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3章
第39話 さあ、回復してやろう(前編)
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「かぁぁぁぁぁあああああああ!!」
突然、ユーリは吠える。
ワインレッドの瞳が血を浴びたように赤く光っていた。
歯をむき出し、優男の顔が鬼の形相に変化していく。
殺気は十分。
なかなか心地よい。
だが、我にとっては良くても、他の者には違う。
「ルヴルの姐さん! ハートリーの姐貴! な、なんだ、これ……」
遅れて到着したネレムが、自分の二の腕をさする。
寒そうに肩を震わせ、青白い顔を我に向けていた。
「ぬ、ぬぅぅぅうううぅ……」
ゴッズバルドも脂汗を垂らしながら、唸っている。
駆けつけた衛兵たちも、ユーリから放たれる殺気に戦いた様子だった。
「あ、あ……」
言葉にならない悲鳴を上げ、ハートリーもまた尻餅を付いた。
そんな友を背にし、我は笑う。
「怖がる必要はない、ハーちゃん。そなたは我が守る」
力強く言葉を響かせ、我は前に進み出る。
久しぶりの好敵手に、心臓は高鳴っていた。
人間とは何とも面白いものだ。
敵を前にして、体内で変化が起こり、血流が早くなり、脳内の物質が増える。
この好敵手を前にして、幸福だと思っているのは、我の魂かそれとも人間の器か……。
いずれにしろ、感謝しよう。
この巡り合わせを。
我は今、実に幸せだ。
「嬉しそうだな、ルヴルヴィム」
「もう我はルヴルヴィムではない。ルヴル・キル・アレンティリだ。どうやら、お前はあまり嬉しそうではないようだな」
「当たり前です。こんなにも惰弱で、未熟で、退化したあなたを見ることになるとは思いませんでしたからね」
「惰弱で、未熟……。退化……。お前は強さというものを何もわかっていないな」
「はっ?」
「惰弱からこそ、強くなろうという意志が生まれる。未熟であればこそ、より完成を目指す希望が生まれる。見える景色が変わるというなら、退化することも厭わぬ。何かを極めることに1本の正しき道などない。すべてが己の強さに繋がっているとしれ」
「だまぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!」
ユーリは激昂する。
そして聖剣を構えた。
高く空に向かって掲げると、暗闇の中で太陽の如く光り始める。
周囲を明るく照らし、夜にあって昼に変えてしまった。
「これは聖剣【碩雷断剣】……」
「【碩雷断剣】?」
「無知なあなたに特別に教えて差し上げましょう。この【碩雷断剣】を初めとする聖剣はあなたを倒すために鍛え上げられた魔導兵器です。我々が関与したね」
「ほう……。我を王にしたり、国を興そうとしたり、今度は我を殺す兵器か。どうやら我が生まれる以前、我を母親ごと消し去ろうとしたのは、お前らの仕業だな。大方、星詠みのできる魔族によって、我が転生する時期と場所を詠んでいたのであろう」
「さすがは魔王様。察しがいい」
「その後、襲撃しなかったのは我が予想以上に強かったからだ。そして、今度は我を抱き込み、魔族復興を狙ったといったところか。ふふふ……。なかなか邪悪ではないか。まあ、やってることは三下の悪党と変わらぬがな」
「黙れ! この聖剣で引導を渡してくれる」
「ほう……。それは楽しみだ」
「食らえ! 大魔王ぉぉぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおおおおお!!」
【碩雷断剣】!!
光の輝剣が振り下ろされる。
まるで夜空を両断するように光が煌めくと、我に振り下ろされた。
「死ねぇぇぇぇぇええええええ!!」
ユーリは半狂乱になりながら、魔力を解放する。
空気中に拡散された魔力が暴風を生み、暴風は巨大な嵐を呼び起こした。
普通の人間であれば、立っていることすら難しい嵐が王宮の真ん中で起こる。
壁にはヒビが入り、屋根のタイルが捲り上がった。
凄まじい……。
その一言に尽きる。
さすがは我を殺そうと編み出された兵器だけはある。
しかしだ――――。
トンッ!
