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3章
第22話 きみの なまえは(前編)
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ホットランキングに入れた記念!
明日更新分をちょっとだけ。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
一方、獣人の住み処では……。
「むふふふ……。楽しみじゃの」
卑しい笑みを浮かべたのミャジィだった。
周りには獣人族の有力者も集まっている。
皆、ミャジィと同じ顔をして、ほくそ笑んでいた。
「ミャジィ殿、よく考えましたのぅ」
「まさかあの大魔王とミャアを一緒に行かせるとは」
「最初驚きましたが、ミャジィ殿の真意を聞いて感服しております」
ミャジィを称える。
「これで我が獣人族も安泰じゃ!!」
獣人族の長は、白髭を撫でながら「ほっほっほっ」と笑った。
詳しく聞かせていただきましょうか……。
その冷たい声は住み処の一画にあるミャジィの部屋に響いた。
薄暗がりの中から現れたのは、ステノ、ルナ、チッタだ。
ステノとルナは、集まった獣人族を蔑むような視線を送っている。
その横で、チッタは『キイィィイ!』と鋭い怒りを獣人たちに向けていた。
「な! いつからそこに!!」
「ずっといましたよ。あなたたちの会話はすべて聞かせていただきました」
「どういうことか説明してもらいませんか?」
ルナはミャジィの胸ぐらを掴む。
ミャジィは抗うがびくともしない。
如何な獣人といえど、今や人族の10倍以上の力を持つルナから逃れることはできなかった。
「わかった。話すから離して――――なんちゃって」
「まだ余力があるようですね」
「わぁぁぁあああ! わかったわかった。殺さないで、暴力反対!」
ルナはミャジィから手を離す。
かなりの高齢の割に思いの外元気なミャジィは、やれやれと首を竦めた。
「さすがは大魔王様の連れだの。すごい力じゃわい」
「時間稼ぎはやめて下さい」
「今度はチッタに噛みついてもらいますか?」
『ガウッ!』
チッタは変身し、成獣バージョンになる。
獰猛な牙を見せて威嚇した。
ミャジィ以下獣人たちはたちまち竦み上がる。
「わかったと言っただろう。実はのぅ――――――」
理由を聞いたルナとステノの顔が、一気に青ざめる。
ルナは髪を振り乱し、ダイチが向かった嘆きの洞窟の方を向いた。
「ダイチ様……」
無事を祈るのだった。
◆◇◆◇◆
ミャアの耳がピクリと動く。
身体が小刻みに震えていた。
どうやら、ミャアも聞こえたようだ。
「聞こえたな、今」
確かに聞こえた。
ひきかえせって……。
風の音というには、かなりはっきり聞こえた。
俺は構わず進む。
すると、ミャアが耳を立てた。
「みゃ! まだ進むのかみゃあ?」
「進むよ。そうじゃないと、ミャジィさんたちに信じてもらえないからな」
「ひきかえせって言ってるみゃあよ」
「それはわかるけど、ひきかえせって言われて、ひきかえすほど日本人は真面目じゃないよ」
「にほんじん?」
「い、今のは忘れて」
ダンジョン。
試練。
そして「ひきかえせ」。
これが揃って、引き返す日本人はいない。
むしろこの先には絶対に何かあるはず、と思うはずだ。
俺はさらに奥へと行こうと歩みを進める。
だが、負ぶっているミャアが震えていることに気付いた。
「ミャア、やっぱり怖い?」
「そ、そんなことないみゃあ……」
反論するけど、その声は弱々しい。
最初出会った時の元気はない。
まるでダンジョンに生気を吸い取られたかのように、別人になっていた。
「じゃあ、引き返そうか」
「え? でも、お前が引き返したら――」
「ミャジィさんに怒られちゃうかな。でも、ミャアがこんなに怯えているのに、奥へは進めないよ。かといって、ミャアをここに置いておくのも心配だしな」
