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2nd season 第三章
134 心的外傷後ストレス障害
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PTSD・・・映画やドラマ、あの世界では誰もが知ってた。
でも自分の頭がおかしくなるなんて、誰が想像する?
この感覚・・・執行日を知らされていない独房の死刑囚・・・きっとこんな感じだ。
逃れようの無い何かに、意識のある限りずっと追い詰められ続ける。
いや、意識の無い、夢の中の方がもっと酷い。
フラッシュバック、回避症状、陰性変化、覚醒状態、そして逃避依存・・・。
幸福への感受性が酷く鈍って、イラつきが治まらない。
人によっては酒やドラッグ、性行為に逃避依存するらしいけど、俺の逃避先は仕事だった。
性行為への逃避だったら、みんなを苦しめずに済んだのに・・・自分では選べない。
#####
精神疾患の多くは、深層心理による自我からの権限剥奪、その状況にある。
その有り様は、過保護な親の愛に酷似する。
『危ないからダメ』『きっとまた怖い目に合う』『お母さんの言うことを聞きなさい』
自我の崩壊から守ろうとするあまり、かえって子供を傷付ける。
カインにとって大虐殺は自我の存続を脅かすほどの嫌悪だった。
愛する妻たちとの幸せを守るためには必要なことだったが、カインの本質はそれを許容できなかった。
だが守らないという選択肢は無い。
これもまたカインにとって、自我を構成する重要なファクターだからだ。
故に母は、元凶を遠ざけた。
本人の意志など関係ない、女達は守るべき子供の害なのだ。
だが自我にはリビドーの放出先が不可欠だ。
遠ざけるべき女達はもってのほか。
好都合なことにカインの構成要素、岸田は過労死するほどのワーカーホリック、打って付けの代替先が見つかった。
深層心理は本当に余計な事をしてくれる。
例えば人は夢を見る。
人には眠りが必要だ、だが心に大きな渇望・・・主にリビドーの情動だが、それがあると興奮して眠りを継続できない。
ゆえに、夢で満たして黙らせる。
そしてその欲望は往々にして自分では認めたくない内容だ。
ご丁寧に深層心理は、夢の内容を書き換えて記憶させるという芸当までやってのける。
夢の途中で目が覚めると、すぐに内容があやふやになって、思い出せなくなるのはその機能が働いているせいだ。
その状態の被験体に、話しかけて夢の内容を語らせると、極めて短時間で内容が変化してゆくのが観察できる。
では何故悪夢を見るのか?
眠らせておきたいなら悪夢など見せないほうが良いはずだ。
その理由は不安だ。
心に大きな不安があると、その場合も眠りを継続できない。
だったら不安を実現させてしまえばいい。
実現されればもはやそれは不安では無い。
こうして深層心理は、宿主に悪夢を見せながら眠りを継続させる。
時として、やり過ぎて逆に眼を覚まさせてしまうのは、誰もが知っていることだ。
ならば深層心理は悪か?
そんな事は無い。
過保護な親でも、居なければそもそも子は生きられない。
ただそのメカニズムが、完全では無いだけだ。
#####
でもまぁ、後遺症でEDにならなかったのが救いだ。
もしそうなっていたら・・・ユリアを誰かに託さなきゃならなかった・・・そんな事・・・耐えられない。
「こうも元首が出歩いていて、貴様の国は何故無くならない?」
「それはまぁ、私にはよく出来た妻たちがおりますから」
「ふんっ、で、今日は何しに来た?」
「まぁですね?ミズーラ条約から二年、この辺りはすっかり平和ですから?生粋の武人たる陛下は、そろそろ退屈されてるんでは無いかと、せめてもの慰みに、話し相手の一つも務めさせて頂こうかと」
「貴様・・・何処で知った!」
うん、まぁ、二年もあればスージー達も成長する。
帝国が南方の小国を吸収としているのは明白だ。
「おや?何か隠し事が?」
「しらばっくれるな!貴様が止めようと今が好機!帝国はすべき事をする!」
「いえ、別にお止めしたりしませんが?」
「ほぅ・・・では逆か?」
その南方の小国というのはエッヘルン王国。
国力の無い国が帝国と国境を接していれば、支える国民の負担は計り知れない。
そして軍は国境を守ってやっているという自負がある。
貴族と軍人による自国民への狼藉が留まるところを知らない国だ。
「神殿はいかなる戦争行為にも手を貸すつもりはありません・・・が、同時に、神殿郵便がお断りするのは人の輸送と敵対勢力の荷物のみ。それ以外で荷物の中身を詮索するのは、輸送業者として恥ずべきところでしょう」
「・・・ほぅ」
「屈強なる帝国兵。兵糧や攻城の重き荷を持たず、要らぬ村に寄り道もせずに、ただ真っ直ぐに駆け抜ければ、さぞや速いのでしょうね?」
俺のアタマがどうであれ・・・仕事は今日も順調だ。
でも自分の頭がおかしくなるなんて、誰が想像する?
この感覚・・・執行日を知らされていない独房の死刑囚・・・きっとこんな感じだ。
逃れようの無い何かに、意識のある限りずっと追い詰められ続ける。
いや、意識の無い、夢の中の方がもっと酷い。
フラッシュバック、回避症状、陰性変化、覚醒状態、そして逃避依存・・・。
幸福への感受性が酷く鈍って、イラつきが治まらない。
人によっては酒やドラッグ、性行為に逃避依存するらしいけど、俺の逃避先は仕事だった。
性行為への逃避だったら、みんなを苦しめずに済んだのに・・・自分では選べない。
#####
精神疾患の多くは、深層心理による自我からの権限剥奪、その状況にある。
その有り様は、過保護な親の愛に酷似する。
『危ないからダメ』『きっとまた怖い目に合う』『お母さんの言うことを聞きなさい』
自我の崩壊から守ろうとするあまり、かえって子供を傷付ける。
カインにとって大虐殺は自我の存続を脅かすほどの嫌悪だった。
愛する妻たちとの幸せを守るためには必要なことだったが、カインの本質はそれを許容できなかった。
だが守らないという選択肢は無い。
これもまたカインにとって、自我を構成する重要なファクターだからだ。
故に母は、元凶を遠ざけた。
本人の意志など関係ない、女達は守るべき子供の害なのだ。
だが自我にはリビドーの放出先が不可欠だ。
遠ざけるべき女達はもってのほか。
好都合なことにカインの構成要素、岸田は過労死するほどのワーカーホリック、打って付けの代替先が見つかった。
深層心理は本当に余計な事をしてくれる。
例えば人は夢を見る。
人には眠りが必要だ、だが心に大きな渇望・・・主にリビドーの情動だが、それがあると興奮して眠りを継続できない。
ゆえに、夢で満たして黙らせる。
そしてその欲望は往々にして自分では認めたくない内容だ。
ご丁寧に深層心理は、夢の内容を書き換えて記憶させるという芸当までやってのける。
夢の途中で目が覚めると、すぐに内容があやふやになって、思い出せなくなるのはその機能が働いているせいだ。
その状態の被験体に、話しかけて夢の内容を語らせると、極めて短時間で内容が変化してゆくのが観察できる。
では何故悪夢を見るのか?
眠らせておきたいなら悪夢など見せないほうが良いはずだ。
その理由は不安だ。
心に大きな不安があると、その場合も眠りを継続できない。
だったら不安を実現させてしまえばいい。
実現されればもはやそれは不安では無い。
こうして深層心理は、宿主に悪夢を見せながら眠りを継続させる。
時として、やり過ぎて逆に眼を覚まさせてしまうのは、誰もが知っていることだ。
ならば深層心理は悪か?
そんな事は無い。
過保護な親でも、居なければそもそも子は生きられない。
ただそのメカニズムが、完全では無いだけだ。
#####
でもまぁ、後遺症でEDにならなかったのが救いだ。
もしそうなっていたら・・・ユリアを誰かに託さなきゃならなかった・・・そんな事・・・耐えられない。
「こうも元首が出歩いていて、貴様の国は何故無くならない?」
「それはまぁ、私にはよく出来た妻たちがおりますから」
「ふんっ、で、今日は何しに来た?」
「まぁですね?ミズーラ条約から二年、この辺りはすっかり平和ですから?生粋の武人たる陛下は、そろそろ退屈されてるんでは無いかと、せめてもの慰みに、話し相手の一つも務めさせて頂こうかと」
「貴様・・・何処で知った!」
うん、まぁ、二年もあればスージー達も成長する。
帝国が南方の小国を吸収としているのは明白だ。
「おや?何か隠し事が?」
「しらばっくれるな!貴様が止めようと今が好機!帝国はすべき事をする!」
「いえ、別にお止めしたりしませんが?」
「ほぅ・・・では逆か?」
その南方の小国というのはエッヘルン王国。
国力の無い国が帝国と国境を接していれば、支える国民の負担は計り知れない。
そして軍は国境を守ってやっているという自負がある。
貴族と軍人による自国民への狼藉が留まるところを知らない国だ。
「神殿はいかなる戦争行為にも手を貸すつもりはありません・・・が、同時に、神殿郵便がお断りするのは人の輸送と敵対勢力の荷物のみ。それ以外で荷物の中身を詮索するのは、輸送業者として恥ずべきところでしょう」
「・・・ほぅ」
「屈強なる帝国兵。兵糧や攻城の重き荷を持たず、要らぬ村に寄り道もせずに、ただ真っ直ぐに駆け抜ければ、さぞや速いのでしょうね?」
俺のアタマがどうであれ・・・仕事は今日も順調だ。
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