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1st season 第二章

025 縁

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カインはまだ人を殺した事がない。
試練の洞窟へ向かった頃の精神状態であれば、人間だろうと悪魔だろうと、少しの戸惑いも無く斧を振るえただろうが、正常な状態に戻った今、ましてや平和な日本の記憶に少なからぬ影響をうけてしまった今、果たして盗賊に斧を振るえるだろうか?
そんな不安を噛み殺し、森をショートカットして林道へ飛び出すと、荷馬車盗賊襲っていた。

「オラ待て報奨金~!素直に首置いてきな~っ!」

逃げる盗賊団、追いかける荷馬車。
何をやってるのかちょっとわからない。

「ちょっとライザーっ!待ちなさ~いっ!一人で突っ込まない~っ!」

遅れて甲冑の一団がガチャガチャとかけてくる。
岸田の記憶をフル動員しても、この状況に対する解は見つからない。
棒立ちするカインと甲冑の一団の視線が交錯する。

「この子なに~っ?」
「わかんないわよっ!」

ガチャガチャガチャガチャ

カインを素通りして、集団は駆け抜けていった。

~~~~~

エルダーサに帰るにはこの道を進まなければならない。
しかし、今進めばあの謎現象を追いかけることになる。

(う~ん、かと言って引き返すって選択肢は無いよな~?)

混乱するカインが悩んでいると、今度は先の方で炎があがった。

(しかたない。ここで止まってるほうが不自然だし、行くしか無いか)

荷馬車が停まり、道端で火が燃え、不審な甲冑の一団がウロウロしている。
スタスタと歩み寄ったカインが声をかける。

「あの~、助けがいるかと思ったんですけど~、どう見ても要らないですよね~?」
「さっきの子、助けに来てくれたんだ?まぁ、見ての通りだけど」

すでに盗賊は排除され、道端の焚き火に化けているようだ。
捕まえて街の守備隊に突き出せば、かの報奨金にはなるが、連れていく労力や食料の事を考えると、その場で殺してしまった方がいい。

「え~、首だけじゃ報奨金貰えないの~っ?」
「首だけ渡されたって尋問できなきゃ、盗賊かスラムの住人か区別つかないじゃないっ!」
「が~ん!」

六体の甲冑が何か言い合っているがカインには預かり知らぬ事だ。

「じゃ、俺はこれで~」
「ちょっと待ったぁ~!」

預かり知らぬ・・・事にはしてもらえなかった。

「見ての通りここらは少々治安が悪い。一人で行かせて死体とご対面となっては目覚めも悪い。旅は道連れ、同行を許そうっ!」
「いえ、結構です」
「遠慮はするなっ!さぁ、雇い主の所まで一旦戻るぞ!」

拉致られた・・・。

拉致犯達が言うには、林道に入ったところで突然襲いかかられ、三台のうち一台の馬車が壊れてしまったが、荷台から甲冑軍団が飛び出したため、失敗を悟った盗賊団が逃げ出し、興奮したライザさんが乗っていた馬車でそのまま追い掛けて仕留めたそうだ。
ライザさんは首だけ持っていけば酒代が貰えると思っていたらしい。

などという与太話を聞かされながらもう一台の荷馬車の元へ強制連行されると、見知った顔が佇んでいた。

「・・・ゲイツさん?」
「カイン君???」

そう、ラティアさんをときおり口説いているゲイツさんのキャラバンだった。

~~~~~

ゲイツさんの元にはちゃんと護衛の冒険者達が待機していた。
どうやら甲冑は問題児らしい。

「いやぁ~偶然ってあるもんだぁね~」
「本当ですね~。でも助けようと飛び込んだら盗賊が馬車に追われてるから、どうしていいものやら困惑しましたよ?」
「あ~、ねぇさんたちはね。王都の子爵家に使える騎士さんで、試練の洞窟へ挑みたいって言うんで、護衛がてら同行してるんだ」
「なるほど~。ゲイツさんも行き先はエルダーサですか?」
「そうなんだけどね~、荷馬車がひとつ壊されちゃったからさー、弱ってるんだよ。荷物はなんとか二台にわけられるけど、ここから歩きとなると・・・甲冑重いしね~」
「あー」

