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第三章

第31話

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 はあ……。ひどい目にあったわ。

 こう言うとルースには失礼だとは思うのよ。
 でも、ルースと踊ってから次々と男の子たちがダンスの相手に立候補するわ、女の子からはドレスや化粧について聞かれるわでとにかく大変だった。

 おかげで、まだ親睦会も半ば過ぎた頃合いだというのに、私はげっそりとやつれていた。

 親睦会で友達作るぞ、と意気込んではいた。
 何せ今私には友達と言える人間はルースとヴェルぐらいなものだ。
 花の学生生活を一足飛びで飛び越え、軍人になってしまったからには、せめて仕事場の交友関係を増やしておきたい。

 そしてお泊まり会とかして、恋バナをするのだ!

 そのためにも、いつまで項垂れているわけにはいかない。
 先ほどは、集まってくる人に戸惑っていて自己紹介どころではなかったけど、ここから挽回しなくちゃ。
 友達を探すためにも、まずは腹ごしらえだわ。

「うまい!!」

 私は骨なし鶏粉チーズ揚げの外はカリッと、中はジュワッとジューシーな鶏肉の旨みに舌鼓を打ち。燻製イクラと熟成トロの海鮮丼に、黄身が濃厚と有名なシチミ鳥という魔獣の卵を載せていただいたり。朝摘みの果物をジュレにした三層ケーキを、ジャンヤーニュの冷涼な気温に耐え、そこで降る天の恵みを飲み干し、厳選に厳選を重ねた葡萄だけで作った果実酒を飲んでいた。

 田舎料理も素朴で美味しかったけど、王宮の料理はさすがね。
 素材の美味しさ、森や川が近いアスカルド領の方がいいけど、料理人の腕が違うわ。巧みに調味料を使いながら、繊細な味を演出してる。素晴らしいの一言に尽きるわ。

 でも、今日の私ってなんか食べてばかりのような気がする。
 ま、いいか。

「ねぇ。2人ともそんなところにいないで、こっち来て食べたら」

 私が手招きしたのは、ルースだ。
 そしてその横で妖精のように佇んでいたのは、ヴェルだった。

 いつもふわふわした朱色の髪をサイドテールにしてまとめ、口元はちょっと大人な感じで淡い桃色のリップが光っていた。足元のヒールは長めでも苦もなく履いている。さすが侯爵家の娘さんだ。
 最大の特徴は、まるで黄色く大きな花びらを集めたようなデザインのワンピースだった。

 華やかでいながら、ヴェルの可愛さも損なっていない。
 本人に聞いたら、子どもっぽいって不満顔だったけど、私はとてもいいと思う。

「いいわよ。あんたの食欲を見てたら、こっちの食欲がなくなってきたわ。着ているドレスが泣くわよ」

 ヴェルはやれやれと首を振る。

 初めてヴェルが私を見た時、すぐに私とわからなかったらしい。
 それほど、私はうまく化けることができたということかな。
 サビトラさんに感謝だ。

 それにしても、ドレスはあまり慣れない。
 前世で着ていても、変な感じがする。
 髪も上げているから、首がスースーするし、頭の重心が変わって終始頭を引っ張られているような感じがする。

「全く……。ルースとダンスを踊っていた時は、どこの王女様が踊っているのかと思ったわよ」

「えへへへ……」

「なのに、いきなり肉は食うわ、お酒は飲むわ。見なさい、さっきまでの取り巻きが白波が引くように消えていったわよ」

 ヴェルが指摘する。
 全然視線を感じないと思ったら、いつの間にか集まっていた野次馬の姿が消えていた。
 あんなにいたのにどうして?
 ご飯を元気よく食べていただけなのに。
 それが悪かったの?
 まあ、ご飯が美味しすぎて夢中で食べていた私が悪いんだけど。

 ガーン!

 しまった。
 ここからお友達として親交を温める計画が台無しだわ。
 友達100人とは言わないから、6人ぐらい計画が……。

「ミレニア、大丈夫?」

「食べ過ぎて、胃当たりでも起こしちゃったんじゃない?」

「だ、大丈夫。ありがとう、ルース、ヴェル」

「別に感謝されるようなことは言ってないけど」

「相変わらず変な娘ね、あんた。でも、今日ぐらい大人しく猫を被っておきなさいよ。折角綺麗な化粧が台無しよ」

「はいはい」

 まあ、腹ごしらえはこれぐらいにしようか。
 そろそろピクシーに頼まれた新人団員を探さないと……。

 私は会場の見渡す。
 その時、ちょうど厩舎で出会ったカーサという新人団員を見つける。
 しかも、数人の新人団員を伴って私の方へと近づいてきた。

「こんにちは。……あなたたち、飛び級の生徒でしょ?」

 ウェーブがかった茶色の髪の新人団員が手を上げて、質問してくる。
 背後にはもう3人いて、そのうちの1人にカーサが混じっていた。

「あたいの名前はマレーラよ。後ろにいるのは、友達のスーキー、ミルロ、そしてカーサよ。よろしくね」

 いきなり手を差し出す。
 悪い人ではなさそう。もしかして飛び級組が隅っこで暇そうにしてるのを見かねて声をかけてきてくれたのだろうか。

 私は手を取ることにした。

「よろしく、マレーラさん」

「マレーラでいいわ。年は違うけど、同じ新人同士だし」

「そう? じゃあ、私もミレニアでいいわ」

「え? あんたがミレニアか。聞いてるよ、入試が満点だったんだって?」

 うげっ! 私の噂ってもう知られてるんだ。
 どうやら魔術師師団に来ても、目立つのは変わらなさそうね。

「後ろの2人も知ってる。確かちっこいのはバラジア家の『炎の魔女』だよね」

「ちっこいは余計よ!!」

 ヴェルはガルルルと喉を鳴らして吠える。

「そっちの色男もね」

「ルクレス・リン・ファブローだ。ルースでいいです。よろしくお願いします」

 ルースはわざわざ頭を下げる。

「礼儀正しくていいね」

「で? あたしたちに学校組がなんか用?」

 ヴェルが質問すると、一瞬マレーラの眉宇が動く。

「実は、あたいは学校組の中ではちょいと知られていてね。知り合いを集めて、飛び級組とちょっとした余興でもやろうかって思ってるんだ」

「余興??」

「こういう親睦会ではよくあるヤツだよ」


 肝試しってヤツだ。
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