「――――みゃあ」
「ん?」
「ダメみゃあ!! それじゃあ、昔のミャアと同じみゃあ!!」
「昔の?」
俺はミャアから事情を聞いた。
ミャアも昔、この嘆きの洞窟の試練を受けたそうだ。
次の獣人の長になるために。
けれど、怖くなって引き返してしまったのだという。
勇敢に見える獣人族だけど、獣人ゆえに警戒心も強い。
暗い未知の領域、イレギュラーな事故や現象に対して、種族の本能が拒否してしまうようだ。
だからこそ、嘆きの洞窟は獣人たちの試練となっていた。
ミャアが俺たち人族を過剰に警戒するのも、警戒心の強さの表れなのかもしれない。
「ミャアはあの時引き返したことをとても後悔したみゃあ。だから――――」
「俺には後悔してほしくない?」
ミャアはこくりと頷く。
「ミャアは優しいね」
「みゃっ!!」
突如、ボンと音を立てて、ミャアの顔が真っ赤になる。
体温が一気に上がっていくのを肌越しに感じた。
「勇気も長には必要だ。でも、時に多くの人を守るための警戒心、そして優しさは誰かの上に立つ者にとってとても必要な素養だと思う」
「ふ、ふんみゃ! お前に長の何がわかるみゃ」
「そうだね。俺は獣人の長じゃないけど……。これでも元大魔王だからな。種族の長としては、ミャアよりも経験値があると思うぞ」
俺はニヤリとミャアに笑いかける。
ミャアは一瞬ぼうとしてから、何度も顔を左右に振った。
「どうしたの?」
「な、なんでもないみゃあ!」
「それより早く先に進むみゃあ!!」
「いいの?」
「いいみゃあ! ここで戻ったらみゃあも怒られるみゃあ!!」
ようやくミャアらしくなってきたな。
俺はつい嬉しくてクツクツと笑った。
すると――――。
ひきかえせ……。
またあの声が聞こえる。
ミャアはいち早く反応した。
だけど今度は、大げさに騒ぎ立てるようなことはなかった。
「行こう」
「みゃ!」
俺たちは洞窟の奥へと向かった。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
残りは明日のお昼更新予定です。
明日更新分をちょっとだけ。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
一方、獣人の住み処では……。
「むふふふ……。楽しみじゃの」
卑しい笑みを浮かべたのミャジィだった。
周りには獣人族の有力者も集まっている。
皆、ミャジィと同じ顔をして、ほくそ笑んでいた。
「ミャジィ殿、よく考えましたのぅ」
「まさかあの大魔王とミャアを一緒に行かせるとは」
「最初驚きましたが、ミャジィ殿の真意を聞いて感服しております」
ミャジィを称える。
「これで我が獣人族も安泰じゃ!!」
獣人族の長は、白髭を撫でながら「ほっほっほっ」と笑った。
詳しく聞かせていただきましょうか……。
その冷たい声は住み処の一画にあるミャジィの部屋に響いた。
薄暗がりの中から現れたのは、ステノ、ルナ、チッタだ。
ステノとルナは、集まった獣人族を蔑むような視線を送っている。
その横で、チッタは『キイィィイ!』と鋭い怒りを獣人たちに向けていた。
「な! いつからそこに!!」
「ずっといましたよ。あなたたちの会話はすべて聞かせていただきました」
「どういうことか説明してもらいませんか?」
ルナはミャジィの胸ぐらを掴む。
ミャジィは抗うがびくともしない。
如何な獣人といえど、今や人族の10倍以上の力を持つルナから逃れることはできなかった。
「わかった。話すから離して――――なんちゃって」
「まだ余力があるようですね」
「わぁぁぁあああ! わかったわかった。殺さないで、暴力反対!」
ルナはミャジィから手を離す。
かなりの高齢の割に思いの外元気なミャジィは、やれやれと首を竦めた。
「さすがは大魔王様の連れだの。すごい力じゃわい」
「時間稼ぎはやめて下さい」
「今度はチッタに噛みついてもらいますか?」
『ガウッ!』
