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1章

第5話 ちゅーとりある

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2020/10/30に大幅に改訂しました。

~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

 昔っからゲームは好きだった。
 特にRPGが好きだったが、ボス攻略よりもキャラをレベルMAXにしたり、スキルMAXにすることに喜びを感じるゲーマーだった。
 だから如何に効率よく、かつ制限の中でキャラがもっとも活きるか、そんなプランを永遠に考えいて、それが楽しかった。

 その癖は現実にまで影響を及ぼしたらしい。
 最後には成長した部下に裏切られた。

 だが、ずっと心の中で思っていたのだ。
 自分好みの最強キャラを現実に育て上げたいと。
 幸運にも【言霊ネイムド】は、そんな俺にぴったりなスキルだった。

 俺がこのアナストリアに残ることを決めたのも、それが理由だ。

 けれど、正直に言うと、もうアナストリアには俺が手を貸し、育成させる人材はいないと思っていた。
 今日――この村に来るまでは……。



「おお……。なんということじゃ……」

 頭を抱えたのは、村長だった。
 皆も一様に暗い顔をしている。
 あのブラムゴンを追い払ったにも関わらずだ。

「ブラムゴン様を怒らせてしもうた。あの方は我々を許さないじゃろう」

 村長は脂汗を流しながら、身体を震わせた。
 なるほど。報復を恐れているのか。
 無理もない。
 ブラムゴンは暗黒大陸の支配者だった。
 おそらく魔族以外の他種族を、恐怖によって治めてきたのだろう。
 たとえ、その支配者が退散したとはいえ、それをすぐに払拭することは難しい。

 そして何より重要なのは、その報復は必ずやってくるということだ。

「あの……」

 俺が言葉をかける直前、鋭い声が村に響いた。

「何をケツの穴が小さいことを言ってんだい!」

 皆の視線が俺から一気に、村の女性に向けられた。
 なんという集落に1人ぐらいはいそうな、人の良さそうなオバちゃんヽヽヽヽヽだった。

「チャンスなんだよ、これは。みんな、ブラムゴンの統治に迷惑してたじゃないか。若い娘ばかり取られて。めぼしい食糧は持って行かれて。それをなんだい? あんたらは、またあの蛙野郎に戻ってきてもらって、同じ目に遭いたいのかい?」
「わしだって、嫌じゃ! 皆も同じ思いじゃろう。けれど、ブラムゴン様は我らをお許しにはならない。わしらは、人族は全滅するかもしれないんじゃぞ」
「それがブラムゴンに従ってても同じことだろう。遅いか早いかの違いだよ。そうじゃないのかい?」

 村の女性は鋭く睨んだ。
 村長だけじゃない。
 集落のみんな、全員だ。

 どうやら、絶望に打ちひしがられていたのは、村人全員じゃないらしい。

「それにブラムゴンよりも、よっぽど偉そうで、ハンサムな大魔王様があたしたちにいるじゃないか。まあ、あたしの好みじゃないけどね」

 そう言いながら、女性は俺に色目を使う。
 俺は苦笑いで躱しながら、皆に向き直った。

「絶対大丈夫です――って無責任に言えるほどじゃないですが、まずは俺を信じてくれないだろうか?」
「信じる?」
「ああ。そう……。信じてほしいんだ。自分たち――」
「わしらを?」
「そうだ。なんたってみんなは強い。確かに今は弱いけど、絶対強くなれる。いや――」


 この大魔王の俺が、みんな強くしてみせる……!


 俺は堂々と宣言した。
 それまでどよめいていた村人が静まる。
 ゆっくりと確実に俺の話を聞き始めた。

「俺が保証する。みんなは強くなれる。魔族より、あのブラムゴンよりも」
「しかし、大魔王様。その根拠を示していただかないと……」
「根拠はあるよ。彼女だ……」

 俺はルナを指差す。
 そのステータスを展開しながら、ブラムゴンの数値を地面に書いて、比べて見せた。



 名前   : ルナ
 レベル  : 1/99
    力 : 6
   魔力 : 18
   体力 : 5
  素早さ : 7
  耐久力 : 15

 ジョブ  : 聖女

 スキル  : 大回復LV1



 名前   : ブラムゴン
 レベル  : 6/6
    力 : 121
   魔力 : 55
   体力 : 200
  素早さ : 185
  耐久力 : 153

 ジョブ  : なし

 スキル  : 大跳躍LV5 毒吐きLV5



 ステータスの見方は3つある。
 1つは基礎能力だ。
 すなわち『力』『魔力』『体力』『素早さ』『耐久力』だ。
 これはレベルが上がることに上昇していく。
 上昇する値は、種族であったり、年齢や男女の差、そして次に示すジョブによって異なる。