カインは気楽に一人で行きたかったが、知り合いが困っていれば放って行くわけにもいかない。

「ゲイツさんはラティアさんのお客さんだし、行き先も一緒ですから、なんなら荷物は俺が持ちましょうか?」
「いやぁ~、気持ちはありがたいんだが、さすがに荷物持ちが一人増えたくらじゃね~」

苦笑するゲイツにニコリと微笑むカイン、倒れた荷馬車に手を触れると、一瞬にして荷馬車が消える。

「えっ!?なに?」
「俺のギフトです。出しますね」

再び荷馬車が現れる。

白兎亭しらうさぎていまで預かるんで、そっちの二台も中身だけ持ちますね」

唖然とする一同を尻目にサクサクとアイテムボックスへ収める。

「馬は入んないんで、誰か乗って下さい」

~~~~~

パチパチと焚き火がはぜる。
カイン達は既に林道を抜け、見晴らしのいい平野で野営していた。

「いやぁ~カイン君、すごいもんだね。ウチで働かない?」
「ははは、まだまだ気楽にのんびりやりたいんで~」
「カイン君・・・で、いいかな?そんなギフトは王都でも聞いたことが無いぞ?」
「そうなんですか?田舎者なんでよくわからなくて~」
「ときにカイン君、試練の洞窟を踏破したと聞いたが本当なのかな?」
「あー、確かにやりましたけど、二度は無理ですね。あの時はちょっとテンパってましたんで」
「実は、我々は試練の洞窟へ挑むのだ。アドバイスを貰えないだろうか?」
「ほんとにマグレなんですよ。それに、軍の訓練でもでは無く気絶するまでの距離を競うと聞きました。」
「あー、うん。我々も踏破は狙っていない。ただ、軍の奴らを見返したいのだ」

甲冑さんが少しかげりのある顔で俯く。

「何か、事情があるんですか?」
「見ての通り我々は皆女だ」
「ですね」
「そうするとな、色々と言われるのだよ。子爵に躰を差し出して剣を貰っただのなんだのとな・・・」
「あー、ありそうですねー」
「軍の連中はみな新兵の時に洞窟へ挑む。試練を経てもいないものに子爵家の剣を与えるのは如何なものかと言い出した輩がいてな・・・実際、そう言われると弱い」
「はぁ・・・上から物を言うようでアレなんですが、実際に踏破した身として言わせて貰えば、アレは騎士や兵士の方の勇猛を測るようなもんじゃ無いですよ?ただその時、どれだけ不幸ふしあわせだったかが判ってしまう、どれだけ狂っているか測れてしまう、それだけのものです」

(こんな初対面の相手にする話か?でもなんか口が軽くなる雰囲気なんだよなー)

「で、俺なんですが。婚約者に捨てられまして、何日も眠れなくて・・・っていうかホームレスみたいに彷徨いあるいてて、もう頭ン中ぐちゃぐちゃでした。洞窟へも死ぬつもりで行ったんですよ。とにかく頭の中のアイツラを追い出したくて。洞窟へもどうやって辿り着いたのか覚えてません。ところが一歩足を踏み入れたら、いきなり何かでぶん殴られました。その激痛で頭の中のアイツラが消えたんです。一歩踏み出すごとに目を穿ほじくり出したり、内蔵引きずり出されたり・・・その時の俺には最高の癒やしでした。アイツラが消えてくれたのは数十日ぶりだったんです・・・なので・・・あんなものには抗えない方がいいんだと・・・思います・・・」

「無理に聞いてしまった。すまない・・・」

甲冑の人に抱きしめられた。
いつの間にか俺は泣いていたようだ。
甲冑の人の胸は甲冑で、全然柔らかくなくて、それでも何故かほっとした。
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