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大切な人【トオルside】
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トオル・アルミナ。それが僕の名前だ。
アルミナ子爵家は領地も小さくて力のない一家だ。そんなアルミナ家の次男として生まれた僕は、チルクレット家に従者として出されることになった。
力のない貴族は高名な貴族の従者になることで自身に箔をつける。従者を迎える方は迎えられるという箔がつくので積極的に行われていた。
家督を継ぐ兄は僕と違って優秀だったため、王家に仕えることになった。
家族はものすごく喜んだ。王家に仕えることは貴族にとって最大の名誉である。
兄は第二王女に仕えることになったけれど、それでも充分に出世だった。
それに比べてしまうと、公爵家に仕えることになった僕は数分見劣りした。まあ良かったなと父が僕に言った。僕は差し出された主人となるチルクレット家の嫡男、キョウスケ様の姿絵を固く握り締めたのだった。
***
紹介されてキョウスケ様の前に出る。
キョウスケ様は姿絵で見た通りの霞んだ薄花色の髪に深い青の瞳をしていた。
とても美しい顔立ちで、僕はますます劣等感を抱いた。
チルクレット公爵に紹介され、キョウスケ様はわかりましたと返事を返す。
「トオル・アルミナともうします。キョウスケ様、よろしくおねがいします」
ちゃんとできただろうか。キョウスケ様の方を見ると、僕を見て固まっていらした。
僕は不安でいっぱいになった。
公爵と婦人が気を使ってキョウスケ様と二人きりにしてくださった。
「キョウスケ様。僕のことはトオルとお呼びください。キョウスケ様に誠心誠意お仕えします」
先程の失敗を取り返そうと、僕はもう一度キョウスケ様に向き合って挨拶した。
「わかった、トオルね!俺…じゃなくて僕のことはキョウって呼んでもいいよ! 母さまと父さまもそう呼ぶんだ」
明るく答えてくださったキョウスケ様。
キョウスケ様はたくさん愛されてる。
「…キョウ様、でよろしいでしょうか」
嫌われないようそう返すと、キョウスケ様は思わぬことを言い放った。
「様やめて!」
「…ええっ」
「敬語もやめてほしいな。トオルには友達みたいに接して欲しいんだ」
だめかな、と見上げられてもそれは…。
「そ…それは命令でしょうか」
「…うーん、命令って言うよりわがままかなぁ。僕ね、ずっと毎日勉強と鍛錬ばっかりで、トオルが初めて会う同い年なんだ。だから友達になりたくて…」
戸惑いながらキョウスケ様を見た。
そんなこと初めて言われた…
「僕で、よろしいのですか。こんな、落ちこぼれの僕で…」
ポタリと涙が零れてしまう。
情けない僕にもキョウスケ様は優しい言葉をかけてくださる。
「そんなに嫌だった?! それなら全然大丈夫だよ! 落ちこぼれ? そんなことないよ! トオルは俺よりも優秀だよ! 他の誰でもなくトオルがいいんだ!」
“優秀”、“トオルがいい”…
僕がずっとずっと欲しかった言葉を言われて、胸の内を感動が占めていく。嫌なわけがない。これは溢れる嬉しさ故の涙だ。
「…嫌じゃないんです、嬉しいんです。キョウ様、ありがとうございます。僕もキョウ様とお友達になりたい」
正直に気持ちを述べた。
キョウスケ様は咎めることなく、その綺麗な顔で微笑んだ。
「じゃあ今日から僕とトオルは友達ね!よろしくトオル!」
差し出した手を握り返して僕も笑う。
僕を認めてくれたこの人に精一杯仕えよう、そう思ったのだった。
***
それからというもの、キョウの正式な従者となった僕は常にキョウの傍にいるようになった。
最初は慣れなかった呼び捨ても徐々に慣れていき、次第に信用できる使用人の前でも「キョウ」と自然に口から出るまでになった。
名前で呼びかけるとキョウはいつも嬉しそうに答えてくれる。
その笑う顔が見たくて用がなくても「キョウ」と呼びかけてしまう。
そんな僕にキョウは辟易することもなく、友達関係は至って順調なままを保っていた。
今この腕の中にいるキョウは優しくて純粋で、出会った頃と全く変わっていない。僕を認めてくれた、僕を必要としてくれた、僕の求めるキョウのままで。
幼い頃は憧れや尊敬だったこの気持ち。
今はそれらをうんと超えて、胸が愛おしさでいっぱいになる。
キョウの喜びが僕の喜び。
キョウの悲しみが僕の悲しみ。
キョウが幸せなら僕もきっと幸せ。
叶うならこの腕の中に永遠に閉じ込めていたいと思えるほど、キョウは僕にとって特別な存在だ。
親愛でもなく友情でもないこの気持ちをなんと名付けるのが最適なのか、僕は悩んでいる。
しかしこれだけははっきりしている。
「ねえトオル、俺ちょっと御手洗行ってくるわ」
「場所わかる? 一緒に行く?」
「さすがに御手洗は自分で行ける!トオルはここら辺で待っててくれると嬉しいな」
