ヒロインどこですか?

おるか

文字の大きさ
上 下
7 / 8

薔薇園とショタ

しおりを挟む






「ふーっ、スッキリ~」

いやあ、お城はトイレも綺麗なんだね。
たかがトイレ…と思うだろうけど本当に豪華で、さすがお城だと俺は感心しながら来た道を戻る……はずだった。

思い出したのだ。


「どこかにヒロインちゃんがいるはず…!!!」


お城がすごすぎて失念していた!

ヒロインちゃんの回想シーンで、舞踏会に来ているシーンがある。妹が何回も繰り返しこのムービーを見ていたから覚えていたが、ヒロインちゃんは実はなぜか舞踏会に来ていて、舞踏会で見たレイのことを思い出す…という感じだったと思う。

くそっ…まだあどけないヒロインちゃんを見れる重要な日だったのに!すっかり忘れてた!

まだ見ぬヒロインちゃんを探すため、俺はトオルの元へ戻ることを放棄して王城を歩き回ることにしたのだった。




***



「…ここどこ」


そりゃ、迷子になるよね。

自分は方向音痴じゃないと信じたい。確かにチルクレット家の屋敷では迷子になったことあるけど、その数倍の広さがあるこのお城でふらふらしてたら誰でも迷うに決まってるよね。

とりあえずあてもなく歩き続けていれば、だんだん話し声から遠ざかっているような気さえする。
大広間の警備で人が出ているのか、道を聞こうと探していたけど兵士の姿が全くない。てか人いない。

…やっちゃった? これやっちゃった?

王家の庭なのだろう。立派な薔薇園を目の前にして、俺はぞぞぞっと肝が冷えていくのを感じた。


それにしてもすごく大きな薔薇園だ。
きちんと手入れされているのが伺える何百本もの薔薇は優美に咲き誇っており、植え込みも青々としていた。薔薇の赤は暗くなり始めている中でも映えていた。

薔薇園の奥に噴水と少し休めるようなベンチを見つけた。
もうここから動かない方が賢明だろうと考えた俺はそこに向かうべく足を向けた。


大理石だろうか。近づいていくと、そのベンチも噴水も細かな装飾がしてある。
さすがお城だなぁ。
若干びくびくしながら座った。壊したらとんでもないことになりそうだ。

何もすることがないのでベンチに座って足をぶらんぶらんさせていると、目を伏せて座っている女性の像が目に映る。
これは王家に伝わる伝説の聖女だろうか? 女の人は優しそうに微笑んでいて、その笑顔に落ち込んでいた気持ちが癒される気がした。

トオルや母さまが何度も読んでくれた絵本。聖女様がいろんな人たちを癒しの力で助けるお話。
確かヒロインちゃんはその力を受け継いでいるはずだった…とゲームの設定を思い出した。

「アモール セルバーリット!……だっけ」

ヒロインちゃんが唱える癒しの呪文。
ヒロインちゃんに心酔している妹が何回も何回も唱えていた呪文だ。
魔法なんて、何回唱えたって梨華じゃあ絶対に使えないはずなのに。

やば、泣けてきた…。梨華、元気かなぁ…?俺がいなくてもちゃんとやれてるかなぁ…?
転生したとわかったときのあの孤独感と今の状況が重なって、心細さがMAXになってくる。
こういう時思い出したくないのに、突如、梨華の笑った顔や両親や友達との思い出が頭の中を駆け巡った。

ぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ちる。止めよう止めようと思っても無理だった。
無理だよ…。だって俺今六年生といったって小学生なんだもん…。小学生として生きることになっちゃったんだもん…。


「うぇぇ、…ひっく………」


誰もいない薔薇園に俺の泣き声が響いていた。





止まらない涙と一緒に何回目かのため息をついた、その時だった。


「ふぇ…?」

ガサガサッと茂みが揺れた。
何事かと思って顔を上げて音がした方向を見ると、そこにはレイ様によく似た黒髪の男の子が立っていた。


「だ、れ…?」
「お前こそ誰だ。どうして泣いている」

見た感じ同い年くらいだろうか…?
男の子は俺にズンズンと近寄ってくると、ハンカチを差し出した。

「ありがとう」

優しさが嬉しくて、笑顔になった。
ハンカチを両手で受け取る。
白いハンカチには小さな薔薇の刺繍が施してあり、いい匂いがした。


その男の子のおかげでやっと泣きやんだ俺。
顔を上げると男の子とバッチリ目が合った。

「ッ……」
「?」

レイ様にやっぱり似ている。が、レイ様じゃ無さそうだ。というかレイ様はこの男の子みたいな漆黒じゃなくて、ちゃんと紺だってわかるくらい青みが入った黒の髪だから違うな。

男の子は俺がハンカチを借りている間、何も言わず隣に座っていてくれた。
顔はしかめっ面で口調も厳しかったけど、中身はすごく優しい男の子だった。密かに俺はこんな男の子になりたいなと思った。

「ハンカチありがとう。洗って返すね」
「い、いい。そんな汚れたハンカチいらない」
「でも…。これ君のハンカチでしょ? なかったら困るよね? ちゃんと綺麗に洗って返すから大丈夫だよ」
「いい!じゃあそのままでいい!」
「えっ」

男の子は俺から強引にハンカチを奪い取った。
俺は驚いて固まっていたが、俺に気を使わないようにしてくれたんだなと思うとまた笑顔になった。


というか、この男の子なんでここに居るんだろう? 俺と一緒で迷子になっちゃったのかな?

