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第1章

第20話 下水道と魔物(前編)

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 橙色のカンテラが揺れる。
 真っ暗闇の中で、それは唯一の光だった。

 それに照らされていたのは、俺。
 そして王――デラータスだった。

 間違いない。
 真っ白の髪と髭。
 目の辺りとか――――あれ?
 白く濁っている?
 確か、さっきまで俺の前にいた王の瞳の色は、紫だったはず。
 何度も睨まれたから覚えている。

 それに恰好というか、体格からしておかしい。

 風船が萎んだようにやせ細っている。
 身なりもボロボロだった。

 見れば見るほど、同一人物か怪しくなってくる。

 俺がマジマジと見る一方で、向こうも俺のことを観察していた。
 目と髪に注目すると、王は今まで見たことのないほど、穏やかな顔を浮かべている。

「お主、勇者じゃな」

 やはり……。
 俺は確信を得る。
 声がそっくりだった。

「お前、何でここにいる?」

 落とし穴に落ちた先に、王がいる。
 この不可思議な事件に、俺は警戒せずにはいられなかった。
 何せ目的のためなら、自国の民の命すら切り札に使うような男である。
 今度、何を企んでいるのか。
 皆目見当が付かなかった。

 慌てて構える。
 だが、俺の腰にはカタナがなかった。
 謁見の間に入る前に、保安上の理由で預けていたのだ。

 だが、それでも俺には拳と『縛りプレイ』がある。

 ぐっと両拳を胸の前まで上げた。
 すると、王は慌てて手を振る。

「落ち着け、勇者殿。余はお主と戦うつもりなどない」

「だったら、何でここにいる?」

「お主と同じよ」

「同じ?」

「お主もあれじゃろ? 落とされた口じゃろ。偽の王にヽヽヽヽ……」

「に、偽の王!!」

 俺は素っ頓狂な声を上げる。

「ば、馬鹿者! 声が大きい! ヤツに見つかるぞ」

「あんたの声も十分大きいぞ。てか、ヤツって……」

 その時だった。
 膝上ぐらいまで浸かる下水が、大きく波立つ。
 同時に、俺は気付いた。
 来る――!
 奥から何か泳いでくるのがわかった。

 大きい。
 さすがにオークほどではない。
 だが、俺の身の丈以上に大きかった。

「チッ! 見つかってしまったか」

 王は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「何か知っているのか?」

「ここの主だ。有り体にいえば、魔物じゃな」

「魔物! 王宮の地下に魔物がいるのか?」

「おるさ。魔族が王位についておるからな」

「魔族!」

「おかげで、優秀な家臣たちを失った」

 寂しそうに、王は息を吐く。
 だが、すぐに顔を上げた。

「だが、お喋りしている場合ではないぞ。余のことは気にしなくてよい。お主は逃げよ。ヤツは手強いぞ」

「馬鹿野郎!」

「???」

「お前には聞きたいことが山ほどある。むざむざ魔物の餌にされてたまるか」

「お主……」

「それにな。一応、外れでも俺は“勇者”なんだ。あと――」


 これでも、防衛戦は得意だな。


 俺は叫ぶ。

「王も俺も、無傷のまま魔物を倒す!」


 『縛り;王も俺も、無傷のまま魔物を倒す!』を確認しました。
 『縛り』ますか?  Y/N


 YES!


 確認しました。『縛りプレイ』を開始します。


  名前    リック
  年齢    22
  種族    人間
  職業    勇者
 ――――――――――――――
  レベル      2
  攻撃力   1080
  防御力    780
  素早さ    400
  スタミナ   640
  状態耐性   810
 ――――――――――――――
  スキル   縛りプレイ
        物体縛り
        居合い Lv5
 ――――――――――――――
  現在の縛り 武器『カタナ』縛り(永続)
 ――――――――――――――
  称号    ギルドマスター
        呪解マスター
        達人 Lv3
 ――――――――――――――
  補正    武器強度  +Lv80
        武器切れ味 +Lv70


 よし。
 防御力が上がった。
 やはり防衛戦が強いられる場合、防御力が上昇するようだ。

 直後、勢いよく水柱が立ち上る。
 長い顎に、無数の牙。
 まるで石垣のような硬そうな外皮。
 太く長い尻尾をしならせ、その先は巨大な棍棒のようになっていた。

 現れたのは巨大な鰐だ。
 暗闇の中、鈍色の目が光る。
 俺を捕捉しているのがわかった。

「ヴァリゲーターというヤツだ。手強いぞ、勇者。退却を推奨するが……」

「問題ない」

 それにちょうどむしゃくしゃしていたところだ。
 むかつく王様を護衛するというのは、癪に障るが、気晴らしぐらいにはなるだろう。

 俺はぐるりと肩を回す。
 再びファイティングポーズを取った。


(※ 後編へ続く)
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