 そのジョブは、言葉通り『職業』のことを差す。
 種類は色々あって、俺もすべて知っているわけじゃない。
 言わば人の潜在的に適した職業を表しているようだ。
 恩恵は職業によって違う。
 例えば、基礎能力に数値には出ない補正値が加わったり、その職業固有のスキルを覚えたりする。前述のように基礎能力の上昇値にも関わってくる。

 ちなみにジョブに記載があることは、稀だ。
 さらに職業の能力もピンキリで、ジョブがあっても弱いものも入れば、そのジョブを持っていることによって同じレベルの人間でも格段に差が付くこともある。

 最後にスキルだ。
 これは人固有、ジョブ固有の技術である。
 中には魔法じみたこともできるスキルがあって、如何にも異世界という感じだ。
 スキルは基本的にスキルを使用する回数や、使用する時の質によって変わるらしい。
 回復系であれば、回復させる回数も重要だが、対象の怪我が深ければ深いほど、スキルの経験値が多くなるようになっている。

 俺は基本的なことを説明した後、いよいよルナとブラムゴンの数値について説明した。

「ルナ、よく見て」
「は、はい……」
「確かにルナとブラムゴンの能力には差がある」
「そ、そうですね……」
「けれど、君がブラムゴンよりも勝っている数値がある。どこかわかるかい?」
「えっと…………」

 ルナは戸惑うばかりだ。
 どうやら数字の読み方がわからないらしい。

「よし。特別に教えてあげよう。それはレベルの上限だ。レベルの横に『1/99』という数値があるだろう。左の数値は現在のルナのレベル。右の数値はレベルの上限を表している。つまり、ルナはレベルを99まで上げることができるんだ」

 ルナはポカンとするだけだ。

「簡単に言うとね。君には99回能力値が変わる可能性が残されているのに対して、ブラムゴンは6つしかないんだ」
「99回!」

 今一度、ルナは自分のステータスを覗き見る。
 それを見ながら、俺はルナに説明を続けた。

「それに、君の特徴はなんと言っても、ジョブがあることだ。これをレベル1のヽヽヽヽヽ段階で持っている者は少ない。しかも、俺が見たことがない『聖女』というジョブを持っている。きっとレアだ。多分、SSRか星5だな」
「SSR? 星5?」
「ああ、ごめん。今のはこっちの話。つまり、とっても珍しいってことだ。何万分の1の確率。いや、もっとかもしれない。少なくとも、何十万体と名前を付けてきた俺に取って、初めて見るジョブだ。たぶん基礎能力に、強力な補正がかかってると思う。考察しないとわからないけど、かなり高いだろうね」

 ルナは首を傾げる。
 目も回っていた。
 さすがに理解が追いつかないのだろう。
 ゲーム知識だし、仕方がない。

「何より最初から『大回復』のスキルを持っているのが素晴らしいよ」

 スキルには通常3段階あって、回復ならば『回復』→『大回復』→『超回復』というふうに強さによって名前が変わる。もちろん、効果もだ。
 それぞれレベル6に到達すると、次の段階に進み、レベル1に戻るようになっている。

「これは俺の推測だけど、君はスキルの4段階目が期待できる。ジョブが『聖女』だからね。『超回復』のレベルが6になった時、レアスキルが発現するはずだ。うーん。実に楽しみ。早く君を鍛えてみたいね」

 育成好きの血が騒ぐね。
 弱キャラをコツコツ育てるのも好きだけど、強キャラを完膚なきまで強くして無双するのも、俺は好きだ。
 ルナをどんな風に育てるか、今から楽しみだね。

「大魔王様?」
「あ、いや……なんでもないよ」

 弱ったな。
 俺、なんか変な顔になってなかっただろうか。
 とりあえず気を取り直して、俺は総括を始める。

「つまり何がいいたと言うと、君は絶対に強くなる。ルナだけじゃない。みんなにも俺は名前を与えたいと思ってる。俺のスキル【言霊ネイムド】は、人の潜在能力を暴くスキルだ。ルナの他にも隠された力を持っているかもしれない」
「それが大魔王様が言う、『強くなれる』っていう言葉なんだね」

 先ほどの女性が口を開くと、俺は強く頷いた。

「そうだ。魔族なんかよりも、ずっとね」

 なんと言っても、レベル上限99はかなり魅力的だ。
 魔族はエヴノスの50が最高値だった。
 おそらく種族によって、レベル上限が違うのだろう。
 もしかしたら、人族は初期値が低い代わりに、レベル上限が高いかもしれない。

 これからの成長値次第もあるけど、魔族よりも強くなるかもな。

 まあ、何が言いたいかというと……。


「これは育成のしがいがありそうだ」


 俺は思わず唇を舐めて、にんまりと悪魔のように笑うのだった。

~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

引き続きよろしくお願いします。
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