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物事は収まるようにできているのです

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 表彰式が終わって、てつやたちはセレナで着替えて駐車場を出る準備をしていた。
 そこへ色々な人が訪ねてきてくれて、話し込むことも多く、あれからとったホテルに夕食を断っておいて良かったと思う時間が続いた。
「てつやー」
 両手を広げてきてくれたのは、熊谷さん。
「さっきからモニターでゴールの瞬間が流れてるから見られたけど、大丈夫だったのか?ほんとに」
「ええ、バットマンは本当に正義のヒーローでした」
 笑って怪我がないことをアピール。
「その後セレナから落ちて膝擦りむきましたけどね」
 まっさんがやってきて、絆創膏の貼ってある膝を指差した。
「お前らしいな」
 相変わらずガハハと笑って背中をバンバンと叩かれた。
 向こうでは文ちゃんが八…マドレーヌに絡まれていて
「あなた、今日中々がんばったって聞いてるわよ。次は私のサポートに入らない?」
 まさかのスカウト!
「おやおやマドレーヌ姉さん、俺の一番弟子の引き抜きですかー?」
 京介が火のついていないタバコを咥えて、文ちゃんの肩に手をおいた。
 京介の助け舟。
「あら京介、あなたが弟子なんていうの珍しいんじゃない?」
「苦労して育ててるもんでね」
「じゃあ、もう少し仕上がった頃またスカウトに来ようかしら?」
 扇子を口元に当ててコロコロと笑う。
「その頃には文治は自分で選びますよ、姉さんか俺か」
 あんたが選ばれると思う?くらいな態度に、マドレーヌが扇子をパチンと音を立てて閉じた。
「京介、あんたイイ男なのにさ、ほんっと嫌い。あたしに靡かないところがもっと嫌い」
 マドレーヌ姉さんはそういうことだったんだね。扇子で顎をクイッとされて、京介は両手を上げる。
「『そう言う』ご指名ならいくらでもお受けしますよ?いつでもどうぞ?」

