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2nd season 第四章

158 カイン、大地に立つ

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最初に気付いたのはミランだった。

上昇時にはミランの魔法が必要だ。
空を飛ぶ感動も10日目となればさすがに落ち着きを見せる。

『今度こそ、あーしの風を掴むっ!』

と、意気込むスージーに請われるがまま、ボケラーっと気球を暖めていると、水平線の彼方を走る、一筋の線が目に入ったのだ。

「何かあるっ!スージー、主様を呼んできてっ!」

地球では、砂浜から見る水平線は4.5km先の光景だ。
だが気球高度から見えるそれは、当然ながら劇的に遠い。

「間違いないな。ミラン、上昇だ!」

大陸を発見した場合の手順はあらかじめ決めてある。
発見時が昼であればその日の深夜まで、夜に見つけたなら翌日深夜まで、地上からは視認できない程度上空まで上がり、大きさと文明の有無を確認しながら待機。
深夜になったらオレ一人でおとこ着陸を敢行、周囲の安全を確認したら『集合場所』を設置する。

「主様、デッケーなー?」

陽の光の中では上空からペルシラ大陸を見たことが無いので比較は出来ないが、かなりの大きさだ。

「ライザ、上昇しつつ接近、風を探してくれっ!」

この大陸に存在するであろう国家、彼等に気球を知られるのは良くない。
なるべく高々度で待機したい・・・だが。

「まずいっ!ミラン、ストップ!上がりすぎだ!」

人類が酸素ボンベ無しで上昇できるのは7000メートルが限界。
それ以上あがれば気絶する。
しかも気温は・・・。

「ざ ぶ いぃぃぃぃぃぃぃい」

マイナス40度以下だ。
バナナで釘が打てる。
いかに防寒対策をしていたとしても長時間は居られない。

「ユリアと俺が残る。他は転移して急いで身体を暖めるんだ!」
「旦那様?大丈夫ですか?顔が真っ青ですよ?」

LV79という人外領域に達していても、寒さ暑さは普通に感じる。
身体能力の低下はある程度緩和されるが、ユリアのようにケロリとはしていられない。

「大丈夫じゃない・・・けど我慢する・・・」

ガチガチと奥歯を鳴らしながら眼下を凝視する。
雲の合間から見える地上には、明らかに人工的な紋様が・・・間違いない、文明がある!

「よし、この高度でキープだな。ユリア、見てみ?あの辺とあの辺、街だよな?」
「ほんとだ!凄いっ!あたしたちの他にも人が居るっ!」

雲の位置から言ってココは3000メートル付近。
暖かくは無いが安全圏だ。
微かに輪郭を捉えられる家屋、密集率が高い、それなりの都市のようだ。

「考えてみると、シリアってこの2/3くらいの距離で狙撃するんだよな?トンデモナイな・・・」

地球人類の最高値は視力11.0、2km先から直径5cmの円が視認できるらしい。
だが、見えるだけじゃない、シリアは2km先から40cm幅の胴体に
風力計も電卓も無しに勘で当てちまう。

「こうして下を見てると・・・なんか落っことしてみたくなるね?」
「ダメだぞユリア?鉄貨一枚でも、この高さから落とせば人間に穴が開くかもしんない」
「うううううっ、怖い・・・落とさないように気をつけないと」

