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3. 違う惑星から
しおりを挟むひとまずリビングへ移動して男の話を聞くことにしたゆかり。
気分を落ち着かせるために作ったホットミルクが二つ乗ったテーブルを挟み男と向かい合う。
履いたままだった靴を脱がせたのはいいが、玄関に持って行くのを男が渋ったためスーパーの袋に入れて今は男の座る椅子の横に置かれている。
「私の名はランバート。サンヴァウム国の騎士だ。此度魔物討伐のため洞窟を探索していたところ、奥地にて奇妙な石を発見。それに触れた直後、突如この屋敷に移動していたことから、その石が転移装置になっていたと思われる」
「……ん?」
背筋を伸ばし、真剣な表情でここにいる理由を説明されるが、ゆかりが理解出来たのは彼の名前と騎士だということだけだ。
サンヴァウムなんて国は聞いたこともないし――これはゆかりが知らないだけかもしれないが――、魔物だなんてものはこの世界には存在しない。そもそも転移装置とは何ぞやと、ゆかりは怪訝な思いでランバートを見つめた。
「それで……ここはどこなのだろうか?」
「ここは日本――日本って国の海幸町。その、サンバ? って国がどこにあるのか知らないけど」
「日本、だと……? 聞いたことがない。地図はあるか!?」
日本語を話しているのに日本を知らないとは。
矛盾しているような気もするが、それで気が済むならとゆかりは一度席を立ち、年代物の地球儀を持って来た。
ゆかりの父が子供の頃に使っていたもので、当時と国名が変わっている場所もあるかもしれないが、ある程度の位置は分かるだろう。
地球儀を受け取ったはいいものの、使い方が分からないのか恐る恐る触ってはこちらを窺うランバートに、業を煮やしたゆかりは彼の傍へ回り込むと一点を指し示した。
「ここが日本。この大きいのがアメリカ。中国、ロシア、フランス、イタリア、イギリス……」
主要な国を大まかに上げていくが、ランバートはそれを食い入るように見つめたあと、静かに首を振った。
「どれも知らん国だ。聞いたことがない」
「うそぉ。じゃあいったい何人なの?」
「サンヴァウム人だ。……これは思ったより深刻やもしれん。ちなみにここは何という世界だ?」
「世界!? どゆこと? 惑星、だったら地球だけど」
「……俺のいた惑星はエスカトスという」
当初の冷静さがなくなり、頭を抱えるランバート。いつの間にか一人称が『私』から『俺』へと変わっているが、こちらの方が素なのだろう。
しかしゆかりはそんなことを気にする余裕もなく、そのあと続けられた言葉に耳を疑っていた。
例に漏れずエスカトスという惑星をゆかりは知らないが、仮に地球以外の惑星にいたというならば、彼は宇宙人ということになるのだろうか。
もちろん、今までの話が全て中二病を拗らせた妄想でないとするならば、というのが前提ではあるが。
ランバートを刺激しないようにこっそりと様子を窺う。
宇宙人と聞いて連想するのは、よくテレビ番組などで見る灰色の体に黒目の大きな顔のものであるが、目の前の男は完全に普通の人間の体をしている。
地球人に紛れ込むために擬態しているのか、これが生来の姿なのかは分からないが、もし擬態だとするならば完璧に人間の特徴を捉えている。
外国人風の顔立ちのため日本だと少し目立つが、アメリカや欧州などならば完全に溶け込めるだろう。
ゆかりがそんなことを考えている間、ランバートも何やら考え込んでいたようだが、ゆかりの視線を感じたのか視線を上げると眉を下げ、困ったような表情を見せた。
「どうやら俺は異世界に来てしまったらしい。今頃俺の世界では俺を連れ戻そうと努力してくれているはずだ。すまないが、迎えが来るまでの間ここに留まらせてもらえないだろうか」
「ぅええっ!?」
宇宙人の大群がUFOに乗ってやってくる映像がゆかりの頭に描き出され面食らうが、必死に頼み込むランバートの様子に、ゆかりは渋々了承することとなった。
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