 その言葉にムキーッという顔つきになった姉さんは
「私で遊ぼうとするところ、ほんっとーに嫌いよ!」
 そう言って顎の扇子を京介の顎を弾くように乱暴に上へとあげると、くるっと回って行ってしまった。
『また大人の会話だ…。京介さんはほんとに大人だなぁ…でも、俺の事弟子って言ってくれた…ちょっと嬉しいな』 
 ー痛えなぁーと顎をさすりながら文治の頭をポンポンとして、京介はタバコを吸うためにサニトラに向かう。
 しかしマドレーヌ姉さんは本当にでかい。京介も187cmあると言うのに、その顎をクイって!
 150cmの文ちゃんは下から眺めるだけだった。もうちょっと背を伸ばそう!決心する20歳の夏。
 銀次は…表彰式が終わってからずっと…後に例の人形を引き連れていた。いや、勝手についてきている。
「ねえ?賞金渡すから離れて…怖いんだけど」
「お金じゃないのよ、名誉なのよ」
 喋るんだ…
「じゃあどうしたらいいんすかもー!」
「わからないのよ」
「は?」
「気が収まらないの」
 そこにまっさんが銀次に耳打ち
「え、無理…」
「いいからやれ。『ね』じゃなく『な』だからな!『な』だぞ」
 銀次はえ~?と言いながら、人形に近づきほわっと抱きしめて
「ほんと、ごめん『な』」
 とどこにあるかわからない耳に囁いた。抱きしめたらちゃんと暖かかったし、柔らかかった。
 人形の頬がポッと染まり、後に三歩ほど下がった。
「許す。また次回会おうね」
 といって するすると去っていった。
 去りながら人形は、次回はフランス人形にしよう。いっぱいおしゃれしようって決めた。
「まっさ~~ん。ありがとお~~~」
「もう少し女性の扱い慣れような」
「パン屋の厨房じゃ出会いないからさ~」
「まあ俺も似たようなもんだけどさ」
 ちょうど通りかかったマドレーヌをあしらっていた京介を恨みがましく見る。
「なに」
 視線を感じて京介がやってくる。
「いいえ!なんでもないですよ!」
 プンスコして銀次はセレナに入っていってしまった。
「何怒ってんだ?」
「いや…放っといてあげて」
「なんだそれ」
 理解不能ながらも、まっさんと2人銀次を見送って肩をすくめあった。
 懇親会にでないといったら、挨拶にくるくる…結局駐車場を出たのは午後6時を過ぎてしまっていた。
「懇親会始まる時間じゃねえかよ」
 そう言いながらも嬉し笑いをしているてつや。
「これから夕焼けの富士山が見れますねー」
 2台に分かれているのでインカム必要w 内訳は、京介の車になんと文治!てつやが運転するセレナにまっさんと銀次が乗っていた。
 京介はタバコを吸うので、てつやはあまり一緒には乗らない。ロングドライブに関してはだけど。
「文ちゃんは俺の方に来ると思ってたよー寂しいよーおっさんばっかでー」
「同い年だよ、悪かったな」
「晩飯どうするー?」
 京介が聞いてくる。
「俺さっき調べたんだけど、イタリアンとステーキ酒場っていうとこあったんだけど、どっちがいい?」
 銀次がスマホを出して情報を伝える。
「せっかくだから郷土料理とかはねえの?」
「てつや、山梨の郷土料理は『ほうとう』だ。美味いんだろうけどさ、暑いんだよ…」
「まあでもさ、スパゲティだって出来立ては熱いんだし、俺はほうとうに一票かな」
「僕はお肉ー!」
「俺も肉~」
 サニトラ組は肉食だ。
「え~~。まっさんは?」
「俺も肉…かな」
「なんだよ!」
「じゃあじゃあてつや。ほうとうは明日の昼飯にしねえ?今はみんな腹減ってて肉に行くわ。俺もだし」
 銀次が間に入って折衷案を出す。
 まあ、考えてみれば確かに肉も食いたいよな…
「わかった、じゃあ肉にすっか」
 イタリアン立場無し。若者の肉食には勝てませんね。
「じゃあ、今度は誰が酒飲めないか勝負~」
 銀次が言い出してきた!重要勝負!
「あ、僕は飲まないので、運転します~」
 後1人。
「口じゃんけ~~ん。じゃ~んけん…」
 銀ちゃんが飲めない憂き目に遭いました…こう言うのって言い出したやつがなるのほんとなんでだろう。
「ホテル行く前にコンビニ行こうな」
 相変わらず優しいまっさんであった。



