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2nd season 第二章

127 大虐殺

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「ホルジス様、おいでですか?」

皆を会議室で待たせ、降臨の間に一人跪く。

「ご無事で何より」
「ありがとうございます。で、このあと30万人ほど殺しちゃう事になるので、先に根回しなどと思いまして・・・」
「・・・それはなかなか・・・どうしたものか・・・」
「はい。今やっておかないと、今回みたいな事が次々起きる事になります。帝国が神理教を潰そうとしてますんで・・・とはいえ、まずいでしょ?30万も減らすと。そこで、こんな感じで補填しようかと思うんですが、どうでしょう?」

ミズーラの王都を消滅させた後、各国政府と全ギルドに配布する予定の告知文をホルジス様に渡す。


##### 神殿公告 #####

グラム王国歴335年、11月24日未明、予告通りミズーラの王都は消滅、今回ミズーラの侵略行為を通し、神殿が、現教皇がいかなる力を有するか、世界の知るところとなった。

だが神殿として、神理教教皇として、神より授けられしこの力を、国家に対し、人類に対し振るうははなはだ不本意。
我らは争いを望まず、支配を望まず、神界より託されしことわりを世に広めることこそを究極の目的とするもの。

その証として、世界に対し、教団より一つ提案させて頂く。
我ら人類にとって、現在最も脅威となっているのは魔物の存在、そしてそのスタンピードである。
神殿はこの脅威を除きたい。

今後、郵便サービスの稼働する全ての街において、対スタンピードの支援を提供する。
スタンピードの兆候が確認された場合、神理教教皇宛に『特級郵便』にて支援を要請して欲しい。
速やかに支援部隊を派遣する。

部隊派遣の条件は以下の通り。
1つ、スタンピードの発生が高い確率で予想される事。
1つ、支援部隊は前線にて独立して稼働し、ギルド指揮下には入らない事。
1つ、取りこぼした魔物は、ギルド指揮下の防衛部隊で対処する事。
1つ、部隊はあくまでも支援であり、スタンピードの鎮圧を保障するものでは無い事。
1つ、この支援はあくまで神殿の善意であり、状況により、提供できない場合がある事。

郵便サービスが稼働していない地域への支援は、時間的に限界があるため、残念ながら実施できない。
郵便サービスを稼働させるためには、地域の神殿に赴き、感謝の祈りを正しく神界に向ける必要がある。
神界や神殿が望んでも、信仰無き地域では転移門が動かないためである。