我はあっさりと聖剣の斬撃を変化させる。
その輝剣は逆方向に向くと、ユーリの肩をあっさりと切り裂いた。
※ 後編へ続く
突然、ユーリは吠える。
ワインレッドの瞳が血を浴びたように赤く光っていた。
歯をむき出し、優男の顔が鬼の形相に変化していく。
殺気は十分。
なかなか心地よい。
だが、我にとっては良くても、他の者には違う。
「ルヴルの姐さん! ハートリーの姐貴! な、なんだ、これ……」
遅れて到着したネレムが、自分の二の腕をさする。
寒そうに肩を震わせ、青白い顔を我に向けていた。
「ぬ、ぬぅぅぅうううぅ……」
ゴッズバルドも脂汗を垂らしながら、唸っている。
駆けつけた衛兵たちも、ユーリから放たれる殺気に戦いた様子だった。
「あ、あ……」
言葉にならない悲鳴を上げ、ハートリーもまた尻餅を付いた。
そんな友を背にし、我は笑う。
「怖がる必要はない、ハーちゃん。そなたは我が守る」
力強く言葉を響かせ、我は前に進み出る。
久しぶりの好敵手に、心臓は高鳴っていた。
人間とは何とも面白いものだ。
敵を前にして、体内で変化が起こり、血流が早くなり、脳内の物質が増える。
この好敵手を前にして、幸福だと思っているのは、我の魂かそれとも人間の器か……。
いずれにしろ、感謝しよう。
この巡り合わせを。
我は今、実に幸せだ。
「嬉しそうだな、ルヴルヴィム」
「もう我はルヴルヴィムではない。ルヴル・キル・アレンティリだ。どうやら、お前はあまり嬉しそうではないようだな」
「当たり前です。こんなにも惰弱で、未熟で、退化したあなたを見ることになるとは思いませんでしたからね」
「惰弱で、未熟……。退化……。お前は強さというものを何もわかっていないな」
「はっ?」
「惰弱からこそ、強くなろうという意志が生まれる。未熟であればこそ、より完成を目指す希望が生まれる。見える景色が変わるというなら、退化することも厭わぬ。何かを極めることに1本の正しき道などない。すべてが己の強さに繋がっているとしれ」
「だまぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!」
ユーリは激昂する。
そして聖剣を構えた。
高く空に向かって掲げると、暗闇の中で太陽の如く光り始める。
周囲を明るく照らし、夜にあって昼に変えてしまった。
「これは聖剣【碩雷断剣】……」
「【碩雷断剣】?」
「無知なあなたに特別に教えて差し上げましょう。この【碩雷断剣】を初めとする聖剣はあなたを倒すために鍛え上げられた魔導兵器です。我々が関与したね」
「ほう……。我を王にしたり、国を興そうとしたり、今度は我を殺す兵器か。どうやら我が生まれる以前、我を母親ごと消し去ろうとしたのは、お前らの仕業だな。大方、星詠みのできる魔族によって、我が転生する時期と場所を詠んでいたのであろう」
「さすがは魔王様。察しがいい」
「その後、襲撃しなかったのは我が予想以上に強かったからだ。そして、今度は我を抱き込み、魔族復興を狙ったといったところか。ふふふ……。なかなか邪悪ではないか。まあ、やってることは三下の悪党と変わらぬがな」
「黙れ! この聖剣で引導を渡してくれる」
「ほう……。それは楽しみだ」
「食らえ! 大魔王ぉぉぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおおおおお!!」
【碩雷断剣】!!
光の輝剣が振り下ろされる。
まるで夜空を両断するように光が煌めくと、我に振り下ろされた。
「死ねぇぇぇぇぇええええええ!!」
ユーリは半狂乱になりながら、魔力を解放する。
空気中に拡散された魔力が暴風を生み、暴風は巨大な嵐を呼び起こした。
普通の人間であれば、立っていることすら難しい嵐が王宮の真ん中で起こる。
壁にはヒビが入り、屋根のタイルが捲り上がった。
凄まじい……。
その一言に尽きる。
さすがは我を殺そうと編み出された兵器だけはある。
しかしだ――――。
トンッ!
我はあっさりと聖剣の斬撃を変化させる。
その輝剣は逆方向に向くと、ユーリの肩をあっさりと切り裂いた。
※ 後編へ続く
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