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第二章

第20話

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 次に私が目を覚ました時には、魔術学校近くにある治療院のベッドの上だった。
 回診に来たお医者さんの話では、結構危ない状態だったらしい。

 可視できるほどの猛烈な呪いを浴びたのだ。
 生きているのが不思議とさえ思えたことだろう。
 それだけ一か八かの状況だった。

 事件の顛末を私は病床で、お見舞いに来たルース、ヴェルちゃんから聞いた。
 結局、実戦試験の出来事は事故として処理されたらしい。

 大量の魔術が限られた空間内で使用されたため魔力の残滓が溜まり、アーベルさんが魔術を放った際、必要以上の出力が放出されたとのことだ。
 その際、私は地下に閉じ込められ、それをアーベルさんに助けられたということになった。

 今や私は『勇者』様に助けていただいた貴重な受験生ということで、話題になってるらしい。
 ははは……。助けたのは、私の方だったんだけどなあ。

「でも、本当に元気そうで良かった。ちょっとホッとしたよ」

「ありがとう、ルース。ヴェルちゃんも。お見舞いに来てくれてありがとうね」

「べ、べべべ別に……。あたしは別にあんたなんか心配してきたわけじゃないんだからね。ただ他の人のお見舞いのついでよ。勘違いしないで」

 すると、ルースが私に耳打ちする。

「あんなこと言ってるけど、君の意識が取り戻すまで、ずっと廊下で待ってたんだよ」

「え? ずっと?」

「看護婦さんに、1時間置きにミレニアのことを尋ねてた」

「へぇ~~」

 ほほぅ……。
 私が思ってるより脈ありなのね、ヴェルちゃん。

「ちょ! ルース! 何を吹き込んだのよ、この女に」

 にんまりと笑っていると、ヴェルちゃんは近くの枕を掴むと、全力で私に投げつける。
 良いツンデレいただきました。




 2日後には、私は退院を許された。
 まだ身体が気怠い感じだったけど、日常生活に支障はない。
 今から軽く運動するぐらいなら問題なかった。

 治療院を出ると、そこに待っていたのは白馬の王子様ではなく、やたら豪奢な客車を引いた馬車だ。どこのお大臣でも迎えに来たのだろうかと思ったが、その側に見知った人間が立っていた。

「ゼクレア教官……!?」

 私は素っ頓狂な声を上げると、あの三白眼が光る。
 たちまち私は石化したみたいに固まった。

「よう。ミレニア・ル・アスカルド」

「こんにちは。お元気そうで何よりです」

 本当にびっくりした。
 今回の件で1番の重傷者のはず。立ってる姿を見るだけで、「ウソ!」と驚いてしまう。
 私の目は思わず足元に向かったが、しっかり足底は地面についていた。

「安心しろ。ちゃんと足はついてる。それにアーベルに魔術をぶつけられた受験生も無事だ。うちのヽヽヽ『聖女』様が完全に元通りにしてくれた」

 私のことではなくロードレシア王国の『聖女』のことを言っているんだろう。
 でも、一瞬ドキリとしてしまった。

「そうですか。ところで誰か待ってるんですか?」

「何を寝ぼけたことを言ってやがる。お前を待っていたに決まってるだろ」

「は?」

「今から王宮に行く。すでにお前の下宿先に通達した。安心しろ?」

「王宮??」

 は、はいいいいいいいい!!


 ◆◇◆◇◆


 ちょっ! これ、どういう展開なの。誰か教えて。
 私はまだ15歳の小娘なのよ。
 普通の魔術師どころか、魔術師の見習い……いや、その見習いにだってなれてない。

 そ、そりゃあ、前世では自分の我が家のように足繁く通ってたことはあったわ。
 だって王子と結婚した時、本当に自分の家兼仕事場だったのだから。
 前世は前世。今世の私は貧乏子爵家令嬢なのよ。

 なのに、王宮って。

「着いたぞ」

 頭が爆発するぐらい色々考えてたら、王宮に到着してしまった。
 魔術学校からも見えていて、いつかひっそりと勤めることになるのだろうと思っていたけど、もうここに来るなんて。
 チートを持ってた時より、展開が速いんですけど!

 ぐるりと囲んだ城壁内には、大きな尖塔と背の低い官舎が並んでいた。
 その中の1つに私はゼクレア教官と入り、部屋に通される。

「やあ、ミレニア。待っていたよ」

 フルートが優しい音色を奏でる。
 本当にそう思う程、甘い声で私はついぼうとしてしまった。
 執務をしていた机から離れると、サラサラの金髪が揺れ、細く引き締まった身体がこちらに近づいてくる。
 赤い魅惑的な瞳と目が合うと、まだ何もされていないのに頬が赤くなってしまった。

「『勇者』アーベル様!」

「今日、退院と聞いてね。すまない。君には色々助けられたというのに。お見舞いも行けず」

「い、いえいえいえいえいえ。お、お構いなく」

 私は慌てて頭を振った。
 ヴェルちゃん曰く、アーベルさんが私をお姫様抱っこして地下から出てきた姿は多くの人に目撃されたらしい。
 それを聞いた『勇者』ファンの方々が、ハンカチを噛んで悔しがったとか。
 今や私は『勇者』ファンに目の仇にされているそうだ。

 そんな状況で、アーベルさんが私の病室に来てたら、と想像するだけでゾッとする。

 こっちは貧乏子爵家の三女。
 向こうは将来を嘱望された若き『勇者』様。
 どう見たって、釣り合いが取れないじゃない……。

 アーベルさんは案内役のゼクレア教官を下がらせる。ゼクレア教官は同席するといったが、結局アーベルさんに押しきられ、部屋を後にした。
 念のためと遮音魔術を使うと、いよいよ私とアーベルさん2人っきりという状況が作り上げられる。

「硬くならないでほしい――――って言っても、無理そうだね、聖女様」

 うん。無理――――――ん??


 今、なんと???


「聞こえなかったかい?」

 アーベルさんはにこやかに私の方を見て、笑う。
 すると、アーベルさんは私の前に膝を突き、頭を垂れた。

「お初にお目にかかります。大聖女様」
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