人公の少女に姉がいる。叶わぬ恋に思い悩んだ末に気鬱の病に罹り、家のためにと心も無く嫁いだ先で、自殺してしまうのだ。日記で姉の心を知った主人公は、自分の気持ちに嘘をつかず、恋に生きるという物語である。
(気鬱の病なら、なんとなくという言葉で不調を訴えられるわ。何故か解らない事も多いから、原因を探られても、よく解らないで通るでしょうし)
ミスティは、これしかない、と目を輝かせた。
(どうしたら良いのかしら)
ほんの数分前に聞いてしまったエットの叫びについてだ。
結婚する気がなかった、と言っていた。それならば、エットにとって良い事は、ミスティが出て行く事だろうか。
別居という形なら、比較的簡単に実現できる可能性がある。
(ただ別居するだけで良いのかしら…離婚を望んでいらっしゃるのじゃないかしら)
だが、もし離婚となれば、難易度は跳ね上がってしまう。
まず、ミスティにはイジェス家を離れて、行く宛が無い。実家には戻れないのだ。おそらく、友人を頼れば、一人でなんとか生きていく目処は立つかも知れない。だが、エリィネを雇い続ける事は難しいだろう。それでも、突然路頭に迷うほどではないならやる価値はあるだろうか。
(そもそも、理由の無い離婚では旦那様の瑕疵になるかもしれない。私の方に何か理由がないと…)
離婚される正当な理由とは、何か。
ミスティが思い付くのは、不貞、浪費、不妊、病気くらいだ。
(不貞…)
この国の貴族における離婚理由で最も多いのが不貞である。だが、ミスティにはあまりにハードルが高い。そもそも不貞相手をどう探せば良いのかが解らないのだ。それに、最も多いからといって、迷惑にならない訳ではない。そもそも、エットにとって不名誉極まりないではないか。
(駄目だわ。浪費も、旦那様に迷惑をかける事になるもの。不妊だと…)
不妊が離婚理由になるには、最低でも三年は時間が必要だ。
(時間がかかるわ)
思わず深々と溜息が漏れる。
(病気なら)
最も適切に思える。病気というものは、誰かのせいではなく自分だけの理由にできる。
(問題は病気の選定)
本当に罹る必要はないのだ。仮病で構わない。だが、命に関わる病では駄目だ。余命幾許も無い妻を放り出した。そんな噂が立ってしまってはエットの不名誉である。といって、あまりに軽い病では離婚の理由にならない。
(離婚理由になるけれど、命には関わらず、私だけの不名誉で済むような病………)
医者にかかって仮病を見抜かれるようなものであるのもまずい。
(私自身の問題で、仮病と悟られず、離婚理由になるような病)
ミスティの視線が、持参した本の一冊に注がれる。
(有るわ!)
それは、数年前に手に入れた、ありふれた恋物語の本だ。
(気鬱の病よ!)
その本では、主人公の少女に姉がいる。叶わぬ恋に思い悩んだ末に気鬱の病に罹り、家のためにと心も無く嫁いだ先で、自殺してしまうのだ。日記で姉の心を知った主人公は、自分の気持ちに嘘をつかず、恋に生きるという物語である。
(気鬱の病なら、なんとなくという言葉で不調を訴えられるわ。何故か解らない事も多いから、原因を探られても、よく解らないで通るでしょうし)
ミスティは、これしかない、と目を輝かせた。
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