「迷子になっちゃったんだ」

そうこぼすと男の子は納得したような顔をした。

「だと思った。今日は城にたくさんお前のような奴が来ているからな。こんなところに来るやつはいない」
「こんなところ?」
「この薔薇園にだ」
「綺麗なところだけどなぁ…」

「綺麗か…?」

そう男の子が尋ねてきたので俺は頷く。

「うん。薔薇がいっぱい咲いてて綺麗。うちにもお庭はあるけど、棘があるから薔薇は咲いてないんだ」

「そうか」と男の子は相槌を打ったきり黙り込んだでしまった。

なんか俺、いけないこといっただろうか…? 不安になって男の子を顔を見ると、男の子は意を決したように立って、薔薇に近づいた。


そしてあろうことかその薔薇を折った。


「いいの…?! それに棘が刺さるって…」

「こんなの痛くない」

そして薔薇を俺に差し出す。


「くれるの…?」
「いらないならいい」
「ううん!もらうよ!ありがとう」

真っ赤な一輪の薔薇。

俺のために棘も厭わずくれたんだと思うと、ささくれていた心にじんわりと温もりが灯った。


「ほんとにありがとう…」


俺はもう一度お礼を言った。


「お前が嬉しいんだったらいい」


男の子も優しく笑ってくれた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したので異世界でショタコンライフを堪能します

のりたまご飯
BL
30歳ショタコンだった俺は、駅のホームで気を失い、そのまま電車に撥ねられあっけなく死んだ。 けど、目が覚めるとそこは知らない天井...、どこかで見たことのある転生系アニメのようなシチュエーション。 どうやら俺は転生してしまったようだ。 元の世界で極度のショタコンだった俺は、ショタとして異世界で新たな人生を歩む!!! ショタ最高!ショタは世界を救う!!! ショタコンによるショタコンのためのBLコメディ小説であーる!!!

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

攻略対象者に転生したので全力で悪役を口説いていこうと思います

りりぃ
BL
俺、百都 涼音は某歌舞伎町の人気№1ホストそして、、、隠れ腐男子である。 仕事から帰る途中で刺されてわりと呆気なく26年間の生涯に幕を閉じた、、、、、、、、、はずだったが! 転生して自分が最もやりこんでいたBLゲームの世界に転生することとなったw まあ転生したのは仕方ない!!仕方ないから俺の最推し 雅きゅん(悪役)を口説こうではないか(( ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーキリトリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー タイトルどうりの内容になってます、、、 完全不定期更新でございます。暇つぶしに書き始めたものなので、いろいろゆるゆるです、、、 作者はリバが大好物です。基本的に主人公攻めですが、後々ifなどで出すかも知れません、、、 コメント下さると更新頑張ります。誤字脱字の報告でもいいので、、、 R18は保険です、、、 宜しくお願い致します、、、

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

悪役王子の幼少期が天使なのですが

しらはね
BL
何日にも渡る高熱で苦しめられている間に前世を思い出した主人公。前世では男子高校生をしていて、いつもの学校の帰り道に自動車が正面から向かってきたところで記憶が途切れている。記憶が戻ってからは今いる世界が前世で妹としていた乙女ゲームの世界に類似していることに気づく。一つだけ違うのは自分の名前がゲーム内になかったことだ。名前のないモブかもしれないと思ったが、自分の家は王族に次ぎ身分のある公爵家で幼馴染は第一王子である。そんな人物が描かれないことがあるのかと不思議に思っていたが・・・

悪役無双

四季
BL
 主人公は、神様の不注意によって命を落とし、異世界に転生する。  3歳の誕生日を迎えた時、前世のBLゲームの悪役令息であることに気づく。  しかし、ゲームをプレイしたこともなければ、当然のごとく悪役になるつもりもない主人公は、シナリオなど一切無視、異世界を精一杯楽しんでいく。  本人はただ楽しく生きてるだけなのに、周りはどんどん翻弄されていく。  兄も王子も、冒険者や従者まで、無自覚に愛されていきます。 いつかR-18が出てくるかもしれませんが、まだ未定なので、R指定はつけないでおきます。 ご意見ご要望お待ちしております。 最後に、第9回BL小説大賞に応募しております。応援よろしくお願いします。

転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!

Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。 pixivの方でも、作品投稿始めました! 名前やアイコンは変わりません 主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!

転生したからチートしようと思ったら王子の婚約者になったんだけど

suzu
BL
主人公のセレステは6歳の時に、魔力および属性を調べるために行う儀式に参加していた王子の姿を見て、前世の記憶を思い出す。 そしてせっかくならチートしたい!という軽い気持ちで魔法の本を読み、見よう見まねで精霊を召喚したらまさかの精霊王が全員出てきてしまった…。 そんなにところに偶然居合わせしまった王子のライアン。 そこから仲良くなったと思ったら突然セレステを口説き始めるライアン?! 王子×公爵令息 一応R18あるかも ※設定読まないとわからなくなります(追加設定多々) ※ショタ×ショタから始まるので地雷の方は読まないでください。 ※背後注意 ※修正したくなったらひっそりとやっています ※主人公よく寝ます

処理中です...