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紬said.
22.
しおりを挟む電車とバスを乗り継いでたどり着いたのは、GW最終日のたくさんの人がいる遊園地。
隣町にあるこの遊園地は、私も小さな頃から来ていた場所だ。
「何から乗ろうかなー」
「とりあえずこれじゃね」
昨日莉子達に話し、気持ちがスッキリした私は“いつも通り“の自分で”デート“に臨めた。
高杉君の顔を見ると気持ちが揺らいでしまうが、今日は思いっきり楽しもうと決めたのだ。
パンフレットに載っているジェットコースターの写真を指さした彼に、良いね!行こう!と一緒にジェットコースターの列に並ぶ。
待ち時間約40分。その間にどう回って行くかを話していたり、小さい頃来た時の思い出話をしていると、あっという間に順番が回ってきた。
「なんか緊張してきた」
「ははっ、なんだよそれ」
「しない?」
「しない」
今から乗るジェットコースターを前に、楽しみな気持ちと少しの恐怖感を感じる。
係の人の案内でジェットコースターに乗り、一時してからロックの確認をされた。
少しして「では、いってらっしゃーい」の声と共にジェットコースターはガコン、と音を立てて動き出す。
高いところから一気に落ちるこのジェットコースターは、下から見ていたよりもかなりの高さがあった。
「あ、ヤバい、ヤバい、ヤバい」
「瀬名ヤバイしか言ってねー」
「ヤバイヤバイヤバ…キャァあぁぁあ」
結論:ジェットコースターはヤバい。
「お腹空いたねー」
「空いたなー」
最初のジェットコースター以降、当初の目的から外れ絶叫系をコンプリートしようということになった私達は、約2時間かけて3つのジェットコースターを全て乗った。
1つは水をかぶる乗り物だったため、カッパを着たが髪が濡れてしまった。
お腹が空いた私達は、かなり遅めのお昼ご飯を食べるために遊園地内にある飲食店コーナーに入る。
「瀬名、これとかどう?」
何にしようかと2人して悩んでいると、高杉君が少し先にある看板を指差した。
”遊園地に来たらコレ!“と書いた蛍光色が目立つ看板には、遊園地のキャラクターが印刷された紙に包まれているハンバーガーだった。
「おいしそうだね。…あ、チーズのが人気だって!私これにしようかなー」
「俺は普通のにするわ。このセットと一緒に頼もうかな」
「あっ、良いねそれ!」
注文が決まった私達は「すみませーん」と店員さんを呼び注文する。
「この機械から音がしたら取りに来てくださいね」と手のひらサイズの機械を受けとり、その間に席を見つけ座った。
5分ほどでピーッピーッと思っていたより大きめの音が鳴り、ワッと驚いた私を高杉君は笑いながら「取ってくるな」と言って席を立つ。
ああいう事が自然にできるからこそ彼はモテるんだろうなーと、ハンバーガーがのっているトレーを受け取る高杉君を見て思った。
「はい、こっちが瀬名の方な」
「ありがとうございます!」
「ははっ、どういたしまして」
「わー、思っていたより大きいねー」
高杉君が取ってきてくれたトレーを受け取ると、思っていたよりボリュームがあるハンバーガーが目に入る。
「写真より小さいとかはあるけど、ここのは逆だったな」と高杉君もトレー受け取るときに思ったらしく、2人して笑う。
「「いただきます」」という声が、いつかの時のようにきれいに重なった。
あのジェットコースターはこうだった、あの時が一番怖かったと話したり、昨日まで行っていた合宿の話を聞いたりしながらハンバーガーやポテトを食べる。
北高の設備は一年前より進化していたらしく、森君のテンションが凄かったと高杉君が疲れた顔をしていた話には、その時の様子が簡単に想像できて笑ってしまった。
ご飯を食べ終え、髪も乾いた私達はブラブラと歩きながら気になったアトラクションに乗っていく。
大きな船が前後に大きく揺れる物や、ブランコに乗って空中をまわる物。
鏡張りの迷路では、何度も顔面をぶつける私を高杉君がめちゃくちゃ笑っていた。
迷路を無事に抜け、そんなに笑わなくても良いじゃんと拗ねている私に「あれは?」と高杉君が見ている先がお化け屋敷だったため、それは全力で拒否させていただいた。
暗闇でいきなり何かが現れたり追いかけられるのは苦手なのである。
____
___
夕方が近くなり人も徐々に減ってきた。
外はいまだ明るいとは言え、帰る時間を考えるとアトラクションに乗れるのは後一つくらいだろう。
この時間が終わってしまうことに寂しさと虚しさが入り混じったよく分からない感情を覚える。
それをかき消すようにパッと楽しいのに乗ろうとパンフレットを眺めていると、「最後にさ、あれに乗らね?」と高杉君が言った。
「あ…」
彼の視線をたどった先には、恋人とのデートでは必ず乗るだろう王道的なアトラクション、観覧車。
カラフルなゴンドラがゆっくりと回転する観覧車は、遊園地や周りの景色が一望できると、子供より大人に人気のアトラクションである。
別に高いところが嫌いと言うわけではない。
どちらかと言うと好きだ。
ただ、私には、
「高杉君とは…乗れないや」
そう、乗れないのだ。
思っていた事が無意識に口から出てしまった。
ヤバい、と視線を彷徨わせ、グッと唇を噛み締める。
まだ、言うつもりはなかった。だけど、今しかないとも思った。
「どういうこと?瀬名?」
よく分からないという顔をした高杉君と目が合う。
そりゃいきなり言われたらそうだよね…と妙に冷静な頭で思った。
「瀬名?」とまた名前を呼ばれ、あぁ…もうこの私を呼ぶ声も聞けなくなるのかなと寂しくなる。
そう思ってしまったからだろうか。頭のどこかで、今ならまだ引き返せると”私“が囁く声が聞こえる。それと同時に、この関係を長引かせるのはよくないと“私”も言う。
でももう、今の“私”は決めたのだ。高杉君とは、もう、
「だってね、観覧車っていうのは私の中で恋人と乗るものなの」
「は?瀬名、何言って」
「ごめんね。私、高杉君とは付き合えない。
___別れよう。」
お終い、だって。
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