上 下
31 / 53

さんじゅういち。

しおりを挟む
side.メリル
____________________

「視て欲しい子がいるんだ。」

いつもと変わらぬ日常に、変化をもたらしたのは、セシルのその言葉からだった。



連れてこられた場所は、第1騎士団の団長室。

久しぶりに来るその部屋に入れば誰かが僕の前で土下座を披露する。

このおかしい子は誰だと思っていれば、ここに来る間にセシルに説明を受けた異世界から来た子だった。

面倒だなと思い、その子を見ると、違和感の塊のような気がした。

名前を聞かれ、冗談でメリル様と呼んで良いと言えば、本当に言うその子…リウに、アホなのかと思ったのはここだけの秘密だ。

そして、魔力検査をすれば、違和感の正体に気付く。

瞳…いや、髪か?魔力の巡りがそこだけ微妙に悪かった。

気付けば、その違和感の正体を知りたくなるもので、浄化をしてみれば、まさかの聖女様と言われる者と同じ黒髪で、とても興味をそそられた。

魔力の属性も気になって、リウを外に連れ出そうとすれば、ゼノが反対のリウの腕を掴む。

…ゼノが珍しいな、とは思ったが、君は今監視役でしょう?と言う目で見れば、アッサリと手を離した。

ゼノの視線を感じながら出て、訓練場に行く。

そこで時間をかけて調べると、結果は無。

まさかと思って自身に傷を付け、光魔術をするように言えば、戸惑いながらも手をかざす。

魔力の巡りは良かった。初めてとは思えないほどだ。

だが、残念ながら使えなかった。

正直、期待し過ぎていたんだと思う。

この子ならば、と。

見たこともない魔力に容姿。それに異界の者であるということ。

しかし、魔術師としては、このままにしておきたくもない。

とりあえず、いろいろ考えた結果、彼女は魔力の操作が初めてにしては出来過ぎていたことを思い出す。

もしやと思い、彼女に魔石を渡し、魔力を込めさせれば、思った通りの出来だった。

使用すれば、さらにその魔法石の威力に高揚した。

リウを帰し、魔術協会に戻った僕は、寝ずに調べる。

いろんな文献を見て、何十冊何百冊と読んでいると、一つの本が目に入った。

一番古いその本を読めば、一つの可能性にたどり着いた。

____闇属性。

魔力の原初。

まさか、この時代にお目にかかれるとは思っても見なかった。


その後、僕がリウを見る事になり、魔術協会に連れて帰る。

正直、もう少しここに来るのを嫌がるかと思っていたのだが、そうでもなかったのだろうか?

そんな日々が始まった時、セシルが魔石を大量に持ってきた。

いらないというリウに、貰っておけと言うと、素直に受け取る。

翌日から、お世話になったからと第一騎士団の者達にネックレスを作り始めた。

最初は、魔法石作りから。

しかし、僕が言っていなかったのも悪いが、彼女が魔力不足を起こした。

朝会った時に、青白い顔をして立っていたから、本当に驚いた。

急いでポーションを飲ませると、グラグラすると机に突っ伏していた。

それを見て、自分も昔体験したな…。と苦い記憶を思い出す。

それを追い出すように、リウに向直れば、先ほどよりはマシな顔色で、自身の作った魔法石を眺めていた。

そんな色々ありながらも順調な日々が続く。

だが、この生活も長くは続かないだろう。

今はまだ隠されているとは言え、いつかはバレる時が必ず来る。

それは、明日か、もしくは数ヶ月、数年後か。

ただ、セシルはそれを早くしなければいけないはずだ。


_____自分のためにも。


_____あの子のためにも。




「え⁉︎これ、リウが作ったの⁉︎」

「大事にするよ。」

「ふふーんっ!我ながら結構な出来栄えだと思いますよ!」

「本当、自分で言うな。」

経ったひと月で、あそこまで仲良くなれるものなのか。

そう言えば、迎えに行った時も、皆んなに見送られていたな、と思い出だす。

この、聖女でもない異界の子は、他とは違う魅力があるようだ。

ただ、もうこの子は元の世界には帰れない。

この世界でしか生きていくことが出来ない子。

それはきっと、辛いことだろう。

自分はそれを、少しだけでも和らげることができるだろうか。



彼女が来て、僕の静かな日常が活気付いた。

危なっかしいあの子は、人を見る目がないけれど。

そんな彼女を僕は、見守っていこうと思う。


「メリル様!」

「何?」

「これ、メリル様にも!」

どうぞ。

そう言って差し出されたのは、黒い石がはまったネックレス。

とてもシンプルな作りのそれは、彼女が頑張って作っていたものだ。

「ありがとう。」

素直にそう言うと、目の前の彼女の顔がみるみるうちに赤くなる。

「め、メリル様!もう一度!もう一度お願いします!あぁ!なんでこんな時にスマホが使えないんだ!!!」

ただ一つ、問題があるとすれば、このテンションをもう少しだけ下げてくれるとありがたい。
しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

呪われ令嬢、王妃になる

八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」 「はい、承知しました」 「いいのか……?」 「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」 シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。 家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。 「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」 「──っ!?」 若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。 だがそんな国王にも何やら思惑があるようで── 自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか? 一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。 ★この作品の特徴★ 展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。 ※小説家になろう先行公開中 ※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開) ※アルファポリスにてホットランキングに載りました ※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

SAI
ファンタジー
魔法が当たり前に存在する世界で17歳の美少女ライファは最低ランクの魔力しか持っていない。夢で見たレシピを再現するため、魔女の家で暮らしながら料理を作る日々を過ごしていた。  低い魔力でありながら神からの贈り物とされるスキルを持つが故、国を揺るがす大きな渦に巻き込まれてゆく。 恋愛×料理×調合

処理中です...