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1st season 第一章

009 煉獄のダンジョン(1)

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に着くまでの三日間で、ユリアちゃんには色々覚えて貰うわ」
「はい、よろしくおねがいしますレイカさん」
「ダンジョンは一階層毎に出現するモンスターが変わるの、そして倒したモンスターは魔石を残して消えるわ。マナに還元されてダンジョンに吸収されるって言われてる。」
「はい」
「そしてダンジョンで死んだ人間は、アンデットに変質して、人を襲うようになるの。だから例え大切な仲間でも、ダンジョンで死んだ者は完全に燃やすか、首をねる必要があるわ」
「仲間の首を・・・」
「そう。自己責任が基本の冒険者なのに、ダンジョンだけはランク制限がかかっているのは、ダンジョン特有のルールが色々あるからなの。戦闘力だけじゃなく、冒険者としてある程度の経験を積んで、シビアな判断が下せるようになっていない者が入り込めば、確実に他の人間の害になるわ」
「厳しいんですね」
「そしてダンジョンの中では他のパーティに干渉してはイケない。むしろモンスターと同じ、敵だと思うくらいでちょうどいいわ」
「救けるのもイケないんですか?」
「ダンジョンの中では人間の法なんて通用しない。救けるフリをして近づいて、背中から斬りつけるような盗賊行為も少なくないの。だから救けようと思ってユリアちゃんが近づいても、向こうは襲われると勘違いして、逆に攻撃されるわ」
「・・・なんだか不安になって来ちゃいました」
「だから自分のパーティだけが頼りよ。厳しいけれど、他のパーティが全滅したら、死体を処分してギルドカードを持ち帰ってあげる以外にすべき事は無いわ」
「わたし・・・大丈夫でしょうか?」
「盗賊行為をするような連中に高ランクはいないわ。普通に稼いだ方が儲かるもの。だから、こいつらと一緒なら過剰に怖がる必要は無いわ」
「そっか・・・ザックさん達が守ってくれるんですね」
「任せてくれていいよ!美少女は僕達が守るさっ!」
「ふーん、あたし達は守ってくれないんだ?」
「いや、レイカの場合むしろ僕らが守ってもらうっていうか・・・襲って来た相手の方が不憫?問答無用で燃やすでしょ?」
「かわいいコだったら燃やさないわ」
「ぶちゃいくだったら燃やされちゃうんですね・・・」
「そうね(微笑)、話を戻すわ。煉獄は21階層まではその存在が確認されてるの。37層まで行ったっていう話もあるみたいだけど・・・眉唾でしょうね。今回狙うサラマンダーは11階層に出現するモンスターよ」
「はい」
「途中階層は極力戦闘を避けるけど、暑さで体力を奪われるから、たぶん11階層まで2日くらいかかると思った方がいいわね」
「レイカさんは行った事があるんですが?」
「去年こいつらと行ったわ。根性で11階層まで行ったけど、最初の一体で心が折れて、スゴスゴと帰ったわ。暑すぎるのよ、あそこ」
「・・・わたしなんかで本当に役にたつんでしょうか?」
「勝算が無ければ20,000レア400万円も投資しないわ、あたしも欲しい魔道具があるのよ。稼げなかったらその時は・・・ザックにお仕置きね」

~~~~~

「ファイヤーアロー!!!」

レイカが唱えると何もない空間から炎の矢が出現する。五本同時だ。不可視の仮想弓を引き絞り、放つ。

『シュバッ!』

フレイムトード。
体長50cm程のカエル型モンスターだ。
体表はゴツゴツとした岩で覆われており、刺突武器の効果は薄い。
そのフレイムトードが2ダースほどの群れで行く手を遮っている。

「やっぱりダメね。この階層になるともう火属性は役に立たないわ。男の子達、物理で殴って」
「へーい」

刺突耐性のあるストーンゴーレムのようなモンスターでも、魔法効果が乗ってファイヤーアローが通るのだが、火を吹くフレイムトード相手では、火属性の魔法効果は微々たるものとなってしまう。
現在地は6階層。
半日と掛からずここ迄来たユリア達だったが、いよいよレイカの魔法攻撃が通じなくなってしまった。

「その前に、ユリアちゃん、氷礫アイスバレットを試してみようか」

ザックの提案でユリアが戦線に加わる。
初ダンジョンの緊張で手元が狂い、後頭部に氷の槍を突き立てられては堪らないので、ここ迄はまず、雰囲気に慣れる為の見学ポジションで降りてきたのだ。

「ふぅー、いきます。氷礫アイスバレット!!!」

それは異様な光景だった。
牽制程度の攻撃力しか無いはずの氷のつぶて、それが岩で出来た50cmサイズのカエルをトマトのように潰してしまったのだ。

「なんだそりゃ・・・氷属性反則すぎだろ」
「自分でやっておいて何ですが、ちょっとグロいです・・・」
「これはポジション交代ね。こっからはあたしが荷車係で、ユリアちゃん、アタッカー宜しくね」
「はいっ、頑張ります!」

要塞フォートレスは3枚壁。
