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第1章
第11.5話 傷だらけと褒賞(後編)
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「えっと……。とりあえず換金してもらえますか?」
「あ、はい。ごめんなさい。取り乱してしまって。えっと……。ギラードウルフ10匹、そのうち1匹が名前付きっと……。では、金貨5枚を褒賞金としてお渡しします」
「き、金貨5枚!!」
今度叫んだのは、俺だった。
少なすぎて驚いたのではない。
むしろ逆だ。
多すぎて、俺は驚いていた。
ファイヤースライムを100匹倒しても、精々銀貨7枚だった。
現在のこの国の相場で、銀貨10枚に対し金貨1枚という価値になっている。
つまり金貨5枚とは、銀貨50枚。
7倍以上の価値があるということだ。
「そ、そんなにもらっていいんですか?」
「ギルドの試算に対して、多少は色をつけました。といっても、端数を繰り上げた程度ですけど。でも、これは当然です。この名前付きはギルドも把握していませんでした。場合によって、犠牲者が出ていたかもしれない。その犠牲者を未然に防げた意味でも、意義は大きいと判断しました」
おお……。
冒険者たちは声を揃えた。
よっぽど名誉なことなのだろう。
だが、俺はひたすら呆然としていた。
前に冒険者たちが言っていたのを小耳に挟んだのだが、銀貨5枚あればそこそこ良い武器を揃えられるらしい。
しかし、俺が今日手にしたのは、金貨5枚。
半分家で使うにしたって、2枚半ある。
どんだけ良い武器が買えるのだろうか。
「リックさん。1つ提案してもいいですか?」
惚ける俺に、ネレムさんは慎重に話しかけた。
「よろしければ、上申させてもらってもいいですか?」
「上申って?」
「国にこの功績を伝えるのです。そうすれば、陛下からも褒賞を賜ることができるかもしれません。それに、リックさんの名誉回復につながると思いますが……」
あの王様にか……。
正直、王宮にいるヤツら全員、好きになれないんだよなあ。
たとえ、あいつらが俺の功績を知って、手の平を返したとしても、釈然としないし。
勇者としての地位を回復したとしても、「魔王を倒せ」とガミガミいわれるのがオチだろう。
勝手に召喚して、勝手に人の記憶を消したヤツらだ。
あいつらだけは、どんなことがあっても、一生許せそうになかった。
「ネレムさんには悪いけど、断るよ」
「でも……。地位が回復すれば『外れ勇者』と言われなくなります。もったいないですよ。そんなにお強いのに、誰も信じてくれないなんて」
「それでいいんだよ、ネレムさん」
「え?」
「他にも勇者がいるんだろ? 勇者としての役目はそいつらに任せるよ。俺は俺でこの異世界で生きていく」
だから、『外れ勇者』でいいんだ。
うん。そうだ。
それでいい。
魔王なんて勇者に任せておけばいいんだ。
俺はルーナの両親を探し、俺の記憶と元の世界に戻る方法を探せれば、それでいいんだ。
すとん、という感じで椅子に座ったのは、ネレムさんだった。
俺の言葉がショックだったらしい。
椅子に座ったまま、45度上を眺めていた。
「はあ…………」
「ご、ごめん。ネレムさん。その代わり、魔物退治は頑張るよ」
「いえ。こちらこそすみません。もったいないとは思いますが、それがリックさんの生き方なら、私は何もいいません。そうですね。リックさんの言う通りです。絶対に勇者が魔王を倒さなければならない――なんてことはありません。魔王打倒を目的とせず、異世界で生活している勇者がいてもおかしくないと思います。『外れ勇者』の生き方……。私は素敵だと思いますよ」
最後は、とびきり華やかな笑顔を、ネレムさんは浮かべた。
はあ、良かった。
理解されないかと思ったよ。
勇者が魔王打倒を拒否するんだからな。
希望を持っていた人にとっては、残念かもしれない。
けどまあ、これが俺が決めた道である。
