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6章
第35.5話 まおうさま さけぶ(後編)
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地位や実力においては、確かにエヴノスの方が上だ。
それでもローデシアの忠誠心は、魔族一である。
彼女が守る法はエヴノスが立てたもの。
それを遵守させることに、命すら賭けられるローデシアの忠義心は、もはや鋭利な刃物に等しい。
時々、エヴノスは恐ろしくなるのだ。
その刃物がいつか、自分の方に向けられるのではないか、と。
同じ想いを、横に立つアリュシュアも考えていた。
「わ、わかった。しかし、祝辞は――――」
「もちろん、祝辞はエヴノス様自らお願いしますね」
「なっ! それは――――」
そう。これも嫌だったのだ。
国家一級の褒賞は、魔王が直接感謝と祝辞を述べなければならない。
そういう決まりである。
つまり、ダイチを暗黒大陸に放逐したエヴノスが、祝意を述べなければならないのだ。
(な、なんたる屈辱……)
考えただけで、腸が煮えくりかえる。
しかしローデシアの氷の瞳を見るだけで、その燃え上がった憎悪がふと蝋燭の明かりのように消されてしまう。
(こうなってはやられる前にやってしまうか……)
エヴノスは鋭い視線を送るローデシアを見やりながら、考える。
側にいるアリュシュアも同じ気持ちらしい。
頻りに合図を送ってくる。
ローデシアを討つことは可能だ。
彼女はエヴノスのことを信頼している。
近づいて闇討ち、あるいは毒殺。
労することなく殺すことができるだろう。
問題はその後だ。
ローデシアは№2。
煙たがる者も多いが、その逆も決して少なくない。
それにローデシアはダイチの信奉者の中でも、一番の実力者だ。
ダイチを巡る騒ぎで、ローデシアがエヴノスに討たれたことが漏れれば、魔王軍を2つに割りかねない。
異界の侵攻が終わり、ようやく落ち着きを取り戻したばかりで、騒動を起こすのはまずい。
それこそ、ダイチに知られ、他種族の干渉を受けるきっかけになるかもしれない。
(くそ……。仕方あるまい……)
エヴノスはついに折れた。
肘掛けに置いた手が赤くなるほど握った後、口を開く。
「良かろう」
「エヴノス様!?」
「黙れ、アリュシュア」
「し、しかし――――」
「アリュシュア様、我が主君と、その主君がお決めになった法をあなたは犯すのですか?」
再びローデシアの眼光が閃く。
アリュシュアは思わず小さく悲鳴を上げた。
冷ややかな手で心臓を掴まれたような気がして、思わず胸をガードする。
怯える秘書にエヴノスは助け船を出した。
「ローデシア、もう良かろう」
「失礼しました」
ローデシアは顔を伏せる。
その魔眼から解放されたアリュシュアは、ホッと息を吐き出した。
「ただし、ローデシア。1つ条件を出させてもらう」
最後の抵抗とばかり、エヴノスは1つの条件を提示する。
難色を示すと思われていたが、逆にローデシアは破顔した。
「それは大変よろしいことかと」
「そうか。ならば、手配を頼む」
「かしこまりました」
魔族の法の番人は、そうして退場していく。
パタリと扉が閉まった瞬間、エヴノスは大きく息を吸い込む。
アリュシュアは【無音の結界】を魔王の間に張り巡らされた。
「くっっっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
絶叫し、子どものように地団駄を踏む。
アリュシュアの結界によって、声が漏れることはない。
だが、謎の微震が修繕したばかりの魔王城に襲いかかるのであった。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
そして、これが魔王エヴノスの受難の始まりだった。
それでもローデシアの忠誠心は、魔族一である。
彼女が守る法はエヴノスが立てたもの。
それを遵守させることに、命すら賭けられるローデシアの忠義心は、もはや鋭利な刃物に等しい。
時々、エヴノスは恐ろしくなるのだ。
その刃物がいつか、自分の方に向けられるのではないか、と。
同じ想いを、横に立つアリュシュアも考えていた。
「わ、わかった。しかし、祝辞は――――」
「もちろん、祝辞はエヴノス様自らお願いしますね」
「なっ! それは――――」
そう。これも嫌だったのだ。
国家一級の褒賞は、魔王が直接感謝と祝辞を述べなければならない。
そういう決まりである。
つまり、ダイチを暗黒大陸に放逐したエヴノスが、祝意を述べなければならないのだ。
(な、なんたる屈辱……)
考えただけで、腸が煮えくりかえる。
しかしローデシアの氷の瞳を見るだけで、その燃え上がった憎悪がふと蝋燭の明かりのように消されてしまう。
(こうなってはやられる前にやってしまうか……)
エヴノスは鋭い視線を送るローデシアを見やりながら、考える。
側にいるアリュシュアも同じ気持ちらしい。
頻りに合図を送ってくる。
ローデシアを討つことは可能だ。
彼女はエヴノスのことを信頼している。
近づいて闇討ち、あるいは毒殺。
労することなく殺すことができるだろう。
問題はその後だ。
ローデシアは№2。
煙たがる者も多いが、その逆も決して少なくない。
それにローデシアはダイチの信奉者の中でも、一番の実力者だ。
ダイチを巡る騒ぎで、ローデシアがエヴノスに討たれたことが漏れれば、魔王軍を2つに割りかねない。
異界の侵攻が終わり、ようやく落ち着きを取り戻したばかりで、騒動を起こすのはまずい。
それこそ、ダイチに知られ、他種族の干渉を受けるきっかけになるかもしれない。
(くそ……。仕方あるまい……)
エヴノスはついに折れた。
肘掛けに置いた手が赤くなるほど握った後、口を開く。
「良かろう」
「エヴノス様!?」
「黙れ、アリュシュア」
「し、しかし――――」
「アリュシュア様、我が主君と、その主君がお決めになった法をあなたは犯すのですか?」
再びローデシアの眼光が閃く。
アリュシュアは思わず小さく悲鳴を上げた。
冷ややかな手で心臓を掴まれたような気がして、思わず胸をガードする。
怯える秘書にエヴノスは助け船を出した。
「ローデシア、もう良かろう」
「失礼しました」
ローデシアは顔を伏せる。
その魔眼から解放されたアリュシュアは、ホッと息を吐き出した。
「ただし、ローデシア。1つ条件を出させてもらう」
最後の抵抗とばかり、エヴノスは1つの条件を提示する。
難色を示すと思われていたが、逆にローデシアは破顔した。
「それは大変よろしいことかと」
「そうか。ならば、手配を頼む」
「かしこまりました」
魔族の法の番人は、そうして退場していく。
パタリと扉が閉まった瞬間、エヴノスは大きく息を吸い込む。
アリュシュアは【無音の結界】を魔王の間に張り巡らされた。
「くっっっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
絶叫し、子どものように地団駄を踏む。
アリュシュアの結界によって、声が漏れることはない。
だが、謎の微震が修繕したばかりの魔王城に襲いかかるのであった。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
そして、これが魔王エヴノスの受難の始まりだった。
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