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にじゅうに。

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魔力検査をした日から、10日が過ぎた。

私は相変わらず第1騎士団でお世話になっている。

ただお世話になっているだけも心苦しいから、何かさせてほしいと、ゼノさんに訴えれば、何もしなくて良いと言われる。

話にならないと、パドマさんに相談すると、その話を近くで聞いていた女子寮のおばちゃんに、私の手伝いをお願いできるかい?と言われた。

それを1つ返事で了承すると、ありがとう。とシワの多い優しげな顔を綻ばせた。

おばちゃんは、メディナさんと言うらしい。

みんなが、おばちゃんと言うから、私も失礼ながらそう呼んでいた。

今日から改めよう。

そう思って、メディナさん。と呼びかけると、やだよー、そんな他人行儀な。と怒られた。

え?と疑問符いっぱいの私に、メディナさんは、おばちゃんの方が、家に帰って来たって感じだろう?と笑う。

そうなのかな…?そうなのかも!と私も笑えば、近くで聞いていたパドマさんも笑っていた。

「おばちゃん!私、洗濯物洗って来ます!」

「はいよー。」

おばちゃんの返事を聞き、自分の分も入った洗濯物の籠を持つ。

ズシリとした重さを感じながら、井戸の近くに行けば、猫が一匹日向ぼっこをしていた。

その様子に癒されながら、水を引く。

私が使えないと言うこともあるが、魔法というものがあっても、日常生活ではあまり活用されないらしい。

汲んだ水を別の容器に入れ、この世界の洗剤を入れる。

植物だけで作っているというこの洗剤は、そのまま外に流しても何の問題もないらしい。素晴らしい。

緑色した粉を溶かし、服を一枚一枚丁寧に洗っていく。

第1騎士団に所属している女性の数はあまり多くなく、4名である。

この人数にしては洗濯物が多いと感じるのは、訓練などで着替える数が多いからだろう。

パドマさんがいたら一瞬で乾くんだろうな。と思いながら洗った服を日当たりの良い場所に干していれば、リウちゃーん!とおばちゃんに呼ばれた。

「はーい!今いきまーす!」

籠に少し残っている洗濯物を急いで干し、おばちゃんの元に行く。

「どうしましたか?何か困りごとが……、」

そう言いながら裏口の扉をくぐれば、

「久しぶり。リウ。」

10日ぶりに会う、

「め、メリル様⁉︎」

天使がいた。





「じゃあこれに着替えて来て。」

そう言って、服を渡される。

「あの…この服は?」

「魔術師の見習いの服だよ。」

「なんでそんな服を…?」

「魔術協会に行くから。」

「……え?」

「何?質問が多いよ。良いから早く着替えて来て。」

そう言って、自分の部屋の中に押し込まれる。

魔術協会とはなんなのだろうか。

それに私がこの服を着る意味もわからない。

そう思いながらもササッと言われた通りに着替える私は、きっと熱心なメリル様信者である。



「メリル様、着替えました。」

「…うん。サイズもちょうど良いね。」

じゃあ行こうか。と言うメリル様の後を着いていく。

途中、おばちゃんに行き先を告げると、いってらっしゃい。と優しく見送られた。

寮を出ようとした時、メリル様にフードを被らされた。

「…メリル様?」

「今から外に出るんだからね。今の自分の容姿わかってるの?」

「あっ…。」

そう言われて、今の状況を思い出す。

第1騎士団のみんなや、おばちゃんには、ゼノさん達が話をしてくれたのか、凄く視線を感じること以外は特に何も問題は起こっていない。

だからだろうか。

ここ最近、平和な日が続いていたから失念していた。

自分の危機感のなさに危機を覚えると、分かれば良いんだよ。とメリル様に言われる。

そんな私は、メリル様に褒められた…⁉︎と感激していた。




第1騎士団の敷地外に出るのは、この王都に来てからは2回目で、凄く緊張する。

10分ほどメリル様の後を追うように歩いていれば、一台の馬車の前で止まった。

「乗って。」

そう言われて先に乗ると、後からメリル様も乗る。

向かい合うように座り、疑問に思っていたことをメリル様に聞いた。

「メリル様。魔術協会とはどのような所なのでしょうか?」

「魔術師が所属している所。」

「…なぜそこに私が行くのでしょうか?」

「調べたいことがあるから。」

「調べたいこととは?」

「行けばわかる。」

そう言って窓の外を見るようにして口を閉ざす。

んー…。魔術師がいると言う事以外には何もわからん。

そう難しい顔をしていると、メリル様の綺麗な顔がこちらを向いた。

「…あぁ、それと、魔術協会には、君の召喚に参加した魔術師もいるよ。」

「……へ?」

綺麗な口から、綺麗な声が聞こえたと思ったら、それは私にとんでもない衝撃を与えるものだった。




「あの、私、帰ります。」

「ダメ。」

「行きたくありません。」

「ダメ。」

「そこどいてください。」

「今出て、君は帰り道が分かるの?」

「……。」

揺れる馬車の中で、扉をメリル様に塞がれながら抗議すると、全てを却下される。

なぜ私はメリル様に着いて来たんだ…!メリル様だからか⁉︎なるほど、それなら納得でき……ない!

いやいやいや。ついさっき危機感を持てと自分で言ったばかりじゃないか…!

私はバカなのか…?バカなのか…!

「大丈夫だよ。誰かバレないようにその服着ているんだし。それに、行くところは僕の研究室だから人に会うことはほぼないよ。」

私が青ざめるのを可哀想に思ってくれたのか、メリル様からフォローが入る。

しかし、メリル様は自分の研究室を持っているのか…!

さすがメリル様!!今日も素敵です!!!

そうやって直ぐにメリル様を褒め称えてしまうのは、きっと私が反省していないからだろうと思いました。

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