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にじゅうさん。

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馬車を降り、忍者のように魔術協会の裏口から入ると、すぐの所にメリル様の研究室があった。

本当に誰にも会うことなく部屋に入ることができ、つめていた息を吐き出せば、少しは落ち着く気がした。

「ちょっと休憩しようか。」

そう言ってメリル様がハーブティーを淹れてくれる。

それに手伝いを申し出れば、下手そうだから座ってて。とソファーを指差した。

なんて優しい心の持ち主だろう。と感激し、目頭を押さえていれば、爽やかな匂いがするハーブティーが入ったカップが目の前に置かれる。

どうぞ。と言うメリル様に、ありがとうございます。と言い一口飲むと、その味と暖かさに、ホッと息をついた。

そんな私に、もうフードはとっていいんだよ。と言うメリル様の言葉に従いフードを取れば、同じハーブティーを飲んでいるメリル様の姿を見る。

一つ一つの所作も美しいな…。と思って見ていれば、リウは…、とメリル様に声をかけられた。

「聖女召喚をどこまで知っているの?」

「…え?」

その質問はあまりに唐突のように思え、メリル様を伺い見ると、どうなの?と聞かれる。

それに私は自分の聞いた事を話す。

「この王国で、300年に一度行える儀式だと、ゼノさんに聞きました。後は、それで喚ばれるのは、黒髪黒目の少女だと言うことくらいですかね。」

まぁ、今回は私がついて来ちゃいましたけど。と言えば、あんまり詳しくは聞いていないんだね。と言って、聖女召喚の儀の説明をしてくれた。



聖女召喚の儀とは、私が聞いた通り、300年に1度行うことができる儀式だ。
なぜ、300年に1度なのかと言うと、私達が召喚されたあの水たまり…神殿にある泉とのことだが、そこには不思議な力が宿り、その力が溜まるのが300年に1度だかららしい。

てっきり、魔術師が魔力をためて…とかだと思ってました。と言えば、それはまた大変な作業だね。と言われた。

確かに、魔術師だけだと何百年も毎回同じ魔力をためれるわけじゃないから、非現実的だなと思った。

現実は小説よりも奇なり。…ちょっと使ってみたかったのだ。許せ。…あ、すみません、許してください。

そして、その力がたまったと分かるのは、泉の色が透明から白色に変わった時。

私がいた時にはすでに透明だった気がするから、召喚されれば泉の力は失われるのだろう。

ちなみに、なぜ聖女召喚が行われるのかは分かっていないとのことだ。

調べようにも、特に流行病や干ばつ、魔物が大量発生したからなどと言うこともなく、王国ではこれを、神の恩恵とも呼んでいるらしい。

そんな稀な現象を、特に魔術師の人達は一目見ようと泉に集まる。

…だから人が沢山いたのか。

もしやメリル様も?と聞くと、僕はその時ここで寝てた。と言われた。

興味なさ過ぎでしょう…。と思うと同時に、あの場にメリル様がいなかったことに安心した。

「そう言えば、あの子…聖女様は今どうされているんですか?」

「さぁ。ここに喚ばれて、3日後くらいにお披露目があったとは聞いたけど。」

そう言って立ち上がるメリル様を見る。

セシル王子もだが、メリル様も300年に1度しかない出来事に興味がなさ過ぎやしないか…?

そんな私の疑問には誰も答えてくれることなく、メリル様が席を立ち、手に何か箱のような物を持ってやって来る。

再度向かいのソファーに座ったメリル様は、その箱を私の前に置いた。

「これは…?」

「開けて見てごらん。」

そう言われ、どことなく高級感漂う黒い箱を開けると、そこには綺麗に並べられた大小色とりどりな石が入っていた。

「綺麗ですね…。」

そう言って1つ、1cm程の小さな赤い色をした石を取り出し眺める。

宝石のルビーのような輝きに、目を奪われていると、それ、結構高いからね。とメリル様に言われる。

どのくらいですか?と聞けば、そうだね。そのくらいなら馬車が2台分くらいじゃない?とのことだ。

値段はよく分からないが、凄く高いと言うことだけは伝わった。

サッと、しかし、丁寧に箱に戻し、ススっとメリル様の方に箱を押し返す。

あの中にあるのを1つでも無くせば、きっと私は死ぬまで奴隷のように働かなければいけないことだろう。

あぁ!怖い!怖いわ!恐ろしくて見たくもないわ…!!

そう、心の中でキレていると、メリル様が黒い箱より一回り小さい、青色の箱を私の目の前に置いた。

私は触らんぞ!絶対に!絶対にだぞ!と、腕を胸の前で組んでみせれば、笑みを浮かべたメリル様に、開けてよ。と言われる。

サッと手を動かし、蓋を開けると、先程とは違う乳白色の石が入っていた。

…ハッ!体が勝手に…!と思っていると、その石をメリル様が一つ取り出す。

「見てて。」

そう言って、手のひらに置いた石を私の目の前で握る。

数分して、開いた先にあったのは、

「青、色…?」

ゼノさんの瞳を思い出すような、深い青色の石だった。
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