上 下
29 / 48
第1章

第14話 オークと仲間(前編)

しおりを挟む
 デレクーリさんの武器屋で、武器と防具を調えた俺は店を出た。
 我ながら、様になっている。
 いよいよ冒険者らしくなってきた。

 お代は結局、支払うことにした。
 デレクーリさんは「男に二言はねぇ!」と言って、最初は受け取りを拒否したが、最終的には4割引きという形で、代金を受け取ってくれた。

 デレクーリさんは、良い店主である。
 今後付き合う意味でも、きちんと商売をしてほしかった。

 家には帰らず、ギルドへ向かう。
 さあ、今日もお仕事だ。
 ルーナたちのためにも、働かないとな。

 意気揚々と俺は乗り込む。
 しかし、ギルドの中は大変なことになっていた。
 王都にいる冒険者全員が集まっているのではないか。
 そう思えるほど、人がごった返し、ギルドの外まで人が溢れ返っていた。

 静まりかえったギルドの中で、ネレムさんの声が聞こえる。

「どなたか。村の救出に向かってくれる冒険者はいませんか?」

 村の救出?
 クエストか?
 しかし、なんでこれだけの冒険者がいて、誰も手を挙げないんだ。

 俺は近くにいた冒険者に尋ねてみる。

「オークの軍勢が現れたんだと……」

「オーク……」

 高レベルの魔物で、並の冒険者では太刀打ちできないほど強いらしい。
 それが群となって、この王宮を目指しているそうだ。
 村――というのは、オークが進撃する道すがらにあって、緊急の救援依頼がギルドにあったのだと、冒険者は説明した。

「おいおい。ちょっと待てよ。国にだって、軍隊はいるだろ。国は、王の野郎は何をやってるんだよ!」

「オレにがなるなよ。軍隊だって無限にいるわけじゃねぇ。この王都や各主要都市を守るだけで精一杯なのさ。小さな集落を守るほど、人手なんていない」

 だから、冒険者にお鉢が回ってきた。
 そういうことか。
 冒険者が手を挙げないのも、リスクが高いからだろう。
 それほど、オークという魔物は強いに違いない。

 俺が話しかけた冒険者は、説明を加えた。

「オークの頭領は、オークロードって話だ。しかも名前付きネイムド。軍勢だけでも厄介なのに、オークロードに名前付きネイムドじゃ。詰みも同然だ。国自体がやばいかもな。逃げ出すなら、今しかねぇ」

 その不安は伝染する。
 オークを討伐しようという気概どころではない。
 国からどうやって脱出するか、考えるものがほとんどだった。

「一体、どうしたってんだ、最近」
「ああ……。魔物のレベルが上がってるよ」
「こう立て続けに名前付きネイムドが現れるのも変だ」
「なあ、やっぱりこれって……」
「勇者が召喚されてからだよな」
「外れ勇者どころか、とんだ疫病神じゃねぇか」

 視線が黒髪と黒目の俺に向けられる。
 本来、国を蹂躙しようとする魔物に向けるべき殺意と怒気は、どういうわけか勇者の俺の方へ注がれていた。

 バンッ!

 激しく机を叩く音が聞こえる。
 俺も含め、ほとんどの冒険者が肩を震わせた。
 振り返ると、ネレムさんが赤い顔をして睨んでいる。

「今は仲間割れしている場合じゃないでしょ。そもそもリックさんは関係ありません。魔物のレベルの上昇は、彼が召喚される前から兆候がありました。勘違いしないでください」

 ネレムさんはまくし立てる。
 歴戦の冒険者たちは、ギルドの受付嬢の話を聞いて、しんと静まった。
 沸々と沸いた殺意や怒気も消えていく。

 ネレムさんにそう言われると反論しようがない。

 まるで母親に怒られた子どもみたいにシュンとしていた。

「ありがとう。ネレムさん」

「いえいえ。本当のことですから」

「お礼というわけじゃないけど、そのクエストを受けるよ」

「ホントですか!?」

「うん。困ってる人は助けるのは、勇者ヽヽの役目だからな」

「ありがとうございます」

 ぷくっと頬を膨らましていたネレムさんに、やっとスマイルが戻る。
 だが、すぐにシュンと下を向いた。

「でも、さすがにリックさん、1人じゃ……」


「じゃあ、あともう2人追加だ」


 落ち着いた声が、ギルドの入口の方から聞こえてきた。

(※ 後編へ続く)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界営生物語

田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。 ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。 目覚めた先の森から始まる異世界生活。 戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。 出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

処理中です...