上 下
8 / 12

愚かに拍車をかけるとはまさにこのこと

しおりを挟む
 現実を叩きつけられ、しばらく呆然としていたテオドールの腕の中から、下品な服を身につけた可愛らしい女の子ベリーラが、怯えるようにして飛び出す。


「わ、わたしは関係ないんだからっ!!」


「いや、関係大有りでしょ」


 久々に真顔でノリツッコミをしてしまったリリーシアに、ルカーシュも苦笑しながら頷いた。

「そうだね。ここまで巻き込まれてたら、『わたしは無関係ですぅ、助けてくださぁい』なんて言っても、誰も助けないよねぇ。まあ、ここで助けちゃったら不倫やら浮気やらがバレバレになっちゃうからね。身から出た錆だよ」

 からからと笑ったルカーシュの小さな声に、周囲にいた人間はドン引く。
 普通、分かっていても、事実であっても、こんなネタは心の中に潜めておくものだ。


 ぎいぃっ、


 空気をぶち壊すような扉が開けられる音がした。

「?………??」

 白髪の混じり始めたブロンドに空色の瞳を持つ初老の男性が、首を傾げながらやってくる。

「テオドール?何があったのかね」

 国王に挨拶することもなくいけしゃあしゃあと言ってのけたのはクロイツ侯爵、テオドールの父であった。

「ぱぱっ!!助けてくれ!!俺、冤罪で殺されそうなんだっ!!」


 会場の中にいる皆が思ったことだろう。
 冤罪でもなんでもない、自分の行いのせいで投獄されそうになっているだけだ、と。

 しかし、息子のことを妄信的に溺愛しているクロイツ侯爵は、当然のごとく息子を疑うということをしない。
 故に、今この場で最も行ってはいけない、愚かな行為をした。

 罪を、犯した………。


「リリーシア、お前、何をしている。早くテオドールを助けなさい。格下の伯爵家のでしゃばり娘であるお前を引き取ってやるんだ、こういう場で命を犠牲にせずしてどう生きるというのだね」


 嘲るような声音、侮蔑の表情、だがしかし、そんな表情と声音は一瞬で吹き飛ぶこととなった。

「今、貴様はなんと言った」


 クロイツ侯爵の身体が宙に浮いている。
 彼の首元には、剣ダコやペンダコの目立つ美しい手。


「私の愛おしい婚約者に対し、なんと言ったと聞いているんだ!!」


 激昂したルカーシュの声に、視線に、ゾクゾクとした喜びが背筋を駆け巡ったリリーシアは、うっとりと微笑む。

「はぁ、ルカさまが素敵すぎますわ」


 背筋が凍るようなさっきの中で唯一頬を赤く染め上げているリリーシアは、商人として幾多の困難を乗り越えてきたが故に、危険や突発的な出来事に対する反応が大らかだ。

 だからこそ、今このカオスと化しつつある現状を最もよく理解していると言っても過言ではない。


(クロイツ侯爵家並びにフィアリア男爵家はもう終わりましたわね。王の御前でピーチクパーク騒ぐなんて、愚かさに拍車をかけるとはまさにこのことですわね)


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

殿下はご存じないのでしょうか?

7
恋愛
「お前との婚約を破棄する!」 学園の卒業パーティーに、突如婚約破棄を言い渡されてしまった公爵令嬢、イディア・ディエンバラ。 婚約破棄の理由を聞くと、他に愛する女性ができたという。 その女性がどなたか尋ねると、第二殿下はある女性に愛の告白をする。 殿下はご存じないのでしょうか? その方は――。

「婚約破棄、ですね?」

だましだまし
恋愛
「君とは婚約破棄をする!」 「殿下、もう一度仰ってください」 「何度聞いても同じだ!婚約を破棄する!」 「婚約破棄、ですね?」 近頃流行りの物語にある婚約破棄騒動。 まさか私が受けるとは…。 でもしっかり聞きましたからね?

【完結】婚約破棄?ってなんですの?

紫宛
恋愛
「相も変わらず、華やかさがないな」 と言われ、婚約破棄を宣言されました。 ですが……? 貴方様は、どちら様ですの? 私は、辺境伯様の元に嫁ぎますの。

婚約者だと思っていた人に「俺が望んだことじゃない」と言われました。大好きだから、解放してあげようと思います

kieiku
恋愛
サリは商会の一人娘で、ジークと結婚して商会を継ぐと信じて頑張っていた。 でも近ごろのジークは非協力的で、結婚について聞いたら「俺が望んだことじゃない」と言われてしまった。 サリはたくさん泣いたあとで、ジークをずっと付き合わせてしまったことを反省し、解放してあげることにした。 ひとりで商会を継ぐことを決めたサリだったが、新たな申し出が……

私知らないから!

mery
恋愛
いきなり子爵令嬢に殿下と婚約を解消するように詰め寄られる。 いやいや、私の権限では決められませんし、直接殿下に言って下さい。 あ、殿下のドス黒いオーラが見える…。 私、しーらないっ!!!

知らない男に婚約破棄を言い渡された私~マジで誰だよ!?~

京月
恋愛
 それは突然だった。ルーゼス学園の卒業式でいきなり目の前に現れた一人の学生。隣には派手な格好をした女性を侍らしている。「マリー・アーカルテ、君とは婚約破棄だ」→「マジで誰!?」

酔って婚約破棄されましたが本望です!

神々廻
恋愛
「こ...んやく破棄する..........」 偶然、婚約者が友達と一緒にお酒を飲んでいる所に偶然居合わせると何と、私と婚約破棄するなどと言っているではありませんか! それなら婚約破棄してやりますよ!!

婚約者にざまぁしない話(ざまぁ有り)

しぎ
恋愛
「ガブリエーレ・グラオ!前に出てこい!」 卒業パーティーでの王子の突然の暴挙。 集められる三人の令嬢と婚約破棄。 「えぇ、喜んで婚約破棄いたしますわ。」 「ずっとこの日を待っていました。」 そして、最後に一人の令嬢は・・・ 基本隔日更新予定です。

処理中です...