「よしっ、そろそろいいだろう。俺、一回降りて身体暖めてくるから、すぐに誰か寄越すな?」
「はいっ。ゆっくりしてきていいよ?」



~~~~~



「ふぅ・・・生き返った。シリア、なんか見えたか?」
「ちょっと、この国とんでもないわよ?アンタが作ったナルバスみたいの?いっぱい走ってるわ!」
「マジでっ?」

参ったな・・・文明レベル負けてんのか?

「他には?」
「うーん、上から見たこと無いからわかんないけど、グラム王都よりゴチャゴチャしてそう。あと、あたしの同族がいっぱい居るっぽい?」

これは・・・黒船のノリで布教するつもりだったけど、むしろこっちが辺境の島国なのか?

「ってことはやっぱ俺達より発達した国って事だよな・・・この可能性は考えてなかった」
「どうすんの?」
「うーん・・・困った・・・でも情報は欲しい・・・いきなり都市は避けて、田舎を探そう」

しかもダークエルフが多いって、どういう歴史だ?

「あっ、まずいぞ。ダークエルフが多いって事は、向こうから見つかる可能性が高くないか?」
「まぁ、この気球。夜用で真っ黒だから目立つわよね?」

どうする?どうする?

「よしっ、作戦変更。夜を待たずに人の居なそうな地方に降りる。みんなは戻って待機しててくれっ!」
「大丈夫なの?無理しないのよ?」
「おうっ、痛かったら泣きながら帰るから待ってて」

高度を維持しながら南下を試みる。
見つからずに降りるにはどこがいい?

絶対選びたくない選択肢が脳裏に浮かぶ。

高度一万メートル。
地球における航空機の巡航高度だ。
そして、その高さから自由落下して、生還した人間はゼロでは無い。
地上に落ちるまでの三分間、その間の適切な行動と圧倒的な強運があれば、死は絶対では無くなる。

乗っている飛行機が大破して放り出されると、酸素の薄さにすぐに気絶する。
そして次第に高度が下がり、7000メートル付近で運良く意識が戻る。
その時取るべき行動は一つ。
空気抵抗が大きく、クッション性の高い残骸を探す事だ。

スカイダイビングの姿勢で空気抵抗を稼げば、加速を止めることが出来る。
何もせずに落下すれば、衝突速度は少なくとも200km/hを超える。
だが考えてみれば、時速200kmで壁に激突しても、エアバッグがあれば怪我で済む。

布の入ったバッグ、クッションのついたシート、空中に散乱する残骸の中からそれらを探し、移動し、確保する。
機体の大きな破片に捕まって降下する方法も有効と言われているが、これは落下地点を選ぶことが困難になるため、諸刃の剣だ。
そう、次にすべきことは落下地点の選定だ。

実際に飛行機から放り出され、生還したケースでは、干し草の山や茂み、電車の屋根や変わったところでは電線にし、即死を免れている。
水面は一見柔らかそうに見えて、圧縮率が低いためおすすめできない、高確率で身体がバラバラになる。

事に、IBにはフワフワの寝具が山と収納されている。
そして高度は3000メートル、気絶するリスクが無いから最初から加速を抑えられる。
しかも、俺のレベルは79・・・時速100kmくらいの激突なら、生身でも『怪我』だけで済む・・・。

「マジか・・・おとこダイブすんのか?」

森は良くない。
クッションどころか枝が槍になる。
背の高い雑草が密集した茂みがいい。

気球の床にうつ伏せに寝そべり・・・収納。

「ひっ!」

眼下には雲。
視界を遮る物は何もなく、下り始めたジェットコースターのように、次第に身体が加速してゆく。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

あっという間に雲をすり抜ける。
目に水滴が刺さって痛いったらない。

大の字に手足を広げバランスを取るが、テレビで見るようにはうまくいかない。
速度は殺せているが空気に押されてクルクルと水平回転してしまう。

「こぇえええええええっ!」

ゴーグルなんて持ってない。
涙を飛び散らせながら落下ポイントを見定める。

数十秒の自由落下が体感では数十分だ。
茂みっぽいところ発見っ!

ぐんぐんと地表が迫ってくる。
妙な分泌液が脳内を満たし、草木の一本までが鮮明に映る。

インパクト直前!
ありったけの寝具を前面に!

ボフンッ!

あっ・・・何も俺が飛ばなくても、携帯転移門、布団でぐるぐる巻きにして落とせば良かったんじゃね?

トランポリンよろしく、宙に跳ね返されながら最善策に気づいてしまう・・・
まっ、痛く無かったからいいか。

グラム歴340年8月6日、俺は新大陸に落下した。
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