チッタは変身し、成獣バージョンになる。
獰猛な牙を見せて威嚇した。
ミャジィ以下獣人たちはたちまち竦み上がる。
「わかったと言っただろう。実はのぅ――――――」
理由を聞いたルナとステノの顔が、一気に青ざめる。
ルナは髪を振り乱し、ダイチが向かった嘆きの洞窟の方を向いた。
「ダイチ様……」
無事を祈るのだった。
◆◇◆◇◆
ミャアの耳がピクリと動く。
身体が小刻みに震えていた。
どうやら、ミャアも聞こえたようだ。
「聞こえたな、今」
確かに聞こえた。
ひきかえせって……。
風の音というには、かなりはっきり聞こえた。
俺は構わず進む。
すると、ミャアが耳を立てた。
「みゃ! まだ進むのかみゃあ?」
「進むよ。そうじゃないと、ミャジィさんたちに信じてもらえないからな」
「ひきかえせって言ってるみゃあよ」
「それはわかるけど、ひきかえせって言われて、ひきかえすほど日本人は真面目じゃないよ」
「にほんじん?」
「い、今のは忘れて」
ダンジョン。
試練。
そして「ひきかえせ」。
これが揃って、引き返す日本人はいない。
むしろこの先には絶対に何かあるはず、と思うはずだ。
俺はさらに奥へと行こうと歩みを進める。
だが、負ぶっているミャアが震えていることに気付いた。
「ミャア、やっぱり怖い?」
「そ、そんなことないみゃあ……」
反論するけど、その声は弱々しい。
最初出会った時の元気はない。
まるでダンジョンに生気を吸い取られたかのように、別人になっていた。
「じゃあ、引き返そうか」
「え? でも、お前が引き返したら――」
「ミャジィさんに怒られちゃうかな。でも、ミャアがこんなに怯えているのに、奥へは進めないよ。かといって、ミャアをここに置いておくのも心配だしな」
「――――みゃあ」
「ん?」
「ダメみゃあ!! それじゃあ、昔のミャアと同じみゃあ!!」
「昔の?」
俺はミャアから事情を聞いた。
ミャアも昔、この嘆きの洞窟の試練を受けたそうだ。
次の獣人の長になるために。
けれど、怖くなって引き返してしまったのだという。
勇敢に見える獣人族だけど、獣人ゆえに警戒心も強い。
暗い未知の領域、イレギュラーな事故や現象に対して、種族の本能が拒否してしまうようだ。
だからこそ、嘆きの洞窟は獣人たちの試練となっていた。
ミャアが俺たち人族を過剰に警戒するのも、警戒心の強さの表れなのかもしれない。
「ミャアはあの時引き返したことをとても後悔したみゃあ。だから――――」
「俺には後悔してほしくない?」
ミャアはこくりと頷く。
「ミャアは優しいね」
「みゃっ!!」
突如、ボンと音を立てて、ミャアの顔が真っ赤になる。
体温が一気に上がっていくのを肌越しに感じた。
「勇気も長には必要だ。でも、時に多くの人を守るための警戒心、そして優しさは誰かの上に立つ者にとってとても必要な素養だと思う」
「ふ、ふんみゃ! お前に長の何がわかるみゃ」
「そうだね。俺は獣人の長じゃないけど……。これでも元大魔王だからな。種族の長としては、ミャアよりも経験値があると思うぞ」
俺はニヤリとミャアに笑いかける。
ミャアは一瞬ぼうとしてから、何度も顔を左右に振った。
「どうしたの?」
「な、なんでもないみゃあ!」
「それより早く先に進むみゃあ!!」
「いいの?」
「いいみゃあ! ここで戻ったらみゃあも怒られるみゃあ!!」
ようやくミャアらしくなってきたな。
俺はつい嬉しくてクツクツと笑った。
すると――――。
ひきかえせ……。
またあの声が聞こえる。
ミャアはいち早く反応した。
だけど今度は、大げさに騒ぎ立てるようなことはなかった。
「行こう」
「みゃ!」
俺たちは洞窟の奥へと向かった。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
残りは明日のお昼更新予定です。
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