「うん、わかった」
ねえ、キョウ。僕は君が大好きだよ。
トオル・アルミナ。それが僕の名前だ。
アルミナ子爵家は領地も小さくて力のない一家だ。そんなアルミナ家の次男として生まれた僕は、チルクレット家に従者として出されることになった。
力のない貴族は高名な貴族の従者になることで自身に箔をつける。従者を迎える方は迎えられるという箔がつくので積極的に行われていた。
家督を継ぐ兄は僕と違って優秀だったため、王家に仕えることになった。
家族はものすごく喜んだ。王家に仕えることは貴族にとって最大の名誉である。
兄は第二王女に仕えることになったけれど、それでも充分に出世だった。
それに比べてしまうと、公爵家に仕えることになった僕は数分見劣りした。まあ良かったなと父が僕に言った。僕は差し出された主人となるチルクレット家の嫡男、キョウスケ様の姿絵を固く握り締めたのだった。
***
紹介されてキョウスケ様の前に出る。
キョウスケ様は姿絵で見た通りの霞んだ薄花色の髪に深い青の瞳をしていた。
とても美しい顔立ちで、僕はますます劣等感を抱いた。
チルクレット公爵に紹介され、キョウスケ様はわかりましたと返事を返す。
「トオル・アルミナともうします。キョウスケ様、よろしくおねがいします」
ちゃんとできただろうか。キョウスケ様の方を見ると、僕を見て固まっていらした。
僕は不安でいっぱいになった。
公爵と婦人が気を使ってキョウスケ様と二人きりにしてくださった。
「キョウスケ様。僕のことはトオルとお呼びください。キョウスケ様に誠心誠意お仕えします」
先程の失敗を取り返そうと、僕はもう一度キョウスケ様に向き合って挨拶した。
「わかった、トオルね!俺…じゃなくて僕のことはキョウって呼んでもいいよ! 母さまと父さまもそう呼ぶんだ」
明るく答えてくださったキョウスケ様。
キョウスケ様はたくさん愛されてる。
「…キョウ様、でよろしいでしょうか」
嫌われないようそう返すと、キョウスケ様は思わぬことを言い放った。
「様やめて!」
「…ええっ」
「敬語もやめてほしいな。トオルには友達みたいに接して欲しいんだ」
だめかな、と見上げられてもそれは…。
「そ…それは命令でしょうか」
「…うーん、命令って言うよりわがままかなぁ。僕ね、ずっと毎日勉強と鍛錬ばっかりで、トオルが初めて会う同い年なんだ。だから友達になりたくて…」
戸惑いながらキョウスケ様を見た。
そんなこと初めて言われた…
「僕で、よろしいのですか。こんな、落ちこぼれの僕で…」
ポタリと涙が零れてしまう。
情けない僕にもキョウスケ様は優しい言葉をかけてくださる。
「そんなに嫌だった?! それなら全然大丈夫だよ! 落ちこぼれ? そんなことないよ! トオルは俺よりも優秀だよ! 他の誰でもなくトオルがいいんだ!」
“優秀”、“トオルがいい”…
僕がずっとずっと欲しかった言葉を言われて、胸の内を感動が占めていく。嫌なわけがない。これは溢れる嬉しさ故の涙だ。
「…嫌じゃないんです、嬉しいんです。キョウ様、ありがとうございます。僕もキョウ様とお友達になりたい」
正直に気持ちを述べた。
キョウスケ様は咎めることなく、その綺麗な顔で微笑んだ。
「じゃあ今日から僕とトオルは友達ね!よろしくトオル!」
差し出した手を握り返して僕も笑う。
僕を認めてくれたこの人に精一杯仕えよう、そう思ったのだった。
***
それからというもの、キョウの正式な従者となった僕は常にキョウの傍にいるようになった。
最初は慣れなかった呼び捨ても徐々に慣れていき、次第に信用できる使用人の前でも「キョウ」と自然に口から出るまでになった。
名前で呼びかけるとキョウはいつも嬉しそうに答えてくれる。
その笑う顔が見たくて用がなくても「キョウ」と呼びかけてしまう。
そんな僕にキョウは辟易することもなく、友達関係は至って順調なままを保っていた。
今この腕の中にいるキョウは優しくて純粋で、出会った頃と全く変わっていない。僕を認めてくれた、僕を必要としてくれた、僕の求めるキョウのままで。
幼い頃は憧れや尊敬だったこの気持ち。
今はそれらをうんと超えて、胸が愛おしさでいっぱいになる。
キョウの喜びが僕の喜び。
キョウの悲しみが僕の悲しみ。
キョウが幸せなら僕もきっと幸せ。
叶うならこの腕の中に永遠に閉じ込めていたいと思えるほど、キョウは僕にとって特別な存在だ。
親愛でもなく友情でもないこの気持ちをなんと名付けるのが最適なのか、僕は悩んでいる。
しかしこれだけははっきりしている。
「ねえトオル、俺ちょっと御手洗行ってくるわ」
「場所わかる? 一緒に行く?」
「さすがに御手洗は自分で行ける!トオルはここら辺で待っててくれると嬉しいな」
「うん、わかった」
ねえ、キョウ。僕は君が大好きだよ。
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