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第一章

第3話

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 初めて魔術を発動させ、私はしばらく寝込んだ。
 熱も上がり、一時お医者さんも来るという騒ぎにまで発展したのだが、3日目にしてようやく落ち着いた。

 お医者さんの話では、「魔力欠乏症」という病気らしい。

 どうやら私が使ったのは、かなりの上級魔術だったようだ。
 おかげで3歳の子どもの中にある魔力をすべて吸い上げてしまったらしい。

 この世界の人間は、活力、精神力、そして魔力によって生命を維持している。
 それが1つでも欠けると、すぐ死に直結するそうだ。

 幸い私の魔力量は、3歳の子どもにしては多かったらしく、一命を取り留めた。ただもう少し魔力が少なかったら、死んでいてもおかしくなかったらしい。

 しかし、問題は何で大人でも読めない文字を、3歳の私が読めたかである。
 いや、さらっと読めてしまったので不思議に思わなかったのだが、一般的に使われる文字ですら勉強していない私が、何故文字を読めるんだろう。
 神様から能力をもらっていない。今回の私は普通なはず……。普通のスペックなはず。
 なのに、何故?
 何か私、見落としてる? それとも神様が勝手に……。

(神様??)

 ふと思い出したのは、神様との別れ際のことだ。


『そう。じゃあ、せめて言語が通じるようにしておこう。君、語学が苦手だったろ』


 まさか言語って、一般的な会話だけじゃなくて、特別な文字も解読できるってこと。
 だとしたら、なんてことをしてくれたのよ、神様!

 私が頭を抱えていると、唐突に私室のドアが開いた。やって来たのは父だ。
 一応、レディの部屋なのだから、ノックぐらいはしてほしい。
 父はいつになく真剣な顔で、私の方に近づいてくる。後ろには母エイリアーナが控え、兄姉たちが入口から顔を出して、そっと様子を窺っていた。

 私はなんとなく雰囲気で察する。
 書斎にある魔術書を勝手に読んだ上に、魔術書を読んで家に穴を開けてしまったからだろう。きっと外の被害も尋常ではない。
 叱られる覚悟を決めた私は、潔く父の方に頭を差し出した。

「パパ、ごめんなさい」

 自らに謝る。
 けれど、父は私を殴るわけでも、罵声を叩きつけるわけでもない。
 そっと私を抱きしめたのだ。
 いつもの抱擁とは違う。優しく慈しむように……。

(これは……。私を許してくれるというの……?)

 目頭が熱くなる。自分の視界が朧気になったその時、父は言った。

「天才だ! この子は天才だ!!」

「へっ!?」

 そのまま父は私を抱き上げ、高く掲げた。
 目を合わせると、父の目はキラキラと輝いている。

「3歳で魔術文字を誰からも学ばず読めるなんて。きっとミレニアは先代の生まれ変わり、いやそれ以上かもしれない。彼女なら【聖女】になれるぞ!!」

「せ、せいじょ!!」

 思わず言葉が吐いて出た。

「いーかい、ミレニア。この国ではな。優秀な男の魔術師を【勇者】、そして女の魔術師を【聖女】と呼ぶ習わしなのだ」

「な――――――ッ!」


 なんですとぉぉぉおおおおお!!


 私は「ふぎゃああああああ!!」と雄叫びを上げた。
 横で父は「すごいやる気だ。さすが我が娘」と親馬鹿を発揮している。
 馬鹿馬鹿! そんな訳ないでしょ!
 なに? 優秀な女の魔術師が【聖女】ですって! 何よ、それ!! 聖女の定義が変わってるじゃない!!
 昔は回復魔法が使えて、魔力が高いだけだったのに……。

 って、あんまり変わらないか。

 私が困惑する中、突然窓が開き、風が吹き込む。
 留め金が緩かったのかもしれない。
 すると、そこには2匹の野鳥が仲睦まじく、枝に止まっているのが見えた。
 私の耳に聞いたことのない言葉が聞こえる。

『あの親子、仲睦まじいわね』
『ふふふ……。俺たちほどじゃないさ』
『やだ! あなたったら!!』

 聞こえる。私、野鳥の声が理解できる。
 文字だけじゃない。動物の会話も聞くことができる。
 これはもう単なる「言語が通じる」という能力の範疇を超えている。

(いつものチート能力じゃない!!)

 あの神様、可愛い顔してなんてことしてくれたのよ!
 これじゃあ、いつもと同じじゃない。

 私は小さな身体を目一杯反らす。そして空に向かって一気に吐き出した。

「神様の――――――」


 ばかああああああああああああああああああああああああああ!!


 その声は虚しく、小さな子爵領に響き渡るのだった。
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