今日も変わらず大地が有り、見上げればそこに空がある。我らはそれに感謝する。

王国歴335年11月24日

神理教教皇 聖教国国主 カイン・ロックハウス

###################


「ほぅ・・・なるほど。スタンピードの防衛に失敗すれば数万の損失、その損失を防ぎ、今回の補填に、更に、助けてほしかったら神に感謝せよと・・・さすがですね~」
「はい、事前にこういったお約束を持ち込んでおけば、ホルジス様におかけするご迷惑も、少しは軽減されるかと思いまして」
「ええ、うるさい事を言う方もいるでしょうが、大勢は両手もろてを挙げて受け入れるでしょう。うん、やはりカインさんにお願いしてよかった」
「ありがとうございます・・・では、最後の準備がありますので」
「はい、こちらも早速根回ししておきます」


~~~~~


なんだろう・・・神様とやり取りしてるのに越後屋になった気分だ。
トボトボと会議室のドアをあける。

うん、二人のギルマスとフレッドがなんとも言えぬ微妙な感じ。

「あー、こういう場合どう言うのが正解?」

「知るかっ!・・・こっち、めちゃくちゃ寂しかったぜ?なんか遠くで歓声聞こえるのに、なんも見えねーし・・・なんもしてねーのに民衆にめちゃくちゃ礼言われちまうしよ?居心地わりーったらありゃしねぇ」
「はははははは、良いではありませんかギルマス殿、こうして民は無事、我らは責務を全うした、胸を張りましょうぞ!」

うん、いいぞ、フレッド!
よし、話題を変えよう。

「これ、明日、配布する予定の告知、みんなも目を通しておいて」

を皆に手渡してゆく。
実は誰にも相談してない。

「主殿っ!またも素晴らしいっ!これぞ騎士の務めですっ!」

うん、アベル、素直でよろしい。そのまま真っすぐ育つんだよ?

「アンタ・・・ホントこういうの天才よね?教皇クビんなったら詐欺師やるわよっ!」
「主様、どんだけ強くなるつもりかな?」

うんうん、君ら完全こっち側だもんね。

「ん?どういう事なのだ?」
「街は救われる、ギルドは無理に犠牲を払わなくてすむ、神界は神力の確保が加速する。そして俺達は『あそこにがまとめて落ちてますよ~』って真っ先に教えてもらえる。全員が得するしくみだが、最後のに気が付くやつは少ない」

「まぁ普通、スタンピードがご褒美だとは思わねぇわな」
「うむ、メキメキ育ったアリスが、ヴァルダークさんを倒す日は近いっ!」
「アリス、がんばりますっ!」

開戦が早朝だったせいで、まだ正午にもなってない。
つまり、これから12時間以上、もやもやした気持ちで待機が続くわけだ。
とりあえず、なんかしてないと居た堪れない。

「あー、ヤザン。ミズーラの職員たちを集めておいてくれ」
「はっ」
「ヴァルダークさん、ニェリーザさん、ナルドさんにクルスタット卿、ありがとうございました。みんなのおかげで、後顧の憂い無く、戦闘に集中できました。ほんと助かりました。あとは事務処理です。今日のところは解散しましょう」
「おう、ほんじゃ帰るぜ」

まずは神殿内の郵便局に顔を出す。
聖都は戦勝祝賀のお祭り騒ぎだが、局内は局内で蜂の巣をつついたような騒ぎになっているだろう。

「ミズーラにっ!ミズーラに息子がいんだよぉ!頼むよっ!なんとか届けてくれよぉ!」
「ミズーラ王都に支店があるんだ!商品を引き揚げる方法は無いのかっ!?」

うん、喉元過ぎれば・・・という事ではないんだろうけど、命の危機が遠ざかれば、この先の展開に目が向いてしまう。

「聞けっ!民よっ!」

拡声の魔道具で、俺の声が局内に響き渡る。

「今やミズーラは敵国っ!その敵に囲まれた真っ只中に、手紙を届けろと言うものはいるかっ!?」

「猊下っ!息子が息子がミズーラ王都におりますっ!どうかこの手紙を!この手紙をお届けくださいっ!」
「ふむ・・・つまりお前はこう言うのだな?息子に手紙を届けるために、俺の部下に死んで来いと?」
「いっ、いえ・・・そういう事では・・・でも息子がっ!息子が居るんですっ!」

「そういう事なんだよっ!今朝の事をもう忘れたのかっ!?ミズーラ軍は我らを取り囲んで殺すために集まったのだぞ?そのミズーラに神殿の者が向かえば、取り囲む暴徒に男は殺され、女なら犯されるっ!お前の息子のために、目の前の職員にと、お前が言っているのはそういう事だっ!それとも何か?神殿で働くもの命などどうでも良いと言うか?目の前の女性には、父も母も居ないと申すかっ!」

俺の怒声が響き渡る。
声を発するものは一人も居ない。

昨日さくじつのうちに、ミズーラ王都の民には手紙をバラ撒いてある。勿論、信じぬ者も多いだろう。だが信仰を持ち、神殿を信じるものならば、既に王都を脱出している・・・息子を信じよ・・・お前が息子に信仰心を教えていたならば、きっと息子さんは脱出している・・・すまぬな、ミズーラによる不意打ちだったのだ・・・俺にはこれ以上どうする事も出来ないのだ・・・」
「くっ・・・」
「聞けっ!民よっ!事は2つに1つ!・・・ミズーラを焼くか!聖都が焼かれるかだっ!・・・俺は聖都を焼かせはしないっ!」

そうだっ!
殺しに来たのはアイツラだっ!
ミズーラを燃やせっ!

「だが皆、忘れないで欲しい。たとえミズーラ国民だとしても、この国に居るものは俺の民だ。護るべき民だ。国と国は争っても、民と民が争うのはダメだ。彼らを害す事は許さん!騎士たちよっ!良いなっ!?」
「「「「「はっ!」」」」」

会議室に戻ると、三十名ほどの職員が集められていた。

「「「「「猊下っ!」」」」」
「良いっ、皆、座ってくれ」

半年も働いていれば、当然顔見知りも増える、恋人が出来たものもいるかも知れない。

「ミズーラ王都はまだ今朝の敗戦を知らぬだろう。如何に告知をバラ撒いてあるとはいえ、信じぬ者の方が多いかもしれぬ」

職員たちが一層沈痛な面持ちになる。

「今やミズーラは敵国、そこに戻れば敵陣の中だ。神殿は囲まれ、嬲り殺しにされるかも知れん・・・それでも、救いに戻りたい者・・・そういう相手が、ミズーラの王都に居るものは居るか?」

三名の職員がおずおずと手を挙げる。
彼らは戦闘職では無い、騎士や冒険者のように、鉄火場に飛び込むなどなかなか出来る事では無い。

「どういう関係の相手か?」
「「「恋人(彼)ですっ!」」」

こんなのは気休めだ。
これから何十万と虐殺するのに、一人や二人救ってみても何も変わらない。
それでも、日付が変わるまでずっと、吐き気を抱えて座ってるより余程いい。

「ふむ・・・行った所で、もう避難しているかも知れない。見つけられないかも知れない。反対に、お前たちが囚えられ、拷問されるかも知れん。それでも行きたいか?」

「「「お願いしますっ!」」」

「いいか?説得などしている余裕は無い。見つけたら拘束し、聖都まで拉致する。事情の説明はその後ゆっくりとしてやればいい。冷静に、命令には絶対服従だ」

「「「はいっ!」」」


