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にじゅういち。

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side.ゼノ
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「すみ、ませ…っ!」

そう言って、目の前で泣く彼女から、目が離せなかった。



森の中で出会ったっ時は、正直、死んでいるのかと思った。

ボロボロの姿に、青白い顔。

彼女の微かに動く指先を見落としていたら、きっと見捨てていただろう。

生きていると分かり、ポーションを確認すれば、緑のポーションしかなかった。

それを飲ませると、噎せて苦しむ。

その合間に見えた瞳に、目を奪われた。

黒?…いや、それにしては薄い……灰色?

初めて見るその瞳を、素直に綺麗だと思った。



それから、野営地に連れて帰り、パドマに世話を任せる。

見回りを交代し、パドマと先ほどの者がいるテントに向かえば、何やら話し声が聞こえる。

事情を聞いた俺は無理矢理ポーションを飲ませた。



その後、食事を与え、アーロンと話を聞けば、聖女召喚に巻き込まれたとのこと。

疑い半分な気持ちで聞いてはいたが、この世界では見たこともない彼女の持ち物や、突然変異のような瞳の色、聖女召喚、それにあの状態で東の森にいた事の理由は、確かに異世界から来たと言う証明には充分過ぎた。

アーロンの叫びには驚いたが、彼女…リウの話が本当だとしたら、かなり面倒なことになる。

そんな時、俺の気持ちが現実になったかのように、セシルが顔を出した。

リウが気絶した後、パドマに任せれば、セシルが俺の隣に来る。

「良い子が来たね。」

それは、どういう意味だったのか。

幼馴染である彼のその言葉の意味が俺には分かった。

「……そうだな。」

そう答えると、隣で笑う声がした。




それから、王都に戻れば、セシルがメリルを連れて来る。

魔力検査をした結果は、黒。

それも、何の曇りもない、漆黒。

一緒に喚ばれた聖女という存在の魔力とは真反対の色だった。

それに、最も驚いたのが髪の色だった。

髪を染めると言う習慣がない俺達は、気付くことも出来なかった。

そんな不思議な色ばかり持つ彼女は、何の魔法も使えなかった。

期待が外れた。

それは、あの場を先に離れた俺達3人の意見。

正直、異界の者であるから、何かしらの才能がある者だと期待していた。

「そう言えば、何であの時アーロンの手を払ったの?」

メリルに質問され、その時のことを思い出す。

「……さぁな。」

特に理由はない。…ただ、触れて欲しくないと思った。

それは、どういう意味でか、なんて、今の俺には分からない。

「あまり情を移してはいけないよ。」

そう言うセシルに一瞥をくれれば、あの時みたいに笑った顔をした。





止まることがない涙を拭うと、ハラハラと新しい涙が跡を残すように流れてくる。

正直、彼女が泣いている理由が分からない。

髪を、瞳を、褒めたことが悪かったのだろうか…?

純粋に綺麗だと、思ったことを言っただけなのだが。

ただ数日。

正確には出会ってから4日しか経っていない彼女の事を俺が知っているはずもないのだが、今はその綺麗な瞳から流れる涙の理由が知りたいと思った。

「リウ。」

名を呼ぶと、びくりと小さく震える体。

軍馬に乗せた時も思ったが、この細く折れそうな体で、よくあの森を生き抜いたものだ。

その体をソッと抱きしめれば、彼女の涙が増した気がした。





何分そうしていたか。

もしかしたら何十分も経ったかもしれない。

腕の中の彼女は、いつの間にか泣き止み、今は眠りについていた。

その体をベッドに置けば、離れた体温に縋るように体を丸める。

こんなに無防備で良いのだろうかと、はぁ…。とため息が出る。

どちらかと言うと警戒心があまり強くないように見える彼女は、直ぐに俺達に溶け込んでいくように思う。

それは、彼女の不思議な性格もあるのだが、元の世界ではどうしていたのだろうか。

いつか、聞けるといいなとは思う。


「…これが、情を移すと言う事なのかもな。」

そんな自分に自嘲すれば、ん…。とリウが寝返りを打った。

たくさん泣いたから、明日は目蓋が腫れるだろうな。

そう思った俺は、リウの目に手をかざし、水魔法の高位魔法である氷魔法を発動させる。

痛くない程度に冷やし、しばらくしたらやめる。

それでも起きない彼女は、魔力検査が相当疲れたのであろう。

「……あまり、他人を信じるな。」

それが彼女に聞こえていない事を承知で言う俺は、きっと狡く、残酷なのだろう。

彼女の綺麗な黒髪をひと撫でし、部屋を後にすれば、いつからいたのか、扉の横にセシルがいた。

「……盗み聞きが好きなやつだな。」

「ふふっ、何も聞いていないよ。」

そう言って笑う顔は、相変わらず人の良さそうな綺麗な笑みだった。

「メリル、また来るって。」

「そうか。」


そう言えば、リウはメリルに凄く懐いていたな。

そう思うと、胸の奥がモヤッと、淀んだ気がした。
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