レジーとテッドが最前列、最後尾にザックがついて、アタッカーとヒーラーを中心に配置するのが基本陣形。
三日間生き延びられる程度の非常食はそれぞれが身に携行しているが、六人が10日間過ごせるだけの食料に必需品、いざという時に物理で殴る為のスレッジハンマーを積んだ荷車も、忘れてはならない。

その後の進軍は快調だった。
マナ魔力消費の少ない氷礫アイスバレットだけで事が足り、これは今日中に10階層の階層主まで到達し、そこで夜営でも問題無いと誰もが思っていた。

いやぁぁぁぁぁぁぁぁジューーーッ

8階層の中頃に迫ったところで、甲高い悲鳴が前方から鳴り響く。

『ビクッ!』

ユリアが反射的に走り出そうとしてしまうが、残りの五人は動かない。
煉獄も序盤では他のパーティを見かける事があったが、5階層以降まったく遭遇していない。
ハっとしてザックに視線を向けると、無言で首を横にふった。
ユリアもここで食い下がるほど愚かでは無い。

ザックが地図を取り出す。
迂回路は無いようで、ゆっくりと前進に方針が決まった。
が、前進を再開するまえに足音が近づいてきた。
走っている。
複数だ。

(戦闘になるのだろうか・・・人間と)

ユリアは馬車での会話を思い返していた。

「ユリアちゃんは何もしない事」

ザックが告げ、ユリアを隠すように男達が前に出る。
すぐに三人の冒険者が駆け込んできた。
一人は腰に剣をいているが、あとの二人は木柄の大振りなハンマーを握っているだけだ。
あまり・・・身なりが良くない。

「助かった」
「水魔法使いがつぶれちまったんだ」
「あんたら、上まで連れてってくれねぇか?」

言い終えたところでこちらの編成に気が付いたようだ。
男達の視線がユリアに集まる。
舐めるような厭らしい目つきだ。

「僕らはまだ先に行くんだ。無事帰れるよう武運を祈るよ」
「ソコを何とか頼むよー、この先は女には厳しいと思うぜ?」
「悪いな、ダンジョンのルールを忘れたのか?」

男達が互いに顔を見合わせる。
諦めたのか?
ため息を吐きながら後ろを向く。

「わぁった・・・よっ!」

言い切るや否や振り向きざまに得物を振りかぶった・・・が、その得物が振り下ろされる事は無かった。

「ファイアースターター!!!」

『ゴゥッ!』という低音とともに三本の火柱があがり、一瞬にして男達を炭化させた。

「うん。そりゃ燃やされちゃうよね」

ザックが軽口を叩くが、ユリアの心臓はバクバクと早鐘を鳴らす。
目の前で人が燃える様など初めて見たのだ。

「ユリアちゃん、少し休む?」
「いえ、出来れば離れたいです・・・」
「わかった、進もう。すぐに戦闘になるかも知れないけど大丈夫?」
「大丈夫・・・やり・・・ます」

ザック達は視線交わし、小さく頷くと戦闘が行われたであろう道を進む。
それは子供の奴隷だった。
ガリガリに痩せた身体、粗末な貫頭衣は触れただけ病気になりそうな程汚れきっており、両足は30cm程の鎖で繋がれている。
身体中に残る傷は明らからに人の手で付けられたものも多く、その頭部だげが完全に炭化していた。

「うぅっぷ・・・」

その光景はユリアの許容値を振り切った。

「なんで・・・ひっくひどい・・・ひっく

へたり込んで泣き出すユリア、沈痛な空気が流れる。
主砲のユリアが動けなければ、これ以上の前進はリスクが高い。
戻るべきか?
だが戻るにも足手まといとなったユリアを無事つれ出すのは困難だ。

「涙をめて立ちなさい。」

普段、口を開くことの無いメルが、淡々と告げた。

「あなたがそこに座り込んでいたら、次はこの中の誰かがあの子と同じになる。冒険者が泣いていいのは安全地帯に居る時だけ。ここは違う。臨時とは言え今はあなたも要塞フォートレスの一人。仲間を殺したくないなら立って役目を果たしなさい」
「メル・・・」

そうだ。可愛そうなんて感情は自分が安全地帯の中に居るから思えることだ。
要塞フォートレスに守られた、私はお客様だったんだ。
でも今、わたしがお客様のままだったらみんなが死んじゃう。
カインを助けてくれたみんなを殺すなんて絶対ダメ。

「メルさん・・・ごめんなさい。甘ったれてました。ゲロ撒き散らしても二度と泣き言はいいません」
「あいつら、燃やして正解だったわね」

ユリア達は三度みたび進む。
しかし、魔法とはイメージだ。
マナ魔力を練り、明確なイメージを描き、それを事象化する事がギフトによって許される。
精神に乱れが生じれば制御が鈍り、威力も落ちる。
ユリアがミスをする度に、タンクが焼かれ、メルが癒やす。
致命傷にはなっていないとはいえ、生きたまま炎に焼かれるというのは、冒険者の男とて生易しい痛みでは無い。

「よしっ、ここが階層主の部屋だ。ランダムで何が出るかはわからない。まずはタンク全員で抑え込む。指揮はレイカに任せる。ユリアちゃんは焦らず、レイカの指示で攻撃をお願い」
「「「「「はいっ(おう)」」」」」
「それじゃ、はいるぞ。イチ、ニーの、サンっ!」
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