~~~~~


ミズーラ王都の神殿は、十名ほどの衛兵が封鎖しているだけだった。
最後の晩餐の機会を奪ってしまう事になるが、朝にはどうせ死んでいる、一方的に殺した。

青褪める職員を引き連れ、恋人とその家族をパラライズ強制麻痺で拘束。
聖都に転移させて、あとは放置だ。
思った程の、時間潰しにはならなかった。

なんとも言えぬ表情の妻たちと消滅する王都を歩く。
日頃のミズーラを知らないから、これが閑散としているのか、普通なのかはわからない。
荷馬車の数が多いのは、みな逃げ出すのだと思いたい。

「なぁ・・・ここって敵国じゃん?んで俺たち敵軍じゃん?捕虜とか取っても、問題なくね?」
「・・・まっ、そうよね?普通取るわよね?捕虜?」

呑気に買い物する家族連れ、噴水でいちゃつくバカップル、目についた幸せそうな赤の他人達を、手当たり次第に拉致しては、聖都の牢に叩き込んでゆく。

後始末なぞ知らんっ!
妻たちの顔が活き活きとしてる。
面倒な事はヤザンに丸投げだっ!

午前三時・・・ミズーラの都はすっかり寝静まっている。
道行くものなど居ないので、最後は民家に、押し込み強盗まで働いた。

「うん、やれる事はやった。務めを果たそう」

シリアとユリアを伴って、ミランの気球が昇ってゆく。
どれくらいの高度から落とせばいいのか?
低すぎれば威力が足りず、高すぎれば狙いがズレる。

こんな事の練習なんて、やったことあるわけがない。
未だ血肉に濡れる2,500トンの黒岩。
スッと闇に飲まれて、軌跡など見えない。
じっと目を凝らしていると、遥か遠く、地上の灯りが僅かに揺れた。

次々と黒岩が闇に送られ、地上の灯りが消えてゆく。
女達の瞳からは、ただただ涙が溢れる。
眼の前に脅威があるわけじゃない。
世界の見せしめにする為に、罪なき人間を抹殺しているのだ。

僅か数分の間に、全ての灯りがかき消された。
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