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8章

第53.5話 じゅんびうんどうは たいせつ(後編)

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 翌朝……。
 まだ空気が肌寒い中、ドワーフたちは仮の宿営所から出てきた。
 ぞろぞろと持ち場へと向かう。
 それを止めたのは、俺だった。

「みんな、ちょっと待ってくれ」
「何アルか、大魔王様?」

 何事かとメーリンがやってきた。

「朝からいきなり仕事をするのは、むしろ効率が悪いと思うんだ。特に高所での作業は危険度が増す」
「だから、より厳しく気を付けるアル」

 俺はゆっくりと首を振った。

「いや、それだけじゃダメだ。起きたばかりの身体は動かないからね。それに1人が怪我をしたら、それを運び出すために人手が必要だろ? そうすると、仕事が止まってしまう。その方が効率が悪いんじゃないかな?」
「うっ……。確かにアル」
「だから、時間をかけずに、身体をほぐす方法があるといったら」
「そんな方法がアルのか?」

 おお! とメーリンは目を輝かせる。
 どうやら、俺が垂らした餌に食いついたらしい。

「ダイチお兄ちゃーん」

 やって来たのは、村の子どもたちだった。
 ぞろぞろと集まってくる。
 まだ眠たいのだろう。
 欠伸をしたり、しきりに目を擦ったりしている子どももいた。

「よしよし。子どもたちも集まったな」
「子どもたちまで……。何をするアルか?」
「ふふん……。体操だ」
「体操?」
「よし。まずは伸びの運動からだ。大きく手を上に上げて」

 俺は空へ向かって両手を大きく伸ばす。
 ドワーフたちは戸惑いながら、子どもたちが楽しそうに、俺に倣った。

「手を伸ばす時に、大きく深呼吸だ。次は腕を振って、膝の曲げ伸ばし」
「な、なんか間抜けアル」
「おもしろーい!」

 笑い声が響いた。

「今度は大きく腕を回す。肩の力を抜いて、はい、今度は反対回し」
「お! なんか身体の筋が伸びていく感じがしてきたアル」
「ぶんぶーん!」

 お……。
 少しは効果が出てきたかな。
 メーリンの他のドワーフも戸惑いながら、俺の動きについてくる。
 皆もそろそろ実感し始めたのだろう。

「はい。次は胸を反らす運動。腕を振って、反らす」
「ぐげ! ぐきっていったアル」
「キャハハハハ!」

「次は身体を横に曲げる運動。メーリン、身体が硬いぞ」
「ううううるさいアル。私は実務担当アルよ」
「メーリンお姉ちゃん、全然曲がってないよ」

 次の身体を前後に曲げる運動も、メーリンは全然曲がらない。
 それを見て、村の子どもたちにからかわれていた。
 ドワーフは総じて、屈伸運動が苦手のようだ。
 筋肉が付きすぎているからかな。
 でも、メーリンは多分運動不足だろ。

 もうわかったと思うけど、今やっているのは、ラジオ体操だ。
 久しぶりにやってみたけど、覚えているものだな。
 小学校の6年間、ずっとやらされていたし。
 そりゃ覚えるか。

「はあ、はあ、はあ……」

 メーリンの息が荒い。
 額には汗が浮かんでいた。
 ラジオ体操って結構真面目にやると息が切れるものだけど、メーリンには覿面てきめんに効いたらしいな。

「はい。最後は深呼吸……」

 大きく深呼吸する。
 息を整え、ラジオ体操は終わった。

「これで終了。みんな、どうかな?」
「軽い運動だっていったアル。こんなに激しい運動してたら、働く前にバテちゃうアルよ」

 ついに最後には腰砕けになり、倒れたメーリンが抗議の声を上げる。
 どんだけ運動不足だったんだ、メーリン。

 とはいえ、ドワーフたちが疲れることもなく、むしろ軽く汗を掻いた事によって身体がうまくほぐれたようだ。

「よーし。みんなにスタンプカードを渡すぞ。ラジオ体操1回に付き、1回スタンプを押すぞ。30個集まったら、ミセスの作ったお菓子が貰えるからな」
「「「やった!」」」

 子どもたちが木の皮で作ったスタンプカードに手を伸ばす。
 そこに俺は、自作のスタンプを押していった。
 我ながら、なかなかの出来だと自負している。

「これ、なに?」
「犬?」
「いや、狸だろ?」

 猫だよ! わかりにくくて、ごめんな!

「よーし。みんな、身体は温まったアルな」
「「「おおおおおおおお!!」」」

 ドワーフもやる気満々だ。
 早速、今日の作業を始めた。

 以来、城壁工事の事故は減っていった。
 ラジオ体操は村とドワーフに浸透し、朝の定番となったのだ。

 日本のものが異世界で役立つなんてことは、よく漫画や小説ではあるけど、こんなの初めてだ。
 少しずつそういうのを増やしていくのも、悪くないかもな。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

今でもラジオ体操って、学校でやるのかなあ、と思いながら書いた回。


まだ確定ではないのですが、
諸般の事情で第1、2章部分を大幅に改訂しようと思ってます。
こちらの話は一応領地もののお話なのですが、
村に入るまで10話以上かかっていて、常々遅いかなっと思ってまして。
その懸念をもう少し圧縮する形で、修正したいと考えています
(全体の話ががらりと変わるのではなく、時系列をもう少し見やすいようにしようというのが狙いです)。

今のままが好きという方には申し訳ないのですが、
コピーをとっていただくなりしてもらって、対応いただければ幸いです。

ただ予定は未定でして。
いつ作業を始めるか、まだ自分でもわかってません。
後日は後書きや活動報告などで報告するので、よろしくお願いします。
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