 ホテルは5人入れる部屋が取れた。
 ベッド二つ、和室に布団三つ敷けるジュニアスイートだ。8時過ぎてからのチェックインだったから見えなかったが、どうやら窓から富士山が見える部屋らしい。朝が楽しみーと文ちゃんは喜んでいた。
「あ、そうだ文治、かーちゃんに電話して」
「え?まっさんなんで?」
「俺一晩の泊まりっていっちまったからさ、心配させてしまう。もうこんな時間だし、ギリギリだよ今でも」
「わかったー」
 文ちゃんはかーちゃんに電話して、まっさんに変わるねーと代わってくれた。
 まっさんは電話なのにお辞儀をしながら、勝手に予定を変えてしまったことと、学生を一晩多く泊まりにさせてしまったことを詫びていた。
「サンキュ」
 文ちゃんに電話を返して、
「皆さんの言うこと聞いてお利口にね。だそうだよ文治」
 にやにやしてまっさんが伝えてきた。
「俺イイ子でしょ?」
「まあな」
 頭グリグリしてまっさんは笑って、風呂行くぞとコンビニで買った下着を手に取った。
「てっちゃん!ゆらゆらできる~」
 大浴場で縁に頭を乗せ寝転ぶ文ちゃんとてつや。
「はあ~きもちいいね~文ちゃん」
 平日とはいえ夏休みなのに、時間的にか風呂が空いていた。
「てっちゃんに教わったこのゆらゆらは最高だよ~」
 横で普通に入っていた銀次は、
「ゆらゆらしてんのは体だけじゃねえけどな…」
 と薄笑い。
「やだ~銀ちゃんのエッチ~」
 文ちゃんのび太さんのエッチ~みたいに言うじゃん?
「お?品評会か?俺も参加しよ」
 京介が湯船に浸かりにきて、ゆらゆらしているものを見て一緒にゆらゆらし始めた。
「品評会言いながら参加するって、どんな自信だよ!」
 3つゆらゆら。
「俺上がるわ~」
 男の見せられて喜ぶたちじゃない…
「確かに気持ちいいなこれ」
 京介も気に入ったよう。
「色んなとこゆらゆらして気持ちいい」
 殊更に腰を振ってゆらゆら。
「京介」
 まっさんが、そんな光景を意にも介さず京介の隣に入り込んだ。
「後でいいんだけどちょっとロビーにきてくんね?」
「ん?なによ」
「ちーと話があってね」
「俺に?」
「そそ。大したことじゃないけどな。じゃあタイミングで」
 そう言ってまっさんは風呂から出て行った。
「あいつあったまってねえじゃん。湯船で解さねえと、明日足辛いぞ~?」
 てつやはローラーのあとの辛さをよく知っている。それはきっとまっさんとてわかってる、と思う。
「てっちゃんもよくほぐしてね」
 京介はちょっと気になってきた。なんの話だろ?

 部屋へ戻って、コンビニで買ってきたビールで乾杯!ジュニアスイートは冷蔵庫も大きくてよし。
「文治もすこーし飲んでみるか?」
 銀次がコップとビールを掲げて、文ちゃんに勧めてみる。
「ビールは苦いからねー」
 プイッと横向いて拒否されてしまう。
「じゃあこれ、ほい。甘くてうまいやつ~ 一気にいってみ?」
 てつやが銀次の行動に少し疑問を持った。文治に飲ませようとし過ぎじゃねえ?「あ、ほんとだ!甘い!おいしーぃ」
 文ちゃんは、桃の缶チューハイをコップの半分ほど一気に飲み干してしまった。
「ああ、文ちゃん。それお酒よ?大丈夫か?」
「お酒ってまずいと思ってたよ~。美味しいのもあるんだね」
 文ちゃんはおかわりーと言ってコップを突き出している。
 しかし流石の銀次も、初心者にバカすか飲ませるほど非常識ではなく、今度は文治が買ったファンタオレンジをコップに入れてあげた。
「なにこれ!ファンタみたい!」
 ファンタだよ!そこは全員が突っ込んだ。 
 実際銀次は、文ちゃんを寝かせようとしていたのだ。あまり無理なく自然に寝かせてあげたいので、交互に少しずつ飲ませている。
 吐かれでもしたら大変だし。
「てっちゃん!」
「はい?」
「セレナボコボコにしてごめんね!」
 大崎のアルファードを追い越し車線に戻すため、文ちゃんが勇敢に戦った証だ。
「いいんだよ。俺を助けようとしてくれたことなんだし。気にすんな」
「セレナがねー痛い痛いって言ってるのーうわーん」
 な…泣き上戸…?まさかの…。
「ぶ、文ちゃん大丈夫だよ。セレナは『てっちゃん助けられて嬉しいよ』って言ってる。俺にはそう聞こえるから」
 セレナの声真似!?
「セレナってそう言う声なんだ」
 まっさんにそう言われるとちょっと恥ずかしい。
「ほんと?」
「うん、ほんとほんと。俺の車だぞ?セレナのことはわかってるから」
「そっか…よかった……くぅ…」
 寝た…
「はええ…京介なみにはええわ」
「あの時は!疲れてたんだよ!」
 割と何度も言われている京介。そろそろ撤回せねば。
「まあ取り敢えず、寝てくれてよかった」
 ビールを煽って、銀次がイカソーメンを咥えた。
「お前らなんなん?なんか企んでねえ?」
 京介もイカそうめん咥えながら、訝しげに前の2人を見ている。
「時間早いけど、京介、ちょっとロビーのラウンジ行こうぜ」
「なんだよここでいいじゃん」
「話があるって言ったろ。ここでは銀次とてつやが話すから」
「ああ?一体何!」
 てっちゃんもすこしキレそう。文ちゃん無理矢理寝かしたから機嫌悪し。
 京介はーわかったよーと言ってタバコを持ってまっさんについてゆく。タバコも吸いたかったしね。

「で、なに」
 柿ピーの小袋を手に持って、カリカリ言わせて苛立たしそうにてつやは足を組んだ。
「いや、ちょっと文治をベッドに連れてってからな。ここじゃ可哀想だから」
 銀次は、ソファの背もたれに横向きに寄りかかっている文治をーよっーと掛け声ひとつお姫様抱っこして、ソファの右側のベッドへ移そうとしたが、掛け布団が捲れてなかった。
「てつやぁ~ちょっと布団めくって…おもっ」
 ちっと舌打ちして、てつやは掛け布団を捲りにやってきた。
「で?」
 掛け布団をかけてやって戻ってきた銀次に、開口1番その投げやりな『で?』
「まあ落ち着け。今日の昼間のことなんだけどさ…」
 銀次は言葉を選びながら話し始めた。

「う…っそだろ?」
 些か慌てたようだが、どこかまいったな、的な表情を残して京介は手元の水割りを一気飲みした。
 目があったボーイにグラスを上げると、ボーイは頭を下げて制作
に取り掛かる。
「だから、隠れてた文治だけじゃなくて、俺たちもあの現場の音声は聞いてたんだよな。お前らさあ、どうなってんの?」
 それは、昼間の石川パーキングでの、出立間際の京介とてつやのキスシーンの話。

「どうなってるって…別に…」
 さっきまでの不機嫌で絡んでいたてつやは、さて、どう答えたものかと頭を巡らせる表情になった。
「なん~か匂ってくるんだよ。物質的にじゃないぞ、感覚的にだ。結構前から、お前ら2人の動向を見てるけど、すこ~しあれ?っと思うこと多いんだよ。それで今日のアレだろ?どうなってる2人なんかなって」
「たまに京介が…甘えてくるから(性的な意味で)受けて立ってるっていうか…俺はほら、男に抵抗ないしさ…」
「ふうん…じゃあ俺が性的に甘えて行ったらどうよ…」
「いや、それは…」
「ほらみろ」
 はぁ、吐息を吐いて文治が残した缶チューハイを一口。


「俺は、疲れたりさ、すっげー眠い時とかに、そこにてつやがいれば色んな意味で絡んでいっちまう癖があって、あいつ上手く受け止めてくれるからなんか…甘えるって言うと変だけど」
「それでキスしちゃうのか。じゃ今日の昼間はずいぶん疲れてたか眠かったってことなんだな?」
「っ… ……」
「違うだろ?」
 ふぅ…まっさんはやっと自分の水割りに手をつけた。水滴が水嵩とそれ以外でくっきり分かれていて、乾いた上の方を手に取った。


「京介から来るのがほとんどなん?お前はどうなんよ。甘えてないん?」
 じっくり1分くらい考えて、
「そうやって…来てくれるのを…待ってる節は……あるかもしれない…。これって甘えてるかな」
「甘えてるな。方向性違うけど」
 即答されてソファに撃沈。
「俺もさ、男だしやりたい時もあるじゃん。わかるべ?でも最近はさ、『遊びでやる』ってのめんどくさくてさ…でもキスくらいしてえなあって思うと、ああして来てくれたら…」
 キスくらいさせてやろう、なんて思っていた気持ちは、自分がしたいからの裏返しだった。


「ヤりに行くわけ?迫る時って」
 ずいぶんストレートに聞くなぁまっさん。
「や…そう言うんじゃない…気はする。てつやの防御が凄えから、グイグイ行けねえんだよな女相手みたいにはさ」
「てつや防御すんのか?」
「ああ、もう鉄壁なガードさ。で、俺はかわされてキスだけしておしまい。躱すのうめえんだよなあいつ」
 両掌を上に向けてパーッと開いてお手上げポーズ。 
「そりゃあまあな、野郎同士の関係はあいつのほうが数段上手うわてだろ」
「まあなぁ…」
「少し話逸れるけど、お前男相手って…」
 また切り込んでいくから…まっさん
「あることはあるよ。でも恋愛感情なんてものは全くだけどな。俺もある意味性別関係なくイけちゃう口だけど、女の方が圧倒的に多いかな。俺どっかおかしいんかなって自分で思うほど人に関心なくて、セックスもただの作業なんだよ」
「そんなお前がてつやには関心持ってる…って事?」
 京介は黙り込んだ


「お前がキスしてえなあって思った時に、そこに京介がいてもお前は行かねえってことだな」
「ん~…多分」
「ずるくねえ?」
 まあ、それは自分でも思う。
「自分からいっちゃうと、京介に応えることになっちまうからいけないんじゃねえの?応える気は無いのに、来てくれたらキスくらいはしてやるか…なん?それは京介が可哀想だわ」
「それは違う…違うんだ…」



「恋愛感情じゃねえの?」
 畳み掛けるまっさん
「今日駐車場で、マドレーヌとのやりとり見てたけど、まーお前見事にあの百戦錬磨の姉さんをあしらってたじゃねえか。あれはてつやにできねえの?」
 畳みかけ過ぎ
「さっきも言ったけど、色んな意味でプレイに関しちゃ、てつやだって相当なのは一緒だろ?あしらえねえの?行けねえの?それって恋愛感情とどこが違うんだ?」
「…………てつやが守ってるのが…なんとなくわかるからさあ…」
「てつやが守ってるもの?」


「違うんだよ銀次…いや、来てくれないとしない、ってのは…うん、そうなんだけど…俺は…俺は『仲間』と寝るのが…怖い…んだよ。全部無くなっちゃいそうで」

「てつやは、俺『たち』の全体を守ってる」


 まっさんのスマホが鳴った。銀次からだ。
「うん、うん…へえ~…」
 そう言ってまっさんは京介の顔を見た。
「なるほどね、判った部屋戻るわ」
 まっさんの言葉に顔をあげた京介は
「あっちの話もこれ系?」
「当たり前だろ。俺と銀次ははっきりさせたかっただけだ。結論出たから部屋戻ろうぜ」
「でたの…か?結論」
「ああ、お前ら気ぃ遣いすぎ」
 まっさんが半笑いをする。まっさんの半笑い…京介はやっぱり1番怖いのはまっさんかも…と思いながら後ろをついて行った。


 部屋へ戻って。壁際のソファーに京介とてつや。向かい合ってるソファーにまっさんと銀次が座り、取り敢えず新しいビールを開けた。
「結論から言うとな」
 缶ビールを半分ほど飲んで、まっさんが話し始める。
「結論から言うと、てつや」
「ん…?」
「お前、俺ら舐めすぎ京介も含めな」
「は?なんでそう」
「京介」
 何も言わせてくれないわけね…
「ん~」
「お前も俺ら舐めすぎ、これはてつや抜き」
 はあ…
「簡単な事だぞ。なんでこんなに無理矢理絡まっちゃうようにしちゃうんだ?」
「今から一つ質問する。これの答えは嘘言うなよ約束してくれ」
 銀次が膝の上に肘をつく。
「解った」
「うん…」
「お前たちがいま、一番好きだと思う人間の顔をすぐ思い浮かべろ。はい、浮かんだ人の名前言え」
「そんな速攻?」
 てつやが困った顔をする
「だよ、言えってば」
「きょ…ぅすけ…」
「てつや」
「ほら、簡単じゃねえか」
 銀次がにっこり笑う。
「てつやさあ、お前と京介がなんかあったとしたら。俺と銀次が離れていくと思ってたのか?」
「…いや…離れていくとか…そう言うんじゃ無いんだけど…」
「じゃあ関係性が変わるとでも…?」
「……」
「舐めすぎ。なあ?銀次」
「ほんとだよ。じゃあ京介は…」
「うん」
「てつやがそう思ってるから、行けなかったと…」
「ん…」
「舐めてるよな~俺たちの事。なあまっさん」
 ーほんとだよーとまっさんもうなずく
「っていうか…俺たちが…一つのカップルの障害になってるって言う事実が…辛いよな、銀次…」
「ああ…おれら…邪魔者なのかな…いない方が…」
 まてまてまて
「いや、俺らどうしたらいいんだよ…」
 てつやはほんとーに困ったような顔をしている。
 事実として、お互いの気持ち認めちゃったし、まっさんと銀次にも話が通ったし、こんなことで仲間割れもないって解ったし…
「まあ…交際宣言…?」
 ビールの缶をマイクのように2人の間に持ってきて、銀次がーほれ、はようーみたいな顔してる。
「って言うかさ」
 マイク缶を引っ込めて、改めて銀次は向かい合う。
「今まで通りでいいんだけどさ、ただし!ちゃんとお互いのことは考えてやれ。てつやは、俺らはもう理解してるんだから、キスしたかったら京介んとこ行け。京介も、てつやのガードはもう効果がないことになったから、あしらってやれ」
 そしてまっさん
「恋愛感情を認めてやれ、自分のさ。な、京介」
「あーー!もう!」
 てつやはソファーの背もたれに思い切り寄りかかって頭をのけぞらせて天井を見る。
「お前らって…」 
 京介はもう笑うしかなかった。
「はいはい。じゃ、これからもよろしくーってことで」
「かんぱーい」
 缶もてよ!
「はいはい」
「かんぱーい」
 1組のカップルが誕生したかどうかはなんだかあやふやなままだけど、気持ち繋がった4人が楽しそうでなによりだった。
 文ちゃんは、まだこのお話にはちょっとね。



「つーことで、これやる」
 まっさんがテーブルの上にカードキーを置いた。
「ん?なに?」
「予約の時に聞いてみたら空いてたから取っておいたんだ、スイートルーム♪」
「「はああああ?」」
「こう言う特別扱いが嫌なんは解ってるんだ、けど、今日くらいはさ、いいじゃん?」
 銀次がてつやのリュックと京介のバッグを持って入り口からポイ!
「あああ!」
「5階だって。キーに書いてある部屋行け」
「早く行け」
 2人で圧をかけて追い出してくる。
「解ったよ」
 てつやと京介が部屋を出たら、ドアから2人で顔を出して
「「おやすみ~」」
 パタン
 途方に暮れるけど、部屋に行くしかない。
「ったくよ~」
 と荷物を拾い、エレベーターに向かう。
「でかいカップルだよな…」
 まっさんと銀次が再び顔を出して背中を見送っている。
「185と187だぜ…」
「格闘技だな」
 何がとは言わないが…
「何してんの?」
 文ちゃんが後で目を擦っている。
「お、起きたか文治。なんか飲むか?」
「さっきの甘いのある?」
 起きるのがあと10分早かったらどうなっていたことやら…
 てつや同様、文治には少し甘い大人チームだった。

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