自分で引いた道なら、とりあえず歩いてみよう。
こうして俺は『外れ勇者』として生きていくことを決めたのだった。
「あ、はい。ごめんなさい。取り乱してしまって。えっと……。ギラードウルフ10匹、そのうち1匹が名前付きっと……。では、金貨5枚を褒賞金としてお渡しします」
「き、金貨5枚!!」
今度叫んだのは、俺だった。
少なすぎて驚いたのではない。
むしろ逆だ。
多すぎて、俺は驚いていた。
ファイヤースライムを100匹倒しても、精々銀貨7枚だった。
現在のこの国の相場で、銀貨10枚に対し金貨1枚という価値になっている。
つまり金貨5枚とは、銀貨50枚。
7倍以上の価値があるということだ。
「そ、そんなにもらっていいんですか?」
「ギルドの試算に対して、多少は色をつけました。といっても、端数を繰り上げた程度ですけど。でも、これは当然です。この名前付きはギルドも把握していませんでした。場合によって、犠牲者が出ていたかもしれない。その犠牲者を未然に防げた意味でも、意義は大きいと判断しました」
おお……。
冒険者たちは声を揃えた。
よっぽど名誉なことなのだろう。
だが、俺はひたすら呆然としていた。
前に冒険者たちが言っていたのを小耳に挟んだのだが、銀貨5枚あればそこそこ良い武器を揃えられるらしい。
しかし、俺が今日手にしたのは、金貨5枚。
半分家で使うにしたって、2枚半ある。
どんだけ良い武器が買えるのだろうか。
「リックさん。1つ提案してもいいですか?」
惚ける俺に、ネレムさんは慎重に話しかけた。
「よろしければ、上申させてもらってもいいですか?」
「上申って?」
「国にこの功績を伝えるのです。そうすれば、陛下からも褒賞を賜ることができるかもしれません。それに、リックさんの名誉回復につながると思いますが……」
あの王様にか……。
正直、王宮にいるヤツら全員、好きになれないんだよなあ。
たとえ、あいつらが俺の功績を知って、手の平を返したとしても、釈然としないし。
勇者としての地位を回復したとしても、「魔王を倒せ」とガミガミいわれるのがオチだろう。
勝手に召喚して、勝手に人の記憶を消したヤツらだ。
あいつらだけは、どんなことがあっても、一生許せそうになかった。
「ネレムさんには悪いけど、断るよ」
「でも……。地位が回復すれば『外れ勇者』と言われなくなります。もったいないですよ。そんなにお強いのに、誰も信じてくれないなんて」
「それでいいんだよ、ネレムさん」
「え?」
「他にも勇者がいるんだろ? 勇者としての役目はそいつらに任せるよ。俺は俺でこの異世界で生きていく」
だから、『外れ勇者』でいいんだ。
うん。そうだ。
それでいい。
魔王なんて勇者に任せておけばいいんだ。
俺はルーナの両親を探し、俺の記憶と元の世界に戻る方法を探せれば、それでいいんだ。
すとん、という感じで椅子に座ったのは、ネレムさんだった。
俺の言葉がショックだったらしい。
椅子に座ったまま、45度上を眺めていた。
「はあ…………」
「ご、ごめん。ネレムさん。その代わり、魔物退治は頑張るよ」
「いえ。こちらこそすみません。もったいないとは思いますが、それがリックさんの生き方なら、私は何もいいません。そうですね。リックさんの言う通りです。絶対に勇者が魔王を倒さなければならない――なんてことはありません。魔王打倒を目的とせず、異世界で生活している勇者がいてもおかしくないと思います。『外れ勇者』の生き方……。私は素敵だと思いますよ」
最後は、とびきり華やかな笑顔を、ネレムさんは浮かべた。
はあ、良かった。
理解されないかと思ったよ。
勇者が魔王打倒を拒否するんだからな。
希望を持っていた人にとっては、残念かもしれない。
けどまあ、これが俺が決めた道である。
自分で引いた道なら、とりあえず歩いてみよう。
こうして俺は『外れ勇者』として生きていくことを決めたのだった。
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