3 / 12
そもそも
しおりを挟む婚約とはすなわち、家同士の契約だ。
互いの家に強い利益を生むために結ばれる、愛なき結婚のための契約。
故に、双方の利益に矛盾を生じさせぬために、片方の家が全ての不利益を被らないために、簡単に反故できないようにするために、書面に残し契約する。
契約は絶対であり、不変だ。
商売人の家系であるリーラー家は、契約を何よりも大事にする。
契約を守ることそれすなわち信頼と信用を守ることという考えを持ち、反故にすることは命を賭してもありえない。
もしも彼と本当に婚約をしていたのならば、リリーシアは彼のことを殺してしまうほどに怒っていただろう。
でも、リリーシアは今、怒っていない。
だって、彼とリリーシアは婚約などしていないのだから。
「クロイツ侯爵令息。貴方さまは勘違いなさっていらっしゃいますわ。わたくしと貴方さまは、婚約などしていませんもの」
鼻で笑いそうになるのを必死に我慢しながら、リリーシアは微笑む。
ベリーラがアングリと口を開けているが見えるが、知ったことではない。
「そんなはずない!!お前は俺の家に挨拶に来たではないか!!」
「えぇ。ですが、その場で破談となりましたわ。我が家に一切の利益がなかった上に、高圧的で、到底受け入れられませんでしたから」
「貴様!!」
怒鳴ることしかできないのかと問いただしたくなるような会話に苛立ちを覚え始めたリリーシアは、凍てつく視線をテオドールに向ける。
「では何故俺の最愛であるベリーラを虐めたッ!!」
何故最愛のベリーラの表情の変化に、テオドールは気が付かないのだろうか。
いつ何時も大好きな人にばかり視線がいってしまい、相手の好きなことや思考にばかり思いを馳せてしまうリリーシアには、全くもって理解できない。
「そもそもが間違っているのですわ」
リリーシアがバサっと扇子を広げ、上品に口元に当てた瞬間、カツンという軍靴の音が大きく響いた。
「———お待たせ、リリー」
コントラバスのように優美で、優雅で、惹きつけて止まない麗しい声に、リリーシアの胸はとくんと高鳴る。
「………るかさま」
甘えるような声を上げるた瞬間、リリーシアは愛おしい人に背後から力強く抱きしめられた。
「ひとりにしてごめんね?父上とのお話が長引いちゃって………」
ちゅっという甘やかなと共に額へとくちびるが落とされる。
「いいえ、ルカさま。わたくし、貴方さまが好きな強い女の子ですから、ひとりでも平気ですわ」
本当は心細かったなんて、死んでも言わない。
ひとりじゃなくなって、集まりすぎた視線の中でも十分に息が吸えるようになったリリーシアは、テオドールに向かって満面の笑みを浮かべる。
「そもそも、わたくしには、最愛の婚約者がおります。貴方さまは、わたくしにとってその他大勢のひとりであり、気にするに値しない人間。そこにいるリスさんを虐める理由なんてないのですわ」
795
お気に入りに追加
629
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
殿下はご存じないのでしょうか?
7
恋愛
「お前との婚約を破棄する!」
学園の卒業パーティーに、突如婚約破棄を言い渡されてしまった公爵令嬢、イディア・ディエンバラ。
婚約破棄の理由を聞くと、他に愛する女性ができたという。
その女性がどなたか尋ねると、第二殿下はある女性に愛の告白をする。
殿下はご存じないのでしょうか?
その方は――。
「婚約破棄、ですね?」
だましだまし
恋愛
「君とは婚約破棄をする!」
「殿下、もう一度仰ってください」
「何度聞いても同じだ!婚約を破棄する!」
「婚約破棄、ですね?」
近頃流行りの物語にある婚約破棄騒動。
まさか私が受けるとは…。
でもしっかり聞きましたからね?
婚約者だと思っていた人に「俺が望んだことじゃない」と言われました。大好きだから、解放してあげようと思います
kieiku
恋愛
サリは商会の一人娘で、ジークと結婚して商会を継ぐと信じて頑張っていた。
でも近ごろのジークは非協力的で、結婚について聞いたら「俺が望んだことじゃない」と言われてしまった。
サリはたくさん泣いたあとで、ジークをずっと付き合わせてしまったことを反省し、解放してあげることにした。
ひとりで商会を継ぐことを決めたサリだったが、新たな申し出が……
私知らないから!
mery
恋愛
いきなり子爵令嬢に殿下と婚約を解消するように詰め寄られる。
いやいや、私の権限では決められませんし、直接殿下に言って下さい。
あ、殿下のドス黒いオーラが見える…。
私、しーらないっ!!!
知らない男に婚約破棄を言い渡された私~マジで誰だよ!?~
京月
恋愛
それは突然だった。ルーゼス学園の卒業式でいきなり目の前に現れた一人の学生。隣には派手な格好をした女性を侍らしている。「マリー・アーカルテ、君とは婚約破棄だ」→「マジで誰!?」
【完】婚約者に、気になる子ができたと言い渡されましたがお好きにどうぞ
さこの
恋愛
私の婚約者ユリシーズ様は、お互いの事を知らないと愛は芽生えないと言った。
そもそもあなたは私のことを何にも知らないでしょうに……。
二十話ほどのお話です。
ゆる設定の完結保証(執筆済)です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/08/08
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる