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1st season 第四章

072 西ダンジョンの調査(2)

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(見えたっ!)

モンスターの進軍速度はおおよそ13km/h、馬の駆け足とほぼ同じだ。
対して人類の無酸素最高速度は50km/h付近で、理論上は60km/hオーバーまで加速可能だ。
が、既に人間を辞めているカインは、有酸素で40km/hオーバーを維持できる。
走り始めて二時間ほどでスタンピードの最後尾を捉えた。
その数3000程。
ブロック一つで20体殺ったとして、150個は必要だ。

(どうする?リシェルの練習で200個はある・・・よし、回収は後でいい)

目の前に階段を出すとそのまま駆け上がる。

ブチャッブチブチブチッ ズシーンッ!

ブロックの端を蹴って、宙に飛び上がると脚の裏に次を出す。

ブチッグチャバギブチャッ ズシーンッ!

また端まで走って繰り返す。

(集中力が・・・アリスのギフトが欲しいトコだ)

アリスが七歳で授かったギフトは『継続集中(大)』、ひたすら集中力が切れないという、一見凄そうだが使い所の浮かばないもので、カインは密かに仲間意識を芽生えさせていた。
例えばアリスの年頃の子供なら、お手伝いで「シチューをかき混ぜてて」と言われても、15分もすれば飽きて焦がしてしまう、だがアリスは、何時間でも淡々とかき混ぜ続けることが出来た。
カインの練度効果(中)とダブルホルダーになれれば、どんな分野でも努力で一流の域まで登り詰めることが出来そうだが、片方だけでは少々微妙と言える。

ブロックを出してから次の踏切までは約2秒。
カインはすぐに津波の最前線まで到達した。

(よしっ、このまま先回りして囲いに誘い込もう)

ズリッ・・・

一瞬の気の緩み。
カインは踏切の脚を蹴りそこなった。

(やばっ!)

だがLV50超えのカインならば、10mの高さから落ちた所で致命傷には至らない。

(焦ったー。このまま地面を走って2kmほど先行しよう)

ポーションで回復しながら走り抜ける。

(アレ?でも先行して囲いなんか作っても素直に飛び込んでくれるとは限らないのか・・・どうする?)

スタンピードが街を目指すのは、そこにが集まっているのを本能が知っているいからだ。
3000体のモンスターが密集した場合、その直径はおおよそ80m。
ブロック40個あれば囲いきれる計算だが、モンスターとは言え前方に障害物があれば迂回するくらいの知能はある。

カインはスタンピードの進路よりも100mほど南に移動し、並走しながら『し』の字型にブロックを配置していく方法を選んだ。
旅人や駆け出し冒険者、シリア達の進む南側に迂回させないためだ。

(残数76・・・足りるのか?・・・計算できねぇぇぇ)

76個のブロックで作れる最大距離は760m。
スタンピードは毎秒3.6m進むが、カインはおよそ三倍の11mを駆ける事が出来る。
余裕をもって幅300mの壁で遮るなら、カインに必要なのは27秒。
最前線よりも97m先行して『し』の字の底辺作成にかかれれば間に合う。
同時スタートから97m先行までに要するのは13秒=143m。
総距離443mなら43個のブロックで間に合うはずだ。
だが、疲労困憊で追い立てられるカインにそんな計算をしている余裕は無い。

(ダメなら次を考えるっ!)

進行するスタンピードの右100mを並走しながら、左手でブロックを出しはじめる。
右手で出せば最終的にブロックとモンスターに挟まれてしまうからだ。

(そろそろか?)

20個ほどを並べた所で左傾斜、北上開始。
津波との間はブロックで遮られているため最前線との距離は視認出来ない。

(48・・・49・・・50)

北北西へと少しずつカーブさせながら並べた、50個の階段を駆け上がる。
残弾26。

(勝ったっ!)

数が減った事で将棋倒しにならないモンスターが『し』の字の底辺を向かって来る。
後は逃さないように潰して行くだけだ。

「ふぅ~~~終わった」

ブロックの上にへたり込み、独りごちるカイン。

(お、レベル上がってるな)

既に50を超えているため、前回ほど劇的な上昇では無いが、3上がってLV54になった。

(このまま帰って休みたいとこだけど・・・調べに向かったのに「溢れてたので帰ってきました」じゃ、ガキの使いだよな・・・)

ブロックと屍を回収しながらダラダラと来た道を戻る。

(回収完了・・・このまま一人で行ったら絶対怒られるよなぁ・・・うん。一応南周りで、行き違ったらそれはしょうが無い。俺は努力した!)

日没までおおよそ3時間。
カイン一人ならダンジョンまで移動も可能だ。

~~~~~

「カインさん・・・大丈夫でしょうか?」
「街にはラティアさんが居るんだから、アイツ、なんとかするわ・・・ってユリアっ!あんた何お腹出してんのっ!」
「あっ・・・すみません・・・旦那様が心配で・・・ちゃんと名前があるか、気になっちゃって・・・」
「もう、しっかりしなさい?主が死んだらユリアが他の男にヤられちゃうのよ?アイツが許すと思う?ハイオーガの群れに投げ込んだって絶対生き残るわよ」

「奥方様は強いのだな」
「強いんじゃないわ、知ってるだけ」
「旦那様は奥様と出会って、本当に逞しくなったのですね・・・」

「なんかあたしに虐げられて逞しくなったみたいに聞こえるし・・・」
「違うのかな?」
「ちがいますー。ハイオーガにボコボコにされて、ヨレヨレになりながらも結局倒したっしょ?はじめて会った時も、あんな感じで助けてくれた。アイツは最初からずっとボロボロで、ずっと強かったわ」
「わたしは・・・ちゃんと見れてなかったんでしょうか・・・」
「んー、ユリアとラティアさんじゃね?アイツ強くしたの?」
「・・・複雑です」

「なぁ?ホントに俺達馬車に乗ってて良いのか?助けてもらった上にアンタら歩かせて、結構申し訳ない感じなんだけど・・・」
「あー、気にしないでいいわ。あたしら別に疲れてないし、そもそもリサさんが居なかったら、たぶん馬車とか持ってきてないし」
「そうか・・・すまねぇ。恩に着る」
「アイツもあんな言い方したけど、あたしらが危険に晒されない限りは無害な奴だから、誤解しないでやって」
「ああ、わかってる。恩を仇で返すような真似はしねぇ」

「皆さん、愛されてるんですね・・・私も頼れる旦那様が欲しいです・・・」
「えー、リサさんなんて選り取り見取りっしょ?」
「最初はそう思ってたんですが・・・そう思っている内にどんどん同期が減っていって・・・気付けば私一人が・・・」
「あー・・・コメント無理っす」

「っていうか、アンタら余裕過ぎないか?スタンピードだぞ?戻っても街なんて無くなってるかもしんないんだぞ?」
「あー、それは無い。アイツが行ったんだから絶対大丈夫。白金貨かけてもいいわ?持ってるのアイツだけど」
「・・・アンタら、なんかすげぇな・・・ちょっと尊敬した」
「ふふふっ、ロックハウス家に任せておきなさいっ!」

「敵視認!、あれ?敵じゃない?人間?・・・数1。距離1kmくらい?・・・ん?・・・アレってあるじ様か?」
「旦那様ぁぁぁぁぁぁっ!」 スタタタタタタタッ

「・・・ユリアちゃん・・・行っちゃったね?」
「流れに乗り遅れた・・・なんかあたし、ダメな嫁?みたいな?」
「うぉっ、押し倒したぞ?」
「やるなぁ